第二十九話 暗殺者はいたのかな?
荒木は顔から叩きつけられた暗殺者に近寄った。
鼻血を出しながら伸びるとは間抜けな暗殺者だ。一応、暗殺者だし自殺されたら、遊べないから装備を奪っておこう。
荒木は暗殺者が装備している場所へ手を突っ込み全て探り、ナイフや仕込んであった針や、毒袋などの装備を外していった。
これで全部だな。
暗殺者の装備を外した荒木は気の世界から取り出した。荒木は縄で起きた時に抵抗できないように暗殺者の手足を締め上げて、動けなくした。
「よし。SSランクモンスターを買い取らせるついでに、女王にお土産として持って行ってあげようか。でも、夜だと失礼だし朝にでも持っていこう。それまで、邪魔だし星を眺めながら待とうか」
荒木は暗殺者を肩に担ぎ、王城の鋭角な屋根に登って行った。荒木は暗殺者を不安定な場所に絶妙なバランスで置くと、荒木は寝そべった。そして、朝になるのを律儀に待った。
そろそろ、朝になりそうな頃になると暗殺者が目を覚ました。
「さむっ、寒い!?」
暗殺者は体を震わせて目を開けるとその先には遠くに地面がっていた。落ちたら確実に死ぬ高さだった。流石の暗殺者も身動きが取れない状態で不安定な場所にいるのは寒さが吹き飛ぶほどの恐怖だった。
起きたか。でも、まだ早いからな。換金でお金欲しいから、もうちょっと待とう。
「なにこれ?」
暗殺者は身動きが取れない状況を見ようとして体制を崩した。そのまま身動きが取れずに重力に引かれて落ちていった。
「キャーーー!」
縄は荒木がしっかりと持っていた。落ちた暗殺者は縄の伸縮によってバンジージャンプみたいに上下していた。。荒木は寝そべり空を眺めながら、ついでのように縄を引いて暗殺者を引き上げた。
「何してんの?」
「ぐっ!」
捕まったことを知った暗殺者は案の定色んな場所を探り、自決しようと頑張っていた。
自決を選ぼうとするとは意識の高ーい暗殺者だ。
「所持していた装備は全て没収しておいたよ」
「口の中もか」
大体の予想がついていたので、暗殺者は何か返事をする前から信じられないといったような顔で荒木を見てきた。
「そうだけど」
「何でためらいなく言えるんだ」
今度は恥ずかしそうに怒っていた。
「当たり前だよ。もしかして、暗殺者なのに体を触れられるのが恥ずかしいのか?」
まさか、口に手を突っ込んだことを怒っていると? 暗殺者なのに敵に捕まって無力化された時のこと想定してないのかな?
「当たり前だよ。もしかして、暗殺者なのに体を触られるのが恥ずかしいのか?」
「口は体内です。か・ら・だ? ///」
暗殺者は荒木の余計な一言であることに気づきさらに顔を真っ赤にして、怒りを超えるほど恥ずかしがっていた。
「まぁ、全部とはそういうことになるからな、体を触られたくらいで恥ずかしがるとは暗殺者に向いてないんじゃないか」
「む…向いてます。これでも、エリートです」
「エリートの暗殺者か。今は演技だったのかな?」
「そう、演技よ。演技」
暗殺者は強く同意した。
取りあえず情報を聞き出すか。まずは名前からだな。
荒木は暇つぶしのため、女王への手間を省くために暗殺者から引き出すことにした。
「で、名前は何ていうのかな?」
「はぁー、ジャネット」
ジャネットはどうせ教えなくても無理やり聞き出されそうな雰囲気を荒木から感じ取っていた。そんな目に会う前に暗殺者は自分の名前を名乗った。
「やけに素直だな」
すぐに口を割ってしまったジャネットに興が削がれてしまった荒木は今行おうとしていたことを止めた。
せっかくジャネットを使って実験もとい遊ぼうとしていたのに、別の機会にお預けか。
「どうせ言わされるでしょ。言えることなら、言うわよ。それにあなた何をしようとしているのか分からないし、命は惜しいからね」
流石のジャネットもこれから荒木が行おうとしていた行為に気付いていた。そのため、すでに諦めがついていたようだった。
「さすがに命は取らないけど、暗殺者なんだから少しは粘れよ。拷問する気が失せた」
結果似たようになるかもしれなかったけど、今言うのは面倒だからやめよう。
「やっぱり、拷問しようとしていたのね」
「当たり前だろ、どうせ俺には関係ないけど手見上げにはなるし、情報を抜き取るのは重要だからな」
まぁ、大半は暇だったからなんだけどね。
「で、君は誰に雇われたの?」
荒木は女王と会ったときに手間を取らせないために、早速情報を聞き出そうと質問した。
「私は闇ギルドの依頼で受けただけだ。依頼人は知らない」
闇ギルドか。一度足を運んでみたいと思っていたが、闇ギルドが情報を持っているとは思えないからな。
「そうか。依頼の内容は?」
「女王の暗殺」
「ふふっ」
ジャネットが依頼内容を言うと荒木は思わず吹き出していた。
しまった。結構実力差があって今の格好のジャネットが出来るわけないと思わず笑ってしまった。
「何よ」
笑われていい気がしなかったジャネットは少し反抗した。
「女王が自分より強いことは知ってる?」
「それくらい知ってるわよ。正面から挑めば負けるけど、寝込みを襲えば強さなんて関係ない」
あの女王は俺に気付くことはできないだろうが、寝ているときは並みの暗殺者程度なら気づかれてしまう程には警戒している。それはともかくとして、数々の暗殺者を返り討ちにしている実力者であることは有名なはずなんだけどな。調べてないのかな?
