第四十八話 聞いて恐怖
荒木は王城に帰り、レジーナを連れていくため本題に入ろうとしていたが。しかし、レジーナは若干拗ねているようだった。
子供みたいで面白い奴だな。
怖がり子供みたいに拗ねているレジーナを若干の微笑みを持って荒木は見ていた。
「何。その顔は」
荒木の顔から木漏れ出る微笑みを見て馬鹿にされているのだろうと感じ取ったレジーナは少し苛立っていた。
「なんでも」
「それで、お前は何しに戻ってきたんだ?」
レジーナは立場を分かっているのかな? まぁ、俺もどうでもいいと思っているからいいんだけどね。
遠慮が無のないレジーナの態度を見てふとそんなことを荒木は思っていた。しかし、他人の態度など荒木には関係なかった。そして、荒木はレジーナの苛立ちをどうでもいいかのように流すことにした。
「酷い言い方をするなー」
「別にいいだろ!」
荒木の腑抜けた声に怒りながらレジーナは答えた。
「まぁ、いいけどね」
レジーナが反抗的に返すとレジーナの怒りに興味のなくなった荒木はすんなりと肯定した。
「ぅ…じゃ、何しに来た!」
荒木が何も困りもせず受け入れて、話の流れを崩されてレジーナは言葉に詰まった。荒木の顔を見て、恥ずかしくなったレジーナは再び強気に聞いた。
「もちろん楽しい、楽しい訓練だよ」
「何!? 嫌だ。嫌だ!」
レジーナは早速大きな声で荒木の誘いを断った。
「もう、子供じゃないんだから、駄々をこねないの」
荒木はお母さんのように嫌がるレジーナに注意した。そして、荒木はレジーナの手を掴もうとすると、隣で寝ていたユードラとリクシーが起き始めた。
「何?」
「どうしたんですか?」
「戻ってきたのか! 私も拒否する!」
レジーナの反応からなんとなく状況を察したリクシーは起き上がると即座に拒否をした。
まだ、何もわかっていないのに拒否するのか。早いなー。拒否しても強制的に連れて行くから何を言っても意味はないんだけどな。
荒木はリクシーの状況把握の速さに感心した。しかし、虚しくも強制的だったの、荒木は哀れだと心の中で思っていた。
「主様ですか。次はどちらに向かわれるのですか」
リクシーとは対照的にユードラは荒木に尽くせるため、大変喜んでいた。
このやる気。ユードラは俺に十分忠誠を尽くしてくれているな。実力は足りていないが、及第点の及第点だが、硬い意志が見えるから、やはり、訓練はしなくてもいいだろう。
荒木はユードラから感じられる確固たる意志から、エヴァンジェリアの護衛を任せもいいだろうという判断に至り、ユードラはこの場に残すことに決めた。
「ユードラには残ってもらう」
「私だけどうしてですか? 私は連れて行ってくれないのですか?」
今度こそ活躍できると思っていたユードラは荒木の命令を受け入れられず、残念になった。活躍したかったユードラは引き下がらず荒木からその理由を聞いた。
「そうよ。そんなに連れて行ってもらいたいんなら、連れて行ってあげれば」
「そうだな」
リクシーとレジーナは荒木に少しでも抵抗したかったので、荒木の命令とは反対の行動に出た。しかし、そんな行動荒木は目にも止めずユードラをどう説得するか考えていた。
ユードラには本当のことを重要そうに話せば信じ切ってくれるだろう。
荒木はユードラにもっともらしいことを言って、調子に乗らせて命令に従ってもらう作戦に出ることにした。
でも、信頼を得ていない他の二人にこの話を聞かれると邪魔をされかねないな。それは、面倒だから、ひっそりと伝えないといけないか。
そして、荒木はリクシーとユードラに気づかれるのを避けるため、ユードラに近づくエルフ特有の長い耳元まで口を持って行った。
「あ…主様!?」
荒木に顔を近づけられると、ユードラは頬を若干赤く染め、照れながら驚いていた。
「(ユードラにはエヴァンジェリアを守ってほしい。まだ、ユードラしか頼めない極秘任務なんだ)」
「そんなに重要なのですか?」
「あぁ、一番重要だ。そのために雇っているんだから」
荒木はユードラの耳から離れ普通に話した。
「分かりました。私はここに残ります!」
荒木の意図を知ったユードラは期待に応えるためにも、声を大にして全力で答えた。荒木尾は単純な言葉により、張り切っているユードラの姿を見ていた。
作戦成功。うん。素直に命令を聞いてくれてうれしいね。信じ切っているって最高!
