第三十三話 レノールの師匠
レノールが視線を向けている先には周りの人と比べて雰囲気と服装が違う人たちが表れ始めた。
「来たみたいね」
「そろそろ、時間だからな」
「すぅーはー」
レノールはついに昇格試験の時間が近付いてきて緊張し始めていたので、深呼吸をして心を落ち着けた。さらに、レノールは静かに拳を小さく握り、気合を上げた。
「やる気満々だね」
「初めて自分の実力でやるからね。当然よ」
「そういえば、今までの依頼には全て俺がいたな」
薬草集めも、今までのランクまでほとんど俺一人でやってしまったからな。どういった評価で上がるのかが分からないけど、レノールの実力ならBBランクくらいまでは余裕だろう。Aランクが勝負どころだな。
「そう。ランク昇格試験が事実上私の初仕事なの」
「いいじゃないか」
「楽にここまで来たから、そうだけどね」
「まぁ、頑張れ」
荒木は他人事だったので、他人事のように振舞って下手な芝居見たくぎこちなく、応援した。
何だ? レノールが必要以上に誰かに見られている。俺じゃないし、レノールの視線だから、どうでもいいか。
荒木は自分が見られていれば、どうするか選択できたが、自分に向けられている視線ではなかった。荒木は親切心からレノールがその視線に気づいていいないことを分かっていたが譲ってあげた。
時が経ち遺跡調査の人たちが集まったようだった。
おぉ、誰にも噂されてないな。まだ俺の情報は出回ってないか。
荒木は昨日で珍しいことをやっていたが、他の冒険者たちからの視線がほとんどないことから、まだその話は外には漏れていないと確信した。
まだ、報告して1日くらいだから、知られてなくても不思議ではないか。
荒木は色々な職業でも、この世界の基準ならたった一日では情報を共有できるわけはないと今更ながらに思っていた。
「まさかもうCCランクになっているとは。よほどいいパートナーに巡り合ったのか?」
そして、荒木よりもだいぶ背の大きいショートヘアーで黒髪の女性がレノールの前に来た。レノールに向かって顔見知りのように話しかけてきた。
「はい。師匠はなぜ冒険者ランク昇格試験である遺跡調査の依頼に来られたのですか?」
「私が依頼主で、ランク昇格試験を頼まれたからね」
「そうなんですか」
レノールは女性の性格を理解しているようで依頼主であることが不思議とは思っていないようだった。
この人がレノールの師匠大盗賊と呼ばれているフィース師匠か。まさかこんなところで会えるとは。ちょっと話してみてもいいかもしれないな。
荒木はレノールとの会話からこの人が例の師匠だと分かった。そして、荒木はレノールが住んでいた家の隠し部屋の資料から思い出していた。
「でも、今回の昇格試験は面白い子たちが多いいな。情報屋のメーヴィス、暗殺者のジャネット、で、君は最近上がってきた子かな?」
フィースは経験や情報収集から、荒木以外の情報を入手済みだった。しかし、そんなフィースでも最近活動を始めた荒木については何も知っている様子はなかった。
メーヴィスも、ジャネットもあの程度で有望なんだ。それにしても、なぜ俺に疑問形何だろう? 情報収集できなくて悔しいのか?
