第三十七話 何故か敵が来るサプライズ
食事も終わり、馬車は移動を再開した。そして、ローテーションが変わりジャネットが休むことになった。少し経って、再びモンスターが襲ってきていた。
「またクオットね」
まず隣に座っていたレノールがすぐに降り左側に5匹のクオットを確認したので左の森からクオットが現れるのを待った。レノールに合わせてメーヴィスが馬車を止めた。メーヴィスその場に留まりながらレノールの取りこぼしを警戒していた。
「フィジカルアップ、スピードアップ」
レノールは魔法を唱えると、魔法が体の内部から纏わりつき、レノールの肉体を強化した。
「…」
荒木はレノールの魔法を見つめていた。
言葉通り、肉体とその速度を上げたのか。レノールは俺の肩にいる姿しか何故か記憶にないが、近距離戦闘を行うのか。
酷いことに荒木はレノールが肩にいる存在としか認識していなかった。
レノールが準備を終えて待ち構えていると森から5匹のクオットがレノールに襲い掛かってきた。レノールはジャネットのヒット&アウェイ的戦法ではなく、荒木の予想通り近距離で戦闘を行い始めた。
「ウォーターヴィードゥスティキー」
レノールは水属性の魔法を唱えた。レノールの目に小さな水滴が現れた。レノールはその水滴を5匹の両目に正確に飛ばして視界を奪った。5匹から視界を奪うとレノールはジャネットとは違うように堂々と正面から弱点の一つである喉元を切り裂いていった。視界を奪われた5匹は抵抗することなく地面に倒れ伏していった。
「出して、いいよ」
戦闘を終えたレノールは何事もなかったかのように喜びもせずに馬車に乗り込んだ。レノールは師匠に良い姿を見せたくてスムーズに動いていた。
「分かりました」
メーヴィスは再び馬車を動かし始めた。それから、少し達またレノールはモンスターが来るのを確認した。
「また。またクオットね。来るなら違うのがいいけど、仕方ない」
レノールは同じ技で同じクオットたちを倒していった。そして、クオットとの戦闘が数度繰り返された。レノールはほとんど同じ繰り返しになったが、疲れているのは確かだった。
6回の同じモンスターの戦闘で疲れたのか。来るのが分かっていたのにな。体力がないな。
荒木はレノールが予想よりも体力が少なかったので、ガッカリしていた。
「そろそろ交代する?」
ジャネットはレノールが疲れているのが分かった。ジャネットは休憩して体力が回復していたので、交代を提案した。
「何で私の番だけこんなにモンスターが来るのよ」
レノールはジャネットと比べて6倍のモンスターとの戦闘がおかしいと思い、心当たりのある荒木を疑う視線を向けながら言った。
「クオットだけで疲れて交代とは運がいいな」
「確かにそうね。ジャネットお願いしてもいい?」
レノールは荒木の一言で師匠であるフィースに戦闘を頑張っている姿を見て貰えていた。フィースに見て貰えたことにより、レノールはしっかりと評価されていることなので、満足はしていた。そのため、レノールは納得してしまった。
「いいですよ」
ジャネットが交代して、レノールは休憩できるようになった。次にメーヴィスが周囲警戒と戦闘を行う番になっった。
「私の番ですか。皆さんに負けずにいいところを見せますよ」
戦闘を行える可能性が高いと思っていたメーヴィスは試験官もいるので張り切っていた。
そして、レノールが休憩していることにより、荒木がローテーションに加わっていないことに何も知らないフィースが気付いてこの場を仕切っているレノールに聞いた。
「レノール。なんで荒木くんをローテーションに入れて上げないの?」
「その方が安全だからです」
「でも、荒木くんも相当な実力者だと思うけど」
「実力者すぎるからですよ。荒木は危険な道を通ろうとする危険な性格ですよ」
レノールは荒木によって連れていかれたダンジョンへ向かう道中、ダンジョン内部どれをとっても危険しか記憶にはなかった。
「そうなの?」
「そうなんです。師匠も荒木と行動を共にしていればその意味が分かりますよ」
誰も信じてはくれないと思っているレノールは慕うフィースにさえ実際に体験してみなければ分からないだろうと、詳しい詳細は話さないことに決めた。
