第五十九話 世界樹の言い伝えは長い
窓から差し込む日差しはまだ明るい頃、レジーナは荒木と口なんて利きたくないため、荒木とレジーナが無言で席に座って料理を待っていた。そんな時、コンコンっと玄関のドアを叩く音が部屋に響いた。どうやら誰かがパラメ家を訪ねに来たようだった。
「来たか」
パラメが料理を作っている間に玄関がダンにノックされたので、荒木は世界樹の話は聞きたかったので、すぐに開けに行った。
「ダンです。先程約束した世界樹について話に来ました」
夕方に来る予定だったが、まだ外は明るく早めの到着だった。
「来ましたか。中に入って来てください」
世界樹の情報が気になっている荒木はダンを室内へと手早に誘導する。
「ささやかな村で作った保存食です良かったら、旅の途中にでも食べてください」
「どうもありがとうございます。では、席に座って早速世界樹の話をよろしくお願いします」
「もちろんです」
ダンの手荷物も早々に受け取りダンを席へと誘導して、対面へと座らせた。パラメが台所から現れ新しく来たダンに飲み水を持ってきていた。
「お姉ちゃん。重要そうな話だから私も聞く」
パラメの後を付いてきたリクシーはダンが来るとパラメの料理を手伝うのを辞めて席に着いた。
これからする話は荒木が興味を持っている話で自分の今後を左右する重要な話になるだろうとリクシーは思っていた。そのため、聞き逃して大変なことにならないよう努力をしようと考え、リクシーは姉よりも何よりも強敵に反撃し、どうやり過ごすかの作戦を立てるため情報収集を優先していた。
リクシーは過剰になっているからか、見え見えだな。
荒木にはリクシーが何を考えているか把握できていた。荒木でなくとも大抵の人なら気づけるくらいの分かりやすさがリクシーの態度に現れていた。
そんな、リクシーを見下している荒木はすでに、世界樹の話を聞く体制になって集中していた。荒木の中ではすでにリクシーをどうするかの方針が決まっているため、リクシーが何をしようが方針を貫くだけだった。リクシーをいじめるよりも世界樹の話が気になる荒木は現状いてもいなくてもどうでも良くなっているリクシーに話を遮られるのも面倒なため、流行る気持ちを優先して何も言わず、視界に入れることすらなく無視を決め込んだ。
「パラメは料理を作っているのか。食事の邪魔をするのは悪いから手短に話をしましょう」
パラメが水を持ってきて戻る姿を見たダンは台所から現れたパラメが料理を作っていることを知った。
そして、パラメから何かを言われる前に気遣って、食事を先に断った。
村という小さな環境で団結力が強まり、距離が近づいているのだろう。巫女であることも相まって大切にされてご近所付き合いも良くなるだろうからな。
だいたいの生活がダンに知られていることから、村という環境で今まで巫女として大切に村長と協力して育てられたパラメの村生活が少し伺い知れた。さらに信じやすい性格もあって一人では生きるには辛いだろうと荒木は思っていた。
「何からお話しましょうか」
「来る途中世界樹が見えると思っていたんですが、世界樹はどこにあるんですか?」
荒木は真っ先に世界樹の所在地を聞いた。この村の奥に山があるが、世界樹らしい大きいと思われる木は見当たらなかったからだ。荒木は大きな木がそびえ立っている光景を期待して、少し気持ちが落ちていた。出鼻をくじかれた形だ。
「山を越えると窪地になりその中に世界樹が鎮座しています。ですから、世界樹が存在している山を登らなければ姿を見ることは出来ません」
山が邪魔で見えないのか。通常では見つけるのは難しかったということか。
世界樹の名にふさわしくなく、人目に付くような場所に堂々と居座っているような代物ではなかった。
