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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
覇王の改革

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194/372

194 商会主アコル(8)

 光のドラゴンの守護妖精であるユテが寝ていた俺を起こし、ランドルとエリスが到着したと報告してくれた。


 短い時間だが熟睡できたようで、体が少し軽くなっている。

 俺はユテに、2頭のドラゴンを町外れに待機させておくよう指示を出した。 


「それでは、バロン王子はボンテンクと一緒にエリスに乗ってください。

 これから東のレイシス領の被害を確認し、安全な場所で王子を降ろします。

 その後、俺とボンテンクは分かれて、それぞれの目的地に向かいます」


 光のドラゴンである2頭を、驚愕の表情で見ているエドガー殿と、「凄いなー」と感動しながら見ているバロン王子に、俺はこれからの予定を説明する。


 覇王と側近が、光のドラゴンを従えているという話は聞いていたようで、必要以上に警戒されることはなかった。

 まあ住民たちの多くは、驚いて家の中に閉じ籠ってしまったが・・・


「私を光のドラゴンに乗せて頂けるのですか!」


瞳を輝かせて喜んだバロン王子27歳は、意外だが根性と柔軟性がありそうだ。


 若干腰が引けているアレクシス侯爵子息のエドガー殿は、この町を含めた自領の被害確認と、隣のレイシス領の被災者救済準備のため残ることになった。


 俺は護衛のタルトさんに、覇王専用馬車で領都マリードに向かってもらい、今日中に到着する予定なので、宿を確保しておいてと頼んだ。

 うちの馬車なら夜までには領都マリードに到着するだろう。




 ランドルの足に取り付けられた竜箱というか竜籠は、商業ギルドが総力をあげて豪華な感じに作り直してくれた。

 ランドルに合わせて金色だから、ぱっと見目立ちにくい効果もある。


 ドラゴンの飛行に邪魔にならない大きさを測り、座り心地の良いシートが設置されたり、景色がよく見えるように工夫を施してくれていた。


 そんな豪華仕様になった竜籠の中から眼下を見渡すと、ミル山の東側から流れ出した溶岩は、二方向に向かっていることが分かった。

 幸運にも現在、噴火は小康状態になっていて、飛行が阻害される噴石や火山灰の影響もないので、溶岩による被害状況は直ぐに確認できた。


 最初の噴火で流れ出た溶岩は、レイシスの領都まで到達しており、町の3分の1が溶岩に飲み込まれて焼失しており、現在も延焼中だ。


 広範囲を見渡すと、二度目の噴火で流れ出した溶岩は、隣国ホバーロフの方に向かって流れ出ており、あと10キロ足らずで国境の大河に到達していまいそうだった。


 ……大河が塞がるのは不味いな・・・


 レイシスの町の住民の多くは町の西側に避難しているようで、女性や子供や年配者などの弱者は、町から少し離れた場所にある、大樹を囲むように木々が茂っている小さな森の中で、噴石や火災から身を守っていた。


 男たちは溶岩によって燃えている住宅の消火作業をしており、これ以上延焼しないよう、町の大通りで懸命に水をかけ火を食い止めていた。


「エクレア、契約妖精のライム君と一緒に、水の魔法陣を使って雨を降らせるようボンテンクに伝えてくれる?」


大声で叫ぶより確実に伝わるので、俺はエクレアに伝言を頼んだ。

 

