第三十五話 手遊びは呪の聖剣
荒木たちが遺跡出発に準備万端になると、フィースが他の冒険者のチームと話を終えて戻ってきていた。フィースは荷台に乗り込むとレノールが魔獣を操ろうとしている姿を確認した。
「出発する。レノール頼んだ」
フィースはレノールに荷台から伝えた。
「分かりました。師匠」
師匠に頼まれて嬉しかったのかレノールは上機嫌で魔獣を操作し始めた。レノールの操縦によって馬車はゆっくりと動き始めた。
「ご機嫌だね」
その隣で周辺を警戒しているジャネットが機嫌のいいレノールを和やかに見ていた。
「そう?」
レノールは調子がいいことを自覚はしていなかった。
ようやく出発か。しかし、遺跡に着くまで数日かかると思っていたが、荷台で何もしていないときの暇つぶしを何も考えていなかったな。
荒木は馬車移動が物凄く暇になることは分かっていたが何かしらやることはあるだろうと思っていた。しかし、それすらもないことで荒木は暇を耐えなければならなくなっていた。
なんか作業するか。縫う。磨く。擦る。混ぜる。突く。剥ぐ。どれにしようか。縫う。磨く以外は臭いが出るから駄目だな。そういえばアレに埃が被っていたな。手入れついでに磨いて輝きを取り戻すか。
荒木は色々と考えた結果、気の世界でしばらくいじっていないほとんど使うことのない剣の掃除をすることに決めた。荒木は荷台の一番後ろで2台目の馬車を操っている女性が見える位置にいた。荒木はみんなに埃が被らない様にするため後ろに身を乗り出して作業をすることにした。
場所を決めた荒木はバックを手に取り、バックに手を入れながら気の世界から剣と砥石をさりげなく取り出した。荒木が取り出した剣は柄尻から剣先に至るまですべてが白で統一されていた。本来ならば白色だけの装飾もあり、白い輝きを放って神聖そうな感じが出そうだが、手入れが行き届いていないせいか刃も少し元気がなく、埃も被っているせいでその輝きは見る影を失っていた。砥石もまたダイヤモンドみたいな輝きを放っていた面影が見えるが、剣と同じく残念な状態になっていた。
剣もそうだが、この砥石も使ってないから埃っぽいな。
「ふぅー」
荒木は初めに取り出した剣と砥石の埃を素手で取り払って行った。剣と砥石は多少の輝きを取り戻した。
「何をしているの?」
同じく荒木の対面に座っているメーベルは興味を持って荒木の行動を見ていた。その後ろをフィースが付いてくるように興味を示した。
「やることないから、武器の手入れをして暇をつぶしてる」
荒木は安定しない場所ながらも砥石を使い器用に麗白な剣の輝きを取り戻すために磨く作業をしながら会話を始めた。
「綺麗な剣みたいね」
メーベルは剣の白い輝きに魅了されていた。
「有名な剣かな?」
こんな白一色の剣を見た覚えも聞いた覚えもないフィースは勇逸無二の有名な剣だと容易に判断できた。
流石はSランク冒険者で盗賊の師匠。物の見る目もあるな。褒美にこの剣のことを話してあげようか。
「選定の剣の類…だった剣だから…その地域では有名だったかな?」
荒木はあまり印象が残っていなかったのか掠れている記憶を思い出しながら、この剣を手に入れた瞬間を思い出した。そして、荒木は軽く衝撃的な事実をペラペラと話した。
この剣数回使った程度で印象がほとんどないから思い出すのに一苦労したな。
「選定の剣ということは勇者召喚の儀と同じもなのか?」
フィースは誰にでも分かる例えで、聞いてみた
「確かに同じと言えば同じだな。剣を引き抜くからな」
「その剣ってもしかして聖剣?」
同じということは聖剣と同等の物かもしれないとメーベルは思った。
うーん。地元の人たちは聖剣らしきことを言っていたから聖剣ということにしておこうか。それに当時の関わっている人間は全員亡くなっているから誰も証明は出来ないからいい加減でもいいだろう。
「聖剣と言えば一応その地域ではそう呼ばれてはいたな」
荒木は聖剣ではなさそうな記憶だったが、当時の人は誰も生きてはいなかった。そのため、荒木は適当に言っても誰にも何も言われないことをいいことに嘘をついた。
「どうやって手に入れたの?」
フィースは荒木が何かいい伝手でもあるのではないかと考えていた。荒木がそのまま剣を手に入れたとは一切頭に置いていなかった。
「いや普通に引き抜いたけど」
「へ?」
荒木が聖剣に選ばれている事実にメーベルは気の抜けた返事をした。
「え? もしかして勇者なのか?」
フィースは耐性を持っているのか多少驚いていたが、至って冷静に驚いていた。
「だったが正解かな。もうこの剣の役目はちゃんと終えているからな」
「ちょっと待ってあなたはそんな大事な剣を埃塗れにしていたの?」
