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第五十八話 パラメの好感度

 荒木とパラメが協力して意気投合していると、リクシーは荒木のあることが気になっていた。


「それにしても、さっきから何でそんな感じなのよ。好きなの?」


 リクシーが聞きたいのは姉にやけに優しく接している荒木の態度だった。姉に多少の気遣いが感じられるところに疑問を感じているようだった。そして、リクシーはそこから他の奴隷と今までのことを推察した結果姉に好意を抱いているのではというとんでもない発想に辿り着いていた。


「リクシーのお姉さんだからな。それにリクシーと比べてしっかり者だ。親切にしないわけないだろう」


「私がしっかりしてないとでも言いたいわけ?!」


 最初の目的そっちのけでリクシーは感情に流されて怒った。


 そういうところだよね。


 荒木は間髪入れず自分より劣っている者からの侮辱を信じられないくらい早い速度で、察知して頭に血がのぼっている姿を見た。


「うん。そうだよ」


「クゥー?!」


 姉からはその表情は見て取れないが、リクシーの顔からは荒木に対する悔しさがにじみ出ていた。


「はっ!? それで何を企んでいるのよ?」


 リクシーは怒りが頂点に達する前に偶然誘導されていることに気づいた。脱線した荒木の策略を暴くために再度同じ質問を繰り返した。


「嫌だな。さっきから言っている通り何も企んでないよ」


「荒木さんは良い人ですからそんなこと企むことなんてしませんよ。リクシーは機嫌が悪いからって八つ当たりをしない。一旦落ち着きましょう」


 パラメから見れば荒木の方が信用高いようで、妹であるリクシーを差し置いて今日知り合った男を信じ切っていた。さらに、迷惑をかけているリクシーを叱って追い打ちをかけた。


「興奮してないわよ!」


 興奮を指摘されたリクシーは咄嗟に反応して否定したが、姉の指摘に感情が現れ興奮していた。寧ろ興奮冷めやらなくなっていた。荒木からは滑稽に思えて仕方なく、少し微笑みそうになっていた。


「お姉ちゃん荒木を信用しちゃだめ。まだ会ったばっかりなのに信用し過ぎよ。もうちょっと考えて!」


 興奮していたリクシーは今しがたあったばかりの荒木を信用し、肩入れしてパラメに特別扱いを受けているその差に怒りつつ、姉に甘えるようにむくれていた。


「そうだな。そのゴミのような人間を信用しすぎるのはダメだ」


「ひどい言われようだな」


 パラメは初対面の人はあまり、疑わないようだな。それに、パラメがそれを体感したことがないから無意味だな。


 レジーナの言った通り自分を善良な人間だと思ったことは荒木自身全く、認めていたが、二人が何を言っても、一緒に過ごしたこともないパラメを今、説得することは難しいと思われた。


「どの口が?!」


 レジーナは荒木が今までに行ってきた所業の数々を忘れているかのような口ぶりに憤りを覚えていた。肉体派嘘を付いておらず、レジーナの体にはしっかりとスパルタ訓練による成長と傷跡が肉体と脳に刻み込まれていた。

 リクシーもウンウンと頷いて同意していた。


「そんなことないですよ。こんなにリクシーに親身になって一緒に罰を与えて上げてくれる人に悪い人は滅多にいませんよ」


 パラメは怒っている対称のリクシーは全くもって放置するが、怒りの対象外であるレジーナにはしっかりと荒木が良い人だという前提で反論していた。そう、まだあって間もないのに荒木に味方して、不思議なことに説得をしてくれていたのだ。


 良い人なのは分かるが、リクシーの姉は初対面の人を信用しすぎだな。俺はそんな人間じゃないが。リクシーの姉は一度考えた思想をあまり曲げることにしない頑固で信じ込みやすいタイプだな。


 荒木もパラメが思っている自身の人物像とかけ離れていると思っていた。そのため、パラメが極度に信じ込みやすい性格でおかしいことは理解していた。しかし、パラメは考えることも曲げず、人の話も聞いていない様子で、荒木にとってもリクシーとレジーナをいじれて継ぐがよかったので、そのままパラメに賛同している。


 巫女として村人たちから祭られて大切にされてきているから良いが、気を付けないと詐欺に会いそうな人だな。一人だと危険な類だ。


 今後のことも考えて、パラメが危うい人間だということを心の中に縫い留めた。


「はぁ」


 考えを曲げることのないパラメの姿に説得を諦めて降参のため息を吐いて落胆していた。精根尽き果てたリクシーは興奮するのを辞めて心拍数を下げて、次第に落ち着いて行った。視野が広がったリクシーは考えもまともになり、そこには冷静さを取り戻したリクシーが座っていた。


