第三十六話 異世界人ってすごい
出発してから少し経った。辺りが木々に囲まれた頃、荒木がその気配にまず気付いたが、興味は惹かれなかったので無言のまま外を眺めていた。遅れること数時間、次にフィース、メーベルの3人と複数の冒険者がモンスターの存在に気付いていた。しかし、みんな昇格受験者のテストなので、警戒しながらも平然を装い他の冒険者の反応を眺めていた。
「モンスターがここに向かってきているみたいですね」
一番先頭の馬車で警戒していたジャネットが気付いた。荒木は後ろで荷台の縁に体重をしっかりと掛けて、だらしない格好で景色を眺めていた。
一応協力する姿勢は見せないとな。
「手伝おうか?」
動く気配が一切ない格好で荒木は口だけ動かしていた。ジャネットとレノールの二人以外は馬車の中にいたので荒木が口だけなのは理解できていた。
「私一人で大丈夫」
ジャネットは一人で自信があったので、荒木の申し出を普通に断った。ジャネットはモンスターの気配に集中していたので、荒木の失礼な態度に気づいていなかった。
そして、荒木が景色を眺めていると、右側の森の中を馬車と並走しながら木々を縫うように四足歩行の大きめの狸のような獣4匹がこちらに狙いを定めていた。
普通の獣か。虎より少々小ぶりだが、力は上のようだな。でも、この人数なら隙を見せない限り襲ってきそうにないな。
獣に興味を失った荒木だったが、そのままつまらなそうに獣を眺めた。
「来たようね」
ジャネットは獣の姿を捉えると走行中の馬車から飛び降りて茂みの中へと突っ込んで行った。茂みに入るとジャネットは肌に添わせるように上手に隠し持っていた片手剣を抜き放っていた。
「ちょっと、ジャネットさん? 師匠どうしますか?」
魔獣を操っているレノールは一番信頼している人に頼った。
「任せる」
「分かりました。皆さんは馬車の中に居てください私が馬車に近づくモンスターを倒します」
レノールはフィースに断られるとすぐに馬車を止めて、ジャネットの様子を見た。レノールはこの場所に来ているモンスターを倒すことに決めた。そして、遠くはジャネットに任せてレノールは近づいて来る敵に重点を置いた。レノールは短剣を手に獣を向かい討つ体制に入った。
「あれはCCランクのクオットですね。よろしくお願いします」
メーヴィスはレノールに馬車にいるように言われたので、素直に指示を聞いた。
クオットに突っ込んでいったジャネットはクオットの後ろに回り込み、急所である首を狙って片手剣を横に振って1匹を仕留めた。残りの3匹がジャネットに向かい合った。
「ウインドブレイド」
ジャネットはすぐに風の魔法を発動して1匹を真っ二つにして、仕留めた。ジャネットは残り2匹とにらみ合いが始まった。
「ウインドブレイド」
現状を打破するためにジャネットは有無も和さず風の刃でもう一匹を仕留めた。残る一匹の目の前に小さな丸い岩が現れた。小さい岩はジャネットに向かって飛んできた。小さい岩でも速度を持っていたため、当たれば重傷は免れないような威力があった。しかし、ジャネットなら十分躱せる速度だったため、難なくクオットに近づくように前方斜めに飛んで躱した。クオットの間合いに入ったジャネットはそのまま片手剣でクオットの喉元を切り裂いて仕留めた。そして、戦闘は終了した。
戦闘を終えたジャネットは片手剣に付いていた血を払い、片手剣をしまうとクオットに目もくれずにこちらに戻ってきた。
「終わったから走らせていいよ」
レノールはジャネットが乗ると魔獣を再び動かし始めた。
「お疲れジャネットさん。私の出る幕がなかったよ」
「あの程度のモンスターなら平気ですよ」
レノールとジャネットの二人は引き続き前で警戒と操縦を行いながら、仲良く話し合っていた。
それから、遺跡調査一行は開けた場所を見つけるとそこに馬車を止め各チームごとに集まり休憩の時間に入っていた。荒木以外の人は昼食をとるため、用意をしていた。遺跡に行くまでは作って食べるようだった。荒木は固形タイプのいつもの物を食べる予定だったので、ボーっと遠くを眺めていた。
