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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
魔王と覇王

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125 魔法陣の進化

 日暮れまで魔法陣発動の練習をして、皆でワイワイと騒ぎながら食堂へと向かう。


 結果として俺の作った魔法陣は、心配していた通り威力が強すぎて、演習場の壁に少し穴をあけてしまった。

 水魔法の応用で氷の塊を作り出し、風魔法を使って塊を飛ばすという簡単な魔法陣だったのに、何故か風魔法が強すぎて壁に激突した。


 魔力量的には60くらいを想定して作った魔法陣だったけど、俺は昔から無詠唱で魔法を発動したりしていたから「魔力量30で氷を作り、魔力量30を使って吹き飛ばせ」みたいな練習をしたことがなかった。


 基本をすっ飛ばした代償がもろにきた。

 そして何故か、クラスメートで特務部のゲイルが使ってみたら成功した。

 特務部の学生は、適性を2つしか持ってない学生が多いので、使えるC級魔術師用の魔法陣が少なくて、練習するのに苦労していたのだ。

 

 ……ある意味、結果オーライだよな。

 ……これは早急に、たくさんの魔法陣を作り出さねばならない。




 あれから学院長は何も言ってこないので、トーマス王子とサナヘ侯爵を連れて、夕食後に俺の部屋に来る気だろう。今更の謝罪だったら必要ないし。

 それに俺は、秘書に予約を入れ正式な手順で面会を希望した人間以外、公爵だろうが大臣だろうが、これから先面会する気はない。


 ただの学生アコルであれば、本来学院長の執務室に呼び出されることなどない。

 で、今夜は久し振りに寮の自分の部屋に泊まることにした。


「う、うわー! アコル、なんでこの部屋に?」と、同室の特務部1年トムに驚かれてしまう。


「ああ、実は今日、魔法陣を自作していて、ゲイルが適性2つでも使える魔法陣がもっとあればいいのにって言うから、他にも希望者が居れば作ってみようかと思ってさ。

 今日作ったのは水と風適性の魔法陣なんだ。

 それと、ここは元々、俺が借りてるベッドだよな」


使える者は使い倒す主義の俺は、4人部屋の同室者である特務部の3人に、魔法陣を作って欲しいかと質問し、データーを取るため協力させることにした。

 物置状態になっている俺のベッドを見て、早く掃除しろと視線で命令する。


「ごめん、直ぐに片付ける。だから魔法陣頼むよ。お前らも片付けろ! 俺は水と火の適性だけどいい?」


クラスメートのトムは、慌ててベッドの荷物を片付けながら手を合わせる。


「要る! 俺は火と風の適性だ! 俺はC級魔術師を受験する」

「俺も! 俺は土と風だ。本当に魔王自ら作ってくれるのか?」


 A組のフランとガイも、作って欲しいと手を上げた。

 この部屋のメンバーは全員が平民で、適性は2つしか持っていない。


 親が軍で働いていたから、3人とも軍の推薦で入学している。

 でも、今の軍の現状を親や俺から聞いたりして、自分の進路がとても不安になっているようだ。


「俺たちは軍の推薦で入学してるから、卒業したら軍に入隊しなきゃいけない。

 そりゃ【王立高学院特別部隊】に入れたら嬉しいけど、B級作業魔術師は無理だし、卒業までにCBランク冒険者になるのも難しい。

 でも、卒業までにC級魔術師の資格を取っていたら、軍での扱いが違ってくる……と思って期待してる」


