第五話 大帝国十二騎士・十二魔使(まし)の2番手交友
「ふぅー、狩った。狩った」
欲が満たされた荒木は血の海に倒れ込み空を見上げた。荒木は笑みを浮かべ休憩していた。
このまま放置すれば亡霊になってまた戦えるが、亡霊や妖怪は向こうで散々戦ってきたから、戦はなくてもいいか。でも、この森にはほとんどのモンスターがいなくなってしまったからな。他の人もここを狩場にしているだろうから死体は放置しておこうか。
荒木は生き物を狩ってしまったせいで戦えなくなってしまった人がいては大変だということで、このまま放置して、みんなのためにモンスターを沸かせてあげることにした。
感情の赴くまま適当に暴れまわったせいで、どこまでも血の海だな。服を糸で作り直したいが、また汚れるから、血の海が終わるまでこのままで歩くか。
荒木は立ち上がり、そのまま生き物のいなくなった血の海を肌に付く血を気にせずのんびりと歩き始めた。
○とある小屋
森には一つの小屋があった。小屋の内部は質素でイスとテーブルがあるくらいだった。そこに二人の女性が突然に現れた。一人は緑色の液体が付いた白いローブを着ている一人の女性と黒いローブで顔を見えないが両手の裾からジャラジャラとした鎖が顔を出している女性の二人がそこにはいた。
「ふぅー、任務完了。転移ありがとう」
白いローブを着ている女性は背を伸ばしながら、仕事が終りその達成感から一息ついた。
「自分でもできるのに…」
黒いローブの女性は小声で白いローブの女性に自然と文句が口から出た。
「仕方ない。戦いには万全の魔力で臨みたいからな」
「ドラゴン討伐なら本気で臨まないといけないけど、ワーム討伐程度なら別によくない?」
「例えどんな敵であろうとも漫然の体制で戦わないと万一があるかもしれないからな」
白いローブの女性はもっともらしいことを言って黒いローブの女性に自分なりの戦いへの精神的な意気込みを伝えた。
「結局不安だからでしょ」
「ま…まぁ、実際そうだけど…」
普通に事実を言われた白いローブの女性は黒いローブの女性に心を見透かされた恥ずかしさを覚えた。
「あなたは国を代表する十二騎士の一人でしょ。もっとしっかりしてよ」
「いや、頂点ではないからね」
白いローブの女性は実際一番でないがその次に強い存在ではあると自負はしていた。事実一番ではないないので、謙遜していた。
「そうだけど、私も魔法の筋では二番手だけど、一番である自身は持っているよ」
「あなたは競えているからいいけど、私なんかあの人と実力差がありすぎるからね」
黒いローブの女性があなたと同じと言ったが、白いローブの女性もまたこの黒いローブの女性が魔法で最強の人とほぼ同じくらいの強さというのを知っているので、自分とは違うと事実を言った。
「まぁ、頑張って」
事実を言われた黒いローブの女性は事実だったので、激を入れることしかできなかった。
「何その適当な感じ」
白いローブの女性は黒いローブの女性に分かりやすいように呆れた。
「帰ったら、今回の勇者と異世界人でも見に行こうかな」
黒いローブの女性はいきなり、話題になっている話に切り替えた。黒いローブの女性は勇者に関わるかもしれないとワクワクしながら言った。
「確かに、噂によると今年は大規模な異世界転移と聞くからな。強い子がいるか見たいな」
白いローブの女性も気になっていたらしく、黒いローブの女性の急な話題転換にもかかわらず文句を言わずに、どんな人が来るのか想像していた。
二人は小屋から出ると、一瞬で鼻に付く自分についている血とは違う嫌な血の臭いがした。目の前には血がベッタリと付いた木があり、地面にもそこかしこに飛び散っている血の跡があった。
「えっ!?」
「これはいったいどういうことだ?」
二人はいつもとは違う森の光景を見て驚きつつも、すぐに戦闘が出来るように身を引き締めて調査を始めた。
○荒木視点
荒木はのんびりと血の森を歩いて行くと一瞬にして、二つの気配が現れたことに気付いた。