「ひどいな」
「あなたと一緒に行動した私が言うんだから、間違ったことは言ってないわよ」
「そんなことするわけないじゃん」
「それは真実を見てもらってから判断してもらいましょう」
荒木が否定していたが、どうせ大変なことになるだろうという不安があったのでレノールはその時が証拠になり信じてもらえるだろうと思っていた。
「私としてはみんなが納得していればいいだけど…」
荒木がレノールに散々言われている姿を見て可哀想と思ったフィースはレノールに補足を入れておいた。
「みんなは納得しているみたいよ」
役割を決定した場所を立ち会っていたメーベルがフィースに伝えた。
「なら、問題ない」
フィースは決まってしまったものは仕方ないと判断した。
そして、メーヴィスが周囲の警戒を始めた。ジャネットが魔獣を操ること数時間が経った。メーヴィスがモンスターを見つけ、戦闘が始まろうとしていた。
「来ました。モンスターです」
「分かった。止める」
ジャネットが即座に止めてメーヴィスを援護出来る態勢に入った。メーヴィスも馬車が止まると降りてその場に留まってモンスターが来るのを待ち構えた。森の左右からモンスターの影が見えた。
「あれはDランクのワーウルフですね」
メーヴィスはレノールとジャネットが戦ったモンスターよりも弱かったので、物足りなさを感じていたが、倒さないといけないので、渋々体を動かし始めた。
「ウインドニードル」
目には見えない風の棘が両方の森に向けられて無数に生成された。メーヴィスはその風の棘を解き放った。大量の風の棘は無差別に木を貫きはしないものの木々の中心まで傷つけ、余った棘たちが木々の隙間と通り抜けて、ワーウルフに直撃した。
見えない棘を食らったワーウルフたちは野生の勘で、前方からくる見えない何かを感じ取って、一応腕を前方に出して防御の態勢をとった。しかし、ワーウルフの防御も虚しく風の棘を受けた体は一瞬で無数の傷を付けられ致命傷を負った。そして、周囲の脅威は排除された。
やはり、メーヴィスは遠距離攻撃か。
荒木はメーヴィスが思った通りの戦法だったので頷いていた。
ジャネットとレノールは互角だけど、メーヴィスは新人の中で一番強いかもしれないな。
荒木は今の戦闘から、3人の力量さを総合した結果メーヴィスがこの中で一番強いと思った。
「お疲れ! メーヴィスさんって魔法使いなんだ」
魔獣を操縦していたジャネットが魔法を主体に戦うメーヴィスの姿を見て、興味を示していた。
「はい。私の種族は身体能力が普通の代わりに魔法が得意ですから」
メーヴィスは馬車に乗り込みながら、種族の特徴を話した。聞き耳を立てていた荒木はその情報をしっかりと頭の中に記憶した。
「今日は運がいいみたいですね」
「またか」
「またDランクですが、今度はオークですね。降りるのは面倒ですから、近づく前に倒します。ウインドウニードル」
メーヴィスはそう宣言すると、風の棘を迫りくるモンスターの目の前に発動してた。メーヴィスは馬車にたどりつく前にオークたちを倒した。
「やるね」
「モンスターのランクも低いですし、それほどでもありませんよ」
メーヴィスはジャネットに褒められたが、モンスターのランクも低いので素直に褒められていると思えていなかった。
「それにしても、今日はやけにモンスターが多いいな」
「うん、珍しいね」
フィースがそんなことをつぶやき、メーベルもその違和感に同意した。そして、馬車は数時間起きにモンスターが迫って来ていたが、ジャネット、レノール、メーヴィスの前にモンスターたちは成すすべもなく片付けられていった。
そして、時間が経過し、遺跡までだいぶ近くなってきた。メーヴィスが周囲を警戒する順番で、レノールは休んでいた。そんな馬車の荷台で周囲警戒を行っていたフィースが最初にモンスターの大群が全方位から迫ってくるのに気付いた。
「このモンスターの大群はいったいなんだ?」
「モンスターパニックとかいうダンジョンからモンスターが大量に出て来る現象だよ。きっと」
荒木は似たようなことが起きている資料を見たことがあったので、取りあえずそれらしいことを言った。
