第五十二話 それは後ろにいる
森を歩き始めると魔王の領土なのか。すぐに鼻の効く生物が目の前から迫ってくるのを感じ取れていた。
感覚からして狼の類だろうな。どんな狼か楽しみだ。
「魔王の大陸の獣か。少し興味はあるな」
荒木が呟くと二人は獣の存在に気づいておらず、気付かなかった。しかし、荒木に感情を悟られるのは嫌だったのか、隠していた。
「この大陸も人間の大陸にいる獣とあまり変わらないよ」
「そうなんだ」
「だいたい一緒よ」
そして、獣尾の姿が見えた。その姿は黒の体毛で覆われている狼だった。
「ブラックウルフか。普通の狼よりは少し違うな」
確か灰色の普通の狼より、全体に敵に能力が高く特に足が速くて、獰猛って書いてあったな。そう簡単に強い敵が歩いているわけがないか。
弱そうな敵に荒木は興味が半減した。
「気にするんだ。まぁ、ブラックウルフなんて少し早いだけで対して強くはないわよ」
荒木が何も気にしないと無感情の人間だと、仕返し目的で失礼を露わにしながらリクシーは獣との力量差があるため軽かった。
「趣味の範囲に含まれるからな。じゃ、リクシーが相手する?」
趣味の範囲で興味は引かれているので、積極性は若干維持されていた。そんな荒木は自身を持っているリクシーに任せた。
「簡単だから、良いわよ」
何の抵抗もなく簡単に引き受けたリクシーはすぐに体に魔力を集めて、攻撃の準備を始めた。
「ウインドスピア」
前後左右に槍の形をしている風の魔法が展開された。そして、槍は放たれた。リクシーの魔法はブラックウルフに隙を与えず貫通して、制圧した。
あんな魔法で一発か。弱いな。
「他にブラックウルフがいることに気づいてたんだ」
荒木のリクシーをなめ切っている態度が少し表に出た。
「狼は賢いから、包囲か奇襲か罠を張って待ち伏せすることくらい私やレジーナでも分かるわよ」
侮辱されていると理解したリクシーは怒って言い返した。
「そうか。じゃ、行くぞ」
興味はなかった荒木は怒りを軽く無視して、歩き始めた。怒っていたが、二人とも荒木の後を追った。再び歩みを始めると、数度ブラックウルフが迫ってきたが、また別の種族が近づいて来る気配を感じ取っていた。
「今度はブラックワーウルフか」
「リクシーなら狩れるでしょ」
「そうだけどね。さっきから私ばっかり何だけど」
道中度々きたブラックウルフたちをリクシーただ一人に任せていた。リクシーは迫りくる敵が弱い分調子に乗っていて、魔力の消耗を気にしていなかった。しかし、少しずつ魔力を消耗していることに気づいた。
「その量なら、まだまだ平気だろう」
まだ寝言を言うには早すぎるような気がするが、さぼりたいのだろうか?
荒木はずっと戦わされているリクシーが雑魚を処理するのが面倒になっているのではないかと考えていた。
「見えているのね。私の魔力の量」
「もちろん二人くらいの力なら見えるよ」
しかし、二人は荒木が言った最後の簡単の意味が分からなかったのか。少し訝しげにしていた。が、荒木に馬鹿にされるのも嫌なので強引に頷いていた。
「言っている意味は分からないけど、確かにまだまだ魔力には余裕があるわよ。でも、このモンスターと遭遇するペースだと、私の魔力持たなくなると思うんだけど」
「持つよ。持つ、そんな先のことは一度無くなってから考えよう」
リクシーは先のことを考えていたが、荒木にとってはどうでも良かったので、後先考えるだけ無駄だった。
「魔力が無くなってからでは遅いのよ」
「体力なんて、無くなったら振り絞ってでも出せばいいだけだ」
「魔法は魔力が尽きたら終わりなのよ。根性論とかでどうにか出来ないの」
「フン! そんなことも知らないのか」
やり返せるチャンスかと思ったのか、レジーナはリクシーに続き、反撃してきた。
「魔力が無くなっても戦えるっていう気概くらい見せたらどうだ? それとも、魔力がなければ何も出来ない音をあげちゃう腰抜けなのかな?」
荒木は面白半分に二人を挑発した。
「何! 私は森の戦士だ! 魔力がなくたって戦える」
「リクシーは?」
流れるようにリクシーに聞いた。
「私だって自衛くらいは出来るわよ」
リクシーは拳を構えていた。身体能力でどうにかする予定のようだった。
拳で戦うのか。魔族は身体能力も高いし、この世界ではまぁまぁ、ありか。
手っ取り早く武器を使わないことに疑問に思ったが、この世界の魔族の立ち位置から納得した。