「瞬間移動か」
荒木は気配を感じたと同時にすぐさま自分の気配を消して、木の陰に隠れた。
どうする? まだこちらには気づかれていないみたいだが、相手の力が分からない。それに、俺が気での瞬間移動を会得するのにかなりの時間が掛かったから、気の瞬間移動の場合それ相応の実力がある可能性が高そうだ。俺の知っている気、以外のそういった技はだいたい、先天性とか才能とかが多かったと記憶しているが、分からないな。真面目に戦うならば迂闊に手を出さずに相手から気づかれない位置まで離れて、様子を伺うのだろうけど、まどろっこしいからなそのまま戦闘に持ち込むか。
荒木は血の海から音もなく出た。荒木は木の上に赤い血の付いたままの姿で登り、気配のする方向に気付かれないように、気配を消しながら静かに近付いて行った。そして、木の後ろから二人の姿を視界に捉えた。
まさか人だったとは。今日は特に悪いことしていなければ、強くない限り無闇に人を殺さない主義だからな。まぁ、二人いるし警戒している時の動きもよさそうだから模擬戦の相手でしてもらうか。
荒木が出ようとしたとき、なぜか隠れていたはずの荒木の居場所を黒い服の人に見破られていた。
「誰?」
見つかったか。あの黒い服の人は急に俺に気付いたみたいだから。たぶん、何かしらの探知の技を使っているのだろう。一瞬で俺の位置を把握したところから、魔法とかだろうな。この世界では無防備の状態で生活するのは止めた方がよさそうだ。
黒いローブの女性が荒木に向かって話しかけた少し後、木の影に隠れていると黒いローブの女性から、空気が揺らぐのが見えると荒木のいた場所の木が丸く、くり抜かれた。荒木は自分が血だらけの姿だということを忘れて、そのまま二人の前に降り立った。
「何か用ですか?」
荒木は血まみれの姿のまま二人の前に降りると、丁寧に答えた。
「お前がこれをやったのか」
白いローブの女性はその黒いローブを着ている女性の前に荒木が降り立つと全身血だらけの姿を見て、被害者なのか。加害者なのかを知るために荒木に聞いてきた。
「そうですけど、何か?」
荒木は何も悪びれずにただ当然の出来事のように自然と答えた。しかし、二人は警戒を強めて戦闘に入ろうとしていた。
隠す必要はないからな。それに、同族には手を出していないから怒られることでもないような気がするけど、たぶん答えを間違えたらしいが、この際細かいことは気にしなくていいか。
「私が相手をする。回復お願い」
「わかった。マジックキュア」
白色のローブの女性は荒木が何か悪いことをしているのではないかと勘違いしているのか。左腰に差していた剣を抜き放ち正面に構えて戦闘態勢に入った。戦闘態勢に入ると、黒色のローブの女性が白色のローブの女性の少し減っていた魔力を回復させていた。
この女性二人は何か勘違いしているようだけど、いきなり本気を出してもらえそうだし、そのまま勘違いしてもらって構わないか。
荒木は適当に構えて二人が来るのを待ったがどうやら、白色のローブの女性だけが戦うようで、黒色のローブの女性は一歩も前に出ようとはしていなかった。
あの白色のローブの女性だけだと味気がないな。辛くなってもいいから黒色のローブの女性も一緒に戦わせたいな。俺から仕掛けるか。確かこうやるんだったな。
「ファイヤーボール」
荒木は魔法を使えないが気でも魔法と同じことが出来るので、前の高久との戦いで見たファイヤーボールを真似してみた。黒色のローブの女性に無数の火の球が襲い掛かった。
「シールド」
黒色のローブの女性は自分の目の前に透明なシールドを発生させて無数のファイヤーボールを余裕の表情で防いだ。
なるほど、あの程度の攻撃では効かないか。しかし、もう他の魔法は見たこともないから知らないから物理で行くしかないか。
荒木は黒いローブの女性に向かって接近して戦おうとしたが、白いローブの女性が荒木の行く手を塞いだ。
