第六話 御一行と二番手は心配の心
荒木がレニエラとジリアンの二人と戦闘した1日が経ち、最初にレニエラが目を覚ました。
「ん?」
レニエラはまだ起きたばかりなので、頭が覚醒していないのか自分がなぜ倒れているのか思い出していなかった。だんだん頭が覚醒してくると少しずつ自分がどうして倒れているのか思い出した。
「そう…戦いで。そういえばジリアン!」
レニエラは戦闘している間にジリアンがお腹を貫かれていたことを思い出した。すぐにジリアンの元に駆け寄った。ジリアンの腹部辺りを調べたが貫かれた痕跡はなかった。
「無事みたいね。(穴が塞がっている)」
レニエラはジリアンの無事を確認して安心した。次になぜジリアンのお腹の傷が無くなっているのを疑問に思った。
「(通りすがりの誰かが回復してくれた? いやこんな血まみれの異様な森に来るような物好きはいないはず。だとしたら私たちと戦闘していた人間を恨む敵が? なぜ?)」
戦っていた相手が人間の敵だと思っているレニエラは人間の敵が敵を回復させて助けるというものに利点が存在しないと思っていたが、もしかしたら利点が存在するのかもしれないと思い始めた。
「まさか。何かあるの?」
レニエラは何かしらの罠などを仕掛けられている可能性を考えて、魔法を使い自分の体とジリアンの体を調べてみた。特に何かされている気配はなかった。
「特にない?(私たちを余裕で倒すくらいの実力。私には気づかれない魔法が掛けられているかもしれない。私よりもその筋で長けている人に調べてもらうしかないかな)」
レニエラは自分がどうなっているのか疑っているが、調べても何も出てこず自分ではどうしようもなかった。そのため、レニエラは他の人に調べもらうことにし、この疑問を一旦おいた。その直後ジリアンが起き上がった。
「起きた?」
レニエラはジリアンの寝起きも良く体も丈夫なことを知っているので、目を開けた瞬間に休憩する間も置かずに声を掛けた。
「あれ? レニエラが?」
ジリアンは起きてすぐ自分がお腹を貫かれていたことを思い出した。ジリアンはお腹付近を手で撫でてみるが、不思議なことに何の異常もなかった。レニエラが回復させたのかと思っていた。
「いや。私じゃないよ」
「他に誰が?」
レニエラが否定したが、回復してくれた人にお礼を言いたかったのでジリアンに回復させた誰かを聞いた。
「たぶん、私たちが戦っていた相手かな?」
レニエラは思い浮かべた中、現時点で一番高い可能性がある者をジリアンに伝えた。ジリアンは予想外の相手に少し驚いた。
「なぜ?」
「それは私も分からないよ」
「じゃあ気にしなくてもいいか」
ジリアンはレニエラに自分を倒した敵が自分を回復させた理由を知りたく聞いたが、レニエラが分からないと言ったので、自分が考えたところでレニエラと同じ考えに至る可能性が高く調べても意味がないので気にしないことにした。
「少しは気にした方がいいと思うよ」
「レニエラが相手の魔法を感じ取れないのに騎士の私が感じ取れるわけがないからな」
ジリアンがレニエラの考えを何もせず受け入れる無責任な発言を真面目に答えた。ジリアンは魔法ならば自分よりもレニエラのほうが圧倒的に上手な事実を理解していた。
「確かにね」
レニエラはジリアンの事実を肯定した。
「そこは否定しないんだ」
ジリアンは否定して欲しかったのか残念な気持ちになって呆れていた。
二人は少し休憩して体力と魔力を回復させると立ち上がった。回復した二人は他の敵がいないか探索を始めた。二人は先程と同じように周りに強い敵がいる可能性を考えて慎重に周囲を警戒した。
「あれはいったい何者だったんだ?」
ジリアンは先程の敵の正体が気になったのか自分よりも知識を持っているレニエラの頭を借りた。
「魔族じゃないのかな?」
レニエラは現時点で自分が怪しいと思っている正体をジリアンに言った。
「でも、本人は姿を隠していたから種族は分からないし、本人も種族は何も言っていないからな」
「まぁ、分からないか」
ジリアンが先程の自分と同じような考え方を始めた。レニエラは先程に戦った相手の正体を突き止めようと想像しても可能性の問題になってしまう。そのため、レニエラは早々に正体を突き止めようとするのを諦めた。
「ん?」
「誰?」
周囲を警戒している二人の目の前に何者かの姿が見えた。二人は先程の戦いがあり、すぐに身を引き締めた。ジリアンは剣を抜いた。レニエラは鎖を出して戦闘態勢に入った。二人の目の前に現れたのはマドラスフィ大帝国で見知った顔の人だった。二人はすぐに戦闘態勢を解いた。