荒木は反抗的なリクシーとレジーナの二人に比べて、扱いやすくなっているユードラの成長に喜んでいた。
「「?」」
耳打ちされてすぐユードラが荒木の指示に従った姿を見て、何が起きているのか分からなかった二人は疑問だらけだった。しかし、二人の会話が気になったが、なぜか荒木に聞ことを二人は躊躇われていた。
興味を持って聞いてこないか。
荒木はユードラの耳打ちに何も聞いてこない二人の何かの意思と葛藤している表情を見た。
たぶん。出し抜こうという気持ちから聞きづらくしているんだろうな。
二人の表情を読み取った荒木は考察を終えた。
関係ないけど、反抗的な心が芽生えているし、そろそろ、飽きて来たから連れ出すか。
二人の反抗的な感情など関係なかったが、少し嘲笑いたかった荒木は心の中で留めて、連れ出すことにした。
「じゃ、早速行こう!」
そして、荒木は本題に戻り、元気よく出発の言葉を放った。
「いや」
「いやだ」
二人は荒木を強く拒絶した。しかし、荒木は二人の服を掴んで、強引に連れて行こうした。二人は力を入れ荒木に抵抗した。
「どこに連れて行く気だ!」
余裕のあるレジーナが荒木の行く目的地を聞いた。
驚く姿も見たいし、本当の目的地じゃなくて今から行く目的地を話して上げようか。
「森だよ。森」
荒木は二人をいじるのを飽きたといっても、行く場所を聞いたときの二人の反応が見たかったので、引き伸ばした。
「目的は?」
レジーナは何を目的にしているのか、起こりうる未来を理解するために聞いた。
目的か。真実を言ったら邪魔される可能性があるからな。それらしいことでごまかすしかないか。
「偵察かな?」
荒木はレジーナたちに一番近しい表現を選んで少し曖昧ながら答えた。
「偵察?」
前回と同じようなことが起こると思っていたレジーナは荒木が偵察すると聞いて全く持って、この先何が起こるのか理解できなかった。しかし、荒木から偵察と聞いてリクシーとレジーナは少し安堵した。
「それで、どこに偵察をしに行くの?」
森に偵察しに行くわけはないと必死に抵抗しているリクシーがその嘘を見抜き荒木に再びその偵察の場所を聞いた。
本当の場所を言え、ということなのだろう。たぶん、そうだろうな。もう、目的地は言ってもいいだろう。もう抵抗されちゃってるしね。
「魔王の土地だ」
荒木はすでに抵抗されている現状を見て、話しても状況は変わらないので、目的地を話すことにした。
「流石は主様です」
異世界人である荒木の口から行く場所を聞いてユードラはその堂々とした態度に尊敬の念を抱いていた。
「異世界人なのに敵の本拠地に乗り込む気か…」
今から行おうとしている荒木の突拍子もない危険行動にリクシーは唖然としていた。
「馬鹿げている。そんな危険な場所に行く気はない!」
レジーナは命を落とす真似はしたくなかったのできっぱりと断った。そして、二人は敵の本拠地の向かおうとしている荒木の頭はどうにかしていると実感していた。
「これは強制だから、行くぞ!」
しかし、荒木が言った強制は奴隷として強制させるものだった。今の状況から二人はその命令を拒否は出来なかった。
「一応、聞くけど。ここから、どうやって行くの?」
答えが大体わかっていたリクシーは荒木に恐る恐る聞いた。
気付いている。やはり、悪魔。詳しいのか。向こうに古郷でもあるのかな? もし、古郷があれば使えるかもしれない。
荒木は魔王の土地に何やら詳しいリクシーの姿を見て、魔王の土地にリクシーの親族がいる可能性を考えていた。もし、その考えが当たっていた場合、荒木は利用することを視野に入れた。
