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キャラ交換で大商人を目指します  作者: 杵築しゅん
魔王と覇王

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117 ブラックカード持ちの先輩

新章スタートしました。

これからも応援よろしくお願いいたします。

 翌日の昼前に冒険者ギルドに到着した。

 昨日遅くに馬車で到着済みだったダルトンさんは、討伐完了をギルマスに説明し、解体の準備を進めてくれている予定だ。


 カルタック教授を含めた【王立高学院特別部隊】のメンバーは、討伐したアイススネークを解体場に持ち込むため、初めて冒険者ギルドの裏手を訪れた。

 解体が終わらないと、正式な報酬金額が決まらないのだ。


「それでは出しますよー」と俺は元気な声で解体職人の人たちに声を掛ける。


「おう! 小さいのから順に出してくれ」と解体リーダーが手を上げる。


 俺は皮を剥いだ状態のアイススネークをテーブルの上に、まだ剥ぎ終わっていないアイススネークを石敷きの土間に、マジックバッグから其々取り出す。


「取れる皮は全部必要だと聞いたが、他に必要な素材はないのか?」


「変異種の方は、骨や牙で加工が出来るようなら少し欲しいです。毒は高学院の医療チームで研究したいので、ポーション用の小瓶量をお願いします。

 皮の乾燥を全てお願いすることは可能ですか?」


 蛇や竜などの皮の乾燥は難しい。素人が下手にすると縮むし破れ易くなる。


「ああ、最近新しい乾燥魔術具を購入したんだ。この量なら1日でバッチリ乾くぞ。

 ところで、肉はどうするんだ? 俺はワートン領の出身なんで昔から食ってたんだが、王都じゃ見掛けないから食った経験のある奴は少ないだろうな」


「えっ? 本当に食べれるんですか?」


「勿論さ。こいつは滋養強壮にもいいからワートン領では高値で売れる。状態もいいし買い取りできるぞ。

 有名なのはスープのだしだな。乾燥して粉末にするんだ。そのまま焼いても食えるが、首に近い部位は少し癖があって煮込む方がいい」


 ……なんてことだ! だしに出来るなんて保存食じゃないか。


「では、みんなで味見させて貰って、美味しかったら変異種の方を半分ください」


そう言って俺は、丸太斬りになっている身幅2メートル以上、長さ2メートルの変異種をドンと取り出した。


「はあ?!」という解体職人さんたちの大声が揃った。


 盛大に驚いている皆さん(冒険者の見物人を含む)の視線を無視して、どの部分が美味しいのか俺は聞く。そう言えばそろそろ昼だ。お腹も空いた。

 俺がアイススネークの変異種を食べるつもりだと察したヤーロン先輩が、せっせと土魔法でカマドを作ってくれる。


「ちょっと待て! 変異種って、この巨体は変異種の一部か? それとも、残っているのはこれだけか?」


「全長10メートル、全て残ってますよ。出しましょうか?」


「「 はあ? 」」と再び驚きの声というか、疑うような声が上がった。


「ちょっと解体場が狭くなるけどいいか」と呟いて、俺はマジックバッグから変異種の巨体をドーンと全て取り出した。


 これまでの俺なら、この特殊なマジックバッグの存在を知られないよう、こんな行動には出なかったが、王命で出動する【王立高学院特別部隊】の一員としてこの場に居る俺は、怖いものなしだ。


