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2 ポルポル商団

 ヨウキ村を出発して2週間、ポルポル商団の2台の荷馬車は、リドミウムの森を迂回して、領主様が住んでいる領都サーシムに到着した。


 ヨウキ村はサーシム侯爵領に所属していて、サーシム侯爵領は、コルランドル王国の中でも、一番の田舎だってポル団長が教えてくれた。


 東側は隣国ホバーロフ王国と接していて、国境には4,000メートル級のティー山脈が連なり、往き来することは出来ない。ある意味隣国から攻められる心配はほぼないと父さんが言っていた。


 中央にはリドミウムの森があり、主な産業は林業と農業くらいで、高級家具や薬草が主な収入源だったと思う。

 俺は初めての大きな街に興奮し、思わずキョロキョロと見回してしまう。


 4階建ての建物を初めて見た。大きな倉庫や商会の建物にも驚いたけど、街の中心は石畳になっていて、人の多さと女の人がオシャレなのにビックリだ。

 いつか母さんとメイリに買ってあげよう。


「アコル、買い物に行くぞ!」


宿に到着すると、俺の教育担当のネルソンさん20歳が、買い物に誘ってくれた。

 ネルソンさんは商団一の力持ちで、重い荷物を率先して持ってくれるイイ人だ。

 ただ、計算や帳簿付けは苦手みたいで、時々俺が計算し直しておく。


「あれが屋台。オーッ! いろんな店があるんだ」


「アコル、串焼き食うか? 奢ってやるぞ」


ネルソンさんの暖かい言葉に、俺は笑顔で甘えさせてもらった。

 初めての屋台、初めての串焼き……うーん、なんて幸せなんだ。

 ネルソンさんが洋服屋に寄っている間、俺は屋台のおじさんたちと話をする。


「ねえおじさん、この串焼きの原価ってどれくらい?」


俺はちょっとだけ幼い声で質問する。とは言っても9歳だけど、何故か年齢より幼く見られることが多い。


 どっちかというと女顔みたいだから、下手をすると女の子に間違えられる。全くもって納得できないけど、最近使いようによっては便利だと気付いた。


「おい坊主、お前どっかの屋台の回し者か?」


「ううん、違うよ。僕は父さんが魔獣に襲われて死んじゃったから、旅の商団に入れて貰って、働き始めたんだ。屋台ってカッコいいから、僕も大きくなったら屋台を出してみたいなって思って……邪魔しちゃった?」


迷惑だったかな……って感じで、申し訳なさそうに上目遣いでおじさんを見る。


「父ちゃん死んじまったのか……そうか……うちは肉を買ってるから、原価は4割だな。それに場所代が1割だ。計算分かるか?」


「うん、いっぱい勉強して覚えるよ。利益は半分くらいなんだね。ありがとう」


俺は嬉しそうに、にぱっと笑って屋台のおじさんに礼を言った。


 母さんが言っていたように、弱い振りは意外と役に立つ。さすが母さんだ。

 それから暫く、いろんな屋台を回って質問をし、しっかりメモをとった。


 中には怒って殴りかかる奴もいたけど、ダッシュで走って逃げたから大丈夫だった。俺は逃げ足には自信がある。

 もと居た場所に戻ると、ちょうどネルソンさんが店から出てくるところだった。


「何か買いたい物はあるか?」


「ええっと、革で袋を作りたいので、安い革製品を売っている店があったら、ぜひ行ってみたいです」


俺はいつかマジックバッグを作ろうと目論んでいる。だから素材となる革を買いたいので、笑顔でお願いしてみる。

 移動中にこっそりと読んだ【上級魔法と覇王の遺言】の本の中に、マジックバッグの作り方が書いてあった。


 ただ、マジックバッグを作るには、Aランク冒険者並みの魔力が必要らしい。

 Aランクの魔力がどのくらいか分からないので、いつか来る日のために準備をしておきたい。


 商団長のポルさんは2つ持っていて、掌サイズの大きさで、俺の持っているカバンくらいの収納力がある。

 なんと、1つ金貨2枚(20万円くらい)もしたらしい。


 門番などの下級役人の初任給は、確か小金貨7枚(7万円)くらいだから結構な値段だ。でも、持ち主しか開けられないから、現金や貴重品を収納するのには便利だ。

 重さを感じないというのは凄い。小さいから上着の内ポケットに収まるし、スリに盗られ難いので安心だ。


 と、思って革を買いに行ったら、全然お金が足らなかった・・・ふぅんだ!

