第四十九話 見て地獄
荒木は転移門の遥か手前一旦二人を肩から下ろしていた。
「ここで一旦荷造りだな」
リクシーとレジーナを確保した荒木は転移門の手前で荷造りを始めていた。
「何も持ってきてないけど?」
リクシーとレジーナは王城から連れ去られていたので、荒木が買った武器以外荷物は持っていなかった。
「武器は持っているし、道具はこっちで用意してある。その前に…」
荒木は糸を作り出し、3人の服を作り変えた。
「…」
服を糸で作り変えると、荒木は気の世界から黒いバックを3個取り出して、2人に配った。そして、3人は同じように光を吸い込むような黒い服や小物を全身にまとっていた。
「バックまで黒。本気か。…はぁ」
「…はぁ」
荒木の本気具合を見て魔王の土地などに行きたくなかった二人からため息が出た。二人は奴隷ということもあるが、実力的にも荒木から逃げることさえできないので、一切逆らえなかった。そのため、表情は暗く、憂鬱そうだった。
「何が起こるか分からないからな。生命線になるかもしれないからバックは持っておけよ」
荒木は何が起こるか分からなかったので、いい修行になるかもしれないとわくわくしていた。そのため、暗い雰囲気の二人とは対照的に明るく楽しそうに忠告した。
何が起こるかな? 情報がないからな楽しみだ。
荒木は遠足に行くような軽くて楽しい気分だった。
「「…」」
荒木の指示に従いたくはなかったが、死にたくはなかったので渋々ステルス用のバックを背負った。荒木は再び前を見えるように二人を肩に乗せた。そして、荒木は森の中に不自然に木々が開かれ、門らしきものが見える近くの茂みに身を潜めていた。門には5名の見張りらしき悪魔がいた。
「よし。転移門に走るか」
「私には転移門に見張りがいるように見えるんだけど、見張りの対処はどうするの?」
「転移門は開いている。無視して突っ込めば入れる」
どうせ門に入ってしまえば向こうに知られてしまうから。今見つかるのは何も問題ない。
「えっ?」
「まぁ、大船に乗った気で見てな」
荒木はどうせ何か言ったら、文句を言われると思ったので、二人に何か言わる前に行動で示すことにした。そして、荒木は見張りの悪魔の死角が出来た瞬間、茂みから音もなく飛び出た。荒木は走っているとは思えない静かな足音で移動して、転移門にそのまま、入っていった。
転移門に入り転移した先には複数の転移門を守る警備兵らしき悪魔がこちらに武器を向けて戦闘態勢に入っていた。荒木は敵が見えたので二人を下した。
「やっぱり、こうなるよね。馬鹿なの?」
「クソ! 荒木めぇ!」
リクシーとレジーは命を守るため、魔法を準備し、剣を抜き放ち、荒木に文句を垂らしながら臨戦態勢に入った。そして、この先続く苦難を思い、生き残れることを祈っていた。
「いいね」
荒木は体を自然体にして、警備兵たちがどう来るのか楽しみながら待っていた。
○荒木が冒険に行った後、セシーに奥の手が用意されていた。
セシーはマドラスフィ大帝国に向けて異世界人である荒木の情報を送っていた。そして、返事が届いていた。セシーは手紙を机で座りながら読んでいた。その手紙は荒木が異世界人であることと勇者である可能性が書かれていた。
「荒木様が勇者様の可能性がある…ですって!?」
思いもよらなかった本当の事実にセシーは驚いて椅子から立ち上がって、固まっていた。セシーは今まで嘘を付かれていた事実に気づき、怒りが湧いていた。
「本当に重要なお人。それに今は修行期間でしたわね。1か月くらい立っているでしょからそろそろ実践訓練でしょうね。早急に帰っていただき、魔王との戦いに備えていただかなければ!」
手紙を読み終わり、居ても立っても居られなくなったセシーは歩き始めた。
「あれ? そういえば勇者に必要な聖剣は差していませんでしたよね? どうなってるの?」