 それに、ブラックカード持ちであることを隠さない方が、上位の冒険者と連携する場合に物事が上手くいくと今回学んだ。


 そろそろ前に出る頃合いだ。


【王立高学院特別部隊】を率いているのは、ブラックカード持ちのSランク冒険者だと知れ渡った方が、冒険者の協力を得やすいし、国民からの信用度が上がる。

 貴族のお坊っちゃんたちが、道楽で部隊を作ったと思われていては、いざという時に前に立てないし指示が出せない。


「・・・・・」


 解体場に突然現れた巨大なアイススネークの変異種に、解体職人の皆さんも、見学人の冒険者も目が点。そして口は半開きか全開だ。

 縦に真っ二つになっている胴体もあれば、丸太斬りっぽい部位もある。

 特に真っ二つになっている三角の頭は、その存在感が異様過ぎてドン引きだ。


「なんだこのバケモノはー!」と、暫くして叫んだ者は10人くらい。


「なんだそのマジックバッグはー!」と、叫んだ者は7人くらい。


「頭から一刀両断だと!」と黒マントの男は叫び、その黒マントの男の両脇に居た高級毛皮のマントを羽織った男2人は「なんだこの切り口は!」と叫んだ。


 誰だろう? この3人は明らかにオーラが違う。

 立っているだけで強者としての貫禄が滲み出ていて、着ているマントも毛皮も装備品も、全て一級品だ。きっと剣はミスリルとかに違いない。


「坊主、何者だお前?」と、黒マントの男が鋭い視線で俺を睨んだ。


 年齢は30代後半くらいで、顔は整っていて貴族のようだけど、190センチの長身から見下ろす眼光は鋭く、軽く威圧が漏れている。

 きっと魔力量は100を超えているだろう。サブギルマスのダルトンさんとは違った凄みがある。


 ……これは、ASランク、いやSランクの冒険者に違いない。



「ハーキムの威圧に動じないとは、本当に王立高学院の学生か? 見た目は子供だが本当に成人してるのか?」


上位種タイガーの派手な毛皮を着た長身でがっしり体型の男が、怪しむように俺を見て聞いてきた。

 その男は、黒いマントの男より少し若く、ごく少数の魔法師が使うという大きな魔石をトップに嵌め込んだ杖を持っている。


 ……マントのセンスは頂けないけど、如何にも魔法使いですって感じだ。


「ハーキム、威圧を止めろ! 他の冒険者が迷惑するだろうが!」


3人の中で一番年上らしい40歳くらいの男は、ハーキムという黒マントの男を睨みながら、困った奴だと呟いた。

 レッドウルフの毛皮を着ているその男は、俺を見てニヤリと笑い、唐突に「剣を見せろ」と言って俺の肩を掴んだ。


 ……訳が分からない。


 ブラックカード持ちは、変人ばかりだと言っていたギルマスの言葉を思い出した。確かに皆さん個性的だ。


「これは先輩方、初めまして。俺は王立高学院商学部1年のアコルといいます。

 まだ成人してませんよ。そして、残念ながら今は剣を持っていません。


 せっかくギルマスに貰った剣だったけど、今回の討伐でダメになったんです。

 ああ、先輩方なら、ミスリルの剣を打てる鍛冶職人をご存知ですか?」


ブラックカード持ちのSランク冒険者だと思われる先輩方に、俺は簡単な自己紹介をして、ついでだからミスリルの剣について訊いてみた。


「はあ? 商学部?」と、黒マントの男が納得できないと言う顔で眉間にしわを寄せる。


「なんだと! 1年? 成人してないだと!」とタイガーの毛皮の男も、俺の頭を上からポンポン叩きながら、信じられないと呟く。


 ……ちょっと、痛いんで止めて!