○高久
荒木を探し様々な場所で情報を集めていた高久一行は東にある森が騒がしいという情報を得た。高久一行は荒木の捜索を一旦止め、森に赴向くことにした。そして、森に赴いた高久、陽川、光武の三人は森が血に染まっている光景を目にしていた。
「これはひどい、一体何が起きた」
皆が血の森の光景を見て息を呑んで固まっていたが、その空気のなかまず初めに高久が話し始めた。
「悪魔かな」
陽川は悲惨なことをすることは悪魔くらいしか知らなかったので、悪魔という可能性に辿り着いた。
「辺りを探索しましょうか」
二人は辺りを探索してみれば誰がやったのか手がかりがあるかもしれないと思い、探索することをパーティーのリーダーである高久に光武が提案した。
「わかった」
高久は光武の提案を頷いて了解した。
「「ソナー」」
光武と陽川は歩きつつ魔法を使用した。
「警戒しろ。探知魔法をすり抜けて来る敵かもしれないからな」
高久は一応まだこの周辺に敵がいる可能性ではなく、敵がいると思い二人にいつでも戦闘できるように心の準備をさせるために言った。
三人は慎重に辺りを探索してみたがそれらしきものと遭遇しなかった。何よりも、他のモンスターとも遭遇しなかった。
「特にモンスターの気配はないな」
「というよりも一切ないよ」
「おかしいね」
三人とも一切のモンスターがいないことに違和感を持った。わざわざ全てのモンスターを全滅させるような面倒な事をする種族や人を思い当たったが、こんな凄惨な光景にする者をあまり知らなかった。
「仕方ない。私の剣で捜索してみるか。魔族や人間に害をなすものならば問題なく見つけ出してくれるはずだからな」
高久はこの状況からこの景色を作った者が人間に敵意があった場合まずいことになるかもしれないと考えたので、自分の技を使って探知することにした。
「エタナ。光を」
エタナが剣になると高久は剣を真上に上げると、剣から光が広がった。剣から広がった光は血の森全体を包み込み探知を始めた。高久が光で探知したが小さいモンスター一匹も探知することが出来なかった。
「私の剣の探知に移らないということは私たちにとっては問題ないということ。またはここにその者はいないということか」
「なるほど、この周辺に脅威はないみたいね」
高久の探知の結果を知った二人は高久の探知能力を知っているので、緊張感を解いた。高久は万が一自分の能力が効かない敵がいるとしたらと、考えていた。高久だけは緊張感を保ったまま森を歩いた。
「この先に気配は薄いけど誰か隠れているみたい」
光武が何かが隠れているような気配を感じ取って、最初に口に出した。
「そうだな」
高久も人間の気配を探知していた。しかし、高久は人間と気づき悪意を感じなかったので、別に警戒するほどのことではないと思い二人に伝えなかった。
「もっと調べてみるよ」
「私も調べてみます」
光武と陽川は再び詳しい情報を得るために探知魔法を使った。そこには人間が探知魔法を阻害する魔法などを駆使して探知されないように移動しているのを確認することが出来た。さらに、まだこちらの存在に気付いていない様子だった。
「二人だね。いい感じで探知に掛らないように魔法で気配を消しているみたい」
「何か知っているかもしれないね。聞いてみる?」
「そうだな。聞いてみるか」
三人は人間の気配がしたので、この現状がどうなっているのか知っている可能性が高そうなので接触することにした。すると、そこには高久が見知っているレニエラとジリアンの二人がいた。高久はさっきの探知魔法に引っ掛かったのはこの二人だと確信した。
「レニエラ、ジリアン」
高久は二人に近づきこの森がどうなっているのか情報を聞くため、二人の目の前に現れて話しかけた。
「高久さんか」
「あれ? 高久さん?」
ジリアンとレニエラの二人は本来ここにいるはずのない人たちの姿を見て驚きながら本物かどうかを問いつつ、レニエラは魔法を発動した。レニエラは目の前の人物を調べた。レニエラは情報を探ると本人であることは確かだと確認できた。
「高久さん。一つお願いしてもいいでしょうか?」
レニエラはすぐに自分が魔族らしき人物に自分でも気づかないような何かの呪いを掛けられている可能性があることを考えていたので、自分よりもさらにその類の探知に長けている高久に頼んで見てもらうことにした。
「いいよ」
「私に何かついていますか」
