第六十二話 山狩り採中
荒木たちは移動して、次の罠に向かう前に山菜の採集をしていた。ゴーバが猪を持ちながら、しゃがみ込み草に体を近づけ、バンシに同じ山菜も含め何度か確認させながら採集をしていた。
才能がない素人では仕方ないのだろう。
荒木はバンシに山菜を見分ける才能がないと思った。山菜は才能がない素人では見分けが付けづらい。才能がある人なら一度みてしまえば見分けられる人もいるが先程から何度もゴーバに教えられているための才能がないと判断できた。
地道な努力が必要になるな。
才能がなくとも山菜を正確に見分けられることが可能だった。その方法は何度も観察して山菜ごとの特徴を記憶する地道な努力が必要な方法だった。この方法の場合毎日の鍛錬が欠かせない。覚える方も大変だが、情報伝達手段が乏しそうな村では知っている人が付き添って教える方法が一般的で、教える方もかなり大変だった。それでも、人口が少ない村ではその才能を持っている人がいなく、才能のない素人が多くなることが予想され、狩人になる人数も少なくなるのは必然的だった。人の確保が難しい現状で、狩人がいなければ村の食事が成り立たなくなってしまうため贅沢は言っていられなかった。しかし、地道な訓練で見分けられるようになるため、どうしても人手が少なくなってしまう村では才能に恵まれない人でも、逃げられないように懇切丁寧に教えていくことが得策だった。だから、バンシが正確に見分けられるようになるために定期的にしつこくやっているのだと思われた。ゴーバが教えている行動は消して無駄ではなかった。
そして、荒木には才能があるため、一度ゴーバが説明した山菜を適量採ってあげていた。
「見て覚えたのか?」
ゴーバは最近村に滞在したばかりの、よそ者にしては慣れない山で知らない山菜をやけに正確に採っている荒木を疑問に思っていた。今覚えたのではないかと持っていた。
「もちろんですよ」
「すごいな。バンシとは大違いだ」
ゴーバからしても今の本の少しの間見ただけで、山菜の違いを見分けられるようになるのは相当な才能を持っているのだと理解できた。今教えている覚えの悪いバンシとつい比べてしまっていた。
「それほどでもないですよ」
普通に備わっている能力で、日常的なことで、そこまで反応するほどのことでもないため、荒木からしてみれば自慢するほどのことではなかった。二人には荒木が謙虚な姿勢で答えた。
「まぁ、俺は得意じゃないから」
すぐに山菜を覚えられてしまった荒木と比較されたバンシは苦手を理由に言い訳をした。
「じゃ、何が得意なんだ?」
「そ、それは…か、狩りだったら俺だって、そこそこ…」
バンシはまだ得意なこと見定められていない状況だったが、何とか荒木に勝っている自分な得意そうなことを振り絞った。荒木の対格差から自分の方が力はあるだろうと考え、狩りなら勝っているだろうと思ったからだ。
見習いになったばかりなのかな? 普通なら慣れている森の移動も疲れやすかったし。
比べる悪魔がいないため、分からなかったがまだ見習いでも、最近師事を受けているのだろうと考えられた。
「今狩ったら、大怪我をするぞ」
「まだ、見習いだから仕方ないことですよ」
見習いなのだから、未熟なのは当然だった。
そのための訓練だからな。
荒木は見習いバンシを相当下に見ていた。別にバンシだけではなくゴーバも平等に下に見ていた。だいたい、今までに出会ってきている人達も下に見てきているので、反応は変わっていなかった。
バンシは小さなよそ者に差を見せつけられたと思って妬みのような感情を抱いていた。普通の人なら間違いだったが、荒木に思ったことはどちらの意味にしても、合っていた。
「歩きにくそうですね。俺がフォボアボアを持ちましょうか?」
荒木は猪を持っていて動きにくそうだなと思った。荒木は自分ならばゴーバが持っている猪程度なら苦も無く運べるため、気を利かせて、持つことを提案した。
