第四十三話 四面十二手岩石混合輪
「今の音はいったい」
メーベルは正体を探るため、先を行っているトラブルを起こしている元凶の荒木に目を向けてみた。しかし、荒木は顔を音がした方向を斜め上に向いているだけで特に何か余計なことをした様子は見受けられなかった。
「荒木ではないみたいですね」
レノール以外も荒木に視線を持って行ったが、荒木のその先で何か起きているようにしか見えなかった。そして、すぐに巨大な音が鳴り始めた。のろりのろりと天井より数メートル低い巨大な石像が大きな足音を立てて荒木の前に現れていた。その巨大な石像は足以外に特徴を持っていた。背中に巨大な輪を背負い、一つの頭部に前後左右系併せて4つの顔が見受けられた。さらに腕は片方6本あり、12本の腕が生えていた。そして、腕は左右対称で上から順に何も持っていない普通の手と巨人用の石のような剣を持っている手を交互に繰り返していた。
そんなに強くはなさそうだな。容姿はいいんだけどな。
荒木はゆっくりと歩いている石像の大体の強さを登場と同時にはかり終えて、その姿を鑑賞していた。
でも、フィースたちにとってはちょうど良さそうなモンスターだ。良さそうなものが見られそうだし、プレゼントしてあげるか。
荒木は自分が倒すのではつまらなかったので、お礼も兼ねてフィースたちにプレゼントしてあげることにした。荒木が巨大な石像をプレゼントすることを決まると、遅れてフィースたちにも視認できる位置に石像も移動していた。
「なに…あれ」
ジャネットは驚きと恐怖のあまりその場に固まっていた。
「す、すごいですね」
メーヴィスは驚きと恐怖もあったが、とてつもない石像の姿に恐怖を上回るほど興奮していた。
「馬鹿な!」
フィースは今までに見たこともないほどの力がにじみ出ているモンスターがこの遺跡にいるとは思っていなかった。
「なんて大きさ」
メーベルもその巨大な力に驚かざるを得なかった。
「師匠不味くないですか?」
荒木とダンジョンの修行に突き合わされて心が強くなっているレノールは怖気づくことなくフィースに指示を求めた。
「レノールの言う通り。あのモンスターはやばい、ここは引いた方がいい」
フィースから見て石像のモンスターは自分たちが束になっても、倒すのは難しそうに思えた。さらに初めて見るモンスターで勝てるかどうか分からなかった。
「そうね。戦うにしても情報がないから、いったん引いて安全を確保した方が良さそうね」
メーベルも被害を出さないようにするには目の前の初めて見るモンスターの弱点などの情報を得てからの方が安全だと判断してフィースの提案を推奨した。
「はい」
レノールは即答した。
「戦うのか」
ジャネットはフィースたちがいったん引くかもしれないが、この勝てるかどうかも分からない大きな石像と戦うかもしれないと思うと、不安だった。
「危険は冒さなくてもいいですね」
メーヴィスもまだ魔法が万全の状態ではなかったので、この強大な敵と戦うなら万全の状態で臨みたかった。フィースたちは満場一致でこの場を引くことに賛成していた。
うーん。せっかくの新鮮なプレゼントが…
新鮮なうちにプレゼントしたかった荒木は石像に向かって行った。石像は荒木に近づかれると剣を軽く振るった。荒木はその剣を避けることはせずまともに食らったと同時に狙って後ろに跳んだ。フィースたちには石像の剣が荒木に当たると信じられない速さで吹き飛ばされたように見えていた。そして、荒木はフィースたちを横切り、洞窟の天井に衝撃音と共にぶつかった。凄まじい衝撃によって門の天井は崩れ、帰り道は閉ざされた。荒木はフィースたちの退路を断つことに成功した。
「大丈夫?」
一番後方にいたジャネットが瓦礫の中にいる荒木を心配して声をかけた。荒木が強いことを知っているフィースたちであっても流石の勢いに心配していた。
「平気」
よし。これで引くことは防げた。しっかりとプレゼントが味わえるだろう。
荒木は瓦礫を押しのけて立ち上がるとプレゼントがしっかりと渡せたので満足していた。
「あの攻撃を食らって平気なのか」
フィースは瓦礫のせいで埃塗れではあったが無傷で立ち上がっている荒木を見ていた。
「帰り道が」
早くこの場所から離れたかったジャネットは帰り道が無くなり、落ち込んでいた。
「もうあの巨大な石像から逃げられる安全な場所はないみたいですね」
冷静になっているレノールは見える範囲で一通り逃げ道がないか周囲を確認して、フィースに現状を説明した。
「全力で戦うしかないでしょう」
メーヴィスも万全の状態で戦いたかったが、そんな余裕はなくなっていた。メーヴィスは石像と戦う以外の選択肢しか残されていなかったので、今出せる全力を出して戦う覚悟を決めた。
「引けもしないのか」
