第二十八話 闇に紛れるストーキング日和
荒木はレノールと別れると、エヴァンジェリアがどうなっているのか気になったので、屋根の上を歩いて王城に向かって行った。
荒木が屋根伝いに見た王城は見えるところ全てのドアが閉じていた。
戸締りをきちんとしてるな。王城だしこの世界だし当たり前か。
荒木は跳んで王城にある庭に侵入した。荒木は手から糸を作り出して、ドアに掛かっているカギに糸を入り込ませた。
何かしらの魔法がカギの中に付与されてるな。なら、ちょっと強引になるが、気で吹き飛ばしてから魔力を消失させて、外そう。
荒木はカギに向かって気を放った。カギに掛かっていた魔法は吹き飛ばされると何もなかったかのように無くなってしまった。
荒木は糸を中の形状に会うように変えて回すとカギは一切の音もなく簡単に外れた。
このカギは意外と簡単な作りなんだな。
戸締りはしておこうと思った荒木は王城に入る瞬間と同時に糸を使い、カギを掛けなおしておいた。それにより、荒木は正規の手を踏まずに再び王城に不法侵入に成功した。
そして、荒木はほとんど光のない暗闇に包まれた王城通路を何の明かりも付けずに、エヴァンジェリアの部屋まで歩いて向かっていた。
荒木はまず自分に用意された部屋のドアを開き覗いてみると、そこには見知った3人がいた。
ぐっすりと眠っているな。俺に用意された部屋に泊まっているのか
3人は疲れ切って多様で荒木の予想通りぐっすりとイビキを掻きながら寝ていた。
「…主様」
「…うぅ」
「…助けて…」
ユードラは幸せそうな夢を見ていそう寝顔だった。しかし、レジーナとユードラは何かに怯えているような寝顔で、こちらも刺激的な夢を見ていそうだった。
うん。3人ともいい夢を見ていそうだ。
荒木は3人の部屋のドア閉めて後にした。
次はエヴァンジェリアを見てみるか。
荒木は向かいのエヴァンジェリアの部屋のドアを開けて覗いてみた。エヴァンジェリアは疲れている3人とは違い静かにすやすやと眠っていた。
荒木はエヴァンジェリアの全身をくまなく目で見た。
体に異常はなし、ついでに言えば成長もなし。見た感じ健康状態は問題ないか。自分を鍛えた痕跡も無いみたいだ。強いやつがいるんだから、鍛えればいいのにな。ということは、この1週間くらい本当に図書館で情報収集をしていたみたいだな。これから自分なりの行動に移す時期か。俺が戻ってくる頃には何か決めてくれるだろうから、エヴァンジェリアのことはその時に考えよう。
エヴァンジェリアが健在していることを確認して王城に用がなくなった荒木はエヴァンジェリアの部屋を後にした。
そして、暇になった荒木は気になり始めていた。
やけに足音が小さいメイドがいると思ったらメイドじゃないのか。女王のことだから、その手のタイプも採用しているのかと思ったよ。
荒木は気になった場所にその者が気付くように近づいて行った。何者かはさらに移動したので、しつこく後を追うと足を止めた。
荒木は同じ速度で向かい角の方向を見ると自分を除いている黒いローブを着ている女性だと思わる顔を見た。
あの服装からして、侵入者だろうな。面白そうだし遊んであげよう。
速度を変えずに追うことを再開すると、目の前を糸に引っ張られている黒いローブが侵入者に向かうように通りすぎていった。
仕掛けを作れるということはしっかりと夜の目が効いているんだけど、何をしてるんだろう。俺のことを子供だと思っているのかな。
再び後をゆっくりと追っていると、黒いローブが目の前を通り過ぎて行った。
子供だから、お化けを見せて怖い思いをさせようとしているのか。可愛らしい侵入者だな。このままストーキングを続けていこう。
さらにしつこく近づいてくる荒木の存在に気付いた何者かは動きを止めて、息を潜めると、反対側に移動した。
隠れた場所をごまかそうとしている。罠か。これはまた形式的な判断を。一応、乗って上げるか。
荒木はあえて侵入者の罠にはまるため、侵入者が止まっている方向とは反対側に向かった。荒木が角を曲がろうと体を向けると、侵入者が後ろからナイフを持ち切り掛かってきた。
荒木はそのナイフを見ることもせずに躱した。躱す瞬間、ほのかに良い香りがした。