「何でそんなに疑問なんですか?」
荒木は迷っているフィースの姿に興味を持ったので本人に直接聞くことにした。
「君の情報だけ無いんだけど」
「俺の情報も調べてきたのか。でも、フィースならギルドから情報を盗めるはずだけど」
荒木は初めて会ったレノールの師匠の実力を把握していた。
「だが、情報は無かった」
「へぇー」
無いのか。俺が呼ばれたことは知ってるが、その先はみんなが黙ってくれているのだろう。いや、セシーが何かしている可能性もあるかもな。
荒木は情報が漏れていないことから、善意かこの地から追い出そうとしているセシーが荒木を持てはやされないように手を回していると考えていた。
「でも、どうやら君は私のことを知っているみたいだね」
「もちろん。大盗賊フィース。数々のダンジョンで活躍してきた職業盗賊でSランク冒険者。ついでに遺跡大好き。普通にそこまで有名なら何もしなくても情報が入る」
「だろうな」
フィースは冒険者の中ではかなり情報が広まり、冒険者ならば知られていること自体不思議ではなかった。
俺は冒険者ではなくフィースの家の地下資料から得た情報なんだけどな。それはいいとして、何をするのか聞こう。
「で、ランク昇格試験はどうするんですか?」
荒木は依頼主と試験官であるフィースに手っ取り早くこれからどうするのかを聞き出すことにした。
「今回は遺跡調査に参加する冒険者チームにランク昇格者たちが加わる予定になっている」
「で、俺の配属されるチームは」
「有望株は私のチームになるから、よろしく」
「そうか」
この人ではズルは出来ないか。
荒木は自分に付く冒険者がくだらなければズルする予定であった。
「なぜ、情報が不確かな俺みたいなあやふやなものをチームに?」
「この中では強さ的には一番上だと判断したから」
動きで強さを理解できるのか。わざと動きを見せていた甲斐がある。この世界の住人にしてはいい目を持っている。
荒木はこの広場にきて色々と罠を張り巡らせていたが、フィースがその一つに気づき感心していた。
「よく考えてる。確かにレノールの師匠だけはあるな」
荒木は本人の前で失礼でも思ったことをレノールに告げた。
レノールの戦い方の行き着く先だな。実力的には女王の隣にいる騎士に一つ及ばない程度そうだ。
荒木は実際にフィースを見て弟子であるレノールと似たような感じからレノールも参考に入れつつ、大体の力量を測り終えたていた。
「それはそうよ。師匠はエアスト帝国でもトップの冒険者だからね」
レノールは荒木の実力を知っているので、尊敬している師匠に失礼な態度でも褒められていることに気づいていた。
「レノールはもしかして荒木くんとチームを組んでるの?」
フィースは失礼な荒木の態度に目を付けず、レノールが親しそうにしているのを確認してもしかしたらと思って、聞いた。
「そうです。荒木に振り回されて、もうCCランクになっているんです」
「そうなの? 荒木くん」
「チームになったのと、情報提供の見返りついでに」
本当はフィースの地下室で情報を提供してくれたことが何だけど。それを本人の前で、今言うのは良くないよね。
フィースにもお礼を言おうとも思ったが、ほぼ情報を盗んでいるので、知らないうちに見返りをしてあげようと思っていた。
「荒木に情報なんて渡したっけ?」
レノールは過去を遡ってみたが、重要な情報などを渡した過去はなかった。レノールは荒木に本当かどうかを聞いた。
「形だけだけどチームを組んでくれたのと冒険者ギルドの情報についでだよ」
荒木は適当なものを繕ってそれらしいことを答えて上げた。
「たったそれだけで」
「そうだね」
利用価値は少ないが、フィースが集めてくれた情報は良かったな。
荒木は情報を盗んだ相手のフィースにお礼を思いつつ、答えた。
「それであなた達チームを組んでいるのね」
フィースが荒木とレノールがチームを組んでいることに驚いていた。
「本当に形だけで、二人だけですよ」
「そうだな」
「荒木くんは何のために冒険者になったの?」
レノールの話と荒木がそれを肯定している姿を見たフィースは荒木が何を目的にしているのかが引っ掛かっていた。
フィースは俺が何か悪い目的を持っているかもしれないと、感じているんだな。