メーベルは神聖な剣を埃塗れでぞんざいに扱っている荒木の姿を見て、あっけに取られていた。
「そうだな」
神聖なものを適当に扱っているのだから、これから遺跡調査を趣味にしてる者たちからしたら信じられない光景だよな。
荒木は遺跡調査を趣味としている人達から見たら、驚く反応も頷けた。
「使ってないの?」
埃を被っている剣の様子からフィースは荒木がこの剣を使う必要がないのだと思っていた。
「うん。まぁ、もう使う機会もないしこの剣はもう見た目で楽しむ鑑賞物になっているからな」
「剣士の風上にも置けないな」
メーベルは剣を手入れしている荒木の姿を見て、荒木が剣士だと思い込んでいた。そのため、剣士の命である武器を適当に扱ってる姿に少し苛立ちを覚えていた。
確かに剣も使えるけどね。遊びでしか使わないからな。剣使いではない。
「剣でも戦えるけど剣使いではないよ」
荒木は剣使いでは決してないので否定した。
筋肉の付き方で分かるはずだが、まだそこまでの目はないのか。なら、俺の戦い方を見ていないなら、この状況を見たら剣士と勘違いしてもおかしくないか。
メーベルの力を理解した荒木は自分で情報を修正して納得していた。
「その剣を使ったことはあるんだよね」
フィースは先ほどの会話をしっかりと聞いていたようで荒木が聖剣を使ったことがあることを言っていたことを覚えていたようだった。
「うん。料理に使ったな。すごい切れ味だったよ」
「そう」
フィースは思ってもみなかった聖剣の悲しい使い方にがっかりした。
「荒木はその剣を使って戦わなかったの?」
メーベルは勇者の聖剣と同じように魔族と戦ったりするものだと思っているのか、聖剣で戦うことが普通だと思っていた。
「そういうのあったけど、別に聖剣を使わずに解決した」
荒木はメーベルの言いたいことが分かったので、起きた結果を伝えた。
選定の剣でも戦いで使わないものも中にはあったが、この白劉剣は戦う運命だったみたいだな。でも、物理的に解決してついには戦いで使う機会は訪れなかったな。
荒木は昔のことと剣の名前を思い出いし、白劉剣を使わなかったことを皮肉気味に思っていた。
「そうか。そんなに思いれも使う必要もないなら私に譲ってくれない?」
悪辣な扱いを受ける剣を可哀想に思ったメーベルは荒木の代わりに剣を引き取り、丁寧に管理してあげようとしていた。
「譲りたいんだけどね。こういう綺麗な剣な譲りたくても譲れないんだよ」
「どうして?」
「はい。これに触れようとして見て」
荒木は剣の刀身の部分を持ち、柄をメーベルに向けた。
「…っ!」
メーベルは荒木から白劉剣を受け取ろうと手を近づけると痛みを覚えた。声を上げそうになったが、メーベルは我慢した。
「この剣は俺以外の者が持つと精神に直接痛みを与えて来るんだよね。だから、誰にも触れさせられないし、誰も使えない。だから、俺が持っているしかないんだよね」
「まだ、その剣に認められているということなの?」
メーベルは荒木に適当な扱いを受けているにも関わらず聖剣が荒木を認めている事実が良く分からなかった。しかし、認められている事実が分かったメーベルは荒木から剣を預かることを諦めた。
こういった俺に毒にならないものはあげられたらあげたいよ。本当。
荒木は色々と上げられないものを思い出しつつ、それを言ったらさらに面倒になるので頭の片隅に追いやった。
「でも、綺麗だから癒されるよね」
荒木はその剣の容姿を褒めて逃避した。
「荒木くんはその剣を持っているのは嫌なのか?」
メーベルは荒木の口振りから、持っているのが嫌だということを感じ取った。
「嫌という程でもないよ。邪魔になるわけでもないし」
「捨てればいいんじゃないか?」
フィースは無責任な発言だが簡単に解決できる打開策を提案してくれた。
それはいい提案だが、こんな綺麗でどこにもない勇逸無二なもの簡単に足が付いてしまう。そんなものを捨てられなかったからな。それで、気の世界で保管するに収まって放っておいてどうでも良くなって忘れていたんだけど。二人が知る必要はあまりないか。
「この剣。周りにも影響が出るからね。それでもいいのなら捨ててもいいけど」
荒木も心の中でフィースの提案に同意したが、周りの被害を考えると印象が良くないと思っていた。
「聖剣なのに?」
「良い物でも害をなすことはあるということだよ」
実際は聖剣じゃないけど、このまま勘違いさせておこう。
荒木は放っておくことに決めて、フィースとメーベルに忠告してあげた。
「だから、俺が持っとく必要がある。ある意味呪の聖剣だな」
荒木は皮肉を言った。
本当俺にとっては呪の聖剣だよ。
「勘違いしてごめんなさい。荒木くんも頑張ってね」