風貌的に忍者みたいだな。いや毒付きのナイフを使用しているところから暗殺者といったところか。きっと、この国の重役または王の暗殺をしようとしているんだな。
「何してんの? お嬢ちゃん」
○暗殺者
夜に紛れるような漆黒のローブを着た彼女は闇に微笑んだ。彼女にとって今までにない難しい依頼で、やる気に満ち溢れていたからだ。
「ふぅー、行きますか。女王を暗殺しに」
彼女は壁を伝って行いき、王城に侵入した。
侵入成功。
彼女は王城の扉に近づいて、カギを確認した。
これが、情報に会った魔法の警報がついてあるカギね。
彼女はピッキング用の小さな器具を取りだした。
「リリース(解除)」
彼女が魔法を詠唱するとカギに掛かっていた魔法はなくなった。カギに付いていた魔法が消えたのを確認した彼女は用意していたピッキング用具で鍵穴をいじくりまわすとカチッ! という音とともにカギが外れた。
ふぅー、なんとか侵入成功したわね。
彼女はカギを今開けた王城の中の扉付近に置いて、帰りカギを掛けやすいように置いておいた。彼女は王城に侵入すると予め、場内の地図を把握していたので目的のもとまでゆっくりと移動していた。
王城にしては警備兵が少ない? 女王が強いから必要ないということか? もしかして、罠? いや、罠だろうが依頼はやり遂げなければ。
彼女は場内を回っている警備隊に出くわさないように最新の注意を払いながら、移動していた。
何もない? 罠ではないみたいだけど、暗殺対象は幾度の苦難を実力で薙ぎ払ってきたこの国トップクラスの実力者。気を入れていかないと。
暗殺対象にもうすぐ近付きそうになった彼女は気合を入れなおして、足を踏み出そうとするといきなり、足音が耳に入ってきた。
いきなり足音。大物を前に緊張していたか。
彼女は緊張のせいで足音が今まで聞こえてこなかったのだと、思った。彼女は気配を消して、その足音が来なさそうな道に移動した。
近付いてくる。偶然かな?
彼女はその足音から再び離れた。
近付いてきている!? しかも、歩く速さを変えずに。気づかれた? 偶然? 少しだけ足音の正体を確かめてみよう。
彼女は廊下を曲がりその角から、足音の正体を掴もうとこっそりと顔を出して来るのを待った。足音がゆっくりと近づいて来るのが、彼女の耳に聞こえてきた。
警備兵かな? それにしては軽い足音。もしかしたら、手練れの警備兵か。あの女王のことだ。それくらいはしていそう。
そして、ついに彼女を追ってくる足音の正体が角を曲がり姿を見せると同時に目にその姿を焼き付けると、すぐに顔を引っ込め、別の場所に移動した。
「!?」
嘘! なんで、こんな時間に少年が一人で歩いているのよ。じゃ、私を追ってきていた足音は偶然っていうことか。
彼女は足音の正体が少年だったことに驚いた。彼女は少年に警戒していたのかと思い、恥ずかしくなり緊張の糸が少し崩れた。
迷子かな? しかし、あの少年にでも、この王城内で目撃されて余計なことを言い振らされれば厄介。ここはひとつ脅かして、部屋に帰らせよう。
彼女はローブを脱ぎ、そのローブをその場において糸を括り付けた。彼女は2つ角を曲がりそこで足音を聞いて少年を驚かせる舞台が整った。
ククッ、子供なんて、お化けでも見れば恐怖で部屋に戻るでしょ。
彼女は珍しい状況に楽しくなっていた。彼女はノリノリで糸を引っ張り少年の前を横切らせた。糸をそのまま引っ張り手元に回収した。
あれ? 少年の悲鳴が聞こえてこない。
彼女は少年のいる方向を見るが、少年は微動せずに歩いていた。
暗闇で視界も悪いし、速すぎて見えなかったのかな? もう一度。
彼女は再び同じ仕掛けでゆっくりと見えるようにローブを移動させたが、少年は反応しなかった。
幽霊が怖くない子なのかな? いや、おかしい。
彼女は驚かすのが楽しくなって気付くのが遅れていた。
こんなに移動しているのにまだ私の方向に近づいてきている。試してみるかな。
彼女はローブを着ると、複雑な道のりで、少年から距離を取り近付いてくる足音を聞いた。少年の足音は自分の来た道と同じような道のりで来ていることが大体わかった。
ずっと追ってくる。偶