第四十二話 少し大きめのゴーレム
石像が倒され台座などの遺跡の物が乱雑にされている姿を見てフィースは悲しんでいた。
「貴重な遺跡の遺物が…。扉も開かれている」
フィースは切断されている石像に触れて状態を確認していた。損傷個所を一通り確認すると、フィースたちは扉が開いているのを確認した。
「荒木くんも最深部に行ったのかな?」
冒険者としてかなりの実力者のフィースとメーベルをしても荒木がもう最深部に辿り着いて、遺跡の中で最も重要なものを傷つけられてしまっている恐ろしい姿を考えるまでに至っていた。
「とにかく急ごう」
フィースとメーベルは荒木に追いつくため先に進んだ。フィースたちが扉をくぐると、扉の隅っこにいる荒木が見えた。
「やっと、追いついた」
荒木は一個目の扉の後ろで手掛かりを探していると、フィースたちが現れた。
「もう、来たんだ」
「えぇ、道中は荒木くんが罠を発動したおかげで問題なく、安全だったから」
フィースは名前の部分を強調して、皮肉交じりに言っている姿は、かなり怒りが溜まっている様子だった。メーベルも同じように怒っている様子だった。
罠を発動出来ないことを怒っているのかな。確かに、一度も罠に引っ掛からないのはつまらないからな。素直に謝ってあげよう。
「ごめん、ごめん、そんなに罠にかかりたいとは思わなかったよ。今度罠があったら譲ってあげるよ」
当事者の荒木は周りを気にせず罠を発動していたので、遺跡を壊していた自覚はなかった。そのため、フィースとメーベルが怒っている理由が分からなかった。
「分かってやってる?」
もうほとんど荒木のことを信用していないフィースは嫌がらせのため荒木がわざとやっていると思い込み、神経を逆なでされていた。
「はっー、ふー。何でまだここにいるの?」
メーベルは深呼吸をして怒りを抑え込んだ。怒りを抑え込むと予想よりも進んでいない荒木がこんな場所にいるのか気になっていた。
「いや、扉を開けようと思って、色々と探っているんだけど」
「色々と破壊しているのに扉は壊さないんだ」
フィースは律儀に扉を調べている荒木に意外感をあらわにした。フィースは荒木がどういった考えを持っているのか分からなくなってきていた。
「この扉は鍵しかないんだよね」
「鍵なら持っている。これのことだ」
フィースはするっとポケットからそれらしい鍵を取り出した。
荒木はフィースが遺跡をしっかりと探索をして謎を解いていることに感心していた。
「特別な鍵もなしに自力で開けられるのか」
「ちょっと待って、これって結局鍵を壊してるよね」
フィースが少し驚くが、すぐに荒木の行動を疑いの目を持って見ていたメーベルは鍵穴が傷つけられていることに気づいた。
「頼むから壊さないで…」
たまらなかったフィースは荒木に懇願した。
「どうせもう使わないだろう。壊れても大丈夫だ」
荒木はどう考えてもこの扉を再び使うことを想像できなかったので、フィースに正当性を伝えた。
「それでも、私としては価値のある遺跡が壊されるのは見逃せない」
もう最深部まで来たからな。少しで終わるから大人しく従う必要もないか。
「フィースにとっては価値があるだろうけど、俺にとってはただのものだからな。約束はしない」
荒木はそろそろ調査も終盤に差し迫っていたので、フィースの懇願を無視して自由に行動することにした。
「レノール荒木くんを捕まえて」
自由に行動することを宣言した荒木にフィースは危機感を感じたのでレノールに荒木を捕まえる命令をした。フィースがレノールに命令するとレノールは荒木を縄で縛ろうとしてきた。荒木はレノールの縄を躱した。
「大人しく捕まれ」
「それは出来ないな」
「ぐっ」
荒木に拒まれてしまったレノールは荒木に何をしても勝てないと分かって、捕まえることは出来ないと感じてしまった。
荒木はそのまま鍵の開いた扉を開けた。そこには青色の石で出来ている3~4mくらい大きめのゴーレムが現れた。
「ゴーレム一匹か」
荒木は扉を開きたかったので、糸を使ってゴーレムを破壊しようとするとフィースが荒木を止めに来た。
「私たちがやるから、荒木くんは扉の開け方を調べて」
これ以上遺跡を破壊されたくなかったフィースは効果があるかどうか分からなかったが、先程の行動を利用して荒木を戦わせない選択を提案した。