期待していると言いながら、トムの表情は暗い。

 フランとガイもどこか諦めているのか下を向いてしまう。


 3人の親は年末からデミル領に行っていて、まだ帰ってきていないらしい。

 デミル領で軍の兵士がさせられた仕事と言えば、街道封鎖と遺体の処理と瓦礫の撤去。そして被災した平民の追い出しだ。真実を知ったらショックだろう。


「トム、これから軍は、使い捨てにされる一般業務の兵士と、ラリエス君のお父さんが指揮を執る魔獣討伐専門部隊の兵士に分かれることになる。

 だからC級魔術師の資格を取って魔獣討伐専門部隊に入れ! そうすれば君たちは【王立高学院特別部隊】と共に行動し、後方支援をすることになる」


俺の話を聞いた3人はバッと顔を上げ、俺に真剣な瞳を向けてくる。


【魔王】としての俺の仕事は、教授や学生に喧嘩を売って勝ち、学院のあり方、学生や教授の意識と行動を変えることだった。

 でも【覇王】として君臨するなら、今度は頑張る学生を励まし、希望を与えなければならない。


 今夜この部屋に来なかったら、俺は頑張る仲間を見捨てることになっていたかもしれない。


 ……よし、特務部の学生をもっと鍛えよう。軍で殺されないように。


 口から出まかせのように言った【魔獣討伐専門部隊】を、本当に作らなきゃいけない。

 ワイコリーム公爵なら、きっと実現させてくれるだろう。

 ワイコリーム公爵が得たのは、魔獣討伐に関する指揮権と、魔獣討伐用の資金だけだ。


 資金なんて、残っているかどうかも怪しい。

 軍や魔法省の大臣や副大臣はそのまま残留してるから、指揮権を得ていても、今回のように好き勝手される未来しか見えない。


 ……よし、ワイコリーム公爵に秘策を授けよう。



 その夜から3日間、俺は魔法陣作成に集中した。

 面倒な呼び出しや押し掛けを回避するため、夜は学生の部屋を転々とし、面会を秘書に申し込まれても、執行部のメンバーが全員戻って来るまでは、覇王として面会する気はないと突っぱねた。


 俺はマキアート教授とカルタック教授に、自分から覇王だと名乗り、魔法陣作成に集中できるよう、外部からの干渉を回避して欲しいと協力を頼んだ。

 2人とも大して驚きもせず「そんなことだと思っていた」と言って、笑って協力してくれた。


 この時の3日間で、魔法陣の研究が大きく進展する。

 これまで魔力量が80以上ないと発動できなかった魔法陣を、改良して60まで下げることに成功した。


 そして進展のヒントは、【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書の中で見付けた。

 覇王だと名乗った俺は、マキアート教授の研究室で、堂々と魔術書を開いている。

 どうせ他の人間には白紙にしか見えないから問題ない。


「マキアート教授、カルタック教授、大変です! 魔法陣の新しい発動方法が魔術書に書いてあります!」


「「なんだと、それは本当か!」」


 もっと簡単に魔法陣を発動できるヒントはないかと探していると、新しいページが開いた。

 教授も学生たちも一斉に俺を見て、説明を聞こうと集まってくる。


「魔法陣を暗記したり見たりしながら発動させなくても、魔法陣を描いた紙や布に魔力を流せば、詠唱無しで発動させることが出来ると書いてあります。

 ただし魔力を通し易く、増幅させる可能性のある魔石、上位魔獣の骨を使うこと・・・ああ、これで時間の短縮も出来ます!」


「 ウオーッ!!! 」と全員が叫んで拳を振り上げる。


「暗記しなくてもいいなんて、なんて素晴らしいんだ!」と学生が歓喜する。

 