荒木は仕方なく白いローブの女性が持っている剣を右手の人差し指と中指の二本の指で掴み、そのまま剣を下方向に少し押して、体制を崩してから斜め上方向に一瞬で力を入れ、白いローブの女性をその二本の指だけで持ち上げた。
「何!?」
白い女性は剣に掛けられている圧倒的な力と、自分がいともたやすく指だけで上に持ち上げられている現状に驚いていた。
「剣を離せばいいのに」
荒木は単純に白いローブの女性に助言を呟きつつ、そのまま上に吹き飛ばした。
荒木は左足のつま先を地面に突き入れて黒いローブの女性を狙いつつ、足を頭上まで上げて上にいる白いローブの女性にも視界を奪おうと土を飛ばしながら巻き上げた。黒いローブの女性に向かった砂は黒いローブの女性に到達する前に、なぜか途中で止まりその場に落ちた。
さっきから、明らかに見えない何かを使っているが、風切り音がするからまだ確定はできない。が、風の類の可能性だろう。俺が知らない力の可能性ではなさそうだな。
一歩空中にいる白いローブの女性は砂を剣で薙ぎ払った。そして、黒いローブの女性のように常に見やすい状態ではなく、砂を剣で払ったため一瞬白いローブの女性に死角できた。荒木はその隙を見逃さずに砂が払い終わった時には白いローブの女性の後ろにいた。
「ジリアン後ろ」
黒いローブの女性は白いローブの女性の名前を言い荒木が後ろにいることを伝えた。ジリアンは黒いローブの女性から、注意されるとすぐに空中で振り向き腕を目の目で交差させて防御の体制を取った。
「ジリアンっていうんだ」
荒木は名前を確認しつつ、防御の体制に入っているジリアンを黒いローブの女性に向かってサッカーボールの要領で蹴り飛ばした。
「よっと」
黒いローブの女性はジリアンを受け止めた際の隙を作りたくはなかったため、ジリアンをすぐに受け止めることを諦めて、後ろに引いて躱し、上に跳んでいるこちらの様子を伺う体制に入った。
「げふっ」
黒いローブの女性に受け止めてもらえなかったジリアンはそのまま地面に叩きつけられた。
いい判断だ。でも、これまでは読めていないようだな。
荒木は黒いローブの女性が上にいる自分を見ようとしていたので、ジリアンを盾に黒いローブの視界から消えた、ジリアンが地面に叩きつけられていた頃には黒いローブの女性の目の前まで間合いを詰めていた。
「私が接近戦で弱いと思ったのかい?」
黒いローブの女性は上を見たがすでに荒木は目の前に来ているのをほんの僅かに目の端で捉えていた。黒いローブの女性は荒木を言葉で挑発しつつ、すぐに後退すると両手の袖から自分を守る形で4本の鎖を荒木と自分との間に出した。
これがこの黒い女性の武器か。同格かそれ以上の相手の場合は武器を出されたら一歩引くところなんだけど。そんなに実力もなさそうだし、俺と武器の相性が悪いからこのまま攻撃するか。
荒木は目の前にある鎖ごと黒いローブの女性を殴ったが、鎖の後ろにいた黒いローブの女性は上手く後ろに引いて自分への直接の攻撃を防いだ。
いい動きだな。
「人は意外とやるね」
荒木は先程のゴブリンなどの獣たちとの戦いと異世界人の力の差を見比べて、地球とは違うんだなと感心し、二人を褒めた。
荒木が「人」と言ったその前に何もいれず口に出して褒めてしまったことで二人に自分が人ではないと誤解されてしまった。そのため、荒木のその悪魔とも思われるその一言を聞いた二人は身を引き締めた。
黒いローブの女性はジリアンが立ち上がる時間を作るため鎖を何かしらの力によって操り荒木を攻撃し始めた。
荒木は黒いローブの武器の鎖の動きを一切見ずに躱した。
「鎖か~」
荒木は残念そうに言った。
鎖は俺の糸と似たような動きだし、俺にとっては使いやすいから動きが読みやすいんだよな。やはり、俺も気で糸を操っているから容易にわかるけど、この感じからすると魔法とかの力を使っているみたいだな。だいたい力を感じ取れるし、避けられるから問題ないか。
荒木は少し覚悟すると、軽く乱れる二本の鎖を素手で掴んだ。
