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114 救援要請(3)

【山斬りの一陣】 先鋒として圧倒的多数の魔獣を一振りで屠る。


《 横斬り 》 視界に捉えられる範囲(建物であれば城程度の大きさ)の物体を薙ぎ払う。

 魔力量180を剣に籠め、詠唱と同時に魔法陣を起動させ、剣を魔法陣に通して魔剣に変化させる。

 ミスリルを半分以上含む強度の剣でなければ、魔法陣は起動できない。


《 縦斬り 》 高さ10メートルまでの物体を一刀両断する。

 魔力量150を剣に籠め、詠唱しながら剣を振る。

 どのような剣であっても、使用後は消滅する。

 斬る物体が軟質である場合、後方まで斬撃が飛ぶので注意する。


 う~ん・・・縦斬りは、低空で飛んでいるドラゴンに使えるかな?

 ミスリルの剣なんて持ってないから、横斬りは無理だ。

 それにしても、山斬りって……ちょっと物騒だよな。


 俺は急いで、縦斬りの詠唱の言葉を暗記する。そしてマジックバッグの中から、ギルマスに貰った剣を取り出す。

 せっかく貰った剣だけど、他に持ってないから仕方ない。


 練習したことがないから効果は定かじゃないけど、一振りで倒せるのなら理想的だ。

 問題があるとしたら的を外さず剣を振り下ろさなきゃならないことだ。



「リーダーは集まれ、作戦会議だ!」とダルトンさんが大声で叫んだ。


 卵を産んでいる個体がいたので、卵の処理を含む討伐になった。そのため作戦を練り直す必要があったのだ。

 リーダー以外は川岸から目視できる範囲で、アイススネークの巣に卵が有るかどうかを再び確認するため、橋より上流()側に向かった。


 マギ領の冒険者パーティーによると、土や枯草を使って巣は作られており、大きさは直径2メートル程度のサラダボールのような形で、その中に卵があったと言う。

 卵は焦げ茶色で、大きさは手のひらサイズだったそうだ。


 卵を産んでいたらアイススネークはこの場を離れない。だから討伐中に他の場所に移動することはない。

 討伐のことだけ考えれば、幸運なのかもしれない。


 2度目の作戦会議では、卵を奪おうとすると必ずアイススネークがやってくるので、卵を奪うパーティーと、見張りをしながら現れたアイススネークを討伐するパーティーに分かれて、合同で作戦を決行することになった。


 組分けは【王立高学院特別部隊】の2つのパーティーが組を作り、マギ領の冒険者とヘイズ領の冒険者パーティーが組を作る。

【宵闇の狼】はヘルプに回ることになった。


「多くの旅人のために、できるだけ早く討伐する必要がある。

 しかし、土手から近付ける巣は2つだ。今日はその2つを狙う。

 他の3匹の巣は川の中央の中洲に在るから、明日、遠距離攻撃を仕掛けておびき寄せることにする」


巣の中に卵の有無を確認した皆の報告を聞いたダルトンさんが、新しい作戦と討伐方法を説明し、土手に近い2つの巣には卵が確認されたので、今日の討伐目標は土手から近い場所から行うと指示を出した。