荒木はすぐにフィースから漂う気掛かりに気付いていた。
「各国を回っていく旅をするには手段として使いやすいからな」
「冒険者クリスタルを利用するためか。本当についででレノールとチームを組んでCCランクにしたのか」
レノールがわずかの時間で冒険者ランクを上げるのに成功したにも関わらず師匠であるフィースはあまりうれしそうではなかった。
この人は冒険者のランク制度を利用して安全にレノールのことを育てようとしているのか。やはり、俺とは逆の育て方だ。
荒木は急成長したレノールを喜んでいないことから、フィースが冒険者のランク制度を利用して自分の時間を作りつつ、安全に育てようとしていると感じた。
「悪いことをしたかな?」
「いや、悪いことは何もない」
フィースは荒木が謝っている内容を理解していた。フィースはレノールに修行内容を知られたくないのかそのまま大人の対応をとり、話を流そうとしていた。
「何が悪いんですか?」
荒木とフィースの間で交わされたやり取りを見ていたレノールはフィースの変化を感じ取った。レノールは何を話しているのか自分も理解するために二人のどちらかが答えてくれると思い、二人に聞いた。
どうするか。フィースが言われたくないことを言うか言わないか。
荒木はレノールが話の内容を理解しようと聞いてきたのは気付いたので、どうするか考えていた。答えが少し出なかったので荒木はフィースが答えるかもしれないと見た。
「本当に悪くはない」
疑問に思ってきて聞いてきたレノールに対して、フィースはレノールが荒木のことを気に入っていると思いすぐに否定した。
話してくれたか。これから依頼もこなすことだし今はこのまま隠すことにしようか。
荒木はフィースが否定したのを見て、隠していることは関係の現状維持を配慮して隠すことにした。
「俺がチームを組んだことだよ」
「あっ、確かに。荒木といるから大変だからね」
荒木の話をすり替えるために今考えた理由を聞いてレノールは荒木の予定通りに納得していた。
掛ったか。最近になって、何故か俺と行動を共にしたことを後悔していたからな。当然そっちの方が気になって突っかかってくるよな。
「ひどいな。現にCCランクに上がれてるし、どこも大変なところなんてなかっただろ」
荒木は話を遠ざけるために、レノールが文句を垂らして反応した話に合わせた。
「確かにランクを上げてくれたことには感謝するけど、有無も言わずに連れまわされる身にもなってよ」
「でも、文字通り俺のお荷物になっていたから、そんなに危険はなかったと思うけど?」
ここまで来て、話が完全に逸れたと思った荒木はさりげなくレノールに気づかれないようにフィースが気にする話を混ぜた。
「そうなの?」
フィースが荒木に介護されていたことを聞き、レノールにその話が正しいのかどうか聞いた。
「違いますよ。荒木に無理矢理担がれただけです」
レノールはレノールでフィースの前で恥をかきたくなかったのか、決してさぼってはいないことを強調した。
「同じじゃないか?」
「だよね」
フィースが話を逸らしてレノールを指摘していたので、荒木もそれに同乗した。
気付いてくれたか。流石はお師匠さん。
荒木はフィースが意図に気づいたことに対して中々に出来ると人と思い、感心していた。
「でも、大丈夫」
「「?」」
荒木がいきなり心配するなというように発言されて、二人は頭に疑問を生じざる終えなかった。
唐突すぎたか。フィースの反応ならかいつまんで話が出来ると思ったがやりすぎたか。ちゃんと話そう。
荒木は特にフィースが話を理解できていないのが流石にやりすぎたと思い、普通に伝える方針に切り替えた。
「経験は積んでいるから、半分くらいは大丈夫だと思うよ。そのうち分かるさ」
「そうか」
フィースは経験という言葉から大体察しがついたのと、今日がランク昇格試験だということで納得した。
経験だけで、反応出来るとは流石に師匠か。レノールのことを良く考えている証拠だ。
荒木は経験だけで反応していたフィースの気配を見落とさなかった。そして、すぐに理解できたフィースは弟子思いの性格だと理解するに至った。
「何?」
「弟子の鍛え方が足りないっていう話だよ」
レノールが何も分かることは出来なかったようで聞いてきたので、荒木はフィースを引き合いに出した。