扉は調べたいからな。フィースに任せよう
「譲るけど、そいつを倒せば開くと思うよ」
荒木は素直にフィースに従い引き下がったが、一瞬のうちにこの部屋に扉の鍵も他に装置も何もなかったので、予想を言ってあげた。そして、ゴーレムを譲って上げた荒木は開かれた扉の部屋を調べ始めた。
フィースたちはゴーレムと相対していた。
「薄い青色のゴーレムなんて見たことない」
「私も見たことはないですね」
「師匠はどうですか?」
レノールはこの中で一番多くのモンスターを知っていると思っている師匠に尋ねた。
「初めて見るゴーレム」
「鑑定眼」
メーベルはモンスターを調べることのできるスキルを発動して、モンスターを見た。
「名前はビッグチェーターロックゴーレム。AAランクに近いAランクモンスターだと思う」
「私たちの知らないモンスターか。まぁまぁ、強いみたいだ。とりあえず魔法を使って様子を探ってみよう」
「そうね。魔法をお願いしてもいいかな? メーヴィスさん」
「分かりました。派手に行きますよ。ファイヤーボール、ウォーターボール、ウィンドボール、ソイルボール、ナウトボール」
メーヴィスは火属性、水属性、風属性、土属性、無属性の球体を一つずつ体の近くに生み出した。
「豪華ね」
「魔法が得意だから使えるよね。全属性くらい」
レノールは羨ましそうにメーヴィスが発動した魔法を見ていた。
そして、メーヴィスは全ての球体をゴーレムに向かって放った。メーヴィスの五つの球体はゴーレムの四肢と胴体に直撃した。火と水は弾かれて効果はあまり見られなかった。風と土と無は効いてはいるが、微々たるものだった。
「火と水を弾く。それ以外は微妙か」
「どの魔法も効きにくいか」
フィースはゴーレムの魔法体制の高さに冷静になって分析していた。
「刃物はどうかな?」
メーベルは鎖鎌を取り出しゴーレムに距離を取り、鎌をゴーレムの腕付近目掛けて投げつけた。メーベルが投げた鎌はゴーレムの腕に突き刺さった。
「少ししか刃が突き刺さらない。普通のゴーレムよりも固い」
メーベルの鎖鎌はゴーレムに突き刺さったものの、効果は薄かった。メーベルはそのまま刃を引き抜く鎌を手元に引き寄せた。
「多分、避ける素振りを見せないから防御能力が高いのだろう。単純に力で押し切るしかないな」
フィースは大体確認できることは出来たのと、これ以上調べても効く技がないかもしれないと思っていた。調べても意味ないかもしれないと思ったフィースは早速ゴーレムと戦闘を始めることにした。
「それしかないわね」
同じ実力の冒険者であるメーベルもフィースと同じ考えに至っていた。
「私が囮になるからメーベルがゴーレムをお願い」
「いつものね」
フィースが頼むと何をやるのか分かっていたメーベルは察したように準備が出来ていることを伝えた。
「師匠私が囮をしましょうか?」
レノールはフィースの手助けをするため、進んで囮役を買って出た。
「レノールとジャネットでは難しい。確実に倒すなら私の方が安全だ」
フィースはレノールの実力ではあのゴーレムには危険が伴うと思い、ジャネットも含めて安全のため断った。
「分かりました」
フィースに断られるとレノールは大人しく下がった。
「メーベルさん私がフィースさんに補助魔法を付与してもいいですか」
二人を手伝うことがないとかと探していたメーヴィスは二人の作戦を知らないので参加することが出来なかったが、邪魔にならないように魔法で補助することなら作戦を知らなくても出来ると思った。
「よろしく」
メーベルはメーヴィスの提案を受け入れた。
「レイズハイディフェンスエナジー、レイズハイアタックエナジー」
メーヴィスは二人に防御と攻撃を上げる魔法をかけた。魔法を付与されたフィースはそのままゴーレムに接近した。フィースがゴーレムに近づくとゴーレムの視線はフィースに移っていた。ゴーレムがフィース目掛けてパンチを繰り出してきたが、ゴーレムのパンチは遅くフィースは軽やかなステップでゴーレムの攻撃を躱し続けていた。ゴーレムがフィースを捉えることは難しそうだった。
フィースも躱している隙に剣を使ってゴーレムの体を切り付けたが、かすり傷程度しか損傷を与えることが出来ていなかった。フィースも致命傷を与えられていなかったので、フィースだけでは、戦闘が長引きそうなのは明らかだった。
