第五十六話 パラメ家へ行こう!
横暴な魔王軍の兵士の脅威を排除し終わった後、荒木たちは安心した村人悪魔たちから好奇な眼差しを向けられ囲まれていた。
「うぉおおお!」
「やってくれたな」
「すごいぞ! 坊主!!」
「よく魔王軍の兵士を追い返してくれたな」
「偉いぞ! 坊主」
「巫女を救ってくれてありがとう」
村人たちは荒木が操る糸でリクシーの姉を助けた光景を目の当たりにしていた。そのため、糸を操る荒木は村人悪魔たちから感謝の謝辞が送られていた。
「すごいな」
荒木は小さな声でその光景の感想を漏らした。
こんなにカラフルに囲まれたことはない。
カラフルで物珍しかった。
しかし、見た目は子供に見えてしまうのか。
坊主と呼ばれていることに少し引っ掛かりを覚えた。
荒木が村人に感謝されている中、リクシーは姉の体調を見ていた。
「お姉ちゃん怪我はない?」
「大丈夫怪我はしてないよ」
「本当に?」
「本当に大丈夫よ」
リクシーならこれくらい見ればわかるだろうに。
「良かったな。傷がなくて」
荒木はリクシーの姉がいるので余計なことは言わなかった。
「やるじゃない。褒めてあげる」
「あのそちらの方は」
「そいつは荒木で奴隷の私を買った人よ。隣にいるダークエルフはレジーナで私と同じ荒木に買われた奴隷よ」
この場を支配するかの如くリクシーが勝手に荒木とレジーナの紹介をした。
「助けていただきありがとうございました。私はパラメ・トルリア・アスカートです。リクシーの姉です」
パラメはリクシーと違い立ち上がって助けてくれた相手をしっかり敬うかのように、丁寧に挨拶をした。
リクシーと比べてだいぶ友好的だな。
色々と毛嫌いから入っているリクシーとは対照的だった。
「こいつにそんな態度しなくてもいいわよ」
「まぁ、最近リクシーは虚言壁がすごいから気にするな。俺は荒木だ。よろしくな!!」
初対面の他所の姉に対して、荒木はリクシーの姉ということもあり遠慮のない雑な挨拶をした。
「何でそんな態度がでかいのよ」
普通に挨拶することも出来ると知っているリクシーはわざわざ雑に挨拶している姿に腹を立てた。
「いや、リクシーの姉だからかな? かなり容姿も似ているし性格とかも同じじゃないのか?」
荒木が感じ取れる雰囲気は全く違ったが、全体的な容姿が誰から見てもかなり似ていた。荒木は一般的な視点から言った。
「姉妹で同じ性格しているわけがないでしょ! どんな常識よ。それにお姉ちゃんの挨拶からして、それくらい分かるでしょ!!」
リクシーは自ら性格が悪いことを肯定していた。
自分の性格が悪いことは自覚しているんだ。
「リクシーそんなに怒らなくても私は気にしないから」
「ダメだよ! お姉ちゃん! 荒木にはしっかりと早めに言い聞かせておかないと酷いことされるよ」
「まぁまぁ、話は後で聞くから、一旦落ち着きましょうね」
放置されていたダンが倒された衝撃から回復したようで立ち上がり、荒木に近づいていた。
パラメはその村長を察して、ヒートアップするリクシーを落ち着かせた。
「何か用ですか?」
村長に対して礼儀正しく話を伺おうとすると、リクシーが何か言おうとしたが、パラメに遮られた。
「荒木様、巫女を救っていただきありがとうございました。私はこの村の村長ダンと申します。この度は何とお礼を言っていいことか」
「礼には及びませんよ。当然のことをしただけです。ですから、巫女を助けたからと言って報酬とかは要りません」
これからくれる可能性が高そうな報酬を先に断っておいた。
村だし、そんなに蓄えもあるわけではなさそうだからな。もらってうれしいものもなさそうだし、もらっても仕方ない。
貰えるものは貰う主義の荒木だったが、リクシーの姉もいることなので配慮した。
「「…!? …?」」
荒木の謙虚な態度にリクシーとレジーナは露骨に驚いて見せていた。しかし、二人は驚いたが何か裏がありそうとすぐに怪しいと疑った。
まぁ、今までの行動からそうなるよね。
行動を共にしていた二人の反応は納得だった。逆に疑わなければ、更なる教育が必要だと考えていた。
でも、村人からしたら二人の反応の方がおかしいだろうな。
現に驚いている二人の反応を見た村人やパラメには何に驚いているのか到底理解できるものではなかった。