「女王についてちゃんと調べた?」
「調べました」
「資料だけだろ。ちゃんと女王の姿は見たの?」
「見てないけど」
やはり、資料だけしか読んでいなかったか。たぶん、女王の気配察知は書かれていなかったのだろうな。ちゃんと、調べていれば気付けたのに。
「寝ているところを襲えばわかったことだけど、ジャネット程度の気配の消し方だと簡単に気付かれるよ」
「脳筋そうな女王に私の気配を探知できるわけないわよ」
縄に縛られている状態だったが、ジャネットは自分の力に自信を持っていた。ジャネットは自分が勝利する姿しか想像していなかった。
「命拾いしたな。あのまま行けば確実に殺されてただろう」
死ぬと分かって立ち向かっていくなら、勝機はあるだろうが、実力差を見極められずにいくのは死に行くようなものだからな。
「まさか」
ジャネットは万が一にも失敗するとは思っていなかったようだ。それから、色々情報を聞き出そうと考えていたが、荒木は退屈してきていた。
「飽きた」
「解放してくれるの?」
ジャネットは情報を聞くだけ聞いて一向に何もしてこない荒木に対して、素直に話したから解放してくれると考えていたようだ。
「飽きたし、しばらく寝ときな」
荒木はいつの間に手に持っていた針をジャネットの首元辺りに刺した。
「それは何? 毒?」
ジャネットは自分も似たような毒針を持っていた。微妙に形状が違ったが用済みとなった自分を消す選択肢もあるので、それと同じものだと勘ぐっていた。
「これは、俺が調合した麻酔針。痺れて動けなくなるだけだから、女王の前にいる頃には痺れは無くなるように調合しておいた。心配するな」
「えっ、じょ……」
麻痺の針を刺されたジャネットは女王のもとに連れていかれることを突っ込もうとした。しかし、ジャネットの体に麻酔が回り、全身を動かせなくなってしまった。そんな状態でもジャネットが睨んでいるのは荒木にも分かっていた。
そして、荒木はジャネットを抱えて、女王の部屋に窓から侵入しようと窓に突撃した。その窓から女王の自室を見ると女王を起こしている女性騎士が見えた。荒木は迷わず窓を割って女王の自室に侵入した。
「貴様は何者だ!」
「荒木だ」
騎士が寛大に切り掛かろうとして来たので、荒木はフードを取り確認させた。
「こないだの失礼なガ…子供か。窓をこんなにして、ドアをノックしてちゃんと入れ」
「…ふわあああ」
騎士が起こる中荒木は大きく口を開いてあくびをした。
「私が常識というものを教えてやる。そこに座れ!」
荒木のあくびで怒りが頂点に達した騎士は荒木に説教を始めようとした。
「うん? どうしたのドミニカ?」
騒がしくなったため、今まで眠っていた女王が起きた。女王は起きると大声を出している騎士ドミニカに状況を聞いた。
「この前の子供です」
「荒木か。こんな朝早くに何の用かしら?」
前にも一度同じことが起きたので、窓ガラスが割れていても動じずにゆっくりと本題を聞こうとした。
「モンスターの換金をしたいんだけど、いい?」
「またSランクモンスターか?」
荒木がモンスターを国に持って来たということは強いSランクモンスターだと、思っている女王は眠気など忘れさった。女王は荒木がどんなモンスターを狩ってたのか見たくて目が輝いていた。
「まず土産に女王を暗殺しようとしていたジャネットっていう暗殺者。昨日の夜に捕まえて、得られた情報は名前と依頼だけ」
荒木は肩に担いでいたジャネットを女王の前に投げ捨てた。
「がう」
投げられたジャネットは顔から地面に激突して、鼻血を出していた。
「あぁ、途中で消えた昨日の侵入者ね」
「夜の侵入者か」
女王もドミニカも二人とも昨晩城内に侵入していたジャネットにしっかりと気付いていた。
やっぱり、ばれていたな。しかも、この余裕で暗殺者何てどうでも良さそうな反応から、この城の主と騎士だしジャネットが城内に侵入したときから気づいてただろうな。
「気づいていたの?」
床に投げられてジャネットが痛がりながらも、気づかれていたことに驚いていた。
「私の城ですもの当然、気づいていたわよ」
「当然、私もです」
「なぜ、あなた方は私を倒しに来なかったのですか」
ジャネットは城内の誰に危害を加えるから分からない状況で、すぐに倒しにくれば城内の安全は保たれると考えていた。
