第三十八話 不安しか残らなかった…
「何をした?」
その光景を見ていた荒木と同じチームの面々は荒木の動きを視認できなかったので、何をしたのか全く理解出来なかった。そのため、みんなは荒木に直接聞くしか出来なかった。荒木は馬車に向かう足を止めて、話した。
「槍の突きを高速でやっただけだよ。メーヴィスのウインドニードルとも一緒だよ。その証拠に辺り一帯に小さな穴が開いてるだろ」
周りの木には小さい穴が無数に開けられ向こうの景色が見えていた。
糸でモンスターたちを突いただけだからな。ほとんど槍の突きと一緒で、特別な技でもない。
荒木は別に基本中の基本の単純な技だったので、容易く何が起こったのかを気になっていた皆に話してあげた。
「モンスターは減ってしまったが残りはよろしく」
荒木はみんなと戦うモンスター倒したことを詫びつつ、馬車の中へと戻っていった。
「荒木さんは驚くほど強いですね」
「まぁね」
レノールは荒木の正体を知っているので当然といったように答えた。
「うん。うん」
荒木の残した結果を見ていたジャネットも頷いていた。
「私達でも少しかかるモンスターを一瞬で…」
「私たちよりも強いのは確かだろう」
フィースとメーベルは初めて見る荒木の戦闘で感じた実力差から衝撃を覚えていた。二人は驚きのあまり呑気に馬車に戻っていく荒木に声を掛けることが出来なかった。声を掛けようとした時にはすでに、左右と後ろからモンスターが遺跡調査チームの馬車列を目指してきていた。
「3人はここを頼んだ。私たちは後ろの冒険者たちの応援に行く」
荒木によって前方の強いモンスターたちの脅威がなくなったフィースとメーベルはこの場所には十分人手が足りていると思い後ろの支援に向かうことを決めて、フィースがレノール、ジャネット、マーヴィスの三人に告げた。
「こちらは私たちだけで問題ありませんから、師匠は行ってください」
「私も大丈夫です」
「行っていいですよ」
三人が返事をするとフィースとメーベルは後ろの支援に向かって行った。
「二人の体を魔法で強化します」
メーヴィスは二人に了解を取るために声を掛けて聞いた。
「お願い」
「よろしく」
「レイズハイディフェンスエナジー、レイズハイフィジカルエナジー」
二人の許可をもらったメーヴィスは二人の体を魔法で強化した。強化された二人は短剣と片手剣を抜き放ち、戦闘態勢に入った。
「準備も出来たところで、まずは私の制圧攻撃で敵の数を減らしましょうか?」
「もちろん」
「この数なんだから遠慮しないでいいわよ」
ジャネットとレノールは試験官がいないため、無理にアピールしなくてもいいと思っていた。そのため二人は魔法が得意なメーヴィスに先制攻撃を任せた。
魔法を発動しようとメーヴィスは馬車の前に立ち、両手をモンスターが来ている左右に広げた。
「なら、張り切っていきましょう。テンペストフォーリー」
メーヴィスが風属性の魔法を発動すると左右から近づいて来るモンスター集団に向かって、鋭い風が入り乱れた暴風が襲い掛かった。メーヴィスが発動した魔法によって、モンスターを含め森ごと、見るも無残な姿に変貌させた。メーヴィスの魔法によってモンスターの大半は地面に倒れ伏していた。
「やる~」
「すごい魔法ね」
二人はメーヴィスがもたらした魔法の威力に感嘆していた。
「ふぅー、後は支援に徹しますのでお願いします」
メーヴィスは魔法を発動して疲れたのか一息ついてから、交代した。
「もちろん」
「任せてね」
メーヴィスの魔法を見たジャネットとレノールの二人は左右に分かれて、モンスターに近づいた。
「ウインド、ウインドニードル」
左に行ったジャネットはまずその場に風属性の魔法で風を発生させると砂を巻き上げて視界を悪くした。その後、ジャネットはメーヴィスと同じ風属性の魔法を発動した。風の棘はメーヴィスに比べて量も威力も少ないが、正確にモンスター達の急所に目掛けて飛んで行き、効果を十分に発揮された。そして、ジャネットは棘によって、混乱状態になり、動きが止まっているモンスターに砂が舞う中さっそうと近づき、短剣をモンスターの急所に短剣を突き刺して倒した。ジャネットはモンスターを倒すと気付かれないようにすぐにその場から離れ、再び襲い掛かるヒット&アウェイを繰り返して、モンスターを少しずつ危なげなく順調に数を減らしていった。