しっかりと食べるんだな。つまり、遺跡に調査は結構長くなるということか。
荒木は依頼が随分と長くなるとっ思ったが、何かを考えていた。準備をせずボーっとしている姿を見て、気になったのかフィースが馬車から降りて荒木の真正面に来た。
「やはり、道中はつまらないか?」
「何もすることがないからな」
「まぁ、着くまでの辛抱だよ。それよりも準備はしないのか?」
「用意しなくても食料は持参してある」
荒木はみんなと同じようにバックを持っていたので、バックから携帯用の美味しくないオートミールの塊を取り出して見せた。
「携帯食料か。それだけで足りるのか」
フィースは荒木の見た目から成長期だということを思い、少なめの食料でお腹は減らないかと心配してくれていた。
レノールが見ていないから気の世界から取り出しているところを見せて上げるか。
「かなりの量があるから心配ない」
荒木は手から携帯型のオートミールを取り出して、いくらでも持てることを見せて上げた。
「なるほど。ボックス持ちか」
フィースは荒木がたくさん食料を持てることをアピールしている姿を見ると静かに理解した。
「そう。だから、心配はない」
「でも、今回は用意してあるから、荒木くんも一緒に食べよう」
食事を用意していたフィースは誘ってきてくれた。
食べる気はないが、何か興味ある話が聞けるかもしれないから、一緒に食べたほうがいいな。
「分かった。集まるよ」
「荒木。師匠と何を話してるの?」
フィースと静かに話しているとレノールが興味を持ったのか急に入り込んできた。
レノールか。大好きな師匠が嫌っている俺と会話しているところが大方気に食わないんだろうな。
荒木は師匠を溺愛しているレノールの行動をだいたい把握していた。
「一緒に食べようとフィースから誘われていただけだけど」
荒木は気の世界の話は抜いて、だいたい合っている内容を話した。
「本当ですか? 師匠」
荒木が嘘をついているとレノールはフィースに直接聞いた。
まぁ、レノールには最近ほとんど嘘をついているからな。信用されていないのは頷ける。
荒木はレノールが相当嫌っていることをしっかりと認識していた。レノールが嫌がってあまり気にしなくてもいいと思っている荒木はあまり反応を示さなかった。
「? そうだよ」
レノールが訪ねてきた意図が理解できなかったフィースは不思議に思ったが、荒木の言っていた内容は大体あっているので頷いた。
「そうなんですか。師匠は優しいですね」
「何か。子犬みたいだな」
荒木はレノールがフィースに精一杯気を使っている従順な様子から皮肉たっぷりに言った。
「犬って」
レノールはいつもより少し低めの声でツッコんだ。レノールはフィースが目の前にいたので、素を極力見せたくなかった。
「愛嬌も良く、子って、付けたんだけどどう?」
「…行きましょ。師匠」
レノールはため息をつきかけた。フィースにそんな間抜けな姿を見せたくなかったレノールは口を閉ざしてため息を殺した。ため息を堪えたレノールはフィースの手を引いて、連れて行った。
「どうしたの?」
いつもと違うレノールの姿にフィースは気になった。しかし、荒木がバックを持って付いてくる姿を確認したので、フィースはレノールの力に逆らわず引っ張られて行った。
付いていくと地面の上に布が敷かれて、その周辺で生の野菜や魚と生パンを料理しているメーベル、メーヴィス、ジャネットの姿が見えた。
新鮮な食材ばかりだな。
荒木は食材が新鮮なものに目を付けた。
長くなるから。今のうちに食べておこうということか。それも各チーム別。
荒木はこれからこのチームとだいぶ長い時間過ごすと予定されているのだろうと推測した。
「今回の依頼は長くなるからね。今のうちに新鮮なものを食べるんだよ」
分からない人が入るかもしれなかったのでフィースがみんなに新鮮な料理を作って食べる理由を言った。
「師匠今から行く遺跡は大きい遺跡なんですか?」
「あぁ、少し調べてみたが相当入り組んでて広そうだった」
「出来上がり」
料理は生料理のため大体切って、皿に盛りつけるだけと意外に簡単だったので、すぐに仕度が終わった。
