第五十話 転移門の前で
荒木たちは主にリクシーとレジーナが転移門の警備兵たちと睨み合い、敵の様子をうかがっていた。警備兵たちは状況を飲み込むのに時間がかかっていた。そのため、不思議な緊張感が場を支配していた。
この場所は来た時と似たような場所で敵の数は8名。携帯している武器は剣で装備は統一され、組織だっていた。
僅かなぎこちなさを残しつつの連携、訓練されているな。軍の兵士とかだろう。
荒木は瞬時に大体の状況を理解していた。
「人間に同族の奴隷。敵。排除する!」
警備兵は荒木が人間であることとリクシーとレジーナの首輪から奴隷と判断した。
「「「了解」」」
一人の悪魔の指示を皮切りに悪魔たちは足に力を蓄えていた。
みんな似たような容姿だが、今声に出したのがリーダーとしようか。とりあえず二人に伝えよう。
「来るよ?」
荒木は疑問形で二人に準備をさせるように促した。
「わかっている」
リクシーとレジーナはすでに魔法と剣を準備していた。
うん。調子は良さそうだし、まともに相手させて上げよう。
「大丈夫だろうけど、頑張ってね」
そして、悪魔たちはため込んだ力を開放して一斉にこちらに向かってきた。
数を均等にするために、先手はこちらからだな。
八人いる警備兵では3人で均等に割振れない状況だったので、早めの段階で数を減らすことにした。そして、荒木は右手から糸を2本作り出し、動き出す警備悪魔2匹を瞬時に切り刻み消し去った。
これで敵さんも二人ずつに割り振ってくれるだろう。
「「「何!?」」」
「何!?」
警備兵は当然のように驚いたが、さらにリクシーとレジーナも糸の攻撃に驚いていた。
「俺とお前であの糸使いの相手をするお前らは適当に相手をしていろ」
警備兵の隊長は荒木の目論見通り警備兵たちを二人ずつに割り振った。
よし。隊長も来たか。でもすぐに戦闘を終了してしまうと、リクシーとレジーナの訓練にならないから、のんびりと相手をしてあげよう。
荒木は糸を操り警備兵の二人をけん制して、距離を取らせた。距離を取ると遊ぶために糸をしまった。
「接近戦だ」
「了解」
警備兵の二人は接近戦が荒木に有効だと判断した。
「「フィジカルアップ」」
二人は身体強化の魔法をかけた。魔法で強化を終えるとすぐに接近し剣で切りかかってきた。荒木はすぐに剣を躱し、新たに両手から糸を一本ずつ生み出し、剣に向かって位置をぶつけた。糸がぶつかると警備兵たちは衝撃により、後退した。
同じ魔法での身体強化か。訓練のたまものか。
悪魔の兵士たちは全員魔法で強化する訓練を軍に施されていると確信した。
「なんて力?! 本当に人間なのか?」
「なめるな! 人間!!」
「よせ!」
隊長の制止を無視して警備兵は攻撃を仕掛けてきた。荒木は冷静にその攻撃を躱して、再び糸で退けた。
「平気ですよ、隊長。臆病ですから攻撃してきませんよ」
「なぜ攻撃してこない?」
「臆病なんでしょ」
「いや、今の力なら当然攻撃してくるはずだ」
「気のせいですよ。それより人間に悪魔の力を見せつけてやりましょう」
「待て!」
「ダークファイヤボール」
再び警備兵は侮り隊長の指示を聞かずに攻撃を仕掛けた。警備兵の体周辺に20個の黒い火の玉が出現した。黒い火の玉は高速で向かってきた。
あの速さ、普通の人じゃ防げない速さだな。だが、これを普通に受けないと侮られないから、常識的な方法を取ろう。
「糸術―成城の盾」
荒木は火の玉を隔てるように目の前に城の形をした盾を作り出した。直線状に仕切りを置けば誰でも大抵の攻撃は防げた。
「ぐっ? ふん! それは囮だ」
普通に防がれた警備兵だったが思い通りに上手く行っていたので意気揚々と切りかかってきた。
このままでは倒してしまうが、情報を持っていそうな隊長だけ残せばいいか。
荒木は遊ぶつもりだが、一人でも遊べるのでこの一匹は倒してしまうことにした。