「ギルマスに貰った剣? 何だそれは、ミスリルの剣だったのか?」


大剣を背負ったレッドウルフ毛皮の男は、しつこく問い質そうとする。


「いえいえ、ごく普通の剣でしたよ」


「バカな、そんな剣で変異種を一刀両断したというのか!」


「ええ、だから次の剣はミスリルくらい丈夫な剣にしたいんです。

 あのー、すみませんが今忙しいので、俺に用があるなら解体が終わってからにしてください」


なんだかとっても面倒臭い雰囲気だったので、俺はアイススネークの試食を優先させることにする。



「おい、あれはブラックカード持ちの黒のハーキムさんじゃないか?」


「Sランク最強魔法師ギレムットさんだ」


「伝説の赤き戦士ダイキリさんだ。カッコイイなぁ」


 冒険者や解体職人たちが、3人のことをキラキラした瞳で見ながら、王都に戻って来たんだと喜んでいる。



 なんだか騒ぎになりそうなので、俺は変異種を全てマジックバッグにササっと戻した。

 そして試食するため、普通サイズのアイススネークの肉を抱えて、カマドの方に向かった。


 俺たちは育ち盛りなんだよ。美味しいものを目の前にして、無駄な話なんかしてられない。

 気の利くゲイルが、持っていたナイフで肉を削ぎ切りしてくれる。


「さあ、焼こうぜ」と、エイト君は嬉しそうだ。


「仕方ない。ここは高級岩塩を出してやろう」と、カルタック教授はカバンから塩を出して削り始める。


 俺は肉焼き用の網をマジックバッグから取り出して、カマドの上にセットする。

 すっかり【王立高学院特別部隊】のノリに慣れてきたトーブル先輩が、ニコニコしながら燃料鉱石を自分のマジックバッグの中から取り出す。

 ボンテンク先輩が火魔法で火を点け、風魔法で火力を上げていく。


 先ずはじっくりと焼いて一口・・・そして軽く塩を振って一口。

 脂身が少ない部分は焼き過ぎると硬くなるけど、味は悪くない。凄く旨いかというとそうでもないけど、味付けを工夫すれば問題なし。


「母さん特製のハーブ入り焼肉のたれをサービスしよう!」と、俺は人数分の皿を出し、タレを入れて全員に配る。


「旨い!」とエイト君が満足そうに叫ぶと、他のメンバーも嬉しそうに肉を頬張ってうんうんと頷く。

 見物人たちの視線が痛いけど気にしない。


 ……これは俺たちの戦利品だ。欲しければギルドで買ってくれ。


 先輩冒険者の前で食べるとは生意気だって、喧嘩を売ろうとした若い冒険者も居たけど、「馬鹿野郎、あれは王立高学院特別部隊の連中だ! 絶対に手を出すな」と、他の冒険者に止められている。


 やれやれと疲れた顔をしたカルタック教授が立ち上がり、皮を剝ぐ時に解体を失敗した部分の肉を50センチ分、皆で食べていいぞと言って解体職人に渡した。

 50センチといっても、元は3メートルのアイススネークだから、身幅は40センチくらいある。余裕の量だと思う。


 でも、提供するのは肉だけだから、自分たちで焼いてね。


 来客で忙しかったギルマスとサブギルマスのダルトンさんが解体場にやってきて、焼き肉パーティーをしている俺たちを見て呆れる。


 そして俺たちにちょっかいを出そうとしていたブラックカード持ちの3人を見付け、執務室に引き摺って行った。

 まあ、このメンバーには王族と領主の子息と、高学院の偉い教授が居る。普通なら伯爵家の子息であるボンテンク先輩だけでも、手を出すと不味いことになる。




 ◇◇ ギルマス ◇◇


「ちょ、なんだよギルマス、なんで邪魔するんだよ」と、問答無用で連行中の黒のハーキムが、俺に向かって文句を言う。


「【王立高学院特別部隊】に手を出すな! あの8人の中に王族と公爵家の息子と、魔法陣の教授が居たんだぞ! 不敬罪で死にたいのか!」


俺は大きな声で叱咤する。他の冒険者にも聞こえるよう、わざと大声を出す。


「【王立高学院特別部隊】は、ドラゴンと戦うため、そして被災者の救済活動を行うために作られた組織だ。

 メンバーは王子や高位貴族を中心としたエリート集団で、平民も含め完全実力主義をモットーにしている。


 全員が冒険者登録し、魔獣と戦うのは勿論だが、被災者のために炊き出しをしたり瓦礫の撤去もする。

 お前たちは【王立高学院特別部隊】が、ドラゴンに襲撃されたサナヘ領の町と村で、年末年始に救済活動したことを聞いてないのか?」


サブギルマスのダルトンも、支部の受付辺りにたむろしている冒険者にも聞こえるよう、大声で【王立高学院特別部隊】の活動を説明する。


「聞いてねえよ。俺たちは今サーシム領から戻ったばかりだ。

 なんで王族や上位貴族の学生が、魔獣討伐してるんだよ」


「そりゃ魔法省と軍が役に立たないからだハーキム」


俺は隠すことなくズバリ本音の話をする。

 これ以上の情報は限られた人間にしか出せないから、3人を連れて執務室に入った。


「さっきのアコルは、平民だから商学部に入学したが、入学早々魔術師制度を改正させ、学部の垣根を取っ払った。

 王族を掌で転がし、魔法省と軍に正面から喧嘩を売り、早々に役立たずの烙印を押した。


 結局、軍と魔法省を見限り、自分で【王立高学院特別部隊】を作るような化け物だ。

 アコルは、この国最強の冒険者としてブラックカードを持っている」


「「「 はあ? この国最強の冒険者だと!」」」


俺の話を聞いた3人が、納得できないとばかりに大声を上げ、俺とダルトンを睨み付ける。

 俺はハーッと溜め息を吐いて、皆を応接セットに座らせ、王都に招集を掛けた理由を話していく。


 冒険者ギルドは今後、【王立高学院特別部隊】と連携して魔獣討伐することになる。そのための打合せに呼び戻したのだと。


 そして魔獣の大氾濫に勝利するため、アコルの指揮下に入るつもりだと伝えた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は、29日(木)の予定です。

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