「確かに村にはささやかなほどしかありませんが、それでも恩人様ですから何もしないというのは心苦しいのです。本当にいらないのですか?」
どうしても報酬をもらって欲しいのか。なら、今俺が欲しい物を報酬として、満足してもらおうか。
「なら、長旅で疲れていますから、世界樹の話と一晩二晩ほど泊めてもらいませんかね」
大体自分でどうにか出来そうなものだが、手っ取り早く済ませるために、村長に報酬を告げた。
「「ッ!!!?」」
魔大陸に来てから初めて泊まると聞いて二人は衝撃を受けていた。今までほぼ落ち着く場所で眠れなかった二人には願ってもいないことだった。
「休んでいいの? 寝てもいいの?」
信じられないリクシーは確認を取った。
「もちろんだよ」
「(やった)」
甘い蜜をぶら下げられたリクシーは余計なことなどせず、小さな声で喜んだ。レジーナは無言のままだった。
「遠い方からはるばる長旅ご苦労様です。この村に伝わる世界樹のお話と数日泊めることくらいお安い御用です」
村長は二人の反応から長距離を移動して疲労がたまっているのだろうと考え、村で疲れを癒してもらおうと考えていた。荒木は全く疲れていなかったが実際かなりの距離を全力で移動した二人は疲れている様子は見て取れた。
「でしたら、私の家にお泊りになりませんか?」
村長との会話を聞いていたパメラが提案してきた。妹もいるので、パラメの提案は自然で、納得のいくものだった。
他の家に行くよりもパラメの家に泊まる方が色々と都合が良さそうだな。
「リクシーもいることだし、家族水入らず。じゃ、お言葉に甘えよう。ダンさんはそれで良いですか」
「私の家にお泊めしたかったですが、妹さんがいるのですから仕方ありませんね。長旅で疲れているでしょうし、家族で話したいこともあるでしょうからね」
色々とおもてなしたり、村外の話を聞いたり、恩人の話しを聞きたかったのかダンは残念そうだった。
荒木はさっきから残しておいた死体のほうに目を向けて言った。
「死体はどうしますか?」
「荒木様のご自由にしてください」
「私は要りませんね。村長さんも要らないんでしたら、処理しますよ」
「恩人にお手を煩わせるわけにはいきません。死体はアンデットになる前に私たちのほうで処理しておきましょう」
村も魔王軍の死体いらないようで快く死体の処理を請け負ってくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ死体を譲っていただきありがとうございました。では、皆様長旅で疲れているでしょうから私はこれで失礼いたしましょうか。それでは、ごゆっくりとおくつろぎ滞在していってください。世界樹の話は夕方に落ち着いてからパラメのお家に後程私がお伺いに行きます」
「世界樹の話は興味がありますからね。よろしくお願いします」
長旅で疲れているだろうと思っているダンは荒木たちとの会話を切り上げて解放してくれた。世界樹の話の約束をするとダンは去っていった。
離れた村長は集まっている村人たちに荒木たちのことと、死体の処理を相談し始めた。
「じゃ、パラメさんが大丈夫ならお家に案内してもらおうかな?」
「はい。家に案内しますから付いてきて下さい」
荒木の会話に入ろうとしていたリクシーを止めてくれていたパラメがリクシーから離れ、前を歩き家まで案内を始めた。
「よろしく!」
荒木がパラメの案内に従って後を付いて行くとその後をリクシーとレジーナが追った。
「怪しいわね」
「そうだな。身を引き締めた方がいいかもしれない」
利口な荒木の姿を静かに眺めていた二人は一層怪しさを覚え、良からぬことの前触れかもしれないと思い警戒した。
「どうですか? この村は」
移動の間の暇をパラメは他愛のない会話で埋めようと、荒木に話しかけた。
普段町に住んでいる人や都会っ子ならいいと思うだろうな。でも、村で比較するとどこにでもあるような村だな。
「村の人たちも優しそうですし、自然が豊かで心が穏やかになりそうないい村ですね」
長生きしている荒木は村など見飽きているので、何か印象に残ることはなかったが、住んでいる本人を前に失礼だと思ったので、当たり障りのない感じでパラメに答えた。
「はい。実際良いものですよ。村のみんなも親切にしてくれますから村で暮らすのは」
巫女で外に出られないようだから、負担軽減のために普通よりもより一層親切にしてくれているのだろう。
