第五十三話 ふっふっふー
荒木はリクシーとレジーナの前に出ていった。
距離を取る糸の攻撃では山姥の良いところは引き出せないから糸の間合いを小さくして戦うか。
荒山姥と対峙している木は間合いの関係上一本の糸を右の人差し指から作り出した。
しかし、荒木が前に出ると山姥は後ろにある木に隠れた。
逃げるつもりかな。
荒木は山姥の出方を伺った。
後ろか。
荒木は脇から糸を通し、後ろにいる山姥を見ることもなくゆっくりと攻撃を加えた。
「後ろよ」
気づいていないと思ったリクシーが助言のためか山姥の居場所を声に出した。
「何!??」
しかし、目にもくれないあり得えない攻撃をみたレジーナはいぶかし気に荒木を見た。
糸で突かれようとしていた山姥は糸が見えると荒木の背後から移動して、木々を縫って逃げだした。
荒木も山姥を追うことにした。
「二人ともついて来い」
命令されたリクシーとレジーナは大人しく荒木の後を追ってついて行った。
三人で追って行くと糸で作られている格子が山姥の前に立ちはだかり、逃げ道は無くなっていた。
「いつの間に」
「荒木の糸の力か」
糸が張られたことに気づいていいなかった二人も驚いていた。
山姥は逃げ道を失い戦う覚悟を決めて包丁を構え荒木と相対していた。
速度は同じ。逃げることは難しいと覚悟したんだろうな。
しかし、山姥が見抜ける荒木の隙は無くその場から動けず固まっていた。
これでは戦いにならないから隙をいせないと。
荒木は興味本位から相手の能力を十分に知り語ったため、わざと視線を逸らして隙を作って上げた。
隙が出来ると山姥はすぐに木の後ろに身を隠して移動した。
また逃げるのか体力勝負を仕掛けようとしているのかな? でも、それはさっき見たから逃がさない。
荒木は二人を置き去りにして、山姥の後を高速で追った。木の後ろに行くと、山姥はさらに奥に逃げた。荒木はさらに速度を上げた。速度を上げて山姥に追いついた荒木は人差し指に作られている糸を軽く山姥に向けて振った。
山姥は包丁を使い、糸を防いだが、少し威力が強く衝撃により後ろに後退した。山姥はその力を利用して再び木の後ろに隠れた。今度は逃げなかった。
木の後ろに隠れても、あの二人には見えないだろうけど、俺には見え見えで意味が無くなってしまうな。
のんびりと考えていると山姥は背後から包丁の切っ先を真下に両手で持ち、振り下ろした。
荒木は包丁を空いている左手で掴んだ。山姥は空中で静止した状態になっているが、暴れて、荒木の手から逃れようとしていた。しかし、荒木の左手の拘束力の方が強く脱出は不可能だった。
想像以上に俺との相性が悪いな。ああいったアサシンとかの隠密系は姿が見えていたら無意味だな。今のが、最大の攻撃ということにして、もう楽にしてあげよう。
攻撃が単調で飽きてしまったため、倒すことにした。荒木は掴んでいる包丁を木に向かって投げ飛ばした。山姥は包丁を離さずしっかりと握っていたため、そのまま木に叩きつけられた。衝撃と痛みにより一瞬動きが止まる。その隙に荒木は山姥に近づき人差し指から出ている糸で木ごと両断した。そして、戦闘は終了した。
リクシーとレジーナは途中見ていなかったが、最後の山姥が襲い掛かってきた場面から見ていた。
「気付いているのね」
リクシーは捉えられない山姥の動きを荒木が捉えていることを確認した。
「相当な索敵能力だな」
レジーナは荒木の索敵能力を評価した。
「あんなのに警戒していたとは、二人とも未熟だな」
「山姥はいつの間にか背後を取り、あの錆びた毒付きの包丁で致命的な一撃を与えてくから、普通なら警戒するわよ」
リクシーは常識とばかりに答えた。
「フン! 私だって気配が分かればあれくらいは出来る」
リクシーと打って変わってレジーナは強がっていた。しかし、山姥と戦闘を終え色々と飽きてきてしまった荒木は袋を地面に落した。
「何それ?」
荒木から零れ落ちた袋にリクシーが興味を持っていた。
「何でしょうか?」
悪い笑みを浮かべながらリクシーに答えを求めた。
荒木の対応に面倒になっていたリクシーは袋を縛っている紐をほどき、袋をさかさまにして手っ取り早く中にあるものを確認した。
「何か入っている?」
袋をさかさまにすると木くずなどの植物が枯れているようなものが出てきた。リクシーはそれをジッと見つめて考えていた。
「なんだ?」
気になったレジーナも近寄ってきた。
やはり、一見しただけでは分からないか。完璧なまでの出来栄えと行こうことか。
荒木は考えている二人の光景を見て、良いものを作ったとその袋の中身に満足していた。
「虫が寄ってきている」
しばらくして、袋の中身に虫たちが反応を示す光景をリクシーは目の当たりにした。
「「魔物を呼び寄せる臭い袋か!!!」」
二人は同時に記憶にあった最悪なものを思い出した。
「だから縄張りのブラックウルフたちやブラックワーウルフたちが、私たちに襲い掛かって来たのか」
「そうだな」
「それにこの臭い袋、魔物にだけ気付かれるようにしている物のようね」
「ふっふっふー!」
荒木が高らかに笑うと二人は荒木を睨め付けるように顔を向けてきた。
「ふっふっふー、じゃない!!」