 サーシムに滞在する一週間の間に、ポルポル商団は可愛い小物入れや手の込んだ木工製品を仕入れる。


 俺はポルさんの仕入れに付いて行き、店に置いてある商品の値段を、自分のメモ帳にせっせと記入する。

 何事も勉強だとポルさんが言うので、数字に強くなるため、些細なことでもメモすることにした。




 明日から西隣のサナヘ侯爵領に向かい、木製の小物類で小商いをしながら、王都ダージリンに戻る。


 ポルポル商団の店は王都に在るけど、夏から秋にかけては、薬草を仕入れるために、国の南東部を回っている。

 冬は西部で薬瓶や干しフルーツを仕入れて、王都に戻り薬を作る。春になったら作った薬を売りに、北部に向け出発する。

 

 そう、ポルポル商団は薬屋である。王都の店で薬を売っているけど、店で働く者以外は一年の殆どを旅して回っている。

 王都に居られるのは、薬を作っている間だけだ。


 薬草や薬の知識を持つことは、将来村に帰ってからも役に立つと思う。


 また、ポルポル商団は旅の途中、森や林や岩場で薬草採取もする。商団では取り扱いが難しい高価な薬草や、乾燥するとダメな薬草を見付けたら、ポルさんが商業ギルドに持ち込みをする。


 商業ギルドの登録は13歳からなので、10歳から登録できる冒険者ギルドに、俺は先に登録するつもりだ。

 商隊の中にも、両方の登録をしている者が3人居る。


 番頭のヘイドさん32歳は、魔法も剣も使えて冒険者ランクはCだった。見習いのバーモンさん19歳とダンさん17歳は、冒険者ランクはEだけど素材採集がメインなので、魔法は生活魔法程度で剣は俺より下手だった。





 サナヘ侯爵領に入った頃から、食材担当が俺になった。

 バーモンさんとダンさんが狩りをすると、夕食のおかずが残念な感じになるので、俺から志願して食材担当になった。


 団長のポルさんも他のメンバーも、俺の両親がAランクの冒険者だったと知っていたし、俺が一緒に狩りをしていたことも知っていた。だから、魔獣がほぼ居ない安全な場所での狩りなら大丈夫だろうと判断され、食材担当にしてもらえた。


「アコル、無理すんなよ! 危険な獣には絶対に手は出すなよ」


心配性のネルソンさんが、いつものように声を掛けてくれる。


 俺は出来るだけ商隊の荷馬車から離れて、サクッとウサギ等の小動物を狩る。

 サクッと狩った後は、貴重な1人の時間を利用して魔法の練習をしたり剣の練習をする。


 時々カバンの中から本を取り出し上級魔法の練習をするけど、失敗して服が焦げたり傷だらけになって皆に心配される。


「今日も飯のために頑張ったんだな。偉いぞアコル」


狩りに出掛けてケガをしたり体力を使うのが面倒だったバーモンさんは、ウサギを狩って戻った俺の頭を撫でながら褒めてくれる。

 今日は風魔法を練習して、自分が飛ばされ沼に落ちたので、びしょ濡れの服には木葉がたくさん付いていた。


「それにしても、アコルは狩りが上手いな。毎日肉を食べられるなんて、信じられないことだ。風邪引かないよう早く着替えろよ」


冒険者ランクCの番頭ヘイドさんも、ウサギをナイフで捌きながら褒めてくれる。

 褒められてちょっと嬉しい俺は、次の日から出来るだけ素材を無駄にしないよう、獣は一撃で倒すようにした。


 狩りの後はいつも汚れているのに、あまりに状態の良い獲物を見て、ポル団長と番頭のヘイドさんは毎回う~んと不思議そうに首を捻っていたことを俺は知らなかった。



 そしてポルポル商団は、サナヘ侯爵領の領都サナヘに到着した。

 サナヘの街は、前に寄った領都サーシムとは比べものにならないくらい大きな街だった。 


 サナヘ侯爵領は、王都ダージリン、デミル領、マリード領、サーシム領、マギ領に囲まれており、5本の大街道が領都サナヘに向かって伸びていた。

 交通の要所として栄えており、馬車や荷車の数が半端ない。人の数は言うまでもなく宿屋の数も多い。俺は迷子にならないよう気を引き締めた。


 宿に到着後ポル団長は、俺が狩ったウサギや他の獣の素材を商業ギルドで換金し、その半分のお金を俺にくれた。


 ……なんて好い人なんだろう。


 そこで俺は、念願のマジックバッグ用の革を買いに出掛けた。

 もちろん1人ではない。屋台で奢ってもらうため、ネルソンさんと一緒である。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

第3話の更新は、10月3日の予定です。

すみません、暫くお待ちください。

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