黒いローブの女性は少しも驚かずに、手元から電気を流した。荒木は黒いローブの女性の手元から電気が来るのが見えていた。すぐに鎖から手を放し、その電気を躱すと今立ち上がったばかりのジリアンを蹴った。
ジリアンは荒木の蹴りを剣で受け止めた。ジリアンは相手の力を利用して荒足を切ろうとしていたが、荒木の足は切れないどころか、剣で受け止めたジリアンを吹き飛ばした。ジリアンは吹き飛ばされると背中から木に激突した。
「ぐはっ!」
今の蹴りは致命傷にはなっていたかったが、黒いローブへ攻撃できる隙が出来ていた。荒木は鎖に一切触れずに近づこうとするが、目の前に攻撃が来る予感がしたので、すぐに躱した。荒木の後ろにあるジリアンがぶつかった木が砕け散った。
「あぶな!」
ジリアンは倒れている上に黒いローブの女性の鎖がいきなり来て、驚いていた。
味方がいるのに容赦がないな。そのおかげで、ようやくこの世界の力に目が慣れてきな。これで、見えない力でも見えてくるようになってくるだろう。
荒木の目はこの世界の力である魔法の全てが荒木の気という力によって、例え見えない風だとしても捉えることが出来るようになっていた。
もう少し遊ぶか。
荒木はまだまだ、この世界の戦闘に慣れたかった。黒いローブの女性が少し速度を上げて魔法を発動させる前に荒木は肉薄した。荒木が攻撃を入れようとすると今出ている2本の鎖とはまた別の二本の鎖が黒いローブの女性の両袖から現れ防御した。
この技はもう見たから。
荒木は防御をしているのもお構いなしにそのまま鎖を殴った。殴った衝撃は鎖を伝わり黒いローブの女性の両腕の筋肉組織を少し破壊した。
「? ハイヒール」
黒いローブの女性は原因の分からない謎の腕の痛みに疑問を思ったがすぐに体を魔法で回復させて、痛みを消した。
こいつもまた回復の技が使えるのか。なら腕の1本や2本無くなっても平気なのか。俺も速度は早くないが完全に回復させることが出来る技を持っているから、試してみるか。
荒木は黒いローブの女性の目では負いきれない速度で後ろに回り込み、左手で手刀を放ち黒いローブの女性の左腕を何の躊躇いもなく切り落とした。
「グッ!」
黒いローブの女性は切られた腕の痛みを我慢しつつ、荒木に向かって無数の魔法と鎖を飛ばした。攻撃を飛ばした黒いローブの女性はすぐに後ろに下がり、切られた腕を抑えた。
「レニエラ!」
木に叩きつけられて傷を回復したジリアンは腕を切られた黒いローブの女性を心配になったのか名前を叫んだ。
「ヘイルブレイド」
ジリアンは右手だけで剣を振り、鋭い氷と水の入り混じった魔法の斬撃を飛ばした。
「ミスト」
そして、すぐさま左手を前に出すと魔法により白い煙が出た。その白い煙はこの辺り周辺を濃い霧となって包むと、荒木の視界を遮ったと思っているジリアンはレニエラの元へ駆けつけた。
荒木は難なくジリアンの氷の斬撃を躱し、濃い霧の中を進むジリアンを目で追っていた。
確かに仲間を助けに行くときに目くらましにはいい判断だけど、濃い霧の中でも見えるように鍛えているから、意味ないんだよね。ここは容赦なく攻撃するか。
「レニエラ大丈夫?」
ジリアンはレニエラの傍に駆け付けるとすぐに目の前で盾になるように剣を構えて、ジリアンを守りつつ体の具合を聞いた。
「痛みは一瞬だから大丈夫。エクストラヒール」
ジリアンは痛みを我慢しつつ、回復魔法を唱えて切り落とされた左腕を一瞬で元の状態に戻した。
「さすが、伊達に十二魔使の二番手をやってないな」
「もちろん」
二人がお互いを褒め合い、前を向いた瞬間に荒木の手が鳩尾辺りに現れていた。荒木は二人の鳩尾に向かって両手同時の掌底を放ち二人を吹き飛ばした。
二人はいきなりのことで防御も出来ずにもろに荒木の拳を受け、二人とも仲良く木に叩きつけられた。
やはり、レニエラは腕を回復することができたか。魔法の回復は便利だな。俺にはできない速さだ。単に俺の修行不足かもしれないけど、修行頑張らないとな。
