第七話 伝達係は何者だ?
荒木は血の森から離れ、再びモンスターたちと戦闘を行い血の森を増やしていた頃、ふと思い出していた。
そういえば、若藤に渡した選定の剣って、能力が付く光に触れて選定の剣に触れていれば力が若藤に呼応して問題なく使えることみんな知らないのかな。そのうち理解するだろうけど、今のうちに知らせた方がいいのかな? 勘違いされても困るから使者でも送っておくか。
「式・貒。老人タキシード」
荒木はそう言うとポン! っという音とともにタキシードを着ている老人の男性が現れた。
「旦那。私に何か用か?」
「選定の剣は若藤でも問題なく使えるよって、南東にある国のマドラスフィ大帝国の第三皇女アンドレア・アドリントンというお姫様と若藤に伝えて来てくれる?」
「お安い御用よ」
「あっ、後魔王早めに倒さないと俺も倒しに行くからも追加して」
「わかった。じゃ、これ」
タキシードを着た男性の老人は荒木に何の変哲もない葉っぱを手渡した。荒木は何の疑問も思わずにその葉っぱを受け取った。
「行ってらっしゃい」
荒木は老人から葉っぱを渡されるとすぐに手を振り見送った。そして、タキシードを着た男性は木々を縫い走っていた。
ほぼ貒の全速力か。半日もあれば報告し終えるか。取りあえず俺はこのまま暴れまわるか。
荒木はそのままモンスターの群れに向かって、突撃していった。
○応接室
その頃高久たちは貒が付く前に、応接室でアンドレアと荒木の情報について話していた。
「そうですか。見つかりませんでしたか」
アンドレアは期待していた報告とは真逆の成果を聞いた。アンドレアは万が一の事態が起きてしまうかもしれない先の未来を想像して落ち込んでいた。
「荒木様の情報は何か掴めましたか?」
「いえ。途絶えてしまったので、一度情報を整理するため城に戻ってきました。アンドレア様こそ何か情報が入っていませんか」
「今の所入って来てないですね」
「そうですか」
皆は荒木の情報が誰のところにも一切入ってきていないので、荒木の探索が振出しに戻ってしまい、これからどう探していくのかを悩んでいた。
「先程、話に出てきた血の森は魔族の仕業ですか?」
アンドレアは荒木の情報が何もないので、結局はない情報集めになって時間が掛かると思ていた。アンドレアはまず、荒木を考えるのは止めて高久から聞いた気になる情報に触れることにした。
「それも分かりません。もしかしたら、荒木君がやった可能性もあります」
「その森に兵士を派遣して様子を見るしかありませんね」
「そのほうがいいですね」
アンドレアは血の森を作り出したのが荒木の可能性もあるが、魔族の可能性も捨てきることはできなかった。アンドレアは兵士をしばらくの間その現場に向かわせて、森が安全かどうかを詳しく調査して情報を手に入れるさせることにした。
「情報が途絶えてしまった以上、高久さんたちはとりあえず、異世界人の教育に戻ってくれませんか。後は兵士たちに情報を集めさせます」
アンドレアは早急に異世界人に強くなってもらい、魔物たちを倒せるまでに成長して現状の危機を脱したかった。アンドレアは高久に異世界人の教育にを行ってもらい、すぐに強くしようと思っていた。アンドレは高久を訓練に集中させるため、後は自分の兵士たちだけで荒木を探すことに決めた。
「私たちが行かなくて、大丈夫か?」
「情報が入り次第、捜索してもらってもいいですか?」
アンドレアは確かに荒木と戦闘になったら王国兵士では負けてしまう可能性が高いので、逃げられてしまうと思っていた。アンドレアは長い間、高久を捜索に加わらせて異世界人の教育が遅れては意味がなかったので、荒木が見つかってから捜索に加わってもらうことにした。
「分かった。情報が入るまで訓練を行うことにする」
高久も先程から荒木の情報を何も得られることが出来なかった以上、自分たちの力では情報を収集できないと分かっていた。高久は自分達よりも情報収集が得意なアンドレアに任せた方が最善と思い、素直に高久が元々依頼されていた件を引き受けることにした。
「今日は疲れていますでしょうから、休養を取ってから異世界人の皆様の訓練を行ってもらっていいですか?」
「では、甘えさせてもらって、今日は休む」
高久は自分でも疲れているというのが分かっていた。いつもならば休まずにも依頼をこなすことが出来るが、今日はみんなも疲れているので、アンドレアの言葉に甘えて休むことにした。
コン、コンと、ドアがノックされた。
アンドレアはこの時間に誰か自分に合いに来るとは聞かされていなかったが、別に急ぐ用事もないので、部屋に入れることにした。
「入っていいですよ」