メーベルは持たざる終えないことを諦めて受け入れている荒木の姿を見て苦労しているのだろうと思った。メーベルは先程の態度を振り返り悪いと思う気持ちとともに応援することしか出来なかった。
「すまない。私も嫌なことを聞いてしまって」
フィースも荒木の話を聞いてしまったことにより、荒木に嫌な思いをさせてしまったと思っていた。そのため、フィースもメーベルに倣い謝った。
「別に気にしてないですから、謝らないでいいよ」
悪いことをしているな。うん。気にせずに行こう。
荒木は嘘をついているので、二人に謝られていることに少し申し訳なさを感じたが、心の中ですぐに気を取り直した。
そして、ずっと後ろに身を乗り出していた荒木は暇つぶしを再開した。荒木は白劉剣を完璧に磨き終えてバックにしまった。荒木の作業がひと段落したと思ったメーヴィスが話しかけてた。
「荒木さん一ついいですか?」
「何?」
「今まで気になっていたんですけど何でずっと裸足なんですか?」
メーヴィスが先程から気になっていた荒木の足について、出会ったときと似たように訪ねてきた。
さっきから俺の足を見ていたのはそういうことか。
荒木はもちろんメーヴィスや他のみんなが裸足の姿が珍しくて見ている視線に気づいていた。そして、視線からみんなが足に興味を示していたことは把握していた。
のどか過ぎて何もすることがないからな。足の話くらいならメーヴィスに付き合ってあげるか。
「ちゃんと踵はあるから、裸足ではない」
「でも半分は素足じゃないですか。どうしてですか?」
「足の指を動かしやすくしたいんだよ」
荒木は足の指を手のように動かして示した。
「足の指を?」
メーヴィスは足の指を動かせることに何も利便性を感じることは出来なかった。
まぁ、普通の私生活で足の指の技を使う人は珍しいからな。分からないのは普通の反応だ。
「足の指を自由にしていれば、足技が使いやすくなるんだよ」
「足技? 戦いに使えるんですか?」
メーヴィスは足技を戦いで使うことすら考え付いている様子はなかった。
「もちろん。強いモンスターが来た時に見せて上げるよ」
足技を知らないか。メーヴィスは足技を使わないのか。つまり、敵に近づかないで戦うのか。全体の筋肉から見て、あまり力を使わないようだな。なら、肉体をあまり使わない魔法やクロスボウ、銃などだろう。
荒木はメーヴィスの体付きの情報からどうやって攻撃するか複数通りの方法を頭の中で思い浮かべていたが、未だ確定は出来ていなかった。
「それなら踵は厚底でもいいんじゃないんですか?」
「薄いのは踵も感覚を鋭くしたいから薄しているんだ」
「痛くないんですか?」
メーヴィスは当然の質問を荒木に投げかけた。
「慣れだよ。慣れ。メーヴィスも少しずつ毎日裸足で歩けば問題なくなっていくよ」
「棘とか刺さるじゃないですか?」
メーヴィスは意外にも素足で生活するのを想像して、棘に刺さる光景を見ているらしかった。
「最初は刺さるが慣れれば大丈夫。究極的には棘も刺さらなくなる」
「毒とかの場合は?」
真剣に考えた結果メーヴィスは最終的な不安に行き着いた。
毒か。確かにそれは危険だな。まぁ、気を付ければどうということはないんだけど。普通の人には伝わらないだろうな。
「普通の人には気を付けろというしかないな」
「荒木さんの場合は?」
メーヴィスは現在裸足でいる荒木がどうしているのか気になっていた。
「俺には耐性があるから気にしなくてもいい」
荒木の毒を打って効果がなかった経験を持つジャネットが頷いていた。
「確かに毒にかなりの耐性があれば問題ないですね。疑問が解決しました。ありがとうございます。でも、私には到底真似は出来そうにないですね」
色々な疑問が晴れたことにより頭の中がスッキリして気持ちよくなったメーヴィスは荒木にお礼を言った。そして、先程考えていたことは無理だとハッキリ思った。メーヴィスは疑問が解決すると荒木から離れて、話を切り上げた。
そして、再び暇な時間が出来てしまった荒木は馬車の後ろから、外の景色を眺めていた。
やはり、馬車は遅いなー。暇つぶしの依頼のはずが暇だ。後で何か起きるかもしれないと思って我慢するしかないか。
荒木はこの依頼も暇つぶしで受けているが、さらに暇が出来ているが、今後の何か起きるかもしれないことを想像する暇つぶしをして我慢していた。
でも、サプライズは用意してあるからそれで、退屈を凌げたらいいな。
荒木はみんなにサプライズを用意してあげていたが、それで荒木が楽しめるかどうかは別で、運しだいだった。そして、荒木は善意だったが、みんなにとって傍迷惑な話になるようだった。