村から出られないと兵士との会話から聞いたので、パラメの置かれている状況を察していた。
「でも、生活していくには薪や食料、水の調達、それに加えて強い魔物とかが出て大変そうですね」
水は村付近の川にあったが、周りに畑は見当たらず、食料の安定的な確保は難しかった。さらにこの付近の魔物は今まで見てきた平均的な魔物より少し強く、この村で生活していくには明らかに大変だった。
立地は最悪というほど悪くないが、暮らしていくには大変だろう。それに加えこの世界には獣だけでなく凶暴な魔物が出てくるからな。より、一層大変だろう。更にこの付近は普通の場所より少し強めの魔物がいるから、余計に大変だ。
「そうでもないですよ。周りの自然も豊かで食料も十分得ることも出来ますし、この村付近に強い魔物が出ること滅多にないです。この付近の魔物は私一人でも狩れる程度の魔物で、万が一強い魔物が出て来たとしても村人全員で協力すればどんな魔物でも退治できます」
普通より強い魔物でも一人で倒せてしまうたくましい巫女だった。村人たちもそれなりに強いようだった。
いや、そういえば、悪魔たちだったな。つい最近出会った平均的な人間の範囲で考えてしまった。人間よりも身体能力は圧倒的に高いし、魔法も結構出来るから、人間には脅威でも悪魔なら平気か。
人よりも魔族の方が魔法や身体能力は優れているので、人が苦戦する魔物でも悪魔なら普通の村人でもそれくらいの魔物を排除するほどの力くらい備わっているようだった。
この村に来る強い魔物は人間からしたら、相当強いことになるな。凄い話だ。
荒木からしてみれば、実力は均等だが、普通の人からしてみれば途方もない話で荒木は普通の人間の感想を心の中で代弁した。
「しかし、村から出られないのは大変じゃないですか?」
俺には分からないが、普通の人に外に出られないのは辛そうだな。
今の荒木がもしパラメの同じ状況に置かれても、問題なかったが、普通に優しそうなパラメは大変な心境だと思った。
「いえ、使命ですから、それくらい理解しています。その分、良くしてもらっていますから、大変ではありませんよ」
「外に出たいと思ったことはあるの?」
「思ったことはありますけど、そんなことは恐れ多くてできません」
過去何度も思い、何度試そうか試行したが、最後の最後毎回踏みとどまっているのかパラメは悲しそうな表情をした。
「む、お姉ちゃんを困らせないでよね」
姉が悲しんだ姿をみたリクシーはすかさず姉を守るために悲しませることを聞いた荒木を叱った。
考えたことはあるのか。外には出たいんだな。
「一回試しに出てみれば?」
リクシーを無視して、踏み込んだ話を聞いてみた。
「封印が解けてしまうかもしれないので、それは出来ません。封印が解けてしまえば、世界は崩壊してしまいますから、そんな危険な行為はたとえ気の迷いがあったとしても恐れ多くて出来ません」
「そうか。しっかりとしているな。リクシーとは大違いだ」
本当に欲にまみれて人間にちょっかいを出しているリクシーとは大違いだな。
「なによ。私がしっかりしてないとでもいうわけ?」
馬鹿にされているリクシーは姉の前で馬鹿にされているのもあるだろうが、いつもと変わらず反論した。
「姉ですから妹よりしっかりしているのは当然です」
パラメは冷静に話、年上の威厳を見せるのと同時に、さりげなくリクシーを抉った。
「着きました。ここが私の家です」
パラメの家はそこらへんにあるような村人の木造の家と変わりはなかった。
「普通の家だな」
荒木は家の感想を漏らした。
木造りの家しかないか。限られた資源しか使われていないから、この村の規模だと職人とかはいないんだろうな。
「失礼ね。村に貴族の家のような立派な建物があるわけないでしょ」
こんな場所に立派な家があるだろうと荒木が考えていると思っているリクシーは呆れていた。
「両親の住んでいた家でもありますし、広い家では私一人では持て余してしまいますからね。この家でも広いくらいですよ」
「やっぱり、使いやすくて過ごしやすい家の方がいいよね」
人を泊めることの出来るスペースがあるわけだからな。今の家でも十分広そうだ。
「そうですね。使いにくい家というのは居心地が悪くて気が休みませんからね。さぁ、家に入って休んでください」
パラメは扉を開けて荒木たちを家の中に招き入れた。