先程から渦中の人物であった荒木の姿が必然的に脳裏にはっきりと浮かんでいたセシーは荒木が聖剣を身に着けていないことを思い出していた。かなり重要だと直感したセシーは急ぐ体を止めて、しばらく考えた。
「これはかなりまずい状況では? うーん…帰っていただくしか方法はありませんが…お母様がああですし、味方も頼れませんか。はぁ…。もはや私の手には負えません。…しかし、どんな手を使っても帰りたがりませんか」
事態を深刻と捉えたセシーは荒木に帰ってもらうことにした。しかし、セシー一人では荒木を帰らせる術が思い浮かばなかった。一人では無理と考えたセシーは身内を頼ることを考えた。身内では全員女王の力に屈しそうだったので、他人の力も期待できそうになかった。もうセシーの力では荒木を帰らせることは不可能だと思い、ため息交じりに荒木をどうにかする考えを否定した。
そのため、荒木を帰らせることは現状何をしても出来ないとセシーは判断していた。が、世界の命運がかかっていたのでセシーは苦悩していた。
「そうですわ」
しばらく考えたセシーはとある案が閃いていた。
「マドラスフィ大帝国に応援を送ってもらえるように要請してみましょう」
身内を信用できなくなってしまったセシーは荒木をマドラスフィ大帝国に送り返すため、今一番困っているマドラスフィ大帝国に協力を仰ぐことにした。セシーは早速椅子に戻り再び筆を動かした。
それから数日が経った。
セシーの元に一人のメイドが訪れていた。
「セシー様。女王様が応接室にてお呼びです」
「お母様が? 分かりました。すぐに向かいます」
セシーは最近何かとしつこく荒木に構っているため、荒木を気に入っている女王に何か言われるのだろうと思っていた。女王と話さなければ何も変わらないと思っていたので、セシーは荒木の話をするため、呼びに来たメイドを引き連れ応接室へと向かって行った。
応接室に着くとメイドがドアをノックした。
「セシー様をお連れしました」
「入れて頂戴」
「お母様、お呼びですか?(なぜこんなところに)」
中に入ると大体何を言われるのか予想が付いていたセシーは時間短縮のためすぐに理由を女王に聞いた。しかし、その部屋には女王とその騎士ドミニカ以外にも9人の有名な人たちが手遅れながら仰々しい使者として訪れていた。セシーはマドラスフィ大帝国から使者が送られていたことに気付いていなかった。しかし、セシーが女王の対面を見てみると、
中心にマドラスフィ大帝国最高ランクSS冒険者の高久司、その両脇に光武御影、陽川秘月が女王の体面に座っていた。
そして、光武の後ろにマドラスフィ大帝国十二騎士第一位、ガレシア・エゼルレッド、次に第二位ジリアン・ディリル、第三位アリアン・フリエル。
陽川の後ろにマドラスフィ大帝国十二魔使第一位ドロレス・アークハート、第二位レニエラ・パーネル、第三位モーリン・パーネルの計9人と思われる人物たちだった。誰もがマドラスフィ大帝国の最高の実力者と思われた。
この9人は返事もすることもなくエアスト帝国に来ていたので、セシーには気付きようもなかった。
「(手紙を送って、そのまま来たのですね。つまり、マドラスフィ大帝国にとって一大事ということですか!)」
マドラスフィ大帝国が荒木のことをそこまで深刻に考えていることにセシーは気が付いた。そして、セシーの頭に飄々としている荒木の姿が浮かび上がり、世界の命運など鼻にもかけていない態度に怒りが込み上げていた。
「そちらの方がセシー様ですね。私は高久司SSランク冒険者チームトライデントのリーダーです。皆さんも自己紹介をお願いします」
高久が今回のまとめ役で、皆と取り仕切っていた。
「同じくチームトライデントの光武御影です」
高久に続くこと同じチームの光武は丁寧にお辞儀をした。
「私もトライデントの陽川秘月です」
かしこまっている二人の紹介とは対照的に陽川は優しい感じの自己紹介だった。