「フィースこの量は」
「分かってる。私たちにとって他は数に入れないが、クオットが百十数体、ワーウルフが約二百、オークが百十数体、昇格者や後ろの冒険者チームはこれで手一杯。それに加えランクBBのラディベラーが数十体、ランクAのオーガが十数体これは厳しいだろう」
「ラディベラーとオーガは私たちで倒おそう」
「そうだな」
最後まで試験官として待機を予定していた二人も戦いに参戦することに決めた。そして、緊急事態に気づいた遺跡調査チームは全員馬車から降りて、モンスターを向かい討つ準備を始めた。
そんな慌ただしくなっている馬車の集団の中。荒木とレノールが至って普通の感じだった。レノールは荒木の横にあるバックに付いている袋を見つめていた。
「これは…」
レノールは荒木のバックに付いているものを取ろうとした。荒木はすぐにレノールに手渡した。
「あっ、バレた? 流石に同じ手は通用しないか」
荒木は強烈に印象に残っているレノールを同じ手で騙せるとは思っていなかったので当然の結果として受け止めた。
これはみんなへのプレゼントだからね。気づかれても問題ない。
荒木は善意でみんなにサプライズプレゼントととして与えて上げていた。
「師匠これを見てください」
レノールは師匠にこの状況になった荒木が持っていた証拠を手渡した。
「まさか魔呼びの臭い袋か」
モンスターが定期的に近づいてきていたのはモンスターたちがこの臭いに釣られて来ていたからだった。つまり、荒木の仕業だった。
「正解」
半分だけどね。
魔呼び袋だけではこんなに大量にモンスターが襲って来ることはない。全方位からのモンスターの大群が迫ってきているのは例によって糸で物理的に誘き寄せているだけだった。
「理解できましたか師匠。私が言いたかったのはこういうことです」
レノールは荒木が行動を起こしたので、フィースに荒木が面倒な事実をここで信じてもらうために言った。
「レノールが言っていたのはこのことか」
フィースは納得して頷いた。
「そうです。荒木といるとこうなるんですよ」
「まぁ、それは後で話すとして、荒木くんも手伝いなさい」
フィースは荒木を叱るのを後にして、迫りくる脅威を先に排除することにした。フィースは荒木にも強制的に手伝わせることにした。
「俺が倒すの? 意味ないけど?」
せっかくみんなのために用意したプレゼントなのに。もったいないな。
荒木はみんなのために用意してあげていたので、自分がモンスターを狩っていいものなのかと思って少し考えていた。
「魔呼びでこれほどモンスターが来るのはあり得ないから、全てが荒木くんの責任じゃないけど、一端は関与しているんだから手伝いなさい」
「本当にいいの?」
「早く!」
前方から大量にモンスターが表れて時間が無くなってしまったので、フィースは怒りとともに荒木に強い口調で急かした。
そこまで言われれば仕方ない。みんなの獲物を横取りしてしまう形になってしまうが、やるか。
「分かった。力を見せるためにも、俺がこの迫りくるモンスターの中で一番強いモンスターがたくさんいる前方は全て片付けてあげよう」
前方のモンスターの大群が先に到着していた。荒木は早く狩りたかっただけだが、一番強いモンスターを口実にそのままモンスターが迫って来ている前方に向かった。
そんな啖呵を切った荒木だったがあっけなくモンスターの大群に呑み込まれて行く、姿が見えた。
「荒木くん!?」
フィースも含めてみんながモンスターの波に飲み込まれた荒木を見て、驚きながらも多少心配していた。
モンスターの大群に気づかれることもなく荒木は前方から来たモンスターの大群の中心部分に容易く到着していた。荒木は糸をこの中で誰の目にも止められない速さで伸ばして消した。最小限の動きで最速のためこの場にいる誰の目にも映ることはなかった。誰も荒木の糸を見ることが出来なかった冒険者たちは荒木が何をしたのか気づかなかった。そして、荒木を中心に円状に綺麗に倒れているモンスターの姿しか見ることは出来なかった。
「はい。終わり」
前方からくるモンスターを全て一瞬で倒した荒木はただつまらなさそうに、馬車へと戻っていった。