「遺跡の話はあとにして食べようか」
「はい」
レノールの会話の途中だったがちょうど料理が出来たので、依頼の話は後回しにすることにした。レノールはフィースの提案だったので即座に受け入れて、座った。円形に座る形になったが荒木は一か所しか開いていなかったのでフィースとジャネット隣に座っていた。
「荒木くんは何がいい?」
フィースはあまり乗り気ではない荒木に気を使って、食べものを取ろうとしてくれていた。
お節介好きなのかこの人は。なんかずっとお節介を焼いてもらうのは面倒だから、一応ここで断っておかないと。
「そこまで気を使ってもらわなくてもいいよ。自分で取るから」
「師匠、荒木も断っていますからそこまでしなくてもいいと思いますよ」
フィースを挟んで師匠の様子を気にかけていたレノールがフィースに無駄な気を使わせないように配慮して、会話に入ってきた。
「遠慮はしなくていいぞ」
フィースはレノールの意見を無視して、なおも荒木に優しく話しかけてきた。
「大丈夫ですよ」
「むー、師匠の気遣いを断るとは」
さっきまで荒木に断らそうとしていたが、フィースがそのまま荒木を誘ったので、レノールはフィースが荒木を構いたいと分かった。レノールはそれでも断る荒木に気に食わなかった。
「よし」
フィースが関わると身代わり早いな。滑稽で面白いから別に気にしないんだけど。もう無視して少しだけ取ろう。
荒木は二人を無視して真ん中に並べられた食材を擦こいだけ用意された皿に取っていった。
「何が良しよ」
二人を無視して、食材を取った荒木がフィースを無視している姿を見て怒った。
「それしか食べないのか?」
フィースはもう慣れたのかレノールを気にせず荒木に聞いてきた。
「一応これも食べるんで」
荒木は携帯食料を手に持ってフィースに見せた。
「栄養があるからって、毎日そんなものを良く飽きないで食べるよね」
毎回同じものを食べていることをしっかりと見て、味も知っているレノールは今でも体作りに派遣でいる荒木を見て感心していた。
「美味しいのか?」
「はい。不味いですよ」
レノールははっきりと答えた。
「まぁ、美味しいという食べ物ではないな。…はい」
荒木はフィースが興味を持っていたので新しいものをバックから取り出してフィースに差し出した。
「私にも頂戴」
「はい。どうぞ」
メーベルもフィースと同じく携帯食料を欲していたので、レノールの食べたことのない人に携帯食料を配った。フィースとメーベルは恐れることなく携帯食料を食べた。
「レノールがいう程不味くはないぞ」
「うん。確かに普通ね」
レノールの拒否する言葉に反して二人は納得しながら普通の食べ物を食べるような感じだった。
「あっ、お二人は確かハーフエルフでしたね」
「ハーフエルフなんだ。味覚が違うのか」
体の肉付きが人よりも高くエルフよりは低いくらいで、人間ではないのは分かっていた。が、ハーフエルフだとは気づかなかったな。
荒木は二人がハーフエルフということに気づけなかった。その事実を荒木は少し楽しげに思っていた。
「そうだな。私もメーベルもエルフ寄りの味覚だからな」
「味がないだけではありませんか?」
メーヴィスがしっかりと味を吟味すると、味がないだけに気づいた。だから、レノールが不味いと言っている理由が分からなかった。
「味がないのに感触があるって、それって不味いって言わない?」
「私は不味いよりは好きな味ですね」
イクイセンも同じ味覚なのかな? でもイクイセンの情報ってエルフよりも長寿しか、無かったからな。気になるし聞いてみるしかないか。
「イクイセンも薄味が好みなのか?」
何か良いことがあるかもしれないと思っている荒木は知らない種族の情報を知りたかったので、メーヴィスに直接聞くことにした。
「えぇ、私たちもエルフと似たような味覚を持っていますから」
「へー」
荒木はメーヴィスに好意的に思えるように、大きく感心して見せた。
「美味しい」
荒木の隣にいたジャネットはふとそんなことを漏らした。荒木はものすごく興味を示した。
これを美味しいだと。ということは人間ではないのか?