「本当にリクシーの姉は大丈夫なのか?」


「そうね。きっと大丈夫よ。こうして今を生きて居られるのだから」


 レジーナに心配されるのも当然だったがリクシーは今までこの性格で生きているのだから、今までの経験から今後も生きていけるだろうと、姉が死ぬことなど夢にも思っていなかった。


「息ぴったり。3人とも仲が良いんですね」


 性格を諦められている当の本人であるパラメは荒木たちの関係を解釈して、微笑まし気に3人の関係性を眺めていた。


 ここは親近感も湧いて距離もさらに縮めるだろうからパラメに便乗しよう。


「見ていてわかりますか。そうなんですよ。俺たち仲良しなんですよ」


 賛同してあげることでパラメへの印象を良くしつつ、リクシーたちをいじれると思い戦略的に同意した。


「何でそう見えるのよ? まったく」


 冷静さを取り戻していたリクシーは興奮せずに荒木を無視して受け流し、パラメに向けて呆れ顔を作る余裕まで出来ていた。今回リクシーはそこまでパラメを詰めることはしなかった。


「どこをどう見たら、仲良しに見えるんだ。本当に大丈夫か?」


「私は大丈夫ですよ」


 失礼なレジーナを気にせずパラメは「分かっていますよ」的な顔でにっこりとほほ笑み、人当たりの良さが滲み出ていた。


 やはり、ここも肯定だ。


「どこをどう見てもパラメは大丈夫だし、至って正常だ」


 荒木は急に態度を大きくして、パラメが正常であることをリクシーとレジーナに訴えた。概ね良い印象を得られると思われた。


「ふふ。荒木さんは雰囲気がたくさん変わって面白い人ですね」


 ダンという村長に横柄な態度を取ったり、真剣な話を聞いたりしたと思いきや急に意気投合したり、急転して大きく出たりと感情の起伏が目まぐるしく変わる荒木の姿を見て、パラメには可笑しく映ったようでほほ笑んだ。パラメもだいたい似たようなものだったが。しかし、表情的に好意的と受け止めているようで、荒木を気に入ってくれたようだった。結果的に荒木の思う方向へと進んでいた。

 隣のリクシーと言えば荒木によって姉が笑っている姿を見て面白くなかったのか。リクシーは少し不機嫌そうな表情を顔に出していた。しかし、姉には甘いので若干姉に表情を逸らすように配慮していた。


 狡猾かと思われたリクシーは大好きなお姉ちゃんだけあって感情が激しいな。


「それは良かった」


 荒木は好感触を得られる会話を展開出来て満足のいく結果だった。

 一方レジーナはあまり興味がないようだった。レジーナにしてみれば人間の荒木と意気投合しているパラメに興味をあまり惹かれなかった。話が通じないところもあるが、人間ではないので、大目に見て嫌いにまでは思っていなかった。


 パラメと意気投合していると、パラメが切り出した。


「そうだ。長旅でしたでしょうから私が疲労を回復できる料理を振舞いましょうか」


「えぇ是非ともお願いしたいですが、二人は訓練中の身で、修行食というものを口にして鍛え中ればならないので、俺だけが頂きましょう」


 修行食である栄養価満天の味なしオートミールを食べさせたほうが効率良いからな。普通の料理を食べさせてもメリットがないから申し訳ないが断るしかない。


 パラメの作る普通の料理を出されたところで、普通の栄養価だと思われるので、修行食を食べた方が何十、いや何千倍ほどくらい効率が違うので、二人の体を作るためにも申し訳ない気持ちが横切るが、仕方なく断った。あと二人の嫌がらせも兼ねていた。


「私が作ると言っても普通の料理ですからね。しっかりとした料理があるのでしたら、そちらの方が良いですから、荒木さんの分だけ作りますね」


 確かに修行の邪魔をしては悪いと思ってしまったパラメは荒木の提案を素直に聞き、残念だったが仕方ないと思い人数を減らして作ることにした。


「いや、私はパラメさんの料理も食べたいです」


 味なしに飽きているレジーナは荒木がパラメと良好な関係を築こうとしていることは把握しているので、荒木の思惑を利用して一か八かの作戦に打って出た。その思いが伝わるようになんと思われようともなりふり構わずに口調を変えて礼儀正しく、お願いしていた。そして、レジーナはふと、同じ食事を取っている被害者である同士リクシーが乗ってこないのを不思議に思い見た。