「俺はマドラスフィ大帝国十二騎士第一位、ガレシア・エゼルレッドだ。よろしく!」
光武の後ろにいた荒々しい赤い長髪を下げ堂々と大剣を背中に背負っていたガレシアが元気良く自己紹介をした。ガレシアがこの中で一番、楽しんでいる様子だった。
「私は十二騎士第二位ジリアン・ディリル」
同じ称号の次席のジリアンが、元気のいいガレシアよりは目立たないものの、やる気は漲っているような意気込みのある自己紹介をした。
「十二騎士第三位アリアン・フリエルです」
針のように鋭い毛先をしている水色のストレートヘアの女性アリアンは真面目に定型的に自己紹介をした。
「十二魔使第一位、ドロレス・アークハートです」
十二騎士の自己紹介を終えると次に陽川の後ろにいた魔法使いの頂点のドロレスがアリアンと同じように自己紹介をした。ドロレスの容姿は隣にいるレニエラとそっくりだった。
「私は十二魔使第二位、レニエラ・パーネルです」
レニエラも波並を立てないように真面目に自己紹介をした。
「十二魔使第三位、モーリン・スケイルズ。よろしくー」
茶色の天然パーマ気味の女性は他の人たちと比べてやる気があるようには見えない自己紹介だった。
そして、9人とも武器を携帯していた。
「(間違いない。本人たちだ!)」
9人の自己紹介を聞いて自分の知っている本人達であることを確証した。
「(誰もが人類最強の実力者と言われている方たちに加え、最強の魔使とその全員を打ち負かし、現在他の追随を許さない正真正銘人類最強の騎士までが!?)」
セシーも知っているマドラスフィ大帝国の実力階級トップスリーと冒険者の最高にも驚かされたが、中でもセシーが知る中で最強中の最強の人が現れてマドラスフィ大帝国の本気度合に驚愕せざるを得なかった。しかし、驚いていても話は進まないのでセシーも自己紹介をすることにした。
「私はセシー・トリンブル。エアスト帝国の第五王女です。皆様はどのようなご用件で来られたのでしょうか?」
一応荒木の件だと分かってはいたが、手紙の返事も来ていないので、間違えている可能性も考えて、高久に聞いた。
「君が送ってくれた荒木の情報について話して欲しいんだ」
「分かりました(少しお母さまが私を見た。少し怒っているようですね。仕方ありません)」
一瞬、家族でしか分からないような視線を高久が荒木の情報を貰ったと聞いた瞬間向けられたが、その視線は予想の範囲内なので、セシーは軽く受け流した。
「それで、荒木くんは今どこにいるのかな?」
「今は冒険者ギルドの昇給試験を受けているみたいです」
「いつ頃戻ってくるのか分かるかな?」
「そろそろお戻りになられる頃だと思いますから、待っていただければすぐにでも会えます」
そう、荒木が帰ってくるのはそろそろだとセシーも思っていた。
「そうか。なら荒木くんが来るまでの間、この国で待っていてもいいか?」
すぐに帰ってくるのなら、動く必要もないと感じた高久はこの場所に滞在する許可を女王に求めた。
「いいですよ」
滞在を聞かれた荒木を気に入っているはずの女王はすんなりと荒木を連れ戻そうとしている高久たちの滞在をすんなりと許可した。
「いや、待って! 高久」
「どうしたんだ?」
「あの子が大人しくするわけないじゃない」
しかし、荒木を信用出来なかった光武はそれでは逃がしてしまうかもしれないと思っていた。
「それもそうか。なら私たちもその冒険者依頼の場所に向かう」
光武の意見に納得だった高久は隙を与えないようにこちらから迎えに行くことにした。
「それがよろしいかと思います」
荒木に一刻も早く帰ってもらいたいセシーもその提案に賛同した。
「えぇ、いいと思いますよ」
女王もその意見に余裕の表情を持って賛成していた。
「(あら? なぜお母さまが賛成を? まさか…)」