 本当は俺が雨を降らせようとしたのだが、これ以上魔力を使うなと、エクレアとロルフに怒られたので止めた。

 確かに、まだサーシム領で魔獣討伐の仕事が残っていた。


 バロン王子も水適性を持っているようだが、この国の王族や貴族の魔力量は、最大でも80を越えることはないらしい。

 妖精と契約していないバロン王子では、魔力増幅用の指輪や腕があっても、改良型の古代魔法陣さえ起動させるのは難しいだろう。


 ボンテンクが魔法陣を発動した途端、突然滝のような大雨が降り始め、驚いた住民たちが一斉に視線を空に向ける。


 雨に濡れながら上空に見えたのは、2頭の金色のドラゴンだ。

 瞬時に地面に身を伏せる者と、恐怖のあまり身動きできず固まっている者とに行動が分かれた。


 冒険者や軍の兵士はレギル火山のドラゴンを警戒して不在だから、誰も光のドラゴンに攻撃しようとはしない。


「私は第二王子バロンだー! このドラゴンは覇王様の光のドラゴンで、今降った雨は覇王様の従者殿の大魔法だー。安心しろー!」


エリスに低空飛行してもらい、バロン王子が竜籠から顔を出して大声で何度も叫ぶ。


 上空から見えていた炎は見えなくなったが、まだ所々で煙は上がっている。

 それでも、延焼は食い止められたようで俺は胸を撫で下ろした。


 何が起こったのか理解できなかった様子の住民たちだが、バロン王子の大声からやや遅れて、「やったー!」とか「ウオォーッ!」と歓声を上げ始める。




「バロン王子、あの伯爵家の子息(盗賊もどき)の処分はお任せしますが、あれに乗っ取られた商会に対する処分は、打ち合わせ通りでお願いします。

 せっかくコルランドル王国との交易を始めるのですから、商会を潰すのは勿体ないです」


「はい覇王様。マーガレット商会はこの国の特産品である魔鉱石を独占販売しています。

 潰してしまうと、他の商会や貴族たちが利権を争い混乱します。


 全ては覇王様にお任せします。

 私はレイシス領の救済の段取りをして、国王と一緒にまたのお越しを王都でお待ちしております」


 バロン王子が言うには、盗賊もどきの男は、嫌がるマーガレット商会の娘を無理矢理側室にしたらしい。


 そして、その直ぐ後に商会長が謎の盗賊に襲われ、大ケガをして入院した。

 すると勝手に商会の代表を名乗り、店の金を自由に使い始めたのだという。


 如何にも胡散臭い話で、商会長のケガは盗賊もどきの男が仕組んだのだと誰もが思ったらしいが、証拠が無いので手出しできなかったと悔しそうにエドガー殿が教えてくれた。


 実はマーガレット商会の娘さん、アレクシス侯爵家のエドガー殿の学院時代の同期生で、自分は結婚を承諾した覚えもないし、このままでは店が潰れるから助けて欲しいと、何度か相談を受けていたそうだ。