「いや、客人にそんなことをさせるわけにはいかない。それにこれくらい重くない」
荒木に言われると、ゴーバは不安に思われたことを払拭するため動きに支障をきたすことがなく何も問題ないことに猪を振って余裕であることを示した。気遣う立場の客人に重たい荷物を持たせることにゴーバはいささか気が引けていた。
「小さいのによく言う」
小さいと力もないのが自然の常。バンシは自分でも持てないのにさらに体の小さい荒木が持てるわけがないだろうと自然の成り行きから思っていた。不満も高まっていたバンシは体が小さいが力があることも考えずに荒木に嫌味を言ってきた。
「こら、見かけで判断をするな」
「でも」
荒木は高校生だったが身長が学年での中でも小さかった。さらに、バンシは荒木が悪魔だと思っていた。この村の悪魔しか知らないバンシが見たらなおさら幼い少年に見えていた。
「確かに見習いが見かけで判断することは危険ですね。分かりやすくするために、猪を渡してみてください。良い参考になるでしょう」
「あぁ、分かった」
ゴーバも荒木が戦闘において厄介だとは知っているが、力が強いとは思っていなかった。半信半疑だったが本人が持つということで、嘘は言ってはいないと思い猪を渡した。受け取ると荒木の掌は猪の肉に食い込み荒木はゴーバと同じように片手で軽々しくと猪を持ち上げた。そして、猪を投げたり、振り回したりして二人に見せつけた。
「!?」
小さな体が体の何倍もある猪を持ち上げる姿はバンシにとって驚きであった。バンシは小さな体のどこにそんな力があるのか不思議でたまらなかった。半信半疑だったゴーバも驚いていたが、バンシよりは衝撃を受けずに反応が薄かった。
「ね、持てるでしょ」
力を二人に理解させた荒木は猪をゴーバに返した。
体の小ささだけで、判断してしまう理解力のないバンシに力を見せつけて、誤った考えを正し、今後の参考にさせるため荒木に渡していた。ゴーバはバンシに参考にさせる目的のため、ずっと持ってもらおうとは思っていなかった。客人である荒木に気を使っていたので、ゴーバは何も言わず受け取った。
「ありがとう」
バンシに良い経験を積ませることが出来たので、ゴーバはお礼を言った。
「どういたしまして」
そして、山菜の採集を進めていると、ふと近くに在った緑と青と茶色のストライプ柄のいかにも怪しい草を荒木は見つけた。その見た目は誰から見ても毒であることは明白だった。
面白そうな草だな。それに美味しそうだ。
そんな不気味な草は味覚のおかしい荒木には美味しそうに思えた。さらにパラメに気に入ってもらえそうだった。だから、荒木はその山菜を採集するために手を伸ばした。
「それは毒だ」
荒木が初めて見る草に説明しなかったので、ゴーバが教えた。調べるまでもなく毒草は確定した。
この二人に毒草だったとしても、人間には効かないかもしれない可能性も少しあるな。まぁ、リクシーとパラメは同種だから別にいいか。
同じ種族ではない人間とダークエルフには効かない毒の可能性も少なからずあったが、パラメとリクシーは二人と似ていたので効くだろうと思われた。二人に効くのなら何も問題はなかった。
パラメが気に入ってくれればいいことだ。パラメなら美味しく食べてくれるだろう。
他の二人にも振舞ってあげるが影響など気にしないで、苦しんで欲しいなと思い浮かべながらパラメへの恩返しをキッチリとやろうと荒木はしっかり思っていた。そんなしっかり者な荒木のパラメへの恩返しはこじつけのような優先だった。
「この毒にはどんな効果が?」
「このオウチャ草の毒は触れると軽い痺れが伝わってくる。食べると体が痺れて一日動けなくなる」
痺れる毒がちょうど良さそうな効果だな。摘もう。