取りあえず、感づかれる前に流れを話そうか。
「悪魔は偵察のために転移門を使うと聞いている」
荒木はリクシーに親族の利用を考えていることを感づかれる前に、悪魔の偵察の仕方を話した。
「やはり、転移門を通るのか」
「すでに魔族が設置した転移門を見つけている」
大体の考えがあっていたリクシーは答えを確認するかのように納得した。荒木は悪魔リクシーがここにいるという情報から何かしらの手段でここにいるのかと思い、その可能性から、色々と探り、転移門に辿り着いていた。
「転移門はその国に管理されているから、それだと、私たちが通ったことが魔王に知られるけど。どうするの?」
何か荒木に考えがあるかもしれないと思ったリクシーはその僅かな希望を求めて質問した。
そうだろうな。敵の土地に設置したということは敵が使用した時の対策もしているよね。まぁ、知られるだけで、何の細工もなしに使えるのなら楽だな。
荒木は知られているだけならどうとでもなるので、そのまま放置して敵地に乗り込もうとしていた。
それに、襲ってきてくれた方が色々と情報を仕入れることが出来て楽そうだからな。
しかし、今回に限ってはとある偵察が目的だったので、時間短縮も含めてこちらの情報を敵に与えることを予め決めていた。
「もちろん。分かっている」
「は?」
「はぁ!?」
何も考え無しに突っ込むと提案している荒木にリクシーとレジーナのその無謀さに怒りを露わにした。
「何か?」
「嘘だ! 一瞬で魔王国ではお尋ね者になるんだぞ!」
荒木の考えを受け入れられず、あまりにショックが大きかったリクシーは重大なことを荒木が忘れているのだと信じ、真実を伝えて荒木に理解させることにした。
「そうだ」
「その意味を分かっているのか!?」
「もち、もち」
「異世界人の荒木が魔王を敵に回すということは本来マドラスフィ帝国の勇者たちが全力で戦う魔王の全軍を敵に回すことになるんだけど! ねぇ! その意味を分かって言ってんの!?」
リクシーは命の危険性を感じたため、どれだけの危険を冒しているのか荒木に必死に分かるように伝えようとしていた。
「うん、そうだけど」
「分かってない! つまり、私もレジーナも同罪になって危険なわけ、そんな命を捨てに行くようなことは一人でやって!」
「まぁね」
荒木は少し機嫌よく返事をした。
悪魔でも一緒に行くか、奴隷のままだと敵認定されるのか。それはいい情報だ。
荒木はリクシーとレジーナも敵認定されると聞いて、リクシーの親族がいた場合使える手段が広がると思い、得した気分だった。
「ぐぅ…後、偵察の意味って頭の中に入っている?」
全然話を聞いていない荒木に気圧されたリクシーは先ほどの偵察とは真逆に見える状況から上げ足を取って、考えを改める作戦に切り替えた。
「確かに偵察をするんじゃないのか!」
劣勢に追いやられているレジーナもリクシーに加勢した。
「何を言っているんだ? どこをどう考えても偵察じゃないか」
荒木は二人の知らないところでしっかりと偵察だった。しかし、そんなことを知らない二人は納得することは出来なかった。
「魔王国に付く前から気付かれているよね。これのどこが偵察なの?」
「どこをどう見ても偵察だよ。敵地に行って情報を取りに行くんだからな」
「馬鹿か? お前。偵察っていうのは気付かれず情報を得ることを言うんだ」
レジーナは偵察という言葉を知らない荒木に苦しいながらも嘲笑交じりに教えた。
「別に気付かれたところで、今回に限って言えば情報を持ち帰えりさえすれば偵察だ」