 マーガレット商会は完全に被害者だから、できれば助けたいバロン王子は、俺の提案で解決させたいと意気込んでいる。


 俺とボンテンクは、バロン王子とレイシス領を治めるレイシス伯爵と側近たちに、最低限の救済方法を急いで教え、いくつか指示を出しておいた。


 消火のお礼と見送りに集まってくれた大勢のレイシス領民に、俺とボンテンク先輩は手を振りながら、それぞれが向かう上空へと飛び立った。




 俺はランドルでサーシム領に向かい、ボンテンクはエリスでレギル火山に向かう。


 火山の噴火だけでも大災害だから、せめてドラゴンの脅威は減らしたいと、ボンテンクとエリス、俺の契約妖精ユテがドラゴン討伐を引き受けてくれた。


 ホバーロフ王国側のティー山脈に、グレードラゴンを追い出すだけでも構わないと言っておいたが、エリスが滅茶苦茶張り切っているので、任せても大丈夫そうだ。



 ミル山の頂上を越えコルランドル王国側へ入ると、マリード領の東側の山の斜面は勿論、眼下の広大な畑には灰色の火山灰が薄っすらと積もっていた。


 ミル山の様子をランドルで飛びながら注意深く監視するが、コルランドル王国側に噴煙が上がるような火口はなかったし、溶岩が流れ出ている場所もなかった。

 幸運にも山火事になっている箇所も見当たらない。


 ものの10分も飛んでいると、ミル山から少し離れた場所で、マサルーノ先輩一行らしき冒険者の集団が、魔獣の山の前に座っているのが見えた。


 冒険者たちは懸命に魔獣を解体しているみたいだから、既に下山してきた魔獣の討伐は終わっているのだろう。


「アコル様、倒れられたとエクレアちゃんに聞きましたが大丈夫ですか? ニルギリ公国の被害の大きさは?」


 俺が魔力枯渇で倒れたことをエクレアから聞いたらしいマサルーノ先輩が、駆け寄ってくるなり俺の体をクルリと回すように確認しながら心配する。

 冒険者たちまで「大丈夫ですか覇王様ー」と叫びながら駆け寄ってきた。



「お疲れマサルーノ。冒険者の皆さんもご苦労様。

 魔獣の多くは溶岩にのまれた。だが、溶岩の被害は甚大だ。

 ミル山の東側の中腹から流れ出した溶岩は、レイシスの町の3分の1を焼き、町の5キロ先で流れを止めている。


 噴火口もなかった中間地点の麓から突如噴きあがった溶岩の流れは、俺がなんとか食い止めた。

 問題は……二度目の噴火で流れ出した東側の溶岩が、今現在もホバーロフ王国との境に在る大河に向かって流れていることだ」


俺は簡単な説明を皆にして、マサルーノ先輩とヤーロン先輩から、マリード領側の被害状況の報告を受けた。


 簡単な指示を冒険者たちに出し、急ぐ俺はマサルーノ先輩を竜籠に乗せて、魔獣の群が向かったサーシム領へと向かう。

 ヤーロン先輩にはミルダの冒険者ギルドに戻ってもらい、現状報告をするよう頼んだ。



 上空から100頭近い魔獣の群の足取りを追いながら、夕方近くにサーシム領に入った。


「いましたアコル様! 林の中です。あっ、でも大多数はもう直ぐこの先の村……いや町に到達しそうです!」


 見張りをしていたマサルーノ先輩が指さす方向に目を凝らすと、確かに群は分かれており、先を行く群は小さな町へと迫りつつあった。


 ……あの町を越えた先には、俺が育ったヨウキ村がある。


「絶対にここで食い止めるぞ!」

「はいアコル様!」


『分かってるよアコル』と、ランドルも張り切って返事をする。


 初めて光のドラゴンに乗ったマサルーノ先輩はちょっとテンション高めだが、ボンテンク同様に魔力量を150以上に上げている頼もしい仲間だ。


「ランドル、魔獣の前に出たら、思いっ切り炎のブレスを頼む」と、俺は念話でランドルに指示を出す。


『了解アコル。あのくらいならひとりで大丈夫だよ。任せて』とランドルは応えて、一気にスピードを上げ魔獣の群の前に出る。


 突然最強魔獣である光のドラゴンが目の前に現れ、魔獣たちは大混乱に陥る。

 でも魔獣は器用じゃないから、足並みを揃えて上手く止まったりできない。


 ランドルは地面スレスレまで降下し、一気に殲滅するかの如く炎を放つ。

 これが本当のドラゴンブレスファイヤーだよな……なんて思いながらランドルの攻撃を見ていると、巨大な炎が変異種を含めた魔獣を呑み込んでいく。


「よくやったランドル! 随分と的を絞って攻撃できるようになったな!」


俺は大きな声でランドルを褒めた。


 始めの頃は魔獣以外のモノまで焼いてしまっていたけど、今では狙い通りの所に炎が放てるようになっているし、俺の指示通りに飛ぶことも出来る。


 頼もしく成長してくれたランドルに、念話でも偉いぞ!と褒めておく。

 残念ながら魔獣の殆どが消し炭みたいになるから、ランドルが倒した魔獣の素材は回収できなかった。


「よし、残った魔獣は俺とランドルが林から追い出すぞ。マサルーノ先輩、あとは任せます!」


「承知しました」


 マサルーノ先輩を竜籠から降ろして、俺とランドルはマリード領側に少し戻り、残った魔獣を林の外に追い出すため、低空飛行でゆっくりと進んでいく。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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