そして、隊長の静止を無視して近づいた警備兵は二つに分かれていた。しかし、生命力の強い悪魔はまだ生きていた。荒木は言葉を発する前に悪魔の息の根を止めた。
「何!?」
「見えないよね~」
荒木は呑気な声で確認するように言った。
しかし、この警備兵の悪魔は血の色は赤色なんだ。俺とは違うな。
警備隊長と荒木の間には警備兵の血により赤い線が現れた。
「糸か!?」
荒木はダークファイヤボール発動した後、冷静に警備兵が近づいたので、その瞬間にすでに糸は設置されていた。
「まぁ、糸を横に置いただけなんだけどね。情報を逃がさないようにね」
荒木にしか見えなかったが、周りには警備隊長を逃がさないために糸による罠が張り巡らされていた。
もう片手間で片づけられるから、二人の様子でも見るか。
手を抜いても勝てそうな敵に飽きてしまった荒木は二人の様子を見ることにした。
「仕方ない。レイズマジックエナジー。ファイヤーストーム」
リクシーは渋々魔法で自分を強化して、警備兵二人を包むように炎の渦を発生させた。リクシーと対峙した警備兵二人は消し炭になり、一瞬で戦闘は終了していた。そのため、荒木が見ると同時に戦闘は終了していた。
早々に隣に目を移すと、魔法で体を強化している警備兵二人と同じく魔法で体を強化しているレジーナが剣を交えていた。
「もう」
レジーナは怒りをぶつけるかの用に傭兵の一人を切り付けた。しかし、すかさずもう一人の傭兵が切りかかってきた。レジーナはすぐに後ろに身を引きその剣を剣で受け止めた。そして、下がって距離を取り体制を整えた。
「大丈夫か?」
「問題ない」
「なら魔法で行こう」
「わかった」
切られた警備兵の心配をしたが、まだまだ動ける状態であったため、二人はすぐに作戦を切り替えた。
「ファイヤーボール」
「ウォーターボール」
レジーナが距離を取ると警備兵はその距離を利用して魔法を放った。レジーナに火の玉と水の玉がレジーナに迫っていた。
「ファイヤーボール」
レジーナは無傷の警備兵が放った魔法と同じ魔法を発動して水の玉に向かって放った。レジーナの魔法は水の玉に当たると土煙を上げて爆発した。その爆風によって同時に来ていたファイヤーボールも巻き込んで無力化した。
爆発によって視界が遮られた瞬間にレジーナは二人に近づき剣の間合いに入れた。そして、レジーナは出血により反応が鈍くなり、姿を見つけられていない警備兵を切り無力化した。
「いつの間に!?」
残った警備兵はいきなり現れたレジーナに驚きつつも剣をレジーナの方向に向けて構えていた。レジーナは気にする敵がいなくなったので、防御の構えをしている警備兵に切りかかって攻めた。
レジーナは剣を左右に振り両脇から怒涛の攻めを見せた。
攻められている警備兵は次第に力が無くなったのか剣を弾かれた。その隙を逃さずに警備兵を切り裂いてレジーナの戦闘は終了した。
「そんなに強くないもんね」
そして、二人の様子を見ている内に荒木の目の前にいた警備隊長は片手間で操っていた糸に逃れることが出来なくなり、力を見せることなく捕縛されていた。今は糸で拘束された状態で荒木の肩に担がれていた。
「よし。他の敵が来る前に移動するぞ」
荒木は大勢に来られて、注目を惹くほどの大ごとになる前に移動することにした。
「…、…」
「…はぁ、行くわよ」
二人とも文句は大有りだったが、この場を移動しなかった場合敵がたくさん来ることは予想できたので、離れることは賛成だった。
さらに荒木が置いていきそうだったので、文句を言う暇がなく、その分不満が溜まり、その不満に気を取られて、考える暇もなく返事は鈍かった。
一応追手が来られるのも面倒だから転移門は破壊しておこう。
荒木は転移門に向かって軽く手の甲で叩いた。転移門は容易く崩れさった。
「「!?」」
荒木が軽く転移門を素手で壊す光景を見ていた二人は過剰に驚いていた。
門を壊したくらいで、驚くか普通?