「スピードアップ、ソイルウォール、ウォーターフォグ」
右に行ったレノールは魔法で体を強化して速度を上げた。レノールは森に入ると土属性の魔法で土の壁を自分の後ろに作り退路と支援を断った。土壁が出来るとレノールは水属性の魔法で白い霧を発生させて、ジャネットと同じようにモンスターの視界を悪くした。土壁は霧を他の冒険者にも行かせない効果もあり、他の冒険者にもレノールなりに配慮していた。準備を整えたレノールはすぐにモンスターとの間合いを詰めて片手剣でモンスターの急所を切り裂いて行った。
「ストーンポット」
さらにレノールは土属性の魔法で尖った石の礫を魔法によって作り出し、モンスター目掛けて飛ばした。レノールの石礫はジャネットのウインドニードルとは違いモンスターを倒せるほどの威力があった。そして、視界の悪い中レノールは魔法と片手剣の両方でモンスターの数を減らしていった。
そんな二人の姿を荒木は呑気に眺めていた。余裕そうな表情から二人はこのままの状態を維持し続けられそうだった。
あの二人ならやりがいがある程度の敵の量だろうな。それだと、いい試験にはならないが、俺が鍛えるわけでもないから、そこまで本気にしなくてもいいか。
荒木は満足がいかなかったが、そこまでみんなに手を掛けてあげる気にはならなかった。
そして、フィースとメーベルは後ろの冒険者たちと合流していた。
「皆さん分かっていると思いますが、モンスターの集団が迫って来ています」
「フィースさん。前は大丈夫なんですか?」
「問題ないので、私と一緒に後ろから来るモンスターを倒しましょう」
「今回は凄腕の受験者がいるのね」
「えぇ、まぁ」
フィースはこの状況を引き起こしている荒木が褒められているとなると苦い顔で答えざるを得ないかった。
「事態が事態ですから、まずは周りの被害は気にせず魔法で一気にモンスターを減らしましょう」
フィースは迫ってくるモンスターに容赦なく先制攻撃を行うことに決めた。
「そう来なくっちゃ! じゃ、私が左をやるからフィースは後ろか右をお願い」
「わかったわ」
「グラントブレイド。長硬輪!」
メーベルは鎖鎌に切れ味の鋭い魔法を付与して一つの刃に変えた。メーベルはモンスター群に向かって、鎖鎌を最大距離まで広げて一振りした。鎖鎌はそこら辺に生えている木々ごとモンスターを切り裂いて行った。
その後に続くように他の冒険者たちが魔法を発動してモンスターを全滅させた。残りの冒険者たちは、残り少ないモンスターたちに接近して殲滅していった。
荒木はその姿を馬車の後ろから興味深く見ていた。
メーベルは鎖鎌を武器に使うのか渋いね。
荒木は渋い顔になり目を細めて頷いた。
「後ろはランクAAチームが守っているから大丈夫でしょうが、皆さんは後ろの応援に行ってください」
「分かりました。ここはフィースさんに任せます」
フィースがSランク冒険者だということを知っている他の冒険者たちはその指示に従い、後ろの応援に向かって行った。
「ハイスピードアップ、ウォーターヤーン」
フィースはレノールと同じ様に体の動きを早くして、モンスターに向かって水属性の魔法を発動した。フィースが生み出した水は木々を縫いモンスターたちを荒木の糸と同じ様に貫いて行った。水はそのまま留まり続けていた。フィースは剣を抜き放ち、高速でモンスターたちをレノールとは比べ物にならないほどの速さで切り伏していった。
やっぱり、フィースはレノールと似たような戦闘になるよね。でも、普通過ぎてつまらないな。
荒木は単純にレノールから動きが想像できて、確認のためフィースを見ていたがだいたい同じ動きだった。しかし、動きが想像できてしまった荒木にとっては動きが単純で、何の面白みもない退屈な姿だったので飽きていた。
「これで最後みたいね」
みんな疲れてはいたが、多少の疲労がたまっただけでモンスターの大群は終わってしまった。戦闘が終了すると、一旦休憩をしたかったが、遺跡も近いのと他のモンスターが来る危険性を考えて馬車を走らせた。
「うーん。やっぱり、もったいない」
みんなが極限状態に置かれる光景を見たかった荒木はモンスターを倒さなければよかったなと思っていた。
「それで荒木くんは何でこんなことをしたんだ?」
フィースは仲間を危険にさらしたことに対して、荒木に怒っていた。
フィースは仲間思いで優しい性格みたいだから、仲間を危険な行為にさらすのは嫌うのは当然か。