 残念なことに変異種の巣は確認されていない。

 俺とエイト君は、エクレアとトラジャ君を連れて変異種の巣を探しに、普通のアイススネークたちとは反対側の、橋より下流側に移動することにした。


 橋の下流側には、大きな中洲が一箇所だけあった。

 長さは100メートルくらいで幅は40メートルはあると思われる。


 この中洲には木が数本生えていて、中には巨木になっているものもあるので、雨期でも中洲の半分は沈まないのかもしれない。

 大河の中心に近い場所に在るので、舟でも出さないとたどり着けない。


「川岸からの攻撃も届かないし、橋の上からでも届かないよな」


「そうだねエイト君。エクレア、様子を見てこれる?」


『ええ、いいわよ』


エクレは仕事を与えられて嬉しそうに飛んでいった。


『アコル、確かに巨大な巣があったわ。でも、まだ卵はなかった。あの巨体だもの、産卵するための餌が足らないんじゃない?』


「それは良かった。卵が有ったら取りに行かなきゃいけないところだった」


俺は安堵の息を吐き、決戦は橋の上に誘い出し、移動させてからにすると覚悟を決めた。




 夕日が王都ダージリンの方角に沈む少し前、4つのパーティーは悪戦苦闘しながら、なんとか2匹のアイススネークを討伐し、卵を回収していた。

 討伐されたアイススネークを見ると、ベテラン冒険者二組の方は炎の攻撃で体の半分が黒く焦げており、止めを刺すために体中に切り傷や刺し傷があった。


 ……素材としては、全く役に立ちそうにないな。


【王立高学院特別部隊】の討伐したアイススネークの方は、ボンテンク先輩が新しく覚えたウインドカッターで頑張って、アイススネークを5分割していた。


 こちらは十分にマジックバッグとして皮が使えそうだ。

 それが分かっているので、全員いい笑顔で討伐したアイススネークから皮を剝ぎ取っている。


 魔物の討伐に初めて参加したトーブル先輩も、おっかなびっくり顔を引きつらせながらも、懸命に小型ナイフで皮を剝いでいる。


 今日はここまでにして、全員で直ぐ近くの町まで戻る。

 雨期や大雨の時は橋の通行が制限されるので、足止めされる旅人や宿泊拠点として、川の両側には宿屋が数軒ある。


 今回の件で足止めされている旅人が既に泊っていて、俺たちが部屋をとったら満室になった。

 俺たちは食堂で夕食をとりながら、3つのパーティーから最近の魔獣の様子を訊いたり、サナへ領の被害について話したりして、食後は早目に就寝した。



 日の出時刻に、警備隊の小隊と一緒に橋の前まで来ると、橋の中間より少し王都寄りの位置に、壊れた荷馬車と積み荷が見えた。

 人の姿はないので、犠牲者の人数は分からない。

 どうやら、通行禁止を無視して強行突破しようとした商人がいたようだ。


 橋の入り口には警備隊の詰め所というか、小さな連絡所の建物があり、橋の両側から連絡できる拡声器に似た魔術具が設置されていた。

 警備隊の小隊長は、直ぐに魔術具で連絡を取り、絶対に誰も通行させるなと念を押し、被害者を調べるよう指示を出した。


「よし、今日で方を付けるぞ! アコル、本当に変異種は任せていいんだな?」


「はいダルトンさん。倒すまで頑張ります。皆さんも頑張ってください」


 橋の休憩所で今日の段取りをもう一度確認して、其々の持ち場へと向かっていく。

 歩いて近付けない中洲のアイススネークを倒すため、今日の組訳けは昨日と違う。


 遠距離攻撃できるダルトンさんとカルタック教授が、昨日討伐したアイススネークの巣があった中洲から、その先の巣へと火魔法を放つ。


 きっと枯草は全て燃えてしまうので、視界も良くなるだろう。

 巣を守ろうとして3匹のアイススネークが襲ってきたら、残りのメンバーが総攻撃を仕掛けて討伐する。



「たぶん向こうは大丈夫だろう。それじゃあ俺たちも始めよう。エイト君、竜巻をよろしく」


俺はダルトンさんとカルタック教授が火魔法を放ったのを見て、エイト君に声を掛けた。


「任せとけ。でも、竜巻を操り往復させる距離は20メートルが限界だ。それで変異種が現れなかったら、少し前に出るよ」


 エイト君はやる気満々という感じで、腕を回して準備運動を開始する。

 大小様々な石を二人で運び橋の上に置いて、エイト君は竜巻を作り始める。


 出来上がった竜巻の大きさは、橋からはみ出ない大きさで高さは4メートルくらいだ。

 ぐるぐると竜巻は石を巻き上げながら、橋の上でゴトゴト、ゴトンと音を立てながら進んでいく。


 竜巻が10メートルくらい進んだところで、川面に大きな変異種の影が見えた。