でも、魔力の残量から意識を逸らすことも出来そうだし、先に進もう。
「何二人で怒ってるんだよ。行くぞ」
面倒ごとは二人の怒りによって忘れ去られていると判断した。荒木は軽い反論も聞かずに先に進んだ。
「「クゥー!!」」
軽く荒木にあしらわれた二人は遊ばれたていたことに気づいた。からかわれた二人は屈辱感を味合わさられて、悔しかったのか少し怒り気味で後を付いて行った。
目の前から黒いワーウルフ4匹が現れた。
「また黒か。ブラックワーウルフだな」
この周辺はブラック系が多く生息しているということか。ブラックウルフと同じように強化されているからな。たいしたモンスターじゃないな。
「それにしても、ランダムに来るな」
荒木は少し嬉しそうに言った。そんな嬉しそうな荒木を尻目に二人は疑問が頭に浮かんでいた。が、その前に目の前のブラックワーウルフを排除するためにリクシーが前に出た。
「ウインドカッター」
前に出たリクシーは風属性の魔法を即座に四つ展開して、ブラックワーウルフに向けて放った。飛んでいったウインドカッターは抵抗されることもなくブラックワーウルフを切り裂いて、沈黙させた。
「おかしい、ダンジョンでもないのに何でこんなに襲われているんだ?」
リクシーは先ほどからのモンスターの遭遇率がおかしいと感づき始めていた。魔力の残量のことに触れずに忘れ去ってしまっているところから、先程の提案はたださぼろうとしていいたことが伺えてしまった。
「確かに」
レジーナも何か嫌なものが引っ掛かり、頷いた。
「魔族が容易した、敵の奇襲じゃない?」
やっぱり、さぼろうとしていただけだったか。
でも、ブラックウルフが度々襲ってきているところで、異変に気づいて欲しかったな。
荒木は分かりつつも、疑問を投げかけた。
「私たちが領土に来たことや兵士が廃除されたことは分かっても、この状況で私たちの足取りを掴んでいるとは到底思えないわ」
「それに魔族でも兵士を使ってくるはずだ。モンスターを使うなんて面倒なことはしないはず」
リクシーとレジーナの二人は命が懸かっているため、真剣に追って来ている兵士たちの行動を考えていた。
真相は時間の問題だが。さーて、二人はいつ気付くかな。
考え始めた二人に表情を見せず面白がりながら荒木は眺めていた。
「森に異変でも起きているのかな?」
「その割に森は静かに思える」
自然豊かであろう森で暮らしていたダークエルフのレジーナは森の雰囲気を感じ取っていた。
「分かるの?」
「森で長い間生活しているから、それなりに分かる」
「そういえば、レジーナはダークエルフだったわね」
よし。面白そうだから俺も同じことが出来るから、レジーナに賛同して会話に割って入るか。
「確かに森からは静かで至って平穏な気配を感じられるね。周りに異常はなく至って正常だな」
荒木はダークエルフのレジーナの意見に同じ理由で賛同した。
「人間のクセに分かるんだな」
森から同じように感じ取っているが、レジーナは同じ力を持っていることを認めたくはなかったので、少し疑っていた。
「人間といっても俺はこの世界の人間ではない異世界人、向こうでも珍しいが森と共に暮らすエルフみたいな森の民みたいな人間なんかもいるから、森の状況を把握できる人間がいることは不思議ではないだろう」
「お前みたいな。人の命をどうとも思わないような訓練と味のないご飯を作り出す人が、森を感じ取ることは到底思えないがな」
「自然を感じ取るのに性格とか善悪の類はあまり必要ないし、関係ないけどな」
実際、無心のはずの人も感じ取れたりするからね。才能とか努力の違いなんだけど、成功例とかなさそうだからレジーナに言っても無駄そうだな。
「森は神聖な場所、そんな邪な考えを持っている者が感じ取れるはずがない!」
邪な存在な荒木が森を感じ取れることは信じたくはなかった。
滅ぼされてしまったレジーナが住んでいた地域では森を神聖視していたのか。よくある部族みたいな人たちだったんだな。レジーナがどう出るか気になるし、無駄だろうが説明してみるか。
「極悪人だろうが聖人だろうがその土地に慣れたり、親しんだりしたら、それだけの時間を掛ければ少しは自然を感じられるし、才能があれば森を更に感じ取ることが出来るようになる。現に俺が森を感じ取れているわけでね」
「嘘を言っても私は騙されない極悪人の貴様ではなれるわけない」
レジーナは人間の言葉など信じたくもなく、受け入れたくもなかったので、荒木の嘘として処理した。