荒木を擁護すると思われた女王が何も焦ってはいなかったので、セシーは荒木が問題ない可能性を勘ぐっていた。
「(私の知らないところで、お母さまか荒木さんが何かをしたのね)」
女王が荒木の安全だと思われたので何か女王と荒木の間に秘密があると考えた。
「高久様すみません。荒木様が先日購入された奴隷が王城にいますので、まずはそちらに会ってみてはいかがでしょうか」
セシーは荒木の連れて来た奴隷たち、なら何か知っているだろうと思い、泊めている部屋に訪れていた。
「荒木くんが奴隷を購入か。見た方がいいだろうな。会いに行ってもいいか?」
「はい。私に付いてきてください」
高久の提案に早く問題を片づけたいセシーは快く頷いた。セシーは足を戻し、応接室を出た。その後をマドラスフィ大帝国のみんなが後を付いてきていくれていた。
「(荒木さんのせいで相当大ごとになってしまっていますね)」
マドラスフィ大帝国のすごい人たち全員が後ろ付いて来る光景を見ていたセシーは荒木がどれだけ迷惑をかけているのか呆れるほど理解させられていた。
そんな、セシーはまた何か良からぬことが起きている可能性を考えて早足になっていた。しかし、この中の誰もがかなりの身体能力の持ち主のため、セシーの早足に気づくことはなかった。
マドラスフィ大帝国の使者がセシーの後を付いていく中、その後ろを女王も付いて来ていた。
「(お母様も付いて来ている。何かあるようですね)」
女王がこっそりと付いてきていいたので、確信に変わった。
「(一応様子を見に来るということは、お母さまではなく荒木さんの仕業ですね…本当にもう何なのですかあの方は!)」
セシーは女王が手を回しているのならわざわざ様子を見に来るなんて思えなかった。なので、女王ではない人物つまり荒木が何かをして女王が安心しているのだと考えるに至っていた。そして、なおも抵抗している荒木に怒りが込み上げていた。
「入りますよ」
「いいですよ」
そこにはエヴァンジェリアとユードラがいた。他の二人の姿は見えなかった。
「(もしや…!?)」
皮膚に冷や汗が流れセシーは言いようもない不安に駆られた。セシーはすぐにその不安を解消するためユードラに話を恐る恐る聞くことにした。
「リクシー様とレジーナ様がいないようですけど、何か知っていますかユードラ様」
「二人なら荒木様と一緒に行きましたよ」
ユードラは荒木から何も指示を受けてはいなかったので、素直にセシー委荒木の行動を話した。
「どこに行かれたのか分かりますか?」
「魔王領に行きましたよ」
「へ!?」
面を食らったセシーは素っ頓狂な声を上げてしまった。
「「「はああああああ!?」」」
驚きのあまりセシーに遅れること一拍、3名以外の全員はその目的地に寛大に驚いていた。しかし、3名驚かなかった物もいた。ユードラは元から知っているので、驚かなかった。女王は荒木が上手にやっていることに安心していた。そして、もう一人。
「(へー)」
何も関係ない荒木と面識のないガレシアは一人心の中で荒木を面白そうに思っていた。
「追うか?」
高久は早急に対処が必要だと思い即座に提案した。
「いや、流石に魔王領まで追うのは無理よ」
「こうなったら無事を祈るしかありませんね」
潔く陽川は諦めた。流石に敵地に行かれてしまっては人類の最高戦力が集まっていようとも成すすべはなかった。やることも無くなってしまった高久たちも含めて全員解散することとなった。高久たちも勇者の育成もあったので、マドラスフィ大帝国に帰らなければならなかった。
そして、セシー側付きのメイド以外いない、自室にいた。
「あ゛の人はぁぁ! 本当に勝手なことしかしないんだからー!」
約束を守らず好き勝手している荒木に対して不満が爆発していたセシーは頭を抱えて叫んだ。
「…ふふふ」
今度会ったら色々することにセシーは不敵な笑みを浮かべながらいつかやり返すと心に誓った。