「では、本題に行きましょう。この村では世界樹はどういったものでどう言い伝えられていますか?」
「世界樹とは世界を作り変えると言われている木で先祖代々この地に口伝され、私たちは世界樹と呼んでいます」
口伝か。どれくらいの期間口伝しているのか分からないが。上手く伝わっているか不安だな。でも、貴重な手がかりみたいなものだから細かいことは気にしなくてもいいか。
口伝のため正確性に欠けるが、こういった伝承は最初からどんな媒体で言い伝えられようともだいたい怪しいため、さらに正確性が欠けたとしても、荒木は気にしなかった。
荒木がさらに詳しい情報を聞く姿勢だったので、ダンは話を続ける。
「世界樹は遥か昔、この場所にすでに一本の木として存在していました。最初は普通の木と思われていましたが、そこにあるときから周りよりも背も高く、幹も太くその周りとは明らかに違う大きさから、先祖たちは守り神として奉りました。そして、大木の近くで生活を始めました。それから大木のたもとでの信仰から月日がたち、木もさらに成長したある日、その大木が世界樹ではないかと呼ばれ始めました。世界樹という呼び名はその時から定着したと言われています」
「呼び名も与えられ崇められてきた世界樹でしたが、しばらくたって状況が少しずつ変化していきました。そして、世界樹のたもとで生活していた村の近辺で少しずつ魔物を見かけるようになりました。最初は自然的な要因で魔物は増えてきていると考え、村で生活していた狩人たちが魔物を狩り始めました。緩やかに増え続ける魔物たちに村人は違和感を覚えることもなく、世界樹のたもとでの暮らしを続けていました。しかし、日々強くなっていく魔物に村人たちも次第に手を焼き始めました。それでも、世界樹を信仰している村人たちは自然が成すものだろうと考えました。疑うこともせず世界樹のたもとでしぶとく生き残っていましたが、ある日3体の大型の強力な魔物が現れ、村は打撃を受けました。抵抗できなくなった村人たちは世界樹の麓の村を放棄しました」
「ようやく世界樹から離れましたが、世界樹への信仰心が根強く遠く離れるという考えは存在せず、村人たちは強大な力を持つ魔物3匹に襲われないギリギリのところに魔物の脅威がある中、再び住居を構え生活し始めました。しかし、信仰のため世界樹を訪れるようと村人たちは中心に近づこうとしましたが、世界樹の中心に近づけば近づくほど世界樹を守るかのように魔物が居座り次第に強くなっていくように魔物たちが生息していました。そのため、世界樹に近づくことを断念せざるを得ませんでした。それから、世界樹に近づくことは無くなりました」
「さらに、その場所でも日に日に魔物の強さも増していき、また離れないといけなくなりました。世界樹からだんだんと遠ざかっていく生活を繰り返した村人たちですが、世界樹の影響とは考えず、世界樹が立派すぎて魔物たちも世界樹に集まっているのだろうと考えていました。そのため、村の人たちは魔物を狩り、それでもその木に守られていると思い込み徐々に離れながらの生活を耐えていました。そして、世界樹に近づけないながらも、祠を作り信仰し続けました。しかし、世界樹の祠を信仰し続けていたある日、突如として世界樹が動き始めました。動いた世界樹は轟音と共にゆっくりと周囲の地面をえぐり取りながら全てを混ぜ始めました。村人たちも轟音と絶え間なく聞こえてくる魔物たちの悲鳴と共に村を襲うでもなく過ぎ去って逃げていく様から何かが起きているのに気づき、避難を始めました」
