第三十四話 ハブ
「俺も一応行くか」
荒木も二人に続きどうせ集合することになるだろうと思い、依頼主であるフィースがいる近くに寄って行った。荒木は近づきながらも周りを確認していると、荒木と似たように顔を隠している状態の見知った人物がいた。
顔は分からないが、あれはジャネットだな。
荒木は体の動きからジャネットだと確信した。
取りあえず。同じチームになるから軽く話でもしよう。
「いつぞやの暗殺者さん」
荒木は離れて行くジャネットに素早く近づき顔を見るという確認などは一切せずに肩を掴んで特定した。
「何でばれた」
この場にいた荒木から完全に隠れようとしていたジャネットは顔を隠しているのにも関わらずこの場所に来てからすぐに見つかってしまったことに驚きを隠さずにはいられなかった。
「他の人に比べて動きがおかしいからな」
「…」
ジャネットは荒木と関わりたくないのか無視しているが、どこが他の人と動きがおかしいのか気になってはいた。
俺と話したくないというか。ついさっき色々あったし、関わりたくないんだろうな。
荒木はジャネットが無視している理由を分かっていた。
「暗殺者の癖が抜けてないんだよ」
荒木はジャネットが無視をしているが理由が気になっているのを察していった。
「そう」
ジェネットは小さい声で素っ気なく答えた。
ふーん。どうしようか。
荒木は消極的な態度のジャネットにどう接するのか悩んでいた。
チームになるのだから、結果は悪くなってもいいからやはり軽く話そう。
荒木はジャネットと話すことにした。
「朗報だよ。朗報」
「あまり、私に話しかけないで」
みんながいるところでの会話は得意ではないのか小声ながら、ジャネットは荒木と話すことを嫌がっていた。
「俺と同じチームになるみたいだよ」
「嘘でしょ。あなたとは嫌よ」
荒木が知らせた情報はどうやらジェネットには凶報のようだった。
「さっき依頼主兼試験管からさりげなく言ってたのを聞いたから本当だよ」
「…」
荒木の話が真実だろうと思ったジャネットは何故か力尽きたような感じで空を見上げていた。
話がないからと言って自分を嫌っている人に今から一緒に行動するなんて言ったら嫌がられるよね。まぁ、知らず知らずのうちに空気を悪くされるよりはいいよね。
荒木はこうなることは分かっていたが、ジャネットに嫌われても他の人に嫌われなければどうでもよかった。
「人生かどうか分からないけど気長に行きなよ」
別に種族のことを言わなくてもよかった荒木だったが、ユーモアからジャネットが人間ではないのでそうあやふやにいった。
「はぁ」
ジャネットはどこからどう見ても自分がからかわれているように見える荒木の態度を見てため息しか出なかった。
そして、ジャネットが荒木から離れて少し経った。
「遺跡調査依頼で来た冒険者は集待ってくださーい!」
フィースの横にいる女性がこの場にいる冒険者たち聞こえるように大声で依頼を始めるため集合するように伝えた。すると、依頼を受けた冒険者たちがぞろぞろとフィースの元へと集まった。
「今日は私の遺跡調査に同行して貰いながらもランク昇格試験を行ってもらう。受験者には各上位ランクのチームに入ってもらうことになる。ドウランにザドク、岩崩しにトビー、一片の折にフラン、採杯の森にグレタ、サーホンにサム、ブルドグにサイ。呼ばれたものは各自これからの予定をチームリーダーから聞いてくれ。呼ばれていない他の受験者は私のチームだ」
フィースは所定の人数が集まるのを確認すると早速集まった冒険者たちをチームに分けることにした。荒木は最初に知らされていた通りにチームはまとめられた。そのため、一人の視線を感じることになったが知らないふりをして、フィースの元へと向かって行った。
「来たか」
「お二人さん。同じチームですね。よろしくお願いします。ジャネットさんもよろしくお願いします」
先程荒木とレノールに疑われて分かれていったメーヴィスはニッコリと自己紹介をした。そして、情報屋といわれているだけあってジャネットも知っているようだった。
「こちらこそよろしく」
ジャネットはメーヴィスを知らないので、素直に親切な人として映っているようだった。
メーヴィスにも知られているのか。この近辺では相当有名みたいだな。
「人気者の暗殺者だな」
荒木は知れ渡っているジャネットに向かって皮肉気味に言った。
「本当にね」
レノールも頷いていた。
それにしても。フィースの隣にいる女性は誰だろう。雰囲気もそうだがフィースの隣に堂々といるだろうから、実力者なのは分かるが知らないな。この人。
「で、みんな名前を知っているだろうから、依頼の説明をしてもらいたいんだけど、俺はフィースの隣の女性の名前を知らないんだよね」
荒木はフィースと女性がランク試験でみんなの名前とか知っているだろうし、他の3人はこの国の人だろうからあの女性を知っているだろうと思っていた。よって、荒木は自分だけが女性の名前が分からないだろうと判断して聞いた。
