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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
覇王の改革

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196/372

196 商会主アコル(10)

 今回のマリード領行きは、俺の興したドバイン運送の支店を作るための旅だったのに、ミル山の噴火ですっかり予定とは違う行程になってしまった。

 手続きを急がねばならない。


 でもまあ最低限の根回しはしてある。

 ドバイン運送の出資者でもあるマリード侯爵家が、支店の開設に全面協力してくれることになっているのだ。


 物件を決めたら、マリード支店で働いてくれる人物との面接が待っている。

 残念ながら俺は、この国の貴族のことを良く知らない。

 だから従業員は信用できる者を紹介してもらうしか手立てがない。


 商業ギルドに求人を出しても、大勢の人間と面接する時間が取れないし、その人物の背後関係も分からない。

 大事なドバイン運送を任せるからには、変な紐付きの貴族や配下では困る。


 そもそも覇王である俺が表立って動くと、大変なことになる。

 そこで今回は、全面的にマリード侯爵家に丸投げ・・・いや、協力をお願いした。


 ドバイン運送の出資者であるなら、そのくらいの協力は当然なのだと商業ギルド本部のギルマスが言っていた。



 商業ギルドマリード支部の建物は、オレンジに近い明るい色のレンガで造られており、重厚感はないけどギルドの出入り口に植えてある色とりどりに咲く花は美しく、つい、種が欲しいななんて思ってしまった。


 出入りする商人たちの服装も、王都とは違いラフな感じだ。

 俺たちも商人風の服装だが、一緒に居るマリード侯爵家のウラル殿は、如何にもお貴族様ですって感じだから、ギルド内に居た人たちが緊張していく。


「こんにちは、店舗物件を斡旋して欲しいんですけど」と、俺は笑顔で受付の女性にギルドカードを提示した。


「はい、店舗物件ですね。店の場所や大きさのご希望はありますか?」と女性は笑顔で対応しながら、提示したギルドカードを見て、えっ?と驚いた顔をした。


 そして「ギルマスを呼んでまいります。少々お待ちください」と言って、慌てて二階に駆け上がっていった。


 ……シルバーカードだとギルマス対応になるのか……成る程。


 窓から通る風が心地よい応接室に通された俺は、改めてアエラボ商会とドバイン運送の代表者ドバインだと名乗った。


 シルバーカードを持参した俺が、とても商会主には見えなかった様子のギルマスは、カードと俺の顔を何度か見て首を捻るが、領主の子息が同行している時点で、きっと何処かの高位貴族だと思われたに違いない。


「ドバイン運送の本店は王都です。

 支店の開設はマリード領が初めてで、主な取引先はお隣のニルギリ公国になる予定です。

 それから・・・私は平民ですよギルマス」


なんだか妙な汗をかきながら緊張している様子のギルマスに、俺は笑って平民だと言った。


 平民だと名乗った俺に、ウラル殿が微妙な顔をしていたけど、俺は今でも王子であると認めていないから、覇王という身分以外は、学生か平民だと名乗っている。



「アエラボ商会様、運送業ならできるだけ大きな倉庫が必要なのでは?」と、俺の希望を聞いたギルマスが不思議そうに質問してきた。


「いえ、ここだけの話、ドバイン運送はマジックバッグを使って商品を運ぶので、大きな倉庫も荷馬車も必要ないんです」と、俺は微笑んだ。


「えっ、マジックバッグ?」と呟いたギルマスは、何か重要なことを思い出してしまった……って感じで息を呑むと、恐る恐るウラル殿に確認するような視線を向けた。


 ……そういえば、昨夜は覇王様が来たーって騒ぎになってたんだ。


「アコル様、いくら商会の名前で動かれても、マジックバッグで運送業ができる人物は、この国……いえ、この大陸中を探してもお一人しかいらっしゃらないでしょう。


 当然ギルマスも、秘密を洩らすような愚か者ではないでしょうし、後から情報が洩れて騒ぎになるより、始めから身分を明かされた方が、ギルマスも張り切ってくれると思いますよ」


ウラル殿がちょっと困ったような表情で、見かねたようにアドバイスしてきた。


「そ、それではやはり」と目を見開いたギルマスは、慌ててドアの前まで下がって最上級の礼をとった。


「ギルマス、俺は覇王という役目を負ってはいるけど、モンブラン商会の推薦で王立高学院に入学した、平民の学生であり商人です。

 まあ、ブラックカード持ちの冒険者もしていますが、俺の本業は商人で、夢は大陸中で商売をする大商人なんです」


 そこから俺は、これから先のドバイン運送の未来を熱く熱く語り、この場に居るメンバーに俺の夢を共有させた。


 大陸中の国と交易し、マジックバッグによって流通に大革命を起こす夢をだ。


「さすがですアコル様。何処までもお供します」と、ボンテンクが興奮気味に誓ってくる。


「アコル様、どうか私にも出資させてください」とウラル殿が身を乗り出すと、「わ、私にもぜひ!」とギルマスも両手を組んで懇願してくる。


「そうですね。ギルマスは立場上、自分の名前を使って国内の商会に出資できないでしょう?