荒木は二人との戦いに若干飽きてきて余裕があったので修行メニューや余計なことを考えながら、戦っていた。
「本気で行くよ」
ジリアンはこのままでは負けてしまうと思いレニエラに向かって、出し惜しみなく本気を出すことを提案した。
「確かに本気を出さなければ負けるね」
レニエラもジリアンに同意すると、レニエラは先程の掌底によって痛めたお腹をジリアンのお腹と同時に回復させて痛みを消した。回復して元気になった二人が立ち上がると、ジリアンは剣を今まで通り正面に構えた。レニエラは新たに両腕から3本の鎖を出した。合計10本の鎖を操り出すと、レニエラの鎖は虹色に光り輝いた。
「ブリザード」
ジリアンは詠唱するとジリアンの全身を氷の嵐が纏い始め、剣にはさらに激しい氷の嵐を纏った。
ようやく本気になったな。レニエラの虹色の輝きをした武器はあまり、見たことがないからじっくりと戦って技を見て見たい。だが、ジリアンの技はよく見たことが有るどうでもいい技だから、先にジリアンを倒すか。
二人が戦闘準備を終え、ジリアンが霧を解いた瞬間ジリアンが一直線で荒木に剣を振り下ろしてきたと同時にジリアンの後ろに隠れながら虹色の鎖が迫ってきた。荒木が剣を左手で軽く掴んで無力化しようと剣に触れた瞬間、氷漬けになった。氷漬けになり、動けなくなった荒木に向かって虹色の鎖で凍っている荒木を貫いた。
荒木は一瞬凍っていたが、すぐに力を入れて体全体を覆っている氷を粉砕した後残像を作り出して、鎖が来たと同時に躱して難を逃れていた。荒木を貫いたように見えた鎖は残像を切り裂き、空を切っていた。
「エクスプロージョン」
荒木を貫いたかに見えた鎖からは手応えがなかったので、レニエラは鎖の先端辺りを爆発させて追撃で致命傷を狙った。
荒木はレニエラの爆発攻撃の爆風を利用して、空に舞い上がった。荒木はそのまま重力に従いジリアンに向かって急降下した。
「アイスピラー」
ジリアンは荒木が来る前に目の前に2mくらいの氷の氷柱を発生させた。荒木が落ちてくる勢いを利用して串刺しにしようとしていた。
荒木は息を吸い込み、ものすごい勢いでその吸い込んだ空気を吐いた。ただそれだけで、ジリアンの目の前にあった2mにもなる氷を吹き飛ばして破壊した。しかし、息を吹いた反動により体が「区の字」になりながら浮きあがった。
「レインボーチェーン」
勝機と思ったレニエラは荒木が浮いている隙をついて操っている10本全ての鎖を使い後ろ以外の全方向から攻めた。
荒木は浮いている空中姿勢で空気を蹴って前方に加速し、レニエラの鎖を一直線に躱してジリアンに迫った。
「ブリザードピラー」
ジリアンは迫ってくる荒木に向かって氷柱が混じった氷の嵐とともに自分もその中に入り、荒木に迫っていた。
荒木はさらに速度を上げて鎖を躱しながら、氷柱と氷の嵐を避けながら、ジリアンの突撃に真正面から相手にすることに決めた。
そして、ジリアンが自分の剣の間合いに荒木が入った瞬間にその場で留まり剣を両手持ちから右手に持ち替えた。ジリアンは左腕を引き右腕をその勢いのまま伸ばし剣で突いてきた。
荒木はジリアンに確実に突きが当たるという錯覚を思わせるほどにギリギリで体を逆時計回りに捻り躱した。
「何!?…しまった!」
ジリアンは剣を確実に当てたと思っていたが、剣に手ごたえがないのを感じるとすぐに罠だということに気付き、焦ったがもう遅かった。
荒木は体を逆時計回りに捻り躱すと同時に手を手刀の形にして、その捻った勢いを利用して手刀を前に突き出して貫手を放った。荒木の突きはジリアンのお腹を貫いた。
「(こいつ…思った以上に強い…)」
荒木はすぐに腹を貫いた手を貫くとジリアンが前傾姿勢になったので、容赦なく鳩尾に左膝蹴りを加えると、ジリアンが少し浮かんだ。リアンの意識はなくなり気絶した。ジリアンはそのまま地面に倒れたが荒木によって貫かれた腹部からは血が出ていなかったが、少し肉が焼ける臭いがした。
