第五十四話 追って、追っ手、追手
△とある魔王城のとある魔王
そこにはダークブラウンの美しき肌をした幼き少女が堂々と椅子にふんぞり返っていた。瞳は赤く光そこから体に伸びる赤い紋様が怪しさを引き立てていた。
そんな魔王に一人の使用人が使づいた。
「魔王様」
「なんだ?」
魔王は体が小さいせいか少女らしい声で答えた。
「どうやら異世界人が転移門を通りこちら側に侵入したようです」
使用人は荒木たちが転移門を通ってきたことをしっかりと確認していた。
「人数は」
「異世界人が一人、他は悪魔とダークエルフの奴隷です」
「調子に乗っている異世界人か」
「はい。そのようです。どういたされますか?」
「あぶれものか殺せ。一異世界人なんてどうでもいい」
どうでも良い存在だったので、魔王は即座に始末することに決めた。
「了解しました。暗殺者を手配しておきます」
使用人は異世界人を屠るために暗殺者を送った。
△荒木
荒木たちはリクシーの姉がいる村に速度を上げて向かっていた。
「はぁ、はぁ、本当にモンスターが襲ってこないわね」
木の根によって足場の悪い中速度を上げて歩いているため、森に慣れていない魔法使いのリクシーは息を切らして見るからに疲れていた。
そんな疲労困憊そうなリクシーと比べてレジーナはまだまだ余裕があり、明らかに身体能力に差が見られた。
森に棲んでいるだけあって、疲れていないな。
それにしてもリクシーは長い奴隷生活で体力が衰えてしまっているのか?
「ふぅ、リクシーは運動不足か」
二人の体力の差をみてリクシーが長い奴隷生活によって体力が無くなってしまったのだろうと推測した。
「違うわよ。あなたが異常なだけ」
「レジーナも平気そうだけど」
「森の民と一緒にされても困る」
「こいつと一緒にするな」
荒木と一緒にされたレジーナがリクシーに注意した。
「それに疲れているわけじゃないわよ。深呼吸をしただけよ」
「じゃ、走るか」
「ちょ!」
リクシーは疲れているのか、休憩したそうだった。
「まぁ、お客さんも来ているみたいだし、ちょうどいいか」
荒木は後ろから来ている追手に察しがついていた。リクシーの休憩がてら追っている相手との戦闘を行うことにした。
「えっ?」
追手に気づいていないリクシーは荒木が何故か素直に意見を取り入れられたことに対して驚いた。レジーナも言葉は発さなく追手の存在に気付いていなかった。
「いや、情報が食らいついてきたんだよ」
「何をいっているの?」
「つまり、追手が来ているということだよ。二人とも犬死したくなかったら戦いな」
二人に注意を促すと同時に荒木は後ろを振り向き追手と向かいあった。
すると、全身黒色の服で姿を隠している三人が現れた。
辿ってきてくれたか。痕跡をわざわざ消しているわけではないから、気付かれるのは不思議ではない。それに痕跡を追えるということはしっかりとした暗殺者だろうな。
「で、お前たちはどうやって後をつけてきた?」
口をきいてくれるかな?という淡い期待から暗殺者に話しかけた。
「…」
ゆっくりとお話する暗殺者などおらず無言で構えていた。
「無言か。じゃ、二人とも頼んだよ」
荒木は三人をリクシーとレジーナに任せて一歩後ろに下がった。
「私たちがやるの?」
「休憩だからな」
「休憩? 何を言っているの?」
「頭でもおかしくなったか」
リクシーとレジーナは荒木の言っている意味が分からなかった。
「俺がやってもいいけど、あの三人程度なら秒もかからないよ」
「確かに」
今まで見てきた荒木の戦いと、暗殺者三人の力量差から納得した。
荒木がゆっくりとリクシーと話していると隙だと思ったのか暗殺者三人が俺たちに向けて針と魔法を飛ばしてきた。
しかし、三人の放った針と魔法は荒木がすでに展開していた糸によって容易に防がれていた。
「残念。まぁ、この二人を倒せたら戦ってあげるよ」
「いつのまに」
「俺が手を貸すのは今だけだから、気を付けてね」
荒木は二人を残してその場から消えた。
「やるしかないみたいね」
「何で私が荒木の露払いを!!」
荒木の思うように暗殺者を押し付けられたレジーナはイライラしていた。
「あの三人も私たちを殺そうとしているみたいだし、文句は荒木に言えばいいからとっとと倒そう」
「仕方ない」
リクシーに宥められるとレジーナは仕返しを考えながら剣を抜き、迷わず暗殺者に突っ込んでいった。暗殺者は服の下に隠していた剣を抜き放ち応戦した。暗殺者の二人はレジーナと対峙していた。残った一人は加勢されないようにリクシーを標的に捉えた。その一人は針を飛ばしながらリクシーに向かった。
「シールド」
暗殺者が飛ばしてくる跳び道具をリクシーは魔法で軽く防いだ。
「この程度ならレジーナに魔法付与をかけるまでもなさそうね。サンドスパイク」
リクシーは手前の地面から生やすように土で作られた棘を出して、向かってくる暗殺者に距離を取らせつつ、攻撃を加えた。