 魔法陣を使う難しさは、複雑な魔法陣を正確に暗記し、発動の言葉を間違えないよう詠唱することにあった。

 その面倒な2つが必要ないとなると、あとは必要な魔力量の問題だけになる。


 魔石や上位魔獣の骨の指定が書いてないから、様々なモノを試す必要はあるけど、魔力を通しやすい魔石や骨を、至急集めて実験を開始しよう。

 俄然やる気になったマキアート教授の研究室の学生とは、元々仲良しである。


 古代魔法陣を使った時点で、ここのメンバーは俺をただの平民だなんて思っていなかった。

 だから魔術書なんて超希少な本を持っていても、上位貴族の事情があるのだろうと考え、誰も突っ込んできたりしない。


 俺が妖精と契約出来ていることと、ボンテンク先輩が俺に敬語を使うようになったから、レイム公爵家の血族だろうと予想しているようだ。

 まあ、間違ってはいない。




 次の日、執行部のメンバーが全員学院に戻って来た。

 これからこのメンバーが主体となり、活動を本格的に開始することになる。


 俺は夕食前に、執行部室に集合するようメンバー全員に呼び出しを掛けた。

 重大な責任を共に背負って欲しいと頼むことになるから、改めて気持ちを引き締めていく。


 執行部の顧問だからと、強引にトーマス王子も参加することになったけど、俺にとって別に問題はない。

 結局トーマス王子とは、廊下ですれ違ったり学食で会った時は、無視することも出来ないので他の学生と同じように接してきた。


 物凄く何か言いた気な表情で俺を見ていたけど、プライベートで会う気がないと分かっているので、無理矢理呼び止められることもなかった。


 ……まあ、言いたいことがあれば、執行部メンバーの前で言うだろう。


 ボンテンク先輩と一緒に執行部室のドアを開けると、俺を見付けたラリエス君が駆け寄って来て、ガバッと俺を強く抱きしめてきた。

 身長差があるから、すっぽりと俺が抱きしめられた感じだ。なんか悔しい。

 でも、何も言わなくても、ただそれだけで俺たちは通じ合える。


「おかえりラリエス。ドラゴン対策はできたのか?」


俺はポンポンとラリエス君の背中を叩いて身体を離し、笑顔で質問した。


「はいアコル様。あとはマジックバッグを買って支援物資を用意するだけです」


ラリエス君は俺の前に跪き臣下の礼をとり、いつもの優等生の顔で答えた。

 ラリエス君が俺の前に跪くのを見た他のメンバーは、一瞬動きを止め、話すのも止め驚いた顔でラリエス君を見る。


「さあ、久し振りに執行部会議を始めよう」と、困惑している皆に向かって、俺は笑顔で席に着くよう促した。


 このメンバーの中で、俺が覇王だと知っているのはラリエス君、エイト君、ボンテンク先輩だけだ。

 もしかしたら、ルフナ王子とリーマス王子も知っているかもしれないが、今のところ表情に出してない。



 俺は隣に座る執行部部長であるノエル様に、今日の議題を書いた紙を渡す。


「では始めましょう。本日の議題は4つです」といつもの笑顔で、ノエル様が司会進行を開始する。


 1つ目は、サナへ領救済活動の反省点について。

 2つ目は、今後の救済活動に向けての意見や提言。

 3つ目は、今後の【王立高学院特別部隊】の活動方針について。

 4つ目は、【覇王軍】の設立について。


 4つ目を読み上げたところで、ノエル様が「あら?」と言って、確認するように俺の顔を見る。


「先日、今代の覇王が学院に現れ、学院長とワイコリーム公爵に名乗りを上げました。

 執行部室の隣の部屋が、今代の覇王の執務室として、既に整えられています。

 覇王は正式に、【王立高学院特別部隊】の中から、魔獣討伐に特化した【覇王軍】を作ることを決定しました」


俺は真面目な顔で、淡々と真実と決定事項を語る。


「なんだってー! 覇王様?」と叫んだのはマサルーノ先輩、トゥーリス先輩だ。


「覇王様ですって!」と口に出して両手で口を塞いだのは、ノエル様、ミレーヌ様、シルクーネ先輩、エリザーテさんだ。


「えっ!?」とだけ言って驚いたまま固まっているのが、チェルシーさん、カイヤさん、スフレさん。


「覇王? それでは第七王子は生きていたのか?」と立ち上がって呟いたのは、第六王子であるルフナくんだ。


「それではやはり・・・」と、俺の顔を見て呟いたのは第五王子リーマス様だ。


 皆が驚いて詳しいことを知ろうと、俺の顔とトーマス王子の顔を交互に見る。

 女性陣は貴族らしく、驚き方が上品で感心してしまう。


 メンバーの中で驚いて叫ばなかったエイト君とボンテンク先輩とラリエス君が、俺の座っている椅子の後ろに移動し、再び臣下の礼をとる。

 なんとも複雑な表情をしたトーマス王子も椅子から立ち上がり、自分の椅子の後ろに下がって臣下の礼をとった。


 ほんの少し静寂の時が流れ、「ええぇーっ! アコルが第七王子だったのか!」と大きな声でルフナ王子が叫んだ。


「アコルさまの父は、私の父でもある現国王だ。

 そして母は、先のレイム公爵の娘だった。どうやら王様は、里子に出されていた女性を、レイム公爵の娘とは知らずに娶られたようだ。

 しかし様々な事情や不運が重なり、アコルさまは行方不明になってしまわれた」


トーマス王子は、俺から詳しい事情を話されたくないようで、俺の生い立ちについて、真実を織り交ぜながら皆に情報を教えた。

 その顔には、これ以上のことは言ってくれるなと書いてある。


 ……様々な事情ねぇ・・・行方不明とは、ものは言いようだな。


 成る程、学院長やトーマス王子が俺に会って話したかったことって、王家やレイム公爵家の落ち度で、俺が孤児院に捨てられたってことを、学生に内緒にして欲しいってことだったのか。ふ~ん。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は、19日(木)の予定です。

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