「なるほど。調べてみる。エタナ」
高久はレニエラ自身が自分の魔法では探知できない何らかの魔法の呪いみたいなものを掛けられているかもしれないと今の一言で理解し、すぐにエタナを剣に変えた。レニエラの体にエタナの目で見ても眩しくない光を当てて調べた。その結果、レニエラの体には呪いらしきものの類は見つからなかった。
「大丈夫だ。何もついていない」
高久はレニエラの体を調べ終わリエタナを元の姿に戻すと、結果を伝えた。
「ありがとうございました」
レニエラは自分が知りうる中で最高の探知能力を持つ高久に信頼を置いていた。そのため、もし間違えていたとしても、これ以上の探知能力をレニエラは知らないのでこの結果が絶対だと割り切り、自分の体は安全だと信じた。レニエラは自分が体に何かをされているのではないか、という不安を取り除き安心を得ると、一息ついてほっとしていた。
「それで、高久さんたちはどうしてここに?」
ジリアンとレニエラの二人は高久が今勇者の訓練の先生を担当していることを出かける前に聞いていたため、なぜこんな場所にいるのか不思議で仕方なかった。
「異世界の子に逃げられちゃってね」
リーダーの口から言うのも何か恥ずかしかったので、高久が答える前に光武がなぜ自分たちが異世界人の訓練をせずにこんな場所にいるのかを答えた。
「もう育っているのですか?」
レニエラは異世界の人たちがその強さを認める高久を出し抜けるほどに成長しているのかと思い聞いた。
「いえ、まだ転移してすぐですから、まだ育っていませんよ」
「転移してすぐですか。ということはかなりのステータスの持ち主ですか?」
レニエラはすでに訓練済みだと思っていたが違った。そのため、レニエラはそれ以外で高久たちを出し抜くことができるということは元々の能力が高いと思い、再び高久たちを出し抜いた異世界人のことを聞いた。レニエラは異世界人が元々強いという可能性はまったく頭に思い浮かんでいなかった。
「いやステータスは駄目だ…が…説明は長くなりそうだから森を探索しながらでもいいか」
高久は周囲探索が探知魔法だけでは信用が余りできないので、実際この目で見て確認したかった。高久は早く周辺の安全を確認したかったので、時間を確保するため話しながら確認することを二人に提案した。そして、高久一行は走りながら探索を行っている最中に今までにマドラスフィ大帝国で起こった主に荒木の出来事を二人に詳しく話した。
「で、その荒木を見つけている途中に森の様子がおかしいと町の人から聞いて調査に来た」
「だから、この森に来ているんですね」
「へー、荒木ってそんなに強いんだ」
ジリアンは高久から異世界から来た荒木の情報を知った。ジリアンはその情報から荒木の大体の強さを知った。ジリアンは感心しながらも剣を扱うものとして、自分もぜひ戦ってみたいと思っていた。
「ジリアンでも足元に及ばないと思う。高久さんを余裕で倒すほどの実力の持ち主だからね」
レニエラはジリアンが荒木と戦いたがっていることを表情と長い付き合いから読み取り、素直に自分が思っている事実を淡々と述べた。
「そんなことは戦ってみないとわからないじゃないか」
レニエラに擁護もせずに淡々と事実を言われたジリアンはレニエラを「ジッ」と、見て頬を膨らませながら可愛らしく言った。そんな異世界人たちの情報を話しながらも高久たちは周辺の探索が終わった。
高久はこの周辺の安全を確保することができると、ゆっくりと情報を聞くため血の森を抜けた。高久一行は緑あふれる森の座りやすそうな開けた土地を見つけ出すと、休みも兼ねてその土地に腰を下ろした。
「ところで、二人は何か見なかったか?」
高久は辺りの探索が終わって腰を下ろすと、この状況を起こした何かを知っていると思われる二人に聞いた。
「もしかして、私たちが戦った相手がその荒木という人じゃないの?」
二人とも何も思っていなかったが、ジリアンがもしかして…と、一つの可能性に辿り着くとレニエラに向かって話した。
「戦ったのか? 詳しく話して欲しい」
高久たちは二人が何か荒木に関しての情報を持っているかもしれないと思い、森に異変を起こしている何者かの正体を探る気持ち切り替えて、荒木についての情報を聞き出す体制に入った。
「高久さんたちが来る前に私たちは正体不明の敵と交戦して、有効な攻撃を何一つ与えることが出来ずに敗北しました」
ジリアンが先程何者かの戦闘により負けたことをみんなに話した。
「大丈夫だったんですか」