地面から延びるサンドスパイクを躱していく暗殺者だったが、一瞬地面をけって後ろに跳び一瞬の隙が出来てしまった。
「ファイヤーランス」
空中での隙を見つけた、リクシーはすかさず魔法で炎の槍を作り出し暗殺者を貫いた。
そして、リクシーの手前から生えた、棘は勢いを失わずレジーナを援護するために向かって行った。
レジーナは暗殺者の一人と剣で打ち合い、残りの一人は投げ物や後ろから剣で攻撃され隙を狙われていた。どちらの攻撃もレジーナは躱していた。しかし、どちらかを倒さないと面倒だったので、レジーナは強引に打ち合っている相手の剣を力で弾きそのまま斬り倒した。相手が減ったレジーナは先ほどからちまちまと攻撃を加えていた暗殺者と対峙した。しかし、その暗殺者はリクシーが放ったサンドスパイクがレジーナの後ろから迫っているのに気づき、不利な状況になっているのに気が付いた。不利になった暗殺者は焦りレジーナに突っ込み最後の攻撃に出た。暗殺者はレジーナに剣で突こうとしていた。
その暗殺者の決死の突きを難なく横に避けて躱し、流れるように暗殺者を斬った。
今までの荒木による訓練によってお互いの力を大体理解している二人の息はピッタリだった。
そして、出会って数分すぐに戦闘は終了してしまった。それほどに追ってきた暗殺者は弱かった。
随分と弱い暗殺者だったな。甘いな。奇襲は衝撃を持たせた方がいいのに。まだ、威力偵察の段階なのかな?
荒木は暗殺者がそれほど強くないことに疑問を持った。
門兵で大体の力は察せられるはずなのに。門兵がそれだけ弱くて実力が測れなかったということだろう。どちらにしても、失敗したんだからまた来そうだな。
暗殺者が余りにも弱かったので、偵察のようなものでこれからたくさん送られてくるものだろうと考えられた。
とりあえず死体を調べてみるか。
荒木は倒れている暗殺者の死体に触れて色々と情報を探っていった。暗殺者は魔王の領域のため無論悪魔の姿をしていた。
「兵士にしては弱かったわね」
「そうだな」
リクシーとレジーナの二人はあまりにも弱い追っ手に拍子抜けしているようだった。
「何をしているの?」
荒木がいきなり目の前に現れて暗殺者をまさぐっている姿を見てリクシーは気になっていた。
「何か情報を持っていないかなと思って」
「で、どうだったの?」
「どうやら魔王軍に依頼された暗殺者だな。下端もいいところだろう。心配するな。まだ暗殺者は送り込まれてくる可能性があるということだ」
「いや何の心配?」
心配することに思い当たる節はなかった。
「敵が弱くて物足りないんでしょ」
「はっ? 戦闘狂でもないのにそんな心配微塵もしてなかったわよ」
「もう、照れるなって」
「あなた。目がおかしいんじゃない!?」
冗談を言うとリクシーに蔑んだような目で見られた。
「その元気どうやら、体は休めたようだな」
先程よりも息は微妙に整っていたので、体力の回復は出来ているようだった。
「休めていないわよ」
「体力少なすぎじゃない?」
「いや荒木が異常なだけ」
「じゃ、レジーナに合わせ上げようか?」
「森の民とは体力が違うの。私は慣れてないんだから」
リクシーはレジーナに配慮して荒木と同じ扱いをしなかった。
「そうだぞ。私とリクシーでは体力に差があるからな。休んだ方がいい」
余りにも休みたがっているリクシーをまえに同情か荒木への反抗心からかレジーナも休みの提案をした。
「それは分かっているよ」
「なら休憩」
「いや休憩するより、レジーナと同じ速度で走れば体力が上がるから問題ないだろう」
「え? 何言っているの? バカなの? 一日で上がるわけがないじゃない」
「そうだよ。だから、リクシーの姉の村に着くまで寝ずにさらに早い速度で走ってあげるって言っているのに」
「「!?」」
ずっと休まないと宣言された衝撃的で致死的な提案にリクシーと体力があるさしものレジーナですら耳を疑う内容で、驚きを隠せなかった。
「うん? 何か驚くことでも言ったかな」
「いやいや、嘘よね」
「え? 何が嘘なんだ?…もしかして数日すらも休まずに走れないのか」
「当たり前じゃない」
いや、もしそうだとしたら、体力が少なすぎる。考える必要がありそうだな。
荒木は若干体力が少なすぎる二人の今後どうするか考えておくことにした。
「仕方ないな。貧弱なリクシーとレジーナに免じて歩こうか」
「えっ、いいの?」
リクシーはすぐに食らいついてきた。荒木に罵られたレジーナだったがこの時だけは反抗しなかった。
「もちろん」
「何を企んでいるの?」
今までの傾向から荒木が素直に何かをして、良い結果になったことが印象になかったので、リクシーは警戒した。
「さらに速度を上げて走る?」
「まぁ、その提案乗ったわ」
疲れ切っているリクシーは休憩の誘惑に負けて考えることをやめた。
「よし。ゆっくりと休憩しながら歩いて行こう」
