第四十五話 極楽の壁画
荒木に続き、警戒をしていたフィースもまた柱が崩れている光景に気が付いていた。
「どんどん、勢いが増している。このままでは遺跡が崩されるかもしれない」
フィースはメーベルが攻撃に集中して、気付いていない可能性を考えて伝えるために声に出した。
「そう。頑張るわ」
メーベルはすでに全力で石像に攻撃していたが、間に合いそうになかったので、持てる全ての力を出し切るつもりだった。
メーベルが力を振り絞っているとき荒木は防御する振りをやめていた。しかし、二人は石像に集中して荒木が防御をやめていることに気が付いていなかった。
今は俺の盾を狙ってくれているが、何かの拍子に顔から出しているあの熱線を柱が食らえば耐え切れない。確実にタイムリミット。俺が石像を破壊するか。
荒木はフィースを脇に抱えメーベルを手で掴み二人を抱えて持ち上げた。
「え?」
「きゃ、なにするの?」
いきなり体を触られ後ろから持ち上げられたフィースとメーベルの二人は急なことに驚いていた。
「もう十分攻撃出来ているし、後は俺がやるよ」
荒木は何か文句を言われそうだったので、意図を話してあげた。しかし、小さな子が大きめの女性を脇に抱えている荒木の姿は傍目から異様に見えていた。
「それで、どうするの?」
小脇に抱えられているフィースは持ち上げている荒木の顔を覗きながら言った。
「躱して攻撃をする。戦闘を見たかったら気を失わないことだ」
荒木は挑発的な口調でフィースに助言した。挑発されたフィースだったが、何が起こるのか予想が出来なかったため、対抗心を燃やすことなく荒木の言葉の意味を探ろうとした。しかし、フィースが探る暇もなく荒木は加速した。
「…ッ!」
「…」
フィースとメーベルの二人はその加速に苦い顔をして耐えていた。
「は…ぃ!」
「く…」
フィースとメーベルは驚きを口から漏らしたが、声を出すのも辛く発声した言葉は意味をなす前に一文字でくぐもることになった。
そして、荒木は二人を左に持ち抱えながら、石像の無数の攻撃を澄ました顔でかいくぐり石像に接近した。荒木は右手に一本の糸を作り出した。
「糸術― 一線」
荒木は石像の足元から跳び上がり頭上に辿り着くと、作り出した一本の糸で一線した。石像は縦に真二つになった。しかし、石像はまだ動き続けているように見えた。
顔だけが動いている。他は死んでしまったということかな? なら、顔を切れば終わるか。
荒木は石像の動きから頭が弱点であると考えると、迷いなく糸で切り裂くことに決めた。荒木は遺跡に致命的な傷が入らないように糸の長さを調整して、石像の首目が手横に糸を振った。胴体から離れた石像の首は羽跳んだ。顔だけの石像から何か光が漏れだそうとしていた。
何か光った攻撃の光かもしれない。変に攻撃されたら遺跡が壊れてしまうから、隙を与えずに切り刻むか。
荒木は石像が動く隙を与えずに糸で、石像から漏れ出る光が消えるまで頭を切り刻んで行った。そして、石像の頭は無くなると、頭を失った体は動く気配もなく大きな音を立て倒れた。
「メーベルは最後に石像の顔を切り刻んだ攻撃見えたか」
速度に苦い顔でギリギリ耐えていたフィースは荒木の攻撃が全く見えていなかったので隣で同じ光景を見たであろうメーベルに見逃しただけかもしれないと思い、確認した。
「もちろん。私にも見えなかったわよ」
メーベルはどう考えても見える動きではなかったので、当然のように言った。
「なんて動きをするんだ」
比べ物にならない動きを見せつけられたフィースは驚きのあまりその本人である荒木の顔を見ていた。
「右手だけは二人に合わせてないから当然みえないよ」