フィースがゴーレムと接近戦しているおかげで、安全が確保されていた。ゴーレムから攻撃される心配が薄れたメーベルの魔法を発動する準備がしっかりと整っていた。そして、メーベルは手と足にしっかりと力を入れて魔法を発動した。
「スーパーウインドキャノン」
メーベルが手を前に出した瞬間、超圧縮された空気が砲弾のようにゴーレム目掛けて高速で飛んで行った。空気の砲弾は大きめの音とともにゴーレムに着弾した。ゴーレムの胴体をボロボロにして大ダメージを与えたが、倒し切れてはいなかった。
「流石に一発だけでは倒せないわね。スーパーウインドキャノン」
メーベルはさらにもう一発同じ魔法を胴体目掛けて放った。ウィンドキャノンが先程ボロボロにした胴体に当たるとゴーレムの胴体部分はほとんど弾け跳んでいた。流石に体の半分を失ったゴーレムは動かなくなっていた。ゴーレムが動かなくなるのと同時に3つ目の扉が動き始めていた。荒木は誰にも気づかれることなく、すでに扉の前で開くのを待っていた。
やっぱり、ゴーレムが倒れると同時に開く仕組みか。さて、この遺跡の最深部のお出ましだ。あれは…。
扉が開かれた先には縦横数百メートル単位に広がり、十数メートルほどの高い天井で大きな空間が広がっていた。天井は大きいな柱で支えられていた。
一番奥の壁には大きな壁画があった。荒木はそちらの方が気になり周りなど、どうでもよくなっていた。
何かが争っている絵だな。羽とかが生えているところか。この世界の住人だとは思うんだけど、分からないな。近寄って見てみるか。
荒木は何事もなかったかのように開かれた扉の中に一足先に入っていった。フィースたちはまだ荒木が先に行ってしまったことに気づいていなかった。
「流石ですね。メーベルさん」
レノールはフィースが信頼しているメーベルの魔法の威力を見て、素直に感心していた。
「魔法の私よりも洗練されていてすごかったです。とても参考になります」
メーヴィスもメーベルの魔法が今後の魔法強化にとても参考になる情報を得た嬉しさのあまり興奮していた。
「ま、まぁ、それはどうも」
メーベルは興奮しているメーヴィスに若干引いていた。そんな中、ジャネットとフィースはゴーレムに近づいて、体を調べていた。
「すごい体」
「そうだな。体内は普通だが、このコーティングみたいなもので水と火を防いでいたみたいだ」
ジャネットがゴーレムの体に触れて岩石の硬さを確かめていると、フィースが補足してくれた。
「へー、そうなってるの」
メーベルはフィースが手に持っていたゴーレムの破片を覗き込んだ。その後を続くようにレノールとメーヴィスも珍しいゴーレムを見るために、ゴーレムに近づいて、目新しいその体を観察していた。
ゴーレムの体を調べるのに夢中になっていたフィースたちだったが、一通り調べて顔を上げたジャネットは気付いてしまった。
「あれ? 荒木はどこ?」
ジャネットもまた荒木は気になる存在なので、注意を払っていた。そのため、自然とジャネットは荒木を目で追うとした結果、荒木がいないことに偶然気付いた。
「荒木くん?」
フィースは荒木という危険な単語を聞いてすぐにゴーレムから意識を戻し、荒木を探した。
「あれ? まさかまた」
何か遺跡に対して良からぬことをしでかしているかもしれないと思い、メーベルは荒木を探し始めた。他のみんなも探し始めた。そして、レノールが荒木をその視界に捉えた。
「師匠、見てください。もう先に部屋に入っています」
レノールは大慌てでフィースとメーベルに分かるように伝えた。
「積極的ですね」
メーヴィスは荒木がすでに扉の向こう側で何かをしている光景を見て、何者の意見にも動じない姿勢に感心していた。メーヴィスは情報を強引に抜き出す姿勢にも通じるところがあると思い、見習おうと思った。
それぞれが荒木を違った理由で気になり視線を送っていると、ズドーン! という音が鳴り響くとともに何かが勢いよく崩れる音が聞こえてきた。
「何?」
ジャネットは異様に大きな音に不安に駆られた。
「荒木くんか?」
フィースはまた荒木が何かをしているのではないかと見たが、何もしていなかった。そして、みんなの耳に大きな足音が聞こえた。