 ですから、どうでしょう、これから隣国ニルギリ公国のマーガレット商会に出資されては。ウラル殿もどうですか?」


「ニルギリ公国のマーガレット商会ですと!」と、ギルマスは驚いて立ち上がり、困惑した表情で眉を寄せる。


「確かにマーガレット商会は老舗ですが、最近は良い噂を聞きませんが・・・」と、ウラル殿は座ったまま渋い顔をする。




 すっかりテンションの下がった微妙な空気の中、俺はマジックバッグの中から、何時もの如くお茶セットを取り出し、自分で香のよいハーブティーを淹れ始める。


 ……ここからが肝心だ。

 ……急遽決めたマーガレット商会の、権利買い取り資金の調達が待っている。


 俺の後ろで控えていたボンテンクとマサルーノ先輩も椅子に座らせ、極上の笑顔でお茶を注いでいく。

 もちろんカップはモンブラン商会の白磁だ。


 そして俺はゆっくりと、マーガレット商会を乗っ取った詐欺野郎と、今のマーガレット商会の現状について話していく。


「あの盗賊は畏れ多くも、覇王様が騎乗されている馬を寄越せと、アコル様に剣を突きつけたのです!

 あれが我が国の貴族であれば、瞬時に斬り捨てられたのに」


途中でボンテンクが詐欺野郎の行いを暴露し、悔しそうに顔を歪めた。


「なんですって! そんなことがあったのですか? 聞いていませんでした。

 それは、絶対に許せませんね」


マサルーノ先輩が低ーい声で言って、両手の指をぼきぼき鳴らし始めた。


 ……いや、フフフと不敵に笑っているけど、他国の貴族だからマサルーノ先輩? 


 ……いやいや、ウラル殿とギルマスまで悪い顔になってるけど、落ち着こう。


「まあ、そういう経緯で、マーガレット商会は罰金として国に金貨400枚を払うことになるのですが、現状では破綻寸前だから絶対に払えません。


 そこで、俺が経営するアエラボ商会が罰金である金貨400枚を肩代わりし、マーガレット商会は倒産と罪を免れ、アエラボ商会が経営権を得ます。


 そして、新しいマーガレット商会を立ち上げるため、アレクシス侯爵家のエドガー殿と、バロン第二王子がそれぞれ金貨100枚、合計金貨200枚を出資します。


 俺が提案するのは、アエラボ商会が出す金貨400枚の経営権利代金の内、金貨100枚分をお分けする・・・というものです。

 ああ、ドバイン運送の出資者になれなかったマサルーノ先輩も、今回はオッケイですよ」


 俺はウラル殿、ギルマス、マサルーノ先輩の順で、ゆっくりと視線を移動していく。


「も、もちろん出資させていただきます」と、ウラル殿は早速ギルドカードを取り出す。


「第二王子にアレクシス侯爵家の子息が出資するなんて美味しい話、いえ、健全で安全な話に乗らないなんて、それはもう商人じゃないです。ぜひ、ぜひ私も出資させてください!」


ギルマスは手を合わせて、今度は俺を拝み始める。


「ありがとうございますアコル様。マリード領の貴族として、我が伯爵家も最大限の便宜を図ります」と、マサルーノ先輩も嬉しそうだ。


 全員の賛同を得られたようなので、ウラル殿が金貨50枚、ギルマスとマサルーノ先輩は金貨25枚ずつ出資して貰うことに決定した。


 ……よし! 金策バッチリ。思惑通り。


 俺は心の中でガッツポーズをとる。

 これでマリード侯爵家も、商業ギルドマリード支部も、ドバイン運送とマーガレット商会を守ってくれるだろう。

 

 もちろん商会主として、俺は損をさせる気はないよ。



 忙しい俺の代わりに、ニルギリ公国に足を運んでくれるウラル殿という人材をゲットできたことは、本当に喜ばしい。


 フフフ、損もさせないけど、俺は使えるものは王だろうが領主だろうが、領主の子息だろうが使い倒す主義だ。


「ウラル殿には大変お手数ですが、私の指示書と金貨400枚を持って、ニルギリ公国の王都へ行っていただきます。

 その途中で、ミル山噴火の被害状況も確認できるでしょう」


 多大な被害を受けた友好国に対して、我が国は必ず援助することになる。

 マリード領主は我が国を代表して、必ずニルギリ公国へ赴かねばならないはずだ。


「承知しました。どの道私か父上がニルギリ公国へ行かねばならないでしょうから、この機会を逃さず、マーガレット商会の手続きをしてきます」


自分に与えられた役割が何なのか分かったようで、ウラル殿は一瞬しまった!って顔をしたけど、笑って了承してくれた。



 その後、無事に店舗を借りて、ドバイン運送マリード支店を任せる商会員の面接をした。


 支店長に決まったのは子爵家の次男で、王立高学院商学部の卒業生でもあるトーラスさん42歳。


 マリード侯爵家の親戚らしく、ずっと領主屋敷の財務担当をしていた優秀な人物だった。

 不正を許さない真面目そうな人で良かった。


「覇王様とともに仕事ができるとは、いや、このことは極秘でした。必ずや命を懸けてお仕えします」と、興奮したトーラスさんが俺の両手を取って宣誓する。


 ……いや、普通の支店長だから、命なんか懸けなくていいよ?


 取りあえずは、マリード領の特産品の運搬からスタートさせ、マーガレット商会が落ち着いたら、ニルギリ公国との本格的な交易をスタートさせると、トーラス支店長に告げた。


 備品等の準備が整ったら、一度王都の本店に来て、出来上がっているであろう伝票や発注書などの事務処理を覚えてもらう。

 

 ドバイン運送マリード支店の店は、商業ギルドに近いメイン通りの二階建ての物件で、右隣は美味しそうなパン屋で、左隣は食料品店だった。


 護衛のタルトさんも含めた俺たち5人は、さっそく自分のマジックバッグの食材を補給した。


 そして一日超過した日程を取り戻すため、急いで王都へと旅立った。

 次はワイコリーム領に支店を開設しなければならない。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章スタートします。

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