当然二人の会話を聞いていた荒木は二人を気付かって速度を調整していることをこっそりとアピールした。
そうしなければ、二人は重症だったけどな。
荒木はあえて危険な行為を犯していたので、フィースとメーベルに危険性を伝えることはしなかった。そして、荒木は地面に着地するとフィースとメーベルの二人を地面におろした。
言葉をそのまま受け取った二人は嫌味を言われたのだと感じていた。
「言いたいことが山ほどあるけど、三人の手当てが先か」
「そうね」
フィースとメーベルは荒木に文句などを色々と言いたかったが、荒木よりもレノール、ジャネット、メーヴィスの三人の方が心配だった。二人は盾の後ろで横たわっている三人に駆け寄り、容体の確認を始めた。
明らかに大丈夫そうなのに駆け寄っていくとは、優しい人たちだな。
荒木は地面におろされた後、心配なさそうな三人に駆け寄っていく二人の姿を見て、やはり、優しい人たちだと思っていた。
しかし、荒木は壁画の方に感心があったので、フィースたちを他所に頭が失われた石像が倒れ伏している傍ら壁画を見た。
「それにしてもいっぱい壁に描かれているな」
壁画には無数の人々が倒れ、その中央に二つの剣を持った蝙蝠のような黒い羽が巨人らしきものに乗り剣を突き刺している姿が描かれていた。
「しかもカラーか」
壁画は彩られており、見やすくなっていた。
真ん中にいるのは黒い見た目から見て悪魔の類だろうが、なぜ悪魔が一人生き残っている? 内乱でも起こしたのか? いや人が死んでいるから、そうではないか。
推測してみたが荒木にはよくわからなかった。荒木が悩んでいると三人の手当てを終えたフィースとメーベルは荒木の見ている壁画を見ていた。
「あの中心にいるのは魔王か」
「そうでしょうね。あの壁画は魔王が何かの巨人? を倒しているみたいね」
フィースが推測を口に出すと隣のメーベルが答えた。
「巨人の正体は分からないけど、人間も悪魔たちと同じように倒れているから、この壁画はだいぶ昔の魔王と勇者との戦いを記録している絵だと思う」
「うん。魔王がいるから私もそう思う」
フィースが少し考えて自分なりの考えを出すと、メーベルも同じ考えになったので、頷いた。
「それにしても、魔王が二つの剣を持った壁画は見たことがないな」
「確かに私の記憶にもないわね。でも、たまたま最後に剣を持っていた光景を絵にしたかもしれないよ?」
「夢のないことを。まぁ、魔王との戦いで人間が負けた記録なんてないから、面白いものではあるな」
メーベルがロマンあふれる壁画の前で現実的な意見を聞き、夢から引き戻されたことに呆れつつも、フィースは見たことのない新しい壁画に興味をそそられていた。
「そうね」
二人は自分たちの記憶にない絵の存在に期待感が膨れ上がり、三人を心配しつつも、興奮を抑えきれてはいなかった。
壁画に興奮しているフィースとメーベルの二人を他所に壁画の情報を知りたかった荒木は聞き耳を立てて会話を聞いていた。
遺跡が好きな二人なのだから、あれが魔王であるのは間違いなさそうだな。
荒木には中央に位置している者が悪魔でも魔王であることは分からなかないが、荒木は二人が遺跡を好きで、二人で興奮して会話している状況から二人が正しい情報を持っていると確信していた。
あれが魔王か。他の者との違いは黒い羽が大きいことと、赤い紋様みたいなのが体にある以外特徴はないが、それかな? うーん。
荒木は二人が魔王と断定にしている理由を探るため、壁画に何かしらの違いがあるかもしれないと考え、壁画に描かれている他の人物や生物を一体一体を瞬時に確認した。
多分、他との違いが赤い紋様だろうな。部族の戦士とか、族長が体に威厳などを込めた特別なペイントを施す感じかな?