ドアが開かれると自分が見たこともない見知らぬタキシードを着た老人が立っていた。
○貒
その頃荒木の指示に従い、送られて来た使者貒はやすやすとマドラスフィ大帝国内部の城に誰にも気づかれることなく侵入に成功して、アンドレアを捜していた。
警備が雑だな。それより皇女様は何処にいるんだろうな。会話で探って見るかな。
貒は耳を澄まして場内にいる兵士の中からアンドレアに関する情報を話していないかを捜した。
いた。しかも、他の人に気付かれないところに一人。アイツから聞き出すか。
貒は情報を持っていそうな話をしていた兵士がいたので、すぐにその兵士の背後に回り込み、首を右手で掴み耳元で囁いた。
「失礼。第三皇女アンドレア・アドリントンはどこ? 早く言わないとあの世に行くけど」
貒は兵士に皇女の情報を聞こうとしても、当然兵士なのだからすぐには話すわけはないと思っていたので、首に力を入れて脅した。
「この先を真っすぐ行った先の左の応接室だ」
この老人は容赦なく自分の首をへし折り、殺してしまうと思った兵士は任務より命が惜しかったのかすぐに皇女の居場所を吐いた。
「ご苦労さん。しばらく休んでいていいよ」
貒は兵士が居場所を吐くとすぐに背中を殴り気絶させた。
「良かった」
貒は意識をなくした兵士をそっと人目の付かない場所に置いて、皇女のいる王室へそう言い残して向かって行った。
この部屋か。
貒は皇女のいる部屋の前に付くと律儀にノックをした。
「はい。中に入っていいですよ」
返事が返ってきたのですぐにドアを開けて中に入った。
○応接室
「あなたは誰ですか?」
ノックをしたのが兵士だと思っていたアンドレは自分が知らないタキシード姿の老人など知らなかったので、素直にその人物に向かって聞いた。
「私は荒木様の使者みたいなものです。あなたがアンドレア皇女ですか?」
貒は自分の名前を答えずに、すぐに荒木の命によって来たという必要な情報だけを言った。貒は今話しかけてきた人が、自分の目的の人物かどうか確認するため聞いた。
「そうですが、私に何か用ですか?」
「では荒木様より伝言です。選定の剣は若藤でも問題なく使えるよ。後、魔王を早く倒さないと俺が魔王を倒しに行く。伝言は以上です。このことは若藤様に伝えておいてください」
貒は伝える対象が見つかったので任務を終わらせるために、相手に何かを言わせる隙を与えずに伝えた。
「荒木君に直接お会いしたいのですが」
アンドレアは少し驚きつつも、もしかしたら荒木に会えるかもしれないと思い、荒木の場所を知っていると思われる老人に話しかけた。
「うーん…今の所、自分から会いに行かないと会えないと思います」
「あなたは荒木君の居場所をご存知ですよね」
「私は知りません」
貒はあの後荒木の気配が消えたのと葉っぱを渡されたことで、今までの経験上荒木がその場には留まらずにどこかに行くことは明らかだったので、分かっていないとアンドレアに伝えた。
「あなたは使者ですか?」
アンドレアは念のために聞いたが、本人が知らないと言って本当に荒木の使者なのか疑わしくなり、失礼だろうが聞いた。
「そうですが。移動していますから、今どこにいるかは分からないです」
「じゃ、あなたはこれからどうするの?」
アンドレアは荒木がどこにいるのか分からないのにどうやって荒木の元に戻って行くのか疑問に思ったので、答えてくれるかどうかわからなかったが聞いた。
「私一人だけなら問題なく荒木様のところへたどり着きますから心配いりません。それでは伝えましたので、私はこれで失礼します」
貒はアンドレアに問われたので、任務も終わったし良いタイミングと思われたので、その場で実演しすることにした。
すると、貒は葉っぱを取り出し頭に乗せると、ポン! という音とともに貒はその場から消えた。貒は荒木の元へと帰って行った。
「なるほど」
アンドレアがどうやって変えるのか話した直後、貒が一瞬でその場から消えたので、だいたいのことに察しがついた。
「瞬間移動か」
「使者が瞬間移動できるとは、荒木君も瞬間移動が使えるのか?」
「まぁ、荒木君が瞬間移動を使えるかどうかは分からないけど、強いことには変わりはなさそうですね」
ジリアン、高久、陽川の三人は今の荒木の使者と思われる人物の今までの行動や雰囲気を見て冷静な分析をしていた。
「確かに強いかもしれませんが、魔王に挑むと言っていましたね。私は負けてしまうと思うんですが、高久さんはどう思いますか?」
「いや、聖剣がないと多分勝てないと思う」
「聖剣以外の攻撃は効きにくいし、倒せないからな」
高久たちは魔王について大体何が効くのか情報を持っていたので、どうなるかは目に見えていた。