レノールに続くことフィースも周囲に安全な場所を探していたが、巨大な石像から身を守れそうな場所などはこの空間になかった。
「危険だけど、今ここで対策を立て戦っていくしかないようね」
メーベルは退路も安全な場所もなく、戦闘は避けられなかったので、もう石像を倒すしかないと思った。そして、フィースたちは全員が武器を取った。
「戦うしかないか」
ジャネットは実力がかなり上の石像を前にみんなと同じようにナイフを構えていたが、実力差が大きく戦うことに気乗りはしていなかったが、身を守るために弱腰ながらもナイフを抜かなければならなかった。
まず魔法の補助に杖を持っているメーヴィスが行動を起こした。
「レイズスーパースピードエナジー、レイズスーパーディフェンスエナジー、レイズスーパーフィジカルエナジー、レイズスーパーアタックエナジー、私の魔法は効果が薄いと思われるので、援護に徹します」
メーヴィスはこの戦いでは役に立ちそうにないと思い、自分以外の援護をするため、全力で魔法を付与した。
「助かる。そうだな。ジャネットがメーヴィスの護衛を頼む」
魔法を付与してもらったフィースは礼を言った後、すぐにメーヴィスに隙が出来る可能性を察したため、弱腰になっているジャネットに守らせることにした。
「はい。私はメーヴィスを護衛します」
ジャネットは正直あの石像とまともに戦うことが出来るとは思えなかったので、攻撃を防ぐくらいなら何とか出来るだろうと思ったジャネットにとって護衛役は正直ありがたかった。
「私とメーベルとレノール3人で、探りつつあの巨大な石像を倒す」
「了解」
「はい。喜んで」
フィースに頼られていると思ったレノールは危機的状況にも関わらずものすごくうれしかったため、張り切った。
「問題は荒木くんだが、被害は考えなくてもから、一緒に戦ってくれないか」
フィースは問題児がしっかりと戦ってくれるのかどうか不明だったので、荒木に問いかける形になった。
プレゼントだから俺以外でやってほしいが。上手く隠して、何もしない囮でもやればいいだろう。
荒木はみんなにプレゼントを楽しんでもらいたかったので、プレゼントが効果的にみんなに行き届くにはどうしたらいいか真剣に考えていた。
「やってくれるか荒木くん?」
フィースは悩んでいる荒木の姿を見てもう一押しすれば良くなるかもしれないと、もう一押しした。
「囮ならいいよ」
攻撃はしないけどね。
荒木はフィースの催促によって考える時間が失われてしまったので、最初の囮の案を取り入れて、みんなに喜んでもらうことにした。
「囮をやってくれるのか。なら、私たち3人は石像の動きを探る」
フィースは荒木が強いことを重々承知していたが、少ししか一緒に行動したことがなく荒木のことを何も知らなかった。そのため、拙い連携では逆に足手まといになるかもしれないと思ったフィースは荒木の力を信用して囮を全て荒木に任せることにした。
俺が安易に攻撃出来てしまう役でなければ何でもいいか。
「わかった」
囮役が確定した荒木は取りあえず攻撃をごまかせるならなんでも良かったので、気軽に答えた。しかし、荒木は一番危険な役目をフィースに一人で押し付けられていた。他のみんなは進んで囮になりたくはなかったので、言いはしなかったが、気軽に答えた荒木に驚いていた。
「本当に一人で大丈夫なの?」
荒木が気軽に関上げていると珍しくレノールが気にかけてきていた。
「珍しいな心配か?」
「いや、すぐにやられたら困るから、不安なのよ」
しかし、レノール巨大な石像の実力と荒木の実力がどちらとも強いとしか皆目見当もつかなかった。
「平気だよ。さっきも攻撃食らっているのを見ていただろ」
「確かに」
レノールは思い返してみると完全に荒木の体に剣は当たっているように見えていたので、納得した。
「じゃ、戯れて来るよ」
荒木は悠々と歩いて巨大な石像に近づいて行った。巨大な石像は再び同じように荒木に向かって剣を振るってきた。荒木はその剣をそこに剣が来るのを予想して、歩き穴が剣を躱した。躱された剣はやすやすと地面に小規模なクレーターを作っていた。
うーん。やっぱり、攻撃も遅いな。俺が相手をしなくて正解だな。
荒木は自分が出る幕ではないと再確認していた。荒木に剣を躱されて石像は6本の剣全てを振り上げて、全力で荒木に攻撃を仕掛けた。荒木は歩きながら6本の剣を躱していった。
「荒木くんはあの攻撃を余裕で躱せるのか。やはり、この中にいる誰よりも強い」
フィースは余裕で素早い攻撃を躱している荒木の姿に決して埋めることのない大きな差を感じていた。しかし、冒険者として上位になっているフィースをしても荒木の力の上限を知ることは出来ていなかった。よって、フィースはこの先の戦いがどうなるのか予想することは出来なかった。