「そして、当時存在していた山から村人は見下ろすとそこには世界樹を中心に広がる根が広がっているさまを確認することが出来ました。それでもまだ信仰心の衰えがなく、信仰心が足りなかったと思っていました。しかし、信仰も虚しく村が飲み込まれ、消滅していく様を眺めていたそうです。哀れとしか言いようがありません。そして、一部のおかしいと思った信仰に支配されていないまともな村人が被害を他の地域の人に報告して、脅威を伝えました。その情報は、瞬く間に広がり、対処が練られることになりました」
「他の地域に世界樹の情報がし知れると対処をするため、人々が世界樹の討伐を行うことになりました。世界樹の根が広がる中あらゆる人が根を伐採したり、火を使って燃やしたり、薬をまいたりしましたが、どれも効果はなく世界樹が損傷したとしてもたちまち治ってしまい多少の攻撃で問題を解決することが出来ないという絶望的なことが分かり討伐できませんでした。そして、対策手段のない世界樹は徐々に力を強め、その根で人や魔物などを全ての生物を根こそぎ食らい、魔法や山をも飲み込み、さらには今まで動くことのなかった枝も動き始め、空中にいる生物や、竜騎士や世界最強の生物であるドラゴンすらも飲み、さらにその陣地を広げこの魔大陸の広大な地域にまで進行していきました。そして、各地で脅威になっていく世界樹は大陸全土を崩壊させる可能性にいたった魔族たちは世界樹に手の施しようがありませんでした」
「世界樹が恐ろしいものと認知されどうしようもなくなった窮地に我らの先祖が動き始めました。私たちの先祖は命を捧げる儀式により、その命を犠牲に世界樹を世界樹の根元にある祠と村にある祠と、巫女の持つペンダントの三つに分散して封印しました。そのペンダントは現在世界樹の巫女であるパラメと私たちが守り、万が一にも封印が解かれて世界樹が暴走した場合、巫女がその命を儀式によって捧げ封印することになっています。そして、世界樹が封印されたことにより世界が世界樹に飲み込まれる事態にはなりませんでした。その後、世界樹によってかき混ぜられた土地は新たな山や谷や地形などに全てが変えられ、その場所に植物や魔物などの新たな命が芽吹きました。その名残で世界樹の近くにあるこの村の近辺も一面森の海となりました」
「甚大な被害をもたらした世界樹ですが、世界樹が飲み込んだあとの作り変えられた大地は実りも良く芳醇な大地となりました。そこで芽生えた命は魔物も含めてすくすく育ち今ではこの村の恩恵と脅威になっていますね。今では世界樹は世界をリセットして、より豊かにある力があると言い伝えられています。世界樹にとってみれば現在いる生きとし生けるものすべてが世界の敵でしかなかったということです。何をきっかけに世界樹が始動したかは今でも不明ですが、もし世界樹の封印が解かれたら、再び同じことになると言われており、封印されている今でも世界の脅威であることは変わりませんね。以上が遥か昔から村に伝わる伝承になります」
中には良い情報もあるが、だいたいどうでも良い昔話が多い印象だ。
荒木は世界樹の性質以外はどうでも良く、世界樹にまつわる関係のない昔話はほとんど聞き流していた。そして、荒木は世界樹に関して考え始めた。
世界を作り変える世界樹。名前に劣らない力みたいだな。根や枝を伸ばして範囲を拡大させていくが、速度が遅いから逃げる分には問題なさそうだ。燃やしても対処が出来ないから再生能力が高そうだ。
再生能力が高くどうにも出来ないだけで、動きが遅いため危険性は低いと見ていた。当時の人たちは土地が奪われただけで人的被害は少ないだろうと予測した。
今は分からないが昔住んでいた住人たちは世界樹を倒すための火力はなかったということか。それで最後に禁忌を犯して、そのうちの一つで命を使って封印したということかな?