荒木はフィースが大体どういった教育方針でこの依頼で昇格試験も兼ねさせてあげているのか理解していた。
まぁ、ここは正直に話してあげよう。
「完全な善意だよ。善意。モンスターがたくさん来て経験を積んだ方がいいだろうから、いい練習になるだろうと思ってね」
「あの量では死者が出ていたかもしれないんだ!」
最悪の事態を想像できていたフィースは軽い感じの荒木の態度に少し強めの声で怒った。
「戦闘にリスクはつきものだ。あの程度で死ねるのなら幸せだよ」
「確かにリスクはつきものだが、まだ遺跡だってあるんだぞ」
フィースはこの先の冒険者の体力を考慮に入れて無理のないように調整していたようだった。
フィースは甘いな。こういう試験は最初っから体力がスッカラカンの方がいいのにな。
「そんな生温い世界かな? 冒険者は死ぬリスクもあると肌身に教えてあげた方が無駄な犠牲も無くて優しいと思うけど」
荒木は暇だったのでフィースの方針に反発してみた。
「荒木だってその師匠にそう教わらなかったの?」
荒木がフィースに反発すると、その光景を良くおもわなかったのかレノールがフィースを助けるために入ってきて、少し抑え気味に荒木の師匠を引き合いに出した。
「そう教わらなかったな。俺はフィースとレノールと違って修行の初戦闘から今に至るまで最初っから死と隣り合わせだったよ」
「そんなものは修行ではない。死に急ぐようなものではないか?」
フィースは荒木の受けた修行を危ないときっぱりと否定した。
俺もそう思ったが、実際強くなっているから間違ってはいない。
「俺の受けた修行は普通の人ならすぐに死ぬよ。だから強くなる。それにこの戦力差なら新人どもが束になれば疲れるだけで普通に倒せる。死地とも到底呼べない」
荒木は流派の修行がおかしいことは理解しているが実際効果は出ているので、効果を軽く言いつつ、今回はもっと優しいことを説明した。
「そんなもの予測できないではないか」
「ちゃんと俺がモンスターは選別しておいたから頑張れば死人は出なかった」
荒木はしっかりと準備していた事実を伝えてあげた。
「準備していたというのか。もし、死んだら荒木くんはどう責任を取るつもりだったんだ?」
荒木の手によってモンスターを操作されていたことに驚きつつも、フィースは冒険者が死んだ場合を荒木に聞いた。
「もしもはないよ。ちゃんと、死なない程度には調整しておいたから。結果は今の通り何も問題は起きなかったから平気、平気」
荒木は怪我人くらい出るだろうと予測は出来ていたが死人は出ない様にちゃんと配慮してあげていた。
「じゃ、荒木くんを超えるモンスターがきたら」
「そうなったら俺がいる。ただそれだけだ」
みんなには荒木が先頭に立って戦うと宣言したように見えた。
俺が独り占めする。他の人には手出しを指せない! って言いたかったけど、目的がばれて獲物を横取りされかねないからな。隠しておかないと。
荒木の本当の目的がそれだったが、荒木は横取りされる可能性を考えて本当の意味ではないが戦うと似たような意味で言っただけだった。
「何故そんな危険を冒す」
フィースは自分でも荒木と同じ行動をとるが、荒木が何のために危険を冒して戦うのかが想像に及ばなかった。
「それは、俺の宿命であり、生きる意味であり、修行であり、人生だから、当然」
荒木は立ち上がり胸を張って答えた。
「当然か。はぁ」
全然反省の色を見せずあまつさえ自信満々の態度で変わりようのない頑固さにフィースは怒りを納めて、荒木を叱るのを諦めた。
諦めたか。少しフィースにアドバイスをしてあげよう。
「一つ言うけど、フィースの経験では分からないが、本当の実力は死線の時にしか見えないんだよ」
荒木は諦めてくれたお礼にフィースに今までの経験を教えてあげた。
「それに今回は様子みだけだ。危険はプレゼントしていないレノールは知っているだろう」
「確かにそうだけど、不安だ」
荒木から問われて思い出すと今回の戦闘は前回のダンジョンよりもまだまだ生易しい事実にレノールは気づいた。しかし、これから大変な戦闘になる可能性を拭い切れないレノールには不安しかなかった。
「そうね」
フィースもレノールに続き同意した。が、この状況を作りだしたのが荒木だと知ったみんなも同意した。この場には荒木が何か余計なことをしでかすのではないかという不安しか残っていなかった。