食べると一日痺れると聞いて、可もなく不可もない効果だったので良い山菜だと判断して手を草の根元に差し出した。オウチャ草に触れたが手にしびれを感じることはなかった。そして、ゴーバの話を聞いても毒など関係ないかのように荒木は根っこごとオウチャ草を引っこ抜いた。根っこも気分によっては使うかもしれなかったので、一応根っこも付いたまま糸でいつの間に腰に作った袋に採集した。
「持って帰るのか?」
「あ、いいの、いいの。食べられるから」
「食べるのか!?」
ゴーバがあり得ないという顔で荒木に聞いてきた。ゴーバは他の誰かが毒草を拾うなど想像してすらいなかったということだった。
痺れるなら食事だけでもなく色々と使えるんだが。
痺れ毒ならば魔物にだって効果があったり、狩猟の際にも痺れさせて動きを封じたり、患部に塗れば痛みを痺れさせて鎮痛したりなど活用用途は多そうだった。
そこまでしなくてもいい環境だから毒の活用を思いついていないのか。
村の周りは資源が豊富で簡易な罠だけで村を養えるほどの必要量の肉が手に入り、魔物は近づかず、危険なこともなく、悪魔なので人間よりもさらに丈夫であるため怪我をすることもなく、怪我をしたとしても体力があるので自然治癒で治せることは目に見えていた。使うことすら珍しく、村の人たちは思い至らなかったと荒木は思った。
まあ、毒の便利な利用法は良いとして。そうか。残念なことにパラメの料理は本物だったのか。
しかして、ゴーバ達狩人は毒を持って帰らない反応だった。つまり、パラメが毒物を入手する経路がないということになってしまった。他の人に貰ってくる可能性も低く、他人にそういったものを供給されていないということは自分で作り出すか、自分で拾ってくるしかなかった。以上から、美味しい悪魔料理はパラメの実力の可能性が高いと荒木は思っていた。
あれがパラメの実力か。俺にとっては美味しい料理だから良いんだけどね。
他の人は食べられない料理だった。なので、別に思うだけで、荒木にとって美味しい料理は間違いないので、どうこう言う気はさらさらなかった。他の人が食べたら文字通り天国に昇天するほどの味を引いてしまう可能性のある空き間的料理だが。
「毒を普通の食事のように食べられる体質なんですよ」
「そうか」
荒木が食べられると言うので信用して、ゴーバ達は腰に付けている袋に山菜を採集しながら歩き始めた。
山菜を積みながらどこかへと向かっていると続いて、緑と赤と紫色の入り混じったカラフルなキノコが在った。
珍しいキノコで危なさそうだったので、そのまま採集することにしたが、その前にゴーバに効能を聞くことにした。
「これはどんなキノコですか?」
「それはシガムキノコと言って、触っても特に何もなく無害だが、食べる数時間おきに低体温症と高熱を繰り返して、稀に死に至る猛毒のキノコだ」
それならパラメも気に入りそうだな。
それほどの猛毒であればパラメも気に入ってくれるだろうと荒木は短絡的に考え、キノコを採集しようとしていた。
ちょっと待てよ。気に入りそうだが、猛毒か。パラメが大丈夫だとは限らないな。まぁ、死に至るのは稀だから大丈夫だろう。
もしかしたら、強い毒の場合ただでは済まないのでは? という不安が荒木には有った。しかし、稀なので、症状が現れたとしても軽症の可能性のほうが高く、美味しく食べてくれるだろうと楽観視した。
それに、万一があっても何とかなるだろう。
猛毒と言われても何とかなるので、自分で何ともするというが。荒木は自身があるためパラメに症状が現れることが予想されても気にしないことにしていた。そんなパラメのことを考えていた荒木だったが、この時リクシーとレジーナが被害に会うことをあまり考えていなかった。
「ちょうど良い効能ですね。ぜひ食べてみたいからこれも持って帰りますね」
考えた結果、問題なく持って帰ることに決めた荒木はゴーバの話を聞いても問答無用で採集していた。
「好きに取ると良い」
バンシは毒キノコを採集している荒木の姿を呆れているが、ゴーバは荒木の毒キノコを採集する姿を見ても、もはや何も言うことはなかった。