追い詰められて、他の似たような禁忌を犯した末に命を代償にしたのだと考えられた。何度も攻撃を食らっているのに禁忌を一つ食らった程度で封印に辿り着くとは思えなかったため、何回も試した末にようやく封印に成功したのだと考えていた。
もし対処できるならば、攻撃の性質は俺の糸術と似ているようなところもあるから、糸術でゴリ押しが面白そうだ。
荒木は封印されて今のところ安全になっている世界樹に、もし復活した場合を考えてどう対処するのか考えていた。正面から受けて立つのが良さそうだと予想した。
でも、総合的に考えて俺の驚異になりそうにないな。残念。まぁ、暇つぶし程度にはなるだろう。
目標とは程遠かったが荒木にとって良い寄り道になりそうだった。
「名の通りの世界樹ということですね。話してくれてありがとうございました」
考えをまとめ終えた荒木は世界樹の話をしてくれたダンにお礼の言葉を述べた。
「迷惑な話ですがね」
「正常な世界にするかせずに今を生きるか。捉え方次第ですよ。もし、世界樹に飲み込まれていたら世界樹が正しい世界に正しくなりますからね」
世界樹がもし勢力を止めどなく伸ばし続けていれば、世界は新しいものに作り変えられ世界樹の求める正しい世界へと変貌を遂げていたことに変わりはなかった。そうなっていれば、世界樹は正しいものと言えた。勝てば官軍負ければ賊軍、この世は弱肉強食。そのため、荒木はどちらも正しいと考えていた。
「そうですね」
ダンも飲み込まれればそうなると納得だった。
他に聞くこと…そうだな。世界樹周辺にいる魔物の情報も聞かないと。
「で、この周辺。魔物は何が生息しているんですか?」
「村の狩人が魔物を間引くために狩っていますが、数も少なくさらに近辺は魔物除けなどで魔物が寄り付かないようになっていますから、周辺に魔物はほとんどいませんよ」
荒木がこの村が大丈夫なのかどうか聞いたと思い、ダンはこの村の安全性がしっかりしていることを告げた。言い伝えを知り、世界樹の近くに生活している以上、魔物が手強くなっていることは承知の事実なので、魔物に対する対策は十分に取られていた。
「では、世界樹周辺にいる魔物はわかりますか?」
「近場なら、ジクシャとモルモルンといった魔物が出てきますが、しかし、魔物が強すぎて中心地には近づくことが出来ないので何がいるか不明ですね。伝承で出てくる強大な魔物もいるかどうかも分かりません」
聞いたことのない魔物だな。
流石に魔大陸の魔物に関して知識を持っていなかったため、ダンが言った魔物は知らなかった。
村の結界に弾かれるような魔物だから知らない方が面白そうか。
聞いた限り強そうではなかったので、魔物は知らないままで良いと判断した。
「そうですか。良い魔物そうですね」
魔物に興味が無くなっていた荒木は魔物を狩る冒険者だと思わせるため、魔物の素材が目当てのように装った。
「素材を集めるためにこの村を訪れたのですか?」
「はい。高く売れそうですからね」
「売れると思いますが、軍から巫女を救ってくれたあなた様は強いと思われますが十分注意なさってください」
どうやら魔物の高く売れるようだった。この周辺で魔物を狩ることは村の意向で止められるような行動ではないようだった。それも、巫女を救ったことにより荒木は村の長たるダンから信用されているようだった。
「分かりました。無理をしない範囲で慎重に狩って行きたいと思います」
これで堂々と世界樹を見に行けるな。
荒木はダンから周辺を魔物狩りのために散策しても、体を心配されただけで何も文句は言われなかったので、堂々と探索出来て気が楽だった。注意されたとしても強引にでもどうにかして、荒木は世界樹を見に行くつもりだった。
「ダンさんご飯食べていきますか?」
話がある程度まとまったと思ったのかパラメが横からご飯を食べるかどうか聞いてきた。荒木は聞きたいことも聞けたので、そのままパラメに会話を譲った。
「いや、長居も良くない。負担もかけるわけにはいかんからな。帰らせてもらうか」
「そうですか? また今度食べてくださいね」
「あぁ、また今度来ることのしよう。荒木様私は家に帰りますので、何か用があれば来てください。その時はおもてなしします。村での滞在ゆっくりと過ごしてください」
ダンは話を終えるとパラメを断り、荒木に村でくつろぐよう言い残して足早に去って行った。
パラメが食事の準備に戻るとリクシーもその後を追うように戻っていった。
荒木とレジーナはパラメの料理を待ち遠しそうに待った。