「戦ったとしても、魔王の幹部や手下を倒せる程度だな。それでも、戦闘能力が高い上に経験も豊富だから、一対一ならば荒木が間違いなく勝つだろうな」
「後々のことを考えると力が欲しいですから是非仲間にしたいですね」
高久の荒木に対する戦闘情報を聞いたアンドレアは仲間にすれば強力なものになるだろうと思い、今後起こるかもしれない緊急事態などのために早めにマドラスフィ大帝国に戻して戦力を確保した方が良いと考えた。
「それは彼の正確な情報がないと無理だな」
「では彼の友達に聞いてみては」
陽川が本人ではなく、友達からでも情報が分かる可能性が高いので、アンドレアに荒木の友達について詳しく調べるように提案した。
「いえ、聞いてみましたが、今回のような行動をするような情報はないですね」
「やはり、本人に直接会ってみないとわからないか」
高久は荒木が最初から見せるような行動をするような性格ではないと何となく雰囲気からそんな感じがしたので、友達に聞いても意味はないと思っていた。
「荒木様の早めにというのが、どれくらいの期間なのかは分かりませんが、魔王に対抗する聖剣保持者の育成は早めに終えないといけないみたいですね」
アンドレアは貴重な戦力が魔王に敗れ失われる前に聖剣を持っている異世界人に強くなってもらい魔王を退治してもらうえるよう、訓練を急ぐ決意をした。
「無駄死にさせないためにもそうしたほうがいいだろう」
「とりあえず荒木様はまだ無事に生きているみたいですね。この件は牛迫様と若藤様に伝えてきます。牛迫様を私の部屋に連れて来てください」
「分かりました」
アンドレアは先程の伝言と荒木の無事を確認したので、荒木に一番詳しく異世界人代表の牛迫と今後の方針を話すことにした。アンドレアは近くにいた兵士に牛迫がいる場所と自分がいる場所の中間地点の部屋に来させるように指示した。
「高久さんたちはお疲れでしょうから、今日のところは休んでいてください」
「分かった」
「それではお先に失礼します」
アンドレアは高久たちにお辞儀をすると急ぎ足でドアを開けて応接室を後にし、自分部屋へと向かって行った。
「私たちは取りあえず、情報が手に入るまで本来私たちが行うはずの依頼をこなすことにしようか」
「そうだね」
「そうですね」
高久が大体の今後の方針を言うと光武と陽川もその方針に従い、今日は休むため応接室を出て自分たちの部屋へ向かって行った。
「私たちはどうしする?」
「私たちも予定通り休みでいいと思うけど」レニエラ魔法
「そうだな」
そして、会話に入れず部屋に静かにいたジリアンとレニエラの二人も休暇を取ることにした。
○牛迫と王女
アンドレアは早速伝言を伝えるため自室に牛迫と若藤を呼び出した。
「牛迫様先程、荒木様の使者と名乗る使者がお見えになられました」
「荒木君の使者?」
牛迫がそれを聞くとそんな人に心辺りは一切なかったので、頭に疑問符を浮かべながらアンドレアに聞き返した。
「そのような方がおられるとは知らなかったようですね」
「えぇ、彼は普通の一般家庭でしたから、そう言った使用人みたいな方はいませんよ」
「そうですか。その者が荒木様から若藤様に伝言を伝えてきました」
アンドレアは納得しながら荒木の使者について伝えた。
「私にですか?」
若藤は先程からなぜ自分が呼ばれたのか疑問に思っていたが、呼ばれた理由が分かったので聞く体制に入った。
「若藤様が持っているその聖剣は力を問題なく使えると伝えに来られました」
「それだけですか?」
「いえ、早めに魔王を倒さないと荒木様自ら倒しに行くとのことです」
「「…」」
二人はこれから自分たちが戦うであろう敵の存在がどれくらい強いのか全くもって把握できなかったが、一人では勝てないであろう程度には考えていた。二人は無謀ではないかと思い、まさか大人しいと思っていた荒木からのそんな伝言を聞いて驚き無言になって考えていた。
「魔王はどれくらい強いのですか?」
「魔王単体であればこの国と同じ程度ですが、魔王軍になりますとこの国並びに周辺諸国を合わせた戦力になりますね」
「そんなに戦力があるのですか・」
牛迫は初めて自分たちがこれから戦うであろう敵の存在の戦力を知ったが、よくわからない異世界ということもあって、よくわからなかったため、反応は薄かった。
「はい。しかし、異世界人が能力を使いこなせるようになれば被害はあまり出ずに済むと予測しています」
「そんな危ない場所に行ったら、荒木君はどうなるんですか?」
荒木のことが心配になった若藤はアンドレアに聞いた。
「荒木様がいくら強いと言っても魔王には特別な力がありますから、どう戦ってもいずれは倒されてしまいますね」
「そんな」