面白くなってきたし、追い詰めてみるか。
「森の感覚が大体あっていたことに気付かなかったとは言わせないよ」
「チッ!」
力を知られていた不甲斐なさと荒木に見られていることに気づかなかった警戒心のなさが悔しかったのと同時に荒木に嫌味を散々言われていたレジーナは罰も悪くなり、色々と頭を過ったため、舌打ちしかできなかった。
「それより、極悪人でいいのね。あなたは」
荒木が極悪人と自信で認めている発言をしっかりと聞いていたリクシーは見逃さなかった。
「実際そうだし、今更ね~」
荒木は文句には慣れているのとなつかしさから、軽い返事をした。
よく、言われてきた言葉だからな。逆に慣れ親しんだ懐かしさくらい感じる。これを言ったら、Mに思われるかもしれないから心にしまっておこう。
「それに言えば俺の方が森に対する力は強いみたいだしね。レジーナよりは自然を理解していることになるかな?」
荒木はレジーナに向けて挑発気味に発言した。
「人間のガキが! 抜かすなよ。200年以上も生きている私よりも理解しているだと!」
217歳、荒木と出会ってから今まで沸点に達することはなかったレジーナだったが、積み重ねを人間ごときの寿命に侮辱されて怒りは頂点を超えていた。
「そういうこともあるさ。おばあちゃん」
荒木は怒りを鎮めるためにわざとらしく近寄り、老人をいたわるように背中をさすった。
俺の精神年齢は爺になるんだけど。でも、肉体は高校生だし、レジーナも誤解しているしこの場合はやっぱり肉体年齢の方がいいか。
背中をさすったことで馬鹿にされているレジーナは荒木の手を振り払った。
「触るな! 私はダークエルフだ。200歳でも若い方だ」
レジーナは人間界に来てから年齢がコンプレックスになっているようだった。結果として荒木はレジーナを逆なでした結果に終わった。
そんな、レジーナとリクシーの後ろに猫背姿ながら白髪の女性が立っていた。怒りのせいかその女性に気づいていなかった。
気配に気づけていなかったか。二人の察知能力は低いな。レジーナも得意なフィールドなのに気付けないのは問題だな。
「まぁ、後ろにいる山姥かな? そのモンスターの気配にこの森で気づけないようではまだまだ森を感じ取れるとは言えないな」
二人の後ろには山姥が近づいて命を取ろうとしていた。二人は背後にもいるのにも関わらず気配すら感じ取ることは出来ていなかった。
「何!」
レジーナは荒木に嘘を付かれていると思い、信用はしていなかった。
「本当に山姥よ」
一応忠告されたので振り返るとそこには荒木の言った通り本当に、錆びついている包丁を持っている山姥が攻撃を仕掛けようとしていた。そして、すぐに隣にいるレジーナに口頭で伝え、リクシーは構えた。
リクシーの声を聴いたレジーナも振り向きざま剣を抜き放ち防御の体制に入った。
「ぐぅ…」
山姥もまた荒木に気付かれていたことに驚いていた。
「初めて出会うモンスターだし、逃がさないよ。糸術―広格子」
山姥が驚いた一瞬、即座に屈んで地面に手を付いた。すると誰にも気づかれることもなく、少し遠めの空を格子状に糸が覆った。
警戒心が強そうだったから、俺が二人との会話に夢中になっているのを演技とは見抜けずに気づかれないと思って近づいてきたんだな。警戒心が強いから、逃れられる前に捕らえておかないとね。
「これを最初に見抜けないとは、まだまだ、警戒が足りないね。二人とも」
荒木は対峙している二人の主にレジーナに向かって勝ち誇ったように言った。しかし、二人は山姥にかなり集中しているようだった。
あの山姥。本に書いてあったより、猫背ではあるがおばあさん感はないな。若い個体かな?
「面白そうな個体だ。俺が相手をしようかな」
荒木の言葉は山姥に集中している二人には届かなかった。
かなり集中しているな。実力差的には同等で二人なら心配もないんだけど、場所が森だからか?
三人の視線を集めている中、山姥はまだ戦うか逃げるかの判断に迷っていた。
「あれは一匹の獲物を誘って殺す」
「分かってる。レジーナが囮になってくれない?」
「分かった」
リクシーに言われたとおりにレジーナは前に出て山姥の気を引いていた。
二人とも戦うつもりか。気配の消し方とかで、見失いやすいからそれで警戒しているのか。でも、戦いたいし二人を下がらせるか。
「俺が戦うから、二人とも下がっていいよ」
「あっ、そう」
二人は興味をなくしたように即座に身を引いた。