「そんな堂々と行くのは偵察と呼ばないよ」
「これも立派な偵察だよ。俺は魔王の土地を知らないからな」
「? 魔王の土地を知らないこと何が偵察に繋がるの?」
「侵入者を排除してくる敵から手っ取り早く情報を聞いて、動けるからだよ」
「荒木は一体何の情報を取ろうとしているの?」
リクシーは荒木が抜き出そうとしている情報が考えと乖離していることに気づいた。そして、リクシーは荒木がどんな情報を得ようとしているのか今後のために聞く必要があった。
「欲しい情報がどこにあるのか分からないが、取りあえず一番資料の多そうな魔族の国を目指すことになるな」
「それで偵察。あるかどうかも分からない情報を、堂々と危険を冒して得るために行くなんて破綻している」
荒木のやろうとしていることを察したリクシーはそれでもなお、魔王軍全てを敵に回す偵察は無謀に思えた。
「問題ないだろう」
「そういうことか。貴様は侵入に注目させて、欲しい情報を取ろうとしているのか」
荒木が何を目的にしていたのかリクシーに遅れてレジーナは気付いた。
「そうだよ」
レジーナも気付いたか、欲しい情報を知っていないから流れを知られても問題ないな。
欲しい情報が何か二人は知らないので邪魔される心配がないと順調な情報の共有具合に荒木は上々の出来だと思った。
「こんな作戦で情報を抜き取れるわけがない?」
レジーナは敵に追われて情報を得ることは出来ないと断言できた。
「俺はレジーナみたく弱くないからできるよ」
「気付かれながら王国に行くということはいくら荒木が強いといっても、だんだん守りも強固になっての悪魔との連戦。その中で情報を得るなんて無理」
リクシーも荒木に実質不可能だと決めつけていた。
説明しても無駄か。なら、実際に見せて上げた方が早いな。
「まぁ、こんな場所で話したって進まないからな。行ってからのお楽しみだ」
荒木は二人に何を話しても嫌がられるだけで拉致が開かないので、もう連れて行ってあげることにした。そんな宣言を荒木がすると、話術での引き延ばしも無くなり、八方塞がりにったリクシーとレジーナはすぐに部屋の丈夫な柱にしがみついて、実力行使に出た。荒木は嫌がる二人の服を掴んだ。
「狂ってる!」
「本当に頭が壊れてる!」
二人は最後まで抵抗するらしく柱にしがみ付いて抵抗を始めた。
「じゃ、行ってくるよ。後は頼んだ。ユードラ」
「了解しました。主様」
ユードラは命令遂行のため立ち上がった。
良し。俺も行くか。
荒木は壁にしがみついて抵抗している二人を見た。すると、リクシーは悪魔の全力の力で柱を掴み本気でしがみついていた。レジーナも握力を上げていた。そして、ミシミシと柱が軋み始めていた。
そんな、力を入れている二人の脇腹を少し撫でくすぐった。
「ヒャッ!?」
「クゥッ!」
リクシーとレジーナは荒木にくすぐられると気の抜けた変な声と共に一瞬力が抜けた。荒木はその隙に二人を引張った。二人を簡単に捕らえることに成功した。
そして、荒木も嫌がる二人を両脇に抱えて、王城を飛び出した。
「いやだ! 行きたくなーい!」
「私はまだ死にたくないぞ!」
二人はこれから先の休みのない激戦を前に駄々を捏ねていた。
「もう、ホームシックか?」
屋根伝いに跳んでいる荒木は速度を上げるため二人を脇から肩に担ぎ治し加速した。
「いやー!」
「離せー!」
叶わない願いを口に二人は涙目ながら、魔族が設置した転移門の方向へと荒木に連れ去られた。
やっぱり、楽しいことになると童心に戻るんだな。
荒木は二人の盛り上がりを見て子供と同じだなと思った。