そして、荒木たちはゆっくりと疲れない程度に歩いて行った。
移動速度を落としたおかげで暗殺者と戦わせられるし、情報も抜き出せて一石二鳥だ。
レジーナは少し引っ掛かりを覚えている様子だったが、体力的に疲れ切っているリクシーは判断力が落ちて気付いていないようだった。
道中さらに同じような暗殺者を倒して行って、情報を得ていた。大体、弱かったので、リクシーもレジーナも文句を言うほどの敵ではなかった。
そんな中、過去一番強そうな追手が来ていた。
今度は手練れか。散々暗殺に失敗してしびれを切らして確実に仕留めに来たということだろう。
「良い相手だね」
「また来たのね」
荒木の一言でリクシーとレジーナは暗殺者が来ているのを察した。散々暗殺者を倒してきたリクシーとレジーナにとっては数時間で手慣れたものになっていた。
森の中に現れたのは三人で風貌が同じような暗殺者だったが、動きの無駄が少なかった。
「これは今までの暗殺者と違って強そうね」
「ファイヤーランス」
リクシーはけん制攻撃を行ったが、リクシーのファイヤーランスは敵の無属性魔法シールドに防がれていた。
「強いな」
今までと違った敵にレジーナも身を引き締めて剣を構えた。
「ハイスピードエナジー、ハイディフェンスエナジー、ハイフィジカルエナジー、ハイアタックエナジー、ハイマジックエナジー」
リクシーは自分とレジーナに魔法を付与して強化した。それと同時に相手も同じように魔法を付与して体制を整えていた。
「私が行く。援護をお願い」
「分かっているわ」
敵が強いせいかレジーナは初めて率先してリクシーに指示すると、そのまま敵三人に突っ込んでいった。油断ならない敵を三人まとめて引き付けようとしているためレジーナの動きにはキレがあった。
「ウインドニードル、ウインドブレイド」
リクシーは視認が難しい風魔法のウインドニードルで、けん制しつつ自分との距離を保つために発動した。さらにウインドブレイドで敵への攻撃を魔法の連続使用で行っていた。暗殺者はリクシーの魔法を無効するのに一人が魔法で防ぐのに集中していた。これで、レジーナは残り二人になっていた。さらにリクシーは器用にその二人にもけん制程度の攻撃を放っていた。しかし、暗殺者もリクシーの攻撃を躱し、リクシーに対抗している暗殺者もまた同じ風属性の魔法でリクシーと同じように攻撃を加えていた。
「シールド」
リクシーも暗殺者と同じく無属性のシールドを自分とレジーナに跳んでくる魔法を防御するように発動して、均衡を保っていた。速度はレジーナの方がやや上回っていたため、残る二人を相手に揺さぶりをかけて対抗していた。暗殺者はレジーナの攻撃に息を合わせて攻撃していた。レジーナと暗殺者二人の攻防は拮抗していた。
「レジーナと同じ実力。私の魔法で押し切るしかないみたいね。ハイウインドブレイド」
拮抗している状況で自分が勝てれば優位に立てると思ったリクシーは攻めることにした。リクシーは威力の上がっている風の刃を暗殺者に叩きつけた。威力の上がった風の魔法を暗殺者はシールドで防ぐ。
「ハイウインドランス」
リクシーは突破力のある魔法に切り替えて、魔法を放ったが、この魔法もシールドによって防がれた。暗殺者の作り出す無属性のシールドは正面からでは突破できそうになかった。
「普通にやってダメなら崩して倒すまで! サンドスパイク」
暗殺者の地面から棘を作り出して攻撃した。暗殺者は軽い身のこなしで、その棘を躱した。が、暗殺者のシールドが無くなっていた。
「そこ! スーパーファイヤーランス」
「シー…」
火属性の矢が暗殺者をシールドの魔法を発動させる前に燃やし尽くした。
「ウインドソードカバー」
均衡が崩れると勝機とみたレジーナは剣に魔法を纏わせて強力な攻撃を一人に放ち真二つにした。残った一人がいきなり後ろに現れて剣を不利抜きレジーナの背中を切り裂いた。
「っ!」
レジーナは咄嗟に背中をのけぞり、致命傷を抑えたが大きな損傷に変わりはなかった。
「ウインドブレイド」
レジーナによって隙のできた最後の暗殺者に向けてリクシーが風属性の魔法で暗殺者を切り刻んで戦闘は終了した。
「ヒール」
リクシーの回復魔法によってレジーナの背中の斬り傷と共に痛みも消えてなくなった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
一緒にちょうど良い敵を倒した達成感から良い雰囲気が流れていた。
「やっと倒したか行くぞ」
荒木にとっては退屈な戦闘だったので、何も言わず二人を進ませることにした。
「「…」」
二人は見つめ合いいつか荒木に二人で仕返しすることを誓った。
強い奴でも所詮はあの程度か。情報も持っていないしもう、無視でいいか。
逐一暗殺者から情報を読み取っていたが流石は暗殺者そんな情報はなかった。
しかし、作が通じないな。なら、いよいよ身内作戦だな。