この世界のことと今から戦う相手の情報を知っているアンドレアの予想を聞いた若藤は荒木の心配をしていた。
「しかし、荒木様の気が変わる前に若藤様のグループが強くなればそんな心配はありませんよ」
アンドレアはなるほどと若藤のことを感心すると、荒木の心配をしている若藤に対して、荒木を助けることのできる可能性を一つだけ伝えた。
「頑張ります」
若藤は今までは訳も分からずにこの状況に流され身が入らずに訓練していたが、荒木が最悪の事態に陥る可能性があると知り、荒木を助けるためだけに訓練に身を入れると決めた。
「魔王の特別な力とは何ですか?」
若藤の意識が荒木を助けようと決断している時、牛迫は魔王の特別な力いう物が何か重要なことかもしれないと予感したので、アンドレアに聞いた。
「…然るべき時に話したいのですが、他の人に話さないのでしたら、特別な力について話します」
アンドレは少し迷ったが勇者とその代表者の二人だけなら、早めの段階に魔王の力を話しても問題はないと思った。アンドレアは他の人には話さないという条件でなら話すことを牛迫に告げた。
「はい。他の人には話さないので、魔王の特別な力を教えてもらってもいいですか?」
牛迫は情報を知らないよりは知っていた方がいいと思ったので、悩まずにアンドレアに約束し、魔王の特別な力について聞いた。
「魔王は普通に一国程度の実力があり強いのですが、それだけでは異世界人を頼って召喚するなんてことは行いません。私たちが対峙する魔王には聖剣でのみ傷つけることが出来る不死性が宿っているのです」
不死身の能力と聞き、この世界に来て詳しくわかっていない牛迫でもこの情報は重要ではないのかと思い理由を聞かずにはいられず、アンドレアに聞くことにした。
「かなり重要な情報ではないですか? なぜ他の人には話せないのですか?」
「異世界の人は異世界に来て戦闘経験も窮地に陥ったこともなく、確固たる自信が何もない状態です。心の準備が出来ていない状態でそのことを知って、窮地に陥った場合逃げ出したり、行動できなくなったりします。最悪の場合、敵に寝返る場合も考えられます。ですので、異世界の人に確固たる自信が付いたと判断できた時に魔王について詳しい情報を伝えます」
アンドレアはこの方針を大きく変える可能性が出始めているその話をしてしまうと異世界人に協力を得られない可能性が大きいと思ったので、異世界人を召喚する前からの教育方針について一気に話した。
「確かに、私もそうですが学生たちはそんな経験はしたことはありませんね」
牛迫は確かに小さな危険はあるものの戦争も内紛も紛争も重たる戦いのない平和な国を生きている自分たちが、いきなりそんな状態に放り出されても、何か行動を出来るとは思えなかった。牛迫はアンドレアの考えに納得していた。
「なぜ異世界に来て右も左もまだ分からない私たちに話してくれたのですか?」
牛迫は自分からこの話題について聞いたが、今度はアンドレアが話してくれた理由が気になり、再び聞いた。
「二人ならば信用できると判断したので、魔王の能力について話しました。他の異世界の方々には今後伝えますので、他言無用でお願いします」
アンドレアの考えでは若藤を信用できると思っているが、牛迫は信用できるかどうか分からなかった。アンドレアは勇者の仲間が重要な役割をすることを知っていた。しかし、肝心の勇者の可能性のある人物が逃げ出しているかもしれないので、アンドレアは魔王との戦いが早まる可能性を判断して、多少危険と思いつつも嘘を話した。そんな嘘に罪悪感があったため少しお辞儀をしながら言った。
しかし、アンドレアが罪悪感から行ったお辞儀は牛迫と若藤の二人には自分たちを本当に信用してくれているように見え好感を得ていた。
「分かりました。このことはアンドレア様が話すまで秘密にしておきます」
「ありがとうございます」
「お伝えしたかったお話は以上になります」
「荒木くんの情報ありがとうございました」
話しが終わった牛迫と若藤の二人は部屋から退室し、自分の部屋へと戻って行った。
「私も早く荒木様を見つけ出しませんとね」
二人が部屋から出ていくとアンドレア皇女は今後重要な役割を果たす可能性の高い荒木を連れ帰る作戦を自分なりに考え始めた。アンドレアは自分の世界に入って行った。
荒木の前にいきなりポン! という音とともに葉っぱから若藤に伝言するため王城へ送った貒が現れた。
「旦那伝えてきたよ」
「ご苦労さん。もう戻っていいよ」
「じゃ、また用があったら、私を…私を呼んでくれ」
貒は胸に手を当てながら、自分を呼ぶように念を押すと再びポン! という音と同時に白い煙が出て消えて至った。