「いえ、あなた程度の実力ならば女王様に害はありませんから。それに女王様は侵入者には自分で始末したいとおっしゃるので、私は侵入者が手練れでない限り手を下しません」
「私の楽しみでもあるからね」
「凄い女王だな。尊敬するよ」
自分の敵は自分で排除か。けっこう貴重な類の女王だ。やはり、この町は拠点にするには居心地良さそうだ。
「私に悟られることなく、この城に侵入できる実力者に褒めえてもらえるとは光栄だわ」
「不覚ながら私も気づけなかった」
ドミニカはこんな失礼な荒木の存在に気づけなったことが悔しかったらしい。
「そんなことはどうでもいいわ。それよりモンスターを見せて頂戴」
女王はジェネットが自分よりも結構弱そうな存在だと認識した。女王は自分といい戦いも出来なさそうなジャネットより、荒木がどんなモンスターを持って来たのか興味を持っていた。
あのタコみたいなボスモンスターこの自室だと血生臭くなるし、絶対に入り切らないから、庭で解体しよう。
「今回も大きいから庭に出すわ」
荒木に提案された女王は何も言わず壊れた窓から出て庭に向かうと、それに続くようにドミニカも出て行った。
一応どうでもいい存在で、邪魔になったジャネットは責任をもって俺が運ぶか。
荒木はどうでもいいジャネットを担ぎ、庭へ出て行った。
「早く出して」
庭に出ていくと女王は子供みたいに荒木に催促した。
荒木は気の世界からランク上げに使ったダンジョンで、綺麗に糸で切り倒したボスモンスターを取り出ていった。巨大なそのモンスターは庭を埋め尽くそうとしていた。
「何このモンスター…」
ジャネットは初めて見る強大なモンスターの残骸に恐怖していた。そして、自分と対比したのか小さく体を震わせていた。
「今回は一人で狩ったよ」
「今回はまた随分と大きいわね」
「海の生物?」
ジャネットと対照的に女王とドミニカは今までの経験から、似たようなモンスターを見ているので、そこまで驚いた様子はなかった。
他にも狩っているが、SSランクなら一体でも相当な額が付くだろうし。他のモンスターは素材を研究したいから出さなくていいだろう。
「これで全部だな」
「こんな大きなモンスターをどうやって倒した」
その大きなモンスターの死骸のせいなのか窓に大きな謎のモンスターを見物しようと続々と使用人たちが覗いてきていた。
「普通に倒しけど」
「あなたの普通って何?」
「私が鑑定するわ。スキル鑑定。モンスター名、ビーディイア、ランクは…S…S…ランク」
女王は自ら率先してモンスターの鑑定を始めた。女王がモンスターを鑑定し終える頃には冒険者ギルドのみんなと同じように驚いた。女王は固まった。
「SSランク…私でも手が届かない」
ドミニカは女王からもたらされたランクから荒木との力の差があることを実際に感じていた。
「嘘! 夢よ」
ジャネットは信じられない光景を目の前にして、ここが夢ではないかと思っていた。
「どれくらいなの?」
「私にも値段は付けられないけど、大白金貨3枚ってところかしら? ドミニカは?」
「私もそれくらいで、いいかと」
荒木に聞かれたが女王もドミニカも今までにこのモンスターで一人に対して、お金を支払ったことが一度も無かった。女王たちは正直値段が分からなかったが、素材もよさそうだったので、適当に付けて納得するしかなかった。
「そこの暗殺者さんは?」
女王は参考になるかもしれないと思いジャネットにも聞いてみた。
「私には値段なんて付けられません」
突如女王に振られたジャネットだったが、自分の想像を絶するモンスターに値段なんて付けれるはずもなかった。
「荒木君はこの値段でいい?」
女王は値段が分からなかったので、荒木に決めてもらうことにした。
俺的にはこの程度いくらでも狩れるから、いい値でいいだろう。
「今言った値段でいいよ」
「分かったわ。お金を渡すから部屋に来てくれる」
女王もさすがにそんな大金を所持していなかったのか。前と同じように、部屋に戻っていった。荒木もお金をもらうため、ジャネットを持ちながらその後を追った。
「はい。今回の報酬よ」
「ありがとう」
これから色々と出費がかさむからな。いくらあってもお金は足りなくなる可能性がある。増やしていかないと。
荒木は受け取った大白金を見て、今後お金を失う可能性の未来を想像していた。荒木は資金稼ぎに意欲的になっていた。