 様子を窺うように橋げたの下で動きを止め、大きな石の橋脚に向かって銀色に輝く三角の巨大な頭を覗かせた。


「来たぞ!」と俺はエイト君に声を掛ける。


「おう! 危なくなったら逃げるから言ってくれ」と、竜巻を操りながらエイト君が返事をした。


 竜巻の移動を10メートル地点で止め、その場でぐるぐるゴトゴトやっていると、変異種が橋げたを登ろうとしてその姿を現した。

 朝日を浴び、気味が悪いほどに銀色の巨体が光り輝く。


 ……やっぱり音や振動に反応してるんだ。



 変異種の巨体は、まるで重力を感じさせない素早さで、橋の欄干まで一気に登ってきた。


「「 早い! 」」という俺の声と、エイト君の声が重なる。


 変異種は竜巻の15メートルくらい後方で、巨大な頭を欄干から乗り越えさせ、竜巻を見て動きを止めた。

 赤黒い舌を出し入れしながら、頭を左右に振って様子を窺う。

 このまま橋に上がってこなければ、討伐することはできない。


「エイト君、竜巻を止めて後方に走れ!」と俺は大声で指示を出す。


 竜巻が消えた瞬間、俺は変異種の方に向かってゆっくりと歩き出す。


「おい、もう人は通らないぞ! お前なんかの餌になる者はいない。お前は今日、マジックバッグの素材になるんだ!」


俺は大声で叫びながら、剣を鞘から抜く。決して変異種から視線は逸らさない。


 ……さあ、来るならこい! その巨体を全てさらけ出せ!


 俺は変異種の15メートル手前まで走り、一旦止まって頭大の大きさの氷を作りだし、変異種に向かって風魔法で三角頭目掛けて発射した。

 そして、発射後直ぐに踵を返し、身体強化を使い瞬足で走って逃げる。


 俺の放った氷は変異種に命中したようで、グギャーという微妙な声が後方から聞こえたけど振り向いたりしない。


 もう直ぐ橋が終わるという所で、ドンと大きな音がして橋が揺れた。

 同時にズズズと不気味な音が後ろから近付いてくる。


「アコルー! 早く逃げろ追って来てるぞー!」とエイト君の声がする。


 俺は橋から20メートル地点まで走って止まり、クルリと体を反転させ、剣を正眼に構えて詠唱を開始した。

 俺が詠唱を始めた時、変異種のその巨体は橋の入り口に頭が届いていた。


「山を切り裂く一陣の剣、一刀両断、縦斬り!」


俺は詠唱しながら、剣にありったけの魔力を注ぎ込む。

 そして上段から、思いっ切り剣を振り下ろした。


 詠唱を終えた時、変異種のその不気味な巨体は、俺の目の前10メートルに迫っていた。

 そして勝ち誇ったようにキシャーと声を発し、大きくガバリと口を開けた。

 


 剣は眩しく発光し、放たれた斬撃は真っ直ぐ光の刃となって、変異種のギラギラ輝く三角頭の中央を通り抜け、くねくね曲がった胴体や尻尾の真ん中を貫通していく。

 光の刃は尻尾の後方にあった警備隊の詰め所を通り、川の中まで飛んでいく。


 確かに俺の手には大きな衝撃が伝わった。そして光は放たれ、俺の手から剣が消えた。

 だが、変異種の巨体は止まることなく眼前に迫ってくる。

 頭を高くもたげて口を大きく開け、今まさに俺を食べようとして、舌が伸び牙が向かってくるのが見える。


 ……失敗した?……と全く動けない体でぼんやり考える。


 まるで時間が止まったような、いや、一秒が10秒くらいの感覚で、ゆっくり、ゆっくりと景色が動いていく。


 遠くから「アコルー」とか「逃げろー!」と誰かが叫ぶ声がする。


 ……これは幻だろうか? 


 現実とは違う場所に居るような、とても不思議な感覚になりながらも、変異種から目を離すことはできない。

 時間はほぼ止まっている。


 俺が放った氷が当たったのか、左目から緑色の血を流している変異種の顔を、俺の瞳はじっと見ている。


 いつの間にか、叫ぶ声も、変異種が移動するときに出すズズズという音も、全ての音が止まってしまった。


 目を瞑ろうとした時、アイススネークの変異種は笑った。

 何故か変異種は、勝利を確信した時、必ず笑う。


 その背筋も凍りそうな薄ら笑いを見た瞬間、俺の脳はフル回転で動き始めた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次の更新は19日(月)の予定です。

7月のカレンダーが変更になっていることに驚いた今日この頃・・・

祭日は仕事なので、仕事日が増えて、もう笑うしかない。

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