「? 驚くことか? 敵が来るから門を閉じるのは普通だと思うんだけど?」
違和感を覚えた荒木は何を驚いたのか今後のためにと思い二人に原因を聞きだすことにした。
「そこじゃない」
「そうね。素手で壊すことに驚いたのよ」
力を見せた時に、よくある驚き方か。
「なんだ、そんなことか。じゃ、行くぞ」
興味が一気に覚めてしまった荒木はそそくさとこの場を後にした。
「それで? その兵士はどうするんだ?」
「そうそう。何をするの?」
移動中レジーナは肩に担いでいる警備兵を荒木がどうするのか気になっていた。リクシーも気になったのかレジーナに続いた。
「周辺の土地の情報を持っていないからな。海千山千の技で抜き出すんだよ」
「ようは拷問か」
「するんだ」
リクシーは意外感を露わにした。
情報がない場合は簡単に手に入るし、それに悪魔だって拷問くらいするだろうに、悪魔のリクシーが驚くとは。
「正解。悪魔だってそれくらいするでしょ」
悪魔に意外と思われた荒木はリクシーの評価を改めた。
「やめてくれる?! その私たち悪魔がみんな拷問好きみたいな言い方」
「しないのか?」
「軍の悪魔はするけど、普通の悪魔はそこまでしないわよ」
悪魔の間では人気の溢れるもだと思っていたが、違うんだ。なんか予想よりもマイルドでがっかりだ。
「そうなんだ。親近感が湧きそうだったのに」
「あなたに親近感を持たれたら不幸よね」
リクシーは荒木につけられたうっ憤から皮肉を言った。
そして、一度休むのに良さそうな木々が開けている土地に辿り着いた。
「ここで休憩だな。二人は少し休んでいな。すぐ戻る」
荒木は警備兵を担いだまま森へと消えていった。
・
・・
・・・
叫び声、悲鳴、諦め、様々な声が森にこだました後、荒木は魔王領の大体の土地の情報を手に入れていた。
「土地の情報は入手した。まぁ、もっと詳しい情報が欲しいが警備兵ではこの程度だろう。次だな」
あまり情報を得られなかったが、前を向き気にせず荒木は一人、リクシーとレジーナの元へと戻っていった。
「で、その拷問した悪魔はどうしたの?」
荒木の他に何もいなくなった姿を見て、リクシーは悪い顔をしながら聞いてきた。
聞かれたらまずいとでも思っているのかな? 別に隠すほどのことでもないから言おう。
「心地よく自分から眠りについたよ」
荒木にとってどうでも良いことだったので、普通に返した。
「やっていることは悪魔と変わらないな」
その所業を聞いてすかさずレジーナが鋭くツッコミを入れた。
俺にとっては褒め言葉の部類に入から、褒め言葉として受け取ろう。
「褒め言葉か」
「そんなわけないでしょ」
「頭がおかしいのか」
皮肉ったのにも関わらず、褒められていると感じている荒木の脳をレジーナは強く疑っていた。
「そうね。狂っているよね」
「いや、俺は至って正常だ」
「「どこがよ・だ」」
二人は思わずツッコミを入れた。
そんな二人が荒木に対して溜まりに溜まっている不満から愚痴を吐き終えると、ふと我に返った二人は突然、あることに気づき冷や汗が出始めた。
「そういえば、私たち魔王軍的に回してしまったのよね」
一旦落ち着いて、現実を直視したリクシーからは絶望感が顔からにじみ出ていた。
「そうだ! 本当にやってしまった」
レジーナは勢いよく思い出したが、ことの重大さが襲い掛かりすぐに勢いは消え去った。
「それで、これからどうするの?」
リクシーが予定を聞いてきた。
予定か。全くもって情報を知らなかったから、特に決めていなかったが…
行き当たりばったり情報を集めていく適当な作戦しか考えていなかった荒木だったが、何とかなるだろうと考えていた。しかし、リクシーに聞かれて少し考えた。
軍が意外としっかりしていたから、こっちも作戦を立ててみるか。
今作戦を思い付くために、リクシーに聞いた。
「リクシーには家族いる?」
「私の話聞いてる?」
これからの予定に家族などは到底関係あるとは思えなかったリクシーは荒木に無視されているのだと感じていた。
「聞いてる、聞いてる、これからの予定にかなり関わってくるから」
「それで、何で私の家族の話なのよ」
「レジーナなの家族は国ごと滅ぼされたんだから、いるわけないだろ」
「キッ!」
荒木がレジーナの故郷をいじると物凄い憎悪を含ませて睨んできたので笑顔で返してあげた。
「あなたはもう少しレジーナに気を使いなさいよ」
そんなレジーナをいじめるデリカシーのない光景を見ていたリクシーはやれやれとアドバイスを送った。
「言わせたくせに」
「言わせてない、言わせてない、決して言わせてない」
荒木がリクシーの誘導によるものとすると、リクシーは必死になって否定した。
「それでいる? いない?」
「いるわよ。姉が一人」
いるのかそれに一人なら作戦は決まったようなものだ。
荒木はリクシーから姉が一人だと聞くと作戦は簡単に決まってしまった。