「知らないの? この方も師匠と同じく有名な人よ」
レノールは荒木が知らないことをいいことに、今までのうっ憤を晴らすかの如く大げさに嫌味ったらしく言った。
「確かに、この辺では実力者だろうということくらい見れば分かるけど…」
「そうだね。じゃ、軽く自己紹介と行こう。私はメーベル。フィースと同じSランク冒険者だよ。昔はフィースとチームを組んでた中だよ。今でもこうして一緒に活動することがあるの」
メーベルは自分のことを知らない荒木のために軽く自己紹介をした。
「へー、すごい人なんだ」
「まぁね」
荒木があまり関心なく他人事のように言うと荒木を知っているレノールは荒木が薄い関心なのを納得した。
「…」
ジャネットもまた声には出さなかったが荒木のことを知っているのでレノールの反応に共感して頷いていた。メーヴィスはその光景を興味ありげに見つめていた。
そりゃ、気になるよね。暗殺者と知り合いなんてね。
「じゃ、依頼の説明を始めるぞ」
荒木がメーヴィスの興味ありげな視線に自分なりに納得しているとフィースがちょうどいい頃合いだと判断して依頼を始めることにした。
「お願いします。師匠」
「まず。魔獣の操縦分担を決めもらう。これはみんなにやってもらうことになっている。交代や順番はみんなで決めてもらう。次は馬車の列での役割。私たちは先頭で周囲を警戒及び、モンスターや野盗などの敵を排除する役割を担うことになっている。手の空いている人は周囲警戒も行ってくれ。遺跡での行動に関しては遺跡に到着し、準備が整い次第説明する。何か質問はあるか?」
「…」
最後にフィースがみんなに聞いたが、誰も反応しなかった。
「じゃ、荷物を馬車の荷台に積めて旅の準備を始めておいて。私は他のチームを見てくるから後はよろしくメーベル」
「はいはーい」
フィースは依頼主と昇格試験の試験管の役目で、メーベルを残し他のチームの進捗状況を見に行った。
「それじゃ、私たちはフィースを待っている間に乗る馬車に荷物を積んでおこうか。付いてきて」
メーベルの案内で今回荒木が乗る馬車に辿り着いた。
「へー、食料って用意されてるんだ」
荒木は場所の荷台を覗いて樽や袋が置いてあったのを見て食料だと思い、感心していた。
待遇が良いな。生き物がいないのに現地調達とか言われた時があったが、雇われとは違うのか。
荒木は昔のひどい待遇を経験したときと比較して恵まれているなと思っていた。荒木が感心しているとみんなが感心している荒木に興味を持っていた。
「もちろん。用意しているよ」
「師匠の以来よ。当たり前でしょ」
荒木がフィースを使ってからかっているのだろうと感じたレノールはフィースを使われたことに腹が立ったので、口調を強めた。
「いや、そんなことは知らないけどな」
「荒木さんがはずれだっただけですよ。依頼に何も書かれていなかったら用意しないところは珍しいですよ」
荒木が冒険者として今まで受けた護衛依頼がいい待遇ではなかったと思ったメーヴィスが何も知らない荒木のため親切に説明してくれた。
「しっかりしてるんだね」
荒木に説明しつつも、みんなは荷物を荷台に積み込んでいった。みんなは重たい荷物から解放されて気分が良くなっていた。
荒木も似たように荷物を荷台に置いた。レノールが荒木のその光景をジト目で見つめていた。
「普通に置くんだね」
レノールは偽装のためのバックだということを知っているので、荒木に仕返しをする材料になるかもしれないと思い、少し触れて反応を見ようとしていた。
なるほど。今回はチーム行動だからな。もうカモフラージュする意味がないんだよね。それにメーベル以外知っている。このチームの人たちなら問題なさそうだから、気付かれても何も問題がないけどレノールが楽しそうだし、このままカモフラージュを続けて上げようか。
「重たいからな。何か変?」
「置く必要あるのそのバック?」
「別にいいんだけど、このバックはそれなりに荷物が入っているからな」
「? レノールさんは何か気になるんですか?」
急にレノールが荒木のバックをいじり始めたのでメーヴィスは不思議だなと思いながらレノールに聞いた。
「いや別に?」
レノールは荒木がカモフラージュをしていることを今は隠してくれているようだった。
今回は隠してくれるのか。俺が一番嫌がるタイミングを探って、その時に気付かせるのか。
レノールの考えることが分かり、気付かれても特に問題ない荒木はもう見物人だった。
「とりあえず。みんなで道中の魔獣の操作と周囲警戒する人を決めたら?」
準備も終わり、何もすることがなくフィースが来るのを待っているとメーベルは時間が余っているということで、荒木たちに提案した。
俺はどうでもいいな。遺跡に着くまで休むこともできるし、何も問題ないか。
「そうだな。俺は好きに決めてもらってもいいけど、みんなはどうする?」
何時でも準備万端の荒木は当然役割を長くしてもらっても問題なかったので、3人に丸投げした。