荒木は昔の記憶を思い出し部族などが、ペイントをしていたことを思い出した。魔王もそういったことをするもだと荒木は仮定した。
紋様までしっかりと描いているところを見るとこの絵は正確な部類に入るはず。
荒木はこの絵が魔王の細部まで着色している事実から、その場の光景を忠実に再現しているものだと判断した。
なら、今まで些細な描き間違いだと思っていた壁画の剣が巨人の急所に届いていないのは正確ということか。
荒木は巨人が倒されていない光景も真実の物とし考えた。
分からないが、魔王と同等かそれ以上の存在ということになるな。
強いもの情報は得た荒木の顔から誰にも気づかれなかったが少し笑みがこぼれた。
「…面白い。これは真相を調べてみる価値はありそうだな」
荒木も魔王並みに強い巨人の情報を一時記憶から振り返ってみたが、そんな情報は未だ得られていなかった。
ちょうどいい。ついでに、リクシーとレジーナの訓練もしよう。
荒木はリクシーとレジーナの体力も十分回復しているだろうと思い、再び連れていくことに決めた。
よし。一度エアスト帝国戻る。その前に、冒険者ランクも上げられたら上げたいから、冒険者クリスタルをフィースに預けよう
荒木は予定が決まると、フィースたちの元へと向かっていった。
「これ持ってて」
荒木は冒険者クリスタルをフィースに投げ渡した。
「どうした?」
荒木の突然の行動に驚いたフィースは荒木に問い返した。
「帰るから渡した」
「帰る? クリスタルを渡したら身分証明が無くなるぞ」
フィースは身分証代わりであるクリスタルをぞんざいに渡して帰る荒木を不思議に思った。フィースは荒木が身分証のことを知らないと思い、一応、身分証がなければエアスト帝国に入りづらかったのと危機感を覚えたのでで、身分証のことを伝えた。
「なくても入れる」
荒木はなくても余裕で入れたので、問題なかった。
逆に身分証明できるものがあるとまずいからな。
さらにこれからの予定に身分証明は必要がなく、ある方が危険であった。
「それは不法入国だぞ」
荒木が平然と物騒なことを口に出したので、何をやらかしているのかフィースは荒木に伝えた。
「ばれなきゃ、平気」
「目を付けられても知らないぞ」
荒木が分かってやっていると理解したフィースはエアスト帝国と敵対になるかもしれない可能性で脅した。
「それに女王からもらった王の身分証明書みたいなものもあるから、問題ない」
荒木は女王からもらった王の証明書みたいなものをいつの間にか手に持ち、二人に見せた。
「あの女王の証明書か」
女王はこの国の王で大体の性格を知っているフィースは女王なら証明書を荒木に気楽に与えるくらい容易く想像できて知った。
「女王は荒木の力を見て、興味を持ってしまったといことね」
女王が荒木の力を見て興味を持ったことを想像してメーベルは呆れてしまった。
「強いものは拒まないからな。あの女王は」
二人は荒木と同じように女王にも参っていたようだった。
女王って国の王だけあって有名なのか。まぁ、Sランク冒険者だし、情報収集能力がある程度できている人たちだから女王の情報なら普通に入手できるか。
「それじゃ、道は作っておくから、フライで飛んで帰ってね」
荒木はもうこの場所にいる意味はなくなったので、
「ちょっと待て!」
「ちょっと待って!」
フィースとメーベルの二人は荒木の言葉を聞いてすぐに荒木の肩を掴み動き出す荒木の体を止めた。二人の腕は震えており、限界の力を出しているように見えた。
「何?」
荒木は全力で止められたので、答えることにした。
「また、遺跡を壊そうとしているのか?」
なるほど。遺跡を壊されると思って心配しているのか。引き留められるのも面倒だし、来た道を戻れば大丈夫か。
「あぁ、大丈夫。大丈夫。来た道を戻るだけから」
荒木はそこら辺から帰ろうとしていたが、それだとフィースとメーベルに問いただされて島市王だったので、今回は素直に来た道を戻ることにした。
「私たちがその言葉に騙された経験があるからな。信用は出来ない」
遺跡を壊したからな。信用されないか。まぁ、何を言っても意味ないから、ここは強引に行こう。
「いや、今回はしっかりとやるよ」
「「本当に?」」
フィースとメーベルは探るように顔を近づけ、目を細めて睨むように荒木の瞳を見つめた。
「本当だよ」
荒木は信用してもらうためにしっかりと、見つめ返した。
「それならまだいいが、あとこの遺跡にある財宝はどうするんだ」
フィースはまだいい提案ではあったので、今後のことも考えて大人しく引いた。フィースは後々面倒にならないように報酬の話をした。
「財宝?」
「遺跡にあるものは全て価値があるものだからな」
確かに金に出来るならいいけど、それよりも早く情報が欲しいな。今回は捨ててもいいか。
「いらない。その代わりに評価しといてくれ。じゃ」
荒木の中では現段階で財宝より、情報の方が欲しかったので、財宝は全部捨てることした。荒木は希望的に上げてくれるかもしれないと思い、評価を持ち出した。そして、荒木は話が終わるとそのまま来た道を戻ろうとした。今度は呼び止められなかったので、そのまま来た道を走っていった。