「だとしたらおかしくない?」
荒木を振り返ってメーベルは気が付いた。
「何が?」
「あの攻撃を躱せているなら、最初の攻撃も躱せたんじゃない?」
今できていることが出来ないことはないと思ったメーベルは先ほど荒木が攻撃を受けていた荒木を疑っていた。
「今の動きを見ている限りそう感じるけど、いきなり出てきて、躱せなかったんだと思うけど?」
「そうかな? 荒木くんなら躱せそうなんだけど」
荒木が最初に受けた攻撃よりも、さらに早い攻撃にも関わらず余裕で躱している姿を見て、最初に荒木が躱せなかったことはあり得ないとメーベルは思っていた。
「まぁ、囮役もやっていることだしいいじゃないか。それより戦闘に集中しよう」
今は戦闘に関係のない想定の話をしても仕方ないと思ったフィースは話をやめて、メーベルを戦闘に戻すことにした。
「それもそうね」
真意は荒木にしか分からなかったので、後で聞けばいいと思ったメーベルも荒木の話をやめることにした。
そして、石像は荒木を排除することに集中していた。荒木の囮は成功していた。荒木が囮をしている隙に、フィースたちは荒木を攻撃している石像を見ながら簡易的な作戦会議を始めていた。
「荒木くんが剣を受けていた通り、攻撃力は高いのは確かか」
「でしょうね。荒木くんが頑丈なのであって、防御魔法をかけていたとしても、私たちでは致命傷になると思うよ」
「攻撃速度は速いけど、移動速度はどうやら遅いみたいね。かく乱して攻撃していくしかないな」
フィースは攻撃速度の割に荒木を追いかける速度がのっそりしていることに注目していた。フィースは石像の弱点を突いて攻撃していくしか勝利する方法はないと思っていた。
「効果があるかどうか分からないが鑑定眼を使ってみるよ」
メーベルは石像から抜き出せるだけの情報を抜き出すことにした。
「頼む」
「鑑定眼。名前だけ分かった。四面十二手岩石混合輪というみたい」
メーベルはスキルを発動して石像の情報を見た。
「私がやっても同じだが、やはり、それしか分からないか。それにしても、名前が長いな」
フィースもメーベルと似たようなことは出来るが出来ることは変わらなかったので、石像の情報を探ることは諦めた。
「名前はいいとして、取りあえず、メーヴィスに遠距離から頑張ってもらいましょう」
「それがいいか」
メーベルとフィースはメーヴィスよりも実力が上であることは理解していたので、力を温存するため、メーヴィスの魔法で様子を見ることにした。
「分かりました。私が攻撃します」
メーヴィスも二人の会話を理解していてので、二人の力を温存させるため、石像に向かって魔法を発動する準備をすでに始めていた。
「ファイヤーボール、ウォーターボール、ウィンドボール、ソイルボール、ナウトボール」
メーヴィスはビックゴーレムと同じように五つの属性の球体を発動した。そして、メーヴィスは荒木に攻撃を集中させている石像に向かって魔法を放った。石像は大きく狙いやすかったので、命中したがメーヴィスの魔法はこれっぽっちも通じていなかった。
「なんて硬さ。あの程度の魔法は効かないのか」
「なら、もっと強い魔法で行きます。ハイファイヤーランス、ハイウォーターランス、ハイウィンドランス、ハイソイルランス、ハイナウトランス」
メーヴィスはさらに強めの魔法をそれぞれ石像の体に向かって放ったが、それでも石像には何の効果もなかった。
「全力で行かないとためですか。私の全力を食らいなさい。スーパーウォーターアックス」
メーヴィスは威力が高めの魔法が効かないとみると、覚悟を決めて力を使うことにした。メーヴィスは手を挙げると石像に迫る大きさの水の斧を作り出した。その斧を振り下ろし石像に食らわせていた。それでも、効果がなかったメーヴィスは再び同じ形状の魔法を発動して追撃した。
「スーパーウインドアックス、スーパーファイヤーアックス」
何度全力の魔法を石像にぶつけてもメーヴィスの魔法が効いている感じはしなかった。
「はぁ、はぁ、魔力をだいぶ使って、かすり傷程度も負わないの!?」
メーヴィスは愕然としていた。
「すごく硬いね。私とメーベルの魔法でも、強めの魔法でないと効果はなさそう」
「全力を出さないといけないわね」
メーヴィスの光景を見ていたフィースとメーベルの二人は本腰を入れることにした。
「レノールもメーヴィスを守って!」
フィースはレノールでは荷が重いと思ったフィースはレノールを下がらせた。
「しょうがないです」
レノールも石像に傷を負わせるすべがなかったので、大人しく下がり、メーヴィスの元へ向かった。しかし、荒木は石像の体から知っていた。あの石像を単体で囮をすることが出来ないことに。