「私も皆さんの自由でいいですから、皆さんで決めてください」
メーヴィスも荒木と同じく問題ないので、残りのレノールとジャネットに判断を委ねた。
「分かった。荒木は馬車の操縦をしないで、周囲の警戒だけやっておいてよ」
前回のダンジョンの道中を脳裏に鮮烈に刻み込まれているレノールは荒木が運転することを断固拒否して、周囲の警戒だけを任せることにした。
「うん。それがよさそうですね」
ジャネットが丁寧な口調でレノールに同意した。
俺を省きに来たか。それは予想外。
荒木はいきなり除外されたので、珍しく驚いていた。
それだと試験の意味があるのか? 一応、試験だし操縦してもらう代わりにその分周囲の警戒をやって上げようか。
「残念。じゃ、魔獣を操作してもらう代わりに、俺が遺跡にずっと周囲警戒しておこうか?」
試験ということなので、それなりの体裁を保っておきたかった荒木は二人に提案した。
「数日かかりますけど大丈夫ですか?」
メーヴィスは流石に遺跡に着くまでの間を警戒するのは体力的に厳しいと思って心配してくれた。
「でも、荒木の警戒じゃ、何か起こるかもしれないから不安だ」
しかし、荒木が積極的になったことで何かが引っ掛かり冷静な頭になったレノールは過去を思い出した。レノールは激しい戦闘で思い出すのが遅れたが、ダンジョンでモンスターを呼び出していたのを思い出していて不安が過るに過っていた。
「確かに」
レノールの言葉に荒木の雰囲気から漂う危険な臭いからジャネットもそう思った。
「なら荒木は緊急の予備として、何もさせないで3人で交代制にしよう」
レノールは荒木を本格的に省いて、安全な移動にしようという結論に至った。
まさか。何もさせないことになるとは。別にいいんだけどね。一応試験官もいることだし、少しは抵抗しておこう。
さぼっているみたいに試験官に見られるのを嫌った荒木は形だけでも、やる気を見せることにした。
「俺もやるよ?」
荒木はメーベルを見た。メーベルは役割が決まるまで見守ることにしているのか口を挟んでくる様子はなかった。
「いや、だめ」
荒木がやる気を見せるとレノールは即座に拒絶した。
「メーヴィスも大変でしょう」
即座に拒否された荒木はまだ何も知らないメーヴィスを話に出した。
「メーヴィスさんが荒木の分をやらなくても、その分私がやるから大丈夫よ」
レノールはさらさら危険人物である荒木に何もさせるつもりはなかった。レノールは最初っから荒木が空いた穴は自己処理するつもりだったようだ。
「私は大丈夫ですよ。でも二人は何でそこまで荒木さんに何もさせて上げないんですか?」
メーヴィスも有望株と言われている通り、実力はあるので当然そのくらいなら出来たので、自信たっぷりと心配無用とした。そんなことよりも、荒木をまだ知らないメーヴィスは何故二人が荒木を拒んでいる理由の方が気になっていた。
「荒木と行動を共にしれれば分かるから、今は気にしない方がいいよ」
レノールは真実を言っても夢物語として、信用してくれないだろうと思った。レノールはどうせ起こるだろう光景をメーヴィスのその目で見て確認してらうことにした。レノールに続くようにジャネットも頷いて同意した。
「分かりました。楽しみにしておきます」
メーヴィスは聞き分け良くそのまま話を詮索することはなかった。レノールとジャネットの二人は楽しむと聞いて苦い顔をした。
「本当に何もしなくていいの?」
「うん。何もしなくていいから、本当に今回は普通の人もいるし、大人しく何もしないで荷台に乗ってて!」
レノールは大変なことが起こらない可能性を信じて念には念を入れて、荒木に忠告した。
「その方がいい」
ジャネットはレノールに頷くばかりだった。
「じゃ、まず私が操縦をするわ。ジャネットさんは警戒をお願い。メーヴィスさんは休んでもらってもいい?」
レノールはジャネットとメーヴィスの二人が判断を委ねたのが分かった。レノールはみんなの役割を決めた。
「うん。いいですよ」
「私もいいです」
ジャネットとメーヴィスはどんな役割でもこなせる自信があるので、どんな役割に回っても拒否するという選択肢が二人の頭の中にはなかった。
「交代はメーヴィスさんが操縦。私が警戒でジャネットさんが休憩のローテーションでいいですか?」
「うん。それでいいよ」
「はい。問題ないで」
二人ともレノールの決定にスムーズに頷いた。
「メーベルさん役割決まりましたよ」
「本当にその分担でいいの?」
話の行く末を見守っていたメーベルは荒木を省く決定に文句は誰もないのか3人に聞いた。
「はい。いいです」
「問題ないですよ」
二人とも即答で、ジャネットは声には出さなかったものの頷いて、文句は一切ないのを確認した。
「そうだよね。本当にそれでいいの?」
荒木はメーベルと同じことを省いた当事者の顔を見て聞いた。
「「うん」」
レノールとジャネットは変わらず大きく頷いた。即答だった。