陽川が負けたと聞いて体に何かしらの後遺症を残している可能性を心配して、回復しなければいけない箇所があるなら自分が回復してあげようと考えた。
「気絶させられましたが、その敵に回復されみたいで、大丈夫です」
「悪魔に回復?」
光武はその敵が悪魔だと考えていたため回復をしてくれたと聞き、この凄惨な光景を作りだす普通の悪魔がそんなことをするはずがないと思った。
「えぇ、だから悪魔でもモンスターでもない別の何かかと思ったんですけど」
「確かに自分で言うのも変だけど、私達ならばそこら辺の魔族や魔王にも少しくらいダメージは追わせられるはずだから。先程の話を聞く限り高久に余裕で勝ったということはその可能性が高いかもしれない」
ジリアンは高久を倒せるほどの実力ならば、自分が攻撃も当てられずに敗北してしまったことが納得できるので、その可能性が高いと思っていた。
「どこへ?」
高久もまた荒木の強さを知っていたので、今の敵が荒木の可能性もあると考えた。高久はそれが荒木ではなかったとしても、それはそれで放置できない存在なので追ってみてる価値があると思った。。
「その後、どこへ逃げたのかは起き上がった直後に探索を行いましたが、この辺りにはもういないようです。すでに立ち去った後だと思います」
「そうか」
荒木の情報が何も得られなかった高久は情報がここでも、得られずに途絶えてしまい、また情報の集め治さなければならないと落ち込んだ。
「しかし、仮に二人の相手をしたのが荒木だったとしたら、なぜこんなことをしたのでしょうか」
陽川がここで、荒木の痕跡が途絶えてしまったのなら可能性から導き出せば近づけるかもしれないと思い気になったことを口に出して、皆から意見を聞き出そうとしていた。
「力試しじゃないか。私もここまではしないが新しい武器を新丁したときは試し切りするからな」
ジリアンは自分がいつも行っている行動を思い出して一番近いと思った答えを言った。
「異世界に来て浮かれて遊んでいるだけじゃないの?」
光武は今まで見てきた異世界から来た良いステータスを持っている人が力試しをしてモンスターを大量に狩っていることを知っているので、過去の例と同じだろうと判断した。
「私は実際に戦ってみてわかるが、普通の異世界人は良いステータスを持っているが傍から見ても戦い慣れているようではなかった。しかし、荒木は戦い慣れている。それに、人を殺したことをあるような目と雰囲気を感じた。そんな人物がここに来ただけで浮かれはしないだろう」
「確かに自分の実力を知っているものが、そんな幼稚なことはしないと思います」
「じゃあ、高久はどう思うの?」
高久と陽川に自分の意見が全面否定されたので、長ったらしく説明した高久に反撃とばかりに聞いた。
「なぜ全てのモンスターを殺すのかは分からないが、大方ジリアンと同じだと思っている」
「私も今考え付く中ではそれが一番合っていると思っています」
「二人とも同じ意見か」
光武は自分だけが違う意見になり、仲間外れになっていることに気付くと、突っ込まずにはいられないのか突っ込んだ。そんな、光景を見ていたレニエラとジリアンの二人は目で合図を送りあってからレニエラから先に話し始めた。
「まぁ、全部想像の世界だから話し合っても仕方ないと思います」
「情報がないから想像するくらいしかできないからな」
ジリアンとレニエラは想像だけの世界をいくら話し合っても、あまり意味が無いと思った。二人はそろそろマドラスフィ大帝国に戻って報告を済ませて休みたかったので、早めに話を切りあげようと思っていた。。
「情報が途絶えてしまったな。仕方ない。新しい情報が新たに見つかっているかもしれない。一度、王城に戻って私たちが集めた情報を皇女様に報告したほうがいいだろう」
高久はこのまま探し続けても荒木を見つけられるかどうか分からなかったので、城に戻って情報をまとめたほうが早く見つけることが出来ると思った。
「なら私の転移魔法で跳びましょうか?」
「魔力は足りるか?」
高久は何者かと戦闘したと聞いたので、レニエラの魔力を調べて問題ないと知っていたが、一応、何かしらの問題があるかもしれないので無理をさせないように聞いた。
「魔力も十分回復しています。十数名程度なら余裕で転移できます」
レニエラは自分の中にある魔力量を確認すると、全部回復していたので、たぶん戦闘で気絶していたため、回復したのだろうと思った。
「じゃ、頼んだ」
「はい」
そして、皆を囲むように魔法陣が地面に現れると皆は消えた