「ようやく気付いたかそうそれは俺が作り出した魔物を呼び寄せる俺たちにとっては無臭の究極の臭い袋だ。さらにそれは従来の臭い袋よりも広範囲に臭いが届くように出来ている」
「なんてことをしてくれるのよ」
自ら臭い袋を持つなんてタブー中のタブーで命の危険をさらすことが常識なリクシーは怒らずにはいられなかった。
「はぁー、耳がついてないんだから荒木に何を言っても無駄だぞ」
どうせ話を聞いていないだろうと思っているレジーナは怒っているリクシーに呆れていた。
レジーナは反抗がしたいのか。駄々を捏ねている子供みたいで可愛いな。
荒木はレジーナを子供の用に見下して、蔑んで見ていた。
「まぁ、臭い袋は捨てられたしもういいけどね」
リクシーは危険なものは捨てることが出来ていると思い込んでいた。
「誰が臭い袋は一つだけしかないと言った!」
荒木はわざとらしい話し方で服に付いているポケットから袋を取り出した。
「何で、そんなテンション高いのよ」
そんな荒木の反応に立ちしてリクシーは強かな反応を見せた。
「俺の体に大量にある!」
体中から大量の臭い袋を取り出していった。
「いくら持っているのよ」
「量産したからいくらでもある。ホラ」
止まることなく袋が荒木の体から終わることなく出始めていた。
「ホラじゃなくて! 数個あれば効果あるし、十分なんだからもう出さなくていいわよ」
リクシーはすでに袋をどうにかすることは頭にはいていなかった。
「はぁ」
「もう袋は諦めたのか?」
「何をしても無駄なことは分かっているわよ」
荒木をどうにかするのかはあきらめの境地に至っていたようだった。
「まぁ、俺たちが来ている服にもその臭いは付いてあるから、関係ないけどね」
「それで、何のために袋を持ってモンスターを誘っているの?」
どうにも出来ないことはどうでも良かったので、その理由でも聞き出そうとしていた。
「何のため? 訓練じゃー!!! 行くぞ!!!」
待っていましたと言わんばかりに荒木はバックから袋が閉じていた他の臭い袋を開けて、バックに付けた。そして、糸を括りつけて二人を無理矢理引張って連れて行った。
「答えになってないわよ!!!」
「いーっぱい、いーっぱい来るぞ!」
・
・・
・・・
それから、森を散策して悪魔が生活している村が見える位置に辿り着いていた。
「よし。着いた。」
道中ブラック系統の魔物が次々に襲ってきたが、荒木は全てリクシーとレジーナに任せて森を進んで行った。
「しかし、この森には予想以上にモンスターが出てこなかったな。やはり、ダンジョンに潜った方が訓練になるな」
想像より敵モンスターが少なく、良い訓練とは思えなかったので、今後の訓練方針をダンジョンで訓練することに見直していた。
でも、地球よりは訓練しやすくて捗る。向こうでは適当な奴を育てるのに時間が掛かるからな。
ダンジョンなどのおかげで、早く訓練が出来て上々ではあった。
「…」
「つ…疲れ…た」
荒木が訓練内容を見直していると満身創痍レジーナとリクシーは倒れてしまっていた。そこまでの量ではなかったが、二人にはいい運動になっていたようだった。
疲れすぎて倒れてしまった二人を他所に荒木は悪魔の村らしきものを茂みに隠れて、観察を始めた。
「なぜステルス装備で来たのか。それは敵を観察するためだ」
一応説明すると言ったので、荒木は倒れている二人を前に独り言のように説明してあげた。
そして、観察していると村には防護柵がないくらいで人間の村とほとんど似ていた。
村は人間と同じような作りだな。まぁ、モンスターから身を守るための柵とかがない時点で、モンスターくらいなら自前の身体能力でどうにか出来る自身の表れだろう。
そこには人間とは違う容姿の存在がいた。それは背中に小さめの蝙蝠のような翼が生えていた。服装は人間と遜色がなさそうに見えた。
服装と臭いはすぐに解決するから問題ないとして、この姿だな。リクシーとレジーナは悪魔側の種族だから良いとして、人間の姿で近づくのはまずいし…まぁ、角とか付けてとけば騙せるだろう。
荒木は短絡的に角でもつけてれば騙せると判断した。
そして、荒木は黒色のステルス装備から糸を操り、村人悪魔が着ている茶色の服装とバックを旅人のクリーム色の物に地面に倒れて休憩しているリクシー、レジーナを含めて変更していた。
後は適当なモンスターの角を頭に付けて…
荒木はダンジョンで出会ったモンスターの一部の角を取り出して、頭に取り付けた。
「出来上がり」
荒木たちは悪魔と接触する準備を整えた。
二人が起きてから行こうかな? いや、情報収集程度だから一人で行こう。二人がモンスターに襲われてしまう可能性があるが、対処出来るだろうから無防備な状態で放置しても別にいいや。
割り切った荒木は倒れている二人を置いて一人向かって行った。
「すみません。お尋ねしたいんですが」
荒木は歩いている村人らしき男性に話しかけた。
「おう、旅人さんかな? 何か用か?」
「ここはなんという村ですか?」
「ここはゴート領コトト村だな」
「世界樹を見にその手前の村まで行きたいんですが? どこにあるか分かりますか?」
「ここから南西にあるドルア領との間にあるな」
目立つから有名なのかな?