「師匠の悪口は許さないよ」
尊敬しているフィースの悪口を言っているかもしれないと思ったレノールは荒木の意図した通り怒った。
悪口に近いことを言うとすぐ反応してくれるレノールは扱いやすいな。
荒木はレノールの扱いやすさを確認した。
これならさらに何か余計な一言を言えば、話を綺麗さっぱり忘れてくれそうだ。レノールの実験もかねて言って見るか。
「実際レノールはまだ鍛え上げられたとは言えないだろうけどね」
荒木は話からさらに突き放すため、レノールに追い打ちを仕掛けた。
「何? 私はちゃんと修行してるよ」
レノールは荒木に修行不足と言われたように感じていた。
「まだ、Aランクになっていないからな」
「確かに修行は終わってないけど、Sランクの師匠に鍛えられているから私は強いよ」
レノールはフィースの修行をまだ終えていないことに納得した。しかし、実力がないことだけは強がって否定して見せた。
「普通の人よりは強いと思うけど、弟子になったからにはフィースと肩を並べるか追い抜くかしないとな。ほら師匠も悲しんでるよ」
修行段階だからそんなことは思わないだろうし、フィースは優しい師匠みたいだからそんなことは微塵も思っていないだろうな。
荒木はフィースがそんな性格ではないことくらい察していたが、真実味を持たせる表情でフィースを見ながら言って演技した。
「え?」
演技に騙されてフィースが悲しんでいると信じたレノールは師匠の顔色を窺った。
「大丈夫。悲しんでないよ」
本気に思われてしまったフィースはレノールを安心させるために言った。
「そんな表情で、でまかせ言わないでよ」
演技を見破れなかったレノールは文句を垂らした。
「まぁ、引っ掛かる方が悪いんだよ」
「荒木には師匠とかいないわけ?」
レノールは荒木に弄ばれ続けて、悔しいのか荒木の師匠の話を聞いて反撃しようと目論んでいた。
俺の師匠の話か。衝撃的な内容で少しくらい引かせるくらいでいいだろう。
荒木は少し程度なら問題ないと判断して話してあげることにした。
「いたけど、今は死んでる」
「それは」
レノールは荒木の若い見た目から荒木の師匠が早死にしてしまっているのだと勘違いをしていた。そして、レノールの様子から察したフィースも勘違いした。故人の話を聞いてしまったと勘違いした二人によって、この場の空気が激しく沈んだ。
勘違いしているのか。たぶん、見た目から短い期間の話をしていると思っているんだろうな。それはそれで最近気にしていることだから失礼なんだけど。転生前よりも圧倒的に性能が上がっているんだけど。服を着ている下は気付けないよな。
荒木は気にしていることをその場から判断した。荒木は心の中で、自分の見た目に対して言い訳をしていた。
とりあえず。勘違いされて悲しまれるのも嫌だから事実を言おう。
「あぁ、そんな暗い雰囲気しなくていいよ。殺したのは俺なんだから」
荒木にとっては重要でも何でもないもう昔も昔の話なので、気軽な感じで衝撃的な事実を伝えた。
「えっ?」
勘違いしているレノールは予想外の衝撃発言に開いた口が塞がらなかった。
「…」
フィースも声は漏らさなかったが、荒木の軽い感じの発言に驚いていた。
「どうゆうこと?」
荒木がただ殺したということはあり得ない冗談だと思ったレノールはどうしてそんなことを気軽に言っているのか真相を知ろうとした。
「フィースまだ?」
するとフィースと同じ身長のブラウンポニーテールの見知らぬ女性がフィースを急かすように訪ねてきた。どうやら気になる話の途中だったが、時間が来てしまった。
「そろそろ時間か。かなり気になる話だけど私は行かないといけないからお預けだな」
フィースは女性に呼ばれるとそのまま女性の元に向かい依頼の準備を始めようとしていた。
「気になるけど、私も行かないと」
レノールは荒木の話が気になったがそれよりも尊敬しているフィースの後を追って行った。
「行くのか」
このまま話が終わってしまうと俺が普通に殺してしまったってことになるんだけど。いいか。
荒木は勘違い勘違いのままにされてしまう未来が見えたが、特に問題はなさそうなので気にしないことにした。そして、荒木は一人になっていた。