よし気を使って肉を焼く止血もうまく行っているな。一般人にこんなことやると死ぬかもしれないけど、鍛えていて体力も十分にあるし、後でレニエラが回復してくれるから臓器を破壊しても問題ないだろう。問題があれば俺が治せばいい話だからな。
荒木はちょっとした言い訳を考えながらジリアンが倒れてすぐにレニエラとの間合いを詰めた。
「…(ジリアンのコンビネーション技がいともたやすく。心配だが、仕方ない)」
レニエラはジリアンを倒れていたのを心配する気持ちがあったが、すぐに自分に向かってくる荒木に気付いた。戦闘に集中するため、ジリアンへの心配や他の気持ちなどの迷いを即座に捨て、目の前の敵を早く倒すということに気持ちを切り替えた。気持ちを切り替えたレニエラは鎖を操り、荒木に向かって攻撃を続行することにした。しかし、レニエラがいくら鎖や魔法で攻撃を行おうとも荒木に触れることすらままならなかった。
「…(このままでは私まで倒されてしまう。ジリアンを助けるための体力温存とか、考えないで全力を出すしかない)」
レニエラはジリアンのように魔法がなくても戦える能力は持ってはいるが、戦闘の主なものは魔力のため、この後も別の敵との戦いがあるかもしれないと思い今の今まで魔力を温存していた。しかし、目の前の敵は魔力を温存していられるほどやさしくない相手のため、先のことを考えないように温存することを諦めた。
レニエラは迫ってくる荒木に対し鎖の攻撃を止めた。攻撃を止めると荒木の周囲を取り囲むように鎖を動かた。
なるほど。まぁ、いいだろう。
荒木はその鎖の包囲網から抜け出さずにただ単に面白いというと挑戦的な表情を浮かべて、レニエラの行動をただ黙って見ていた。そして、レニエラは鎖により進路退路ともに塞ぎ、その場に荒木を留めた。
「裁きを下せ! オールザソニックレイン」
レニエラは荒木の頭上に魔法を操り虹色の雲を発生させた。魔法によって作り出された雲から虹の雨が突如として荒木に降り注いだ。
ほぅ、やるね。この虹色の雨にはどういう効果があるのか分からないな。まずはこの雨を普通に躱して、様子見でもするか。
荒木は降ってくる虹色の雨を見ながら、雨の一粒、一粒を躱していった。荒木は雨に躱すのが慣れると虹色の雨が地面に着く瞬間を見た。虹色の雨が当たった地面には虹色の水はたまらず小さい穴が開いていた。荒木はレニエラに気付かれないようにこっそりと、そこに気で作り出した糸を入れて長さを測定してみると数百メートルまで穴が開いていた。
土にそれほどの穴を開けるとはかなりの威力だな。この地面が岩や鉄だったとしても、軽く貫ける威力だ。まぁ、俺の体なら痛みはあると思うが、貫くほどの威力は出そうにないから出血の心配はない。つまり、あまり警戒しなくてもよさそう。
「天へと降り注げ! レインボーライジング!(これでどうだ!)」
「試してみるか」
荒木はレニエラの思い通りに動いていることと、下の方から来る何かの攻撃の威力を少し喜んだ。荒木は降り注ぐ虹の雨が脅威もなく興味を失ったので避けるのを止めた。
避けるのを止めると同時に荒木は自分の体を常に包んでいた気の防御まで解き、ほぼ生身の状態になった。無防備の状態にもかかわらず威力のある虹色の雨は荒木の生身の体に損傷を与えることはできず肉体によって弾かれて行った。荒木が攻撃を受け続けていると地面の土が光で見えなくなった。その瞬間に荒木は地面に向かって両腕を前に軽く組み防御の体制をとった。そして、荒木は虹色の光に包まれレニエラの攻撃を生身で受けた。
「(やったか?)」
虹色の柱が消えるとその場にはレニエラの攻撃を受けm服がボロボロになっている荒木が立っていた。しかし、レニエラが見る限り、荒木の肉体には損傷を受けている形跡は見受けられなかった。
「(私の今使える魔法の中で最高の威力を誇る魔法を食らって、服が傷つく程度で無傷か。強い)」