「これが美味しいか?」
「自分で作って何を言っているの? でも悔しいことに不味くはないけどね」
当然自分で作った料理が不味いと思っている荒木のことが理解できなかったジャネットは荒木を疑った。しかし、美味しかったが悔しかったので、美味しいとは言わなかった。
これに好感を示したのは異世界の住人ではエルフと宇宙人とイクイセン割と多いい。が、一番合っている種族はエルフだ。ジャネットはエルフなのか。
荒木は興奮して高速で考えた。思考速度はこの場にいる者たちの瞬きよりもはやい速度だ。そして、荒木は何故かジャネットに驚愕し、ジャネットに尋ねることにした。
「もしかして、ジャネットってエルフ?」
「そうだよ」
「何で耳は?」
今はフードを被っていて耳は隠れているが、身体検査をしたため、素顔を知っている荒木は耳の形状から人間だろうと考えていた。そのため、荒木はジャネットがエルフだということを夢にも思っていなかった。そして、精査中で分からなかったハーフエルフの時とは違い、荒木は勘違いしていたことに驚いていた。
「耳は人間と一緒なの」
そんな特異な個体ということか。エルフの耳が特徴てきで、気付くことが出来なかった。ユードラと比較して、確認しよう。
「エルフなんだ。失礼だけど年は100を超えてる?」
荒木は今後の参考のためにも同じエルフであるユードラとジャネットの気になる部分を比較することに決めた。
「どこが100歳に見えるのよ。私はまだ18歳よ」
荒木を人間と思ってジャネットは考えていた。
「若いのか」
100歳くらいのユードラと比べて身体能力が低いから、人だと思っていた。エルフは若い時は身体機能が天才的な人間と同じなのか。つまり、ユードラと比較したらジャネットの成長速度は普通なのか。
荒木はエルフの成長過程が普通であることを知り、ジャネットに余計な一言を添えたが収穫を得た。
「そうよ。私の顔のどこが年寄りに見えるのよ」
荒木の余計な一言で、荒木に年寄だと思われていると思ったジャネットはプンプンと怒っていた。そして、ジャネットはフードを外して誤解のないように顔を見せた。
「エルフなら100歳くらいでもシワなんてできなだろう? それくらい俺だって分かってるよ。何を勘違いしてるんだ?」
「…っ!」
考え込んでジャネットに興味がなかった荒木は素で何事もなかったのように平然と答えた。平然と答えられてしい、勘違いしているだけだと思ったジャネットは少し俯き顔を赤くしたのを隠した。幸いにも考え込んでいてジャネットに興味を失いながらも、顔が赤くなっているのに気付いている荒木以外は耳に注目していて気付いていなかった。
「本当。耳が人と一緒だね」
「珍しい」
「本当ですね」
珍しい情報に関しては興味のあるフィース、メーベル、メーヴィスの3人はジャネットの耳をじっくりと観察していた。
「そこまで驚くこと?」
耳なんてどうでもいいと思ってるジャネットはみんなが耳に興味を示している光景は不思議にしか思えなかった。
「普通に驚くよ。みんなジャネットのことエルフだと思っていなかったんだから」
そりゃ、俺を騙すことに成功していたからな。おもしろいよ。
「そ、そう」
実力がすごい荒木に素直に驚かれたジャネットは素直に嬉しかったため、耳を撫でながら少し照れた。
「耳に特徴がないのは驚きものだけど、荒木は驚き過ぎじゃない?」
外から見ていて、普段の荒木を知っているレノールは荒木の驚く姿を初めて見た。そのためレノールは演技ではないかと思っていた。
「俺でも以外だったんだよ」
「へー、荒木でも驚くことがあるんだ」
レノールは荒木が素直に驚きを口にしている姿に感心していた。
それにしても、みんなこれを美味しいとか。異世界人ってすごいな。
考えることを終えた荒木はものすごく不味いと感じているこの携帯食料を何の問題なくほとんどの異世界人が不味くなく食べている光景に感心した。
そして、一段落したところで食事は再開した。
「私が用意した食料はどう?」
荒木が食べているとフィースが味について聞いていた。
「もちろんおいしいよ」
「それは良かった」
フォースは優しい笑みを浮かべて、荒木を気にしながら食事をしていた。荒木は食べ辛かったが、特に気にせず食べ終えた。