「有名なんですか?」
「俺はそういった話が好きだから知っているが、眉唾とも思われているからマイナーな部類に入る。まぁ、実際にそれらしき大きい木があるから、その大きさを感じるだけでも、貴重な体験になるぞ」
「そうなんですか。ありがとございます。貴重な体験をしてみたいと思います」
「若干遠いし、道中モンスターが出るかもしれないが気を付けろよ」
この変装で変装は十分。何事もなかったし世界樹まで向かうか。
「分かりました。それでは」
世界樹の大体の場所を聞き終えると情報は十分に集まったので、出発することにした。
帰ってくるのが早かったのか。
出発をするため二人が地面に倒れて休憩している場所に戻ると、予想よりも疲れ果てているのか無防備な姿で未眠っていた。
頑張っていたし休ませて上げようかな。 とでも俺が思っているのか?
荒木は休ませる気などサラサラなく、気持ちよく眠っている二人を無情にも起こすことに決めた。
レジーナのいつもの目覚めを使おうか。
荒木は糸を二人の体に巻き付けた一気に現在低空に発生している雲よりも上空に持ち上げた。不自然な力が加わった二人は頂点に辿り着くと、ようやく目を覚ました。糸が伸び切ったところで力を抜き、落下させた。
目を覚ました事態を飲み込めていない二人は魔法を使おうとしたが阻害する力が発動して、意味を為さなかった。そのため、無防備に落下する恐怖を二人は体験していた。
「「キャアアア!!」」
無防備に落下している二人は何もできない恐怖から涙しながら叫んだ。
「今日はいい天気だな」
空が青いことを確認すると地面と衝突するギリギリで、二人を止めた。
「ふぇ」
「…ぁ」
リクシーとレジーナは変な声を上げて、着地した。
「じゃ、行こうか」
「もう少し休憩させて」
満足のいくまで疲労が取れていなかったリクシーは値を上げ荒木に珍しく本気でお願いしていた。
リクシーにしては欲のない珍しい懇願だが、訓練だからな。体力と持久力が育たないから放っておこう。
「平気、平気。後で、たっぷりと休憩できるから」
「本当に出来るの?」
今までの行動からリクシーは懐疑的になっていた。
「それに歩きながら休憩出来るよ」
荒木は誰でも出来る当然の技術のように言った。
「まずそんなことできるわけないし、それに多数のモンスターが襲ってくるのにそんな暇あるわけないじゃない」
「モンスターが来たら倒して上げるから大丈夫だよ」
十分に戦闘させたし、なにより目的地も知れて、急ぎたいから二人をモンスターに構わせてズルズルと時間を浪費させたくはないんだよね。
二人が戦闘を始めてしまうと遅くなってしまうので、目的地を知ってしまった今、はやる気持ちから自分で戦闘した方がスラスラと行けると思っていた。
「だから、歩きながらなんて休憩できないわよ。レジーナもそうでしょう」
出来ないことは出来ないリクシーはレジーナに助けを求めた。
「…当然、出来ないな」
ほんの一瞬考えた後、否定した。
レジーナは森で育たっていう野生児だし、それくらいは出来そうだが、休みたいし、反発したいしで嘘を付いているな。
レジーナ程度が一瞬でも隙を見せてしまえば荒木ならすぐに嘘だと分かった。
しかし、リクシーは歩きながら体力を回復出来ないのか。歩きながら回復出来る技術くらい当然持っていて欲しいな。……なら、身に着けさせればいいか。
出来ないのなら出来るように訓練すればいいという至極単純な考えに行き、少し訓練をさせて上げることにした。
「レジーナも一応出来るみたいだし、訓練すればいいんだよ。訓練」
荒木はやけに、訓練を押した。
「モンスターが襲ってきたらどうするのよ!」
「臭い袋はもうないし、臭いの付いている服装も変わっているから、俺の後ろを付いて来るだけで、早々気づかれない。それにモンスターは近づく前に倒すから心配ない」
「…本当」
「…」
二人は服装が変わっていることに今気づいて、驚いた。
「とりあえず、着いて来い」
荒木は命令をして二人を立たせた。
「はぁ」
「はぁ、行くわよ」
レジーナとリクシーはため息を吐きながら渋々荒木の後を追い始めた。