「? ここで食べておかないとこれから先ずっと味なしの修行食になるぞ」


 レジーナにとってここ最近の食事はまずくはないが味も本当になく、しかも同じ料理のため、いくら薄味の好きな種族特性とは言えレジーナでも耐えがたかった。この機会をものにしないと当分の間、味のある料理はまともに口にできないと悟っている食い意地の張ったレジーナは危機感を露わにして、違和感を不思議に思いつつリクシーに言い寄った。実際荒木は修行食以外食べさせるということは例外を除き存在していなかったので、レジーナの危機感は当たっていた。正念場だと思ったレジーナは真剣にならざるを得なかった。

 しかし、同じ考えであろうはずだったもう一人のリクシーは無言で何かを思いつめたような表情をして焦っているようにも思えた。

 二人が修行食を嫌っているしっかりと確認している荒木も当然その違和感に気づいた。


「…」


 どいうことだ? いつもなら俺お手製の特製飯に嫌々文句の一つでも言うというのに。それに反応もはやい。怪しい。怪しすぎる。

 より、嫌がる方向へ。逆を付けということだな。


 良く分からなかったが咄嗟の反応自然の反応だと感じた荒木はその反応と逆の行動を取れば嫌がる確率が高いだろうと思いリクシーとは逆張りした。弄る手を一切緩めるつもりは微塵もなかった。


「すみません。やはり、今日は特別に修行食ではなく、普通の食事にしたいので二人の分も用意してもらいませんか」


「分かりましたが、リクシーだけは修行食で良いと思いますけど」


 パラメはレジーナの修行食に対する反応から、それなりの物だと思い、お仕置き中のリクシーを一人だけのけものにすることを提案した。最初から4人分の料理を作るつもりだったので、調整は効いた。


「それがいいと思うわね」


 パラメのリクシーへの対応は見てきた限り今までのリクシーならパラメに対して、不満の表情一つを見せたはずだが、真逆に何故かリクシーの瞳に希望の光が宿っていた


 もうわかりきったようなものだな。自覚がないのはリクシーの努力か?


 だいたい変な反応になっているのか分かった荒木だったが、それでパラメが自覚していないのは狡猾なリクシーが健在だった頃の話だろうと感慨深げに思った。比べ行動を共にしてからのリクシーにはもうそんな姿を荒木に想像させることは出来ず嘲笑った。


「平気ですよ。パラメさんの美味しい料理からの落差を楽しませたいですから。その分辛くするから安心して」


「何!?」


 リクシーの妙案を見守っていたレジーナは嬉しさが入り混じった声色で驚いていた。それは他の料理を食べられるからだった。しかし、レジーナはまだ不思議に思っている段階だった。つまり、現状荒木たちが何を話しているのか付いていけていなかった。


「何でだぁ!!」


 レジーナとは対照的にリクシーは荒木が考えを変えた予想外な行動にツッコミを入れざるを得なかったが、すぐに冷静になり頭の思考を上げてどうすれば良い方向に物事が運ぶか考えた。


「それ…もそうね(まぁ、いいわ。クク)」


 考えがまとまったリクシーは表情に出さないようにたくらみ事を心の中に留めて置いた。さらに敵を騙すには味方からということだろうか味方のレジーナにはヒントも何も伝えずに企んでいた。

 しかし、慎重に隠したと思っていたリクシーであったが荒木には表情が変わったことは読み取られていた。


「なるほど。でかしたリクシー」


 荒木が隣にいるのにもかかわらず舞い上がっているレジーナは気にせずにリクシーを褒めたたえていた。なぜなら、リクシーの意図とは裏腹にレジーナは不安を臭わせて、荒木を騙す高度な作戦が成功しているのだと勘違いして一人で盛り上がっていた。荒木からしたら可哀想な子でしかなかったが、幸いリクシーは料理に夢中でパラメは3人が仲良くしている姿を可笑しく見ていて、あまり興味は持たれていなかった。


「さぁ、準備をしてきますから、仲良く待っていてくださいね」


 話がまとまったところでパラメは台所へと向かっていた。


「私も手伝う」


 リクシーはウキウキと企み事と共にパラメを手伝いに行った


 荒木とレジーナは特に手伝うこともせず、仲睦まじい姉妹の姿を見守っていた。ただ、何もせず眺めていただけともいう。

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