レニエラは自分の今放てる最高の一撃を無傷防がれたのを驚いたが、自分の最高の技が効かなかった経験は多々あるので、少しの動揺で済みすぐに気持ちを切り替えて荒木と対峙した。
「ふー」
荒木は体に付いた埃を払いつつ一息ついた。
確かに下に何かあるとは思っていたが…まさか。あんな感じの技だとは思わなかった。それに、結構いい威力だ。転生直後の気の防御なしの肉体なら腕の皮が切れていた可能性があったが、今は体への損傷は皆無だな。転生して肉体が初期状態になったとはいえ順調に転生前よりも育ってきている。
荒木はこの肉体に転生して初めて、明確な敵対意志を持っているものから、自分にはっきりとした痛みを感じとることが出来たことに満足していた。そして、今自分がどれくらいの強さなのかを明確に確認した。
それにしても、あの下からの攻撃。俺には少しばかりの痛みを与えるのに地面は無傷か。地面をすり抜けられるのか? それとも、対象にだけに当たる攻撃だったのか。まぁ、どちらにしても俺に痛みを与えられることは変わらないが、耐えられる程度の痛みだからそう深く考えなくても問題はないな。
荒木は自分の身を気にしながらも鎖に囲まれている服が汚れている以外先程と変わらない状況で、レニエラが次にどんな面白い攻撃をしてくるのか楽しくなり、考えながら待っていた。
「(まさか…未熟な勇者を狙った魔王とかその類か? しかし、魔王でも少ししか損傷を与えることはできないが無傷はありえない。今回の転移の人数から考えて過去最強に強い魔王かもしれないな。別に魔王とは関係ない別の何かの可能性もあるが。どちらにしても、先程の口ぶりから人間に好意を抱いている様子はない。敵になる可能性が高い以上、私の命に代えてもここでアイツを倒さないまでも、深手を負わせてマドラスフィ大帝国にいる勇者や異世界人たちの成長の時間稼ぎをするか)」
レニエラは覚悟を決め体中に残っている全ての魔力を振り絞り、体全体を魔力で覆った。さらにその魔力を心臓付近に凝縮して高濃度の魔力を発生させると鎖に囲まれ捉えている荒木に迫った。
荒木はレニエラの雰囲気が明らかに変わったのを感じ取った。荒木はその雰囲気からレニエラが大切なものを掛けて戦おうとしているのを悟った。
あれは命を捨てる覚悟をした目だな。その命を懸けて使う技を見てみたいのは山々だが、今日は同じ人間にその技は使って欲しくはないな。レニエラが死ぬ前に眠ってもらおうか。
「それは駄目」
荒木は自分を囲んでいる鎖の隙間を力任せにこじ開けて瞬時に抜け出した。レニエラに近づき同族相手に命を捨てることに注意を言いながら鳩尾を右アッパーで殴った。レニエラは殴られるとすぐに意識を手放し、そのまま地面に吸い込まれて行った。
このレニエラはジリアンよりは打撃に弱いな。あの戦いから見て遠距離タイプなのだろうタッグとしてはいい組み合わせだったな。
「早くジリアンを治さないと」
荒木はレニエラがしっかりと地面に倒れる前に気絶していたのは、ジリアンの近くに寄って行った。荒木はジリアンの傍まで来ると腰を下ろし、お腹に空いている穴に気を纏っている手を当てた。ジリアンのお腹に気を纏った手を当てるとジリアンの肉がゆっくりと再生していった。そして荒木は立ち上がると綺麗に塞がっていった。
「まぁ、これで命に別状はないだろう。それに、ここ一帯のモンスターは殲滅させたからしばらく襲われる心配もないし、ここに放置しても問題はなさそうだな」
荒木はジリアンとレニエラをそのまま地面から、綺麗な場所などに一切動かさずに放置してその場を後にした。そして、荒木は自分の進みたい方向に適当に歩き始めた。
「はぁー」
この世界の戦い方の参考になったが、やはり、あの二人は弱かったな。まぁ、俺を転生させた妖怪以上の相手はそう簡単には現れないか。それにしても、いい戦いをしたのは100年前か。そろそろ強い敵と戦いたいな。…よし。しばらくして、いい相手がでなかったら、他人に迷惑が掛かるかもしれないが別の方法を使うか。
荒木は歩きながら今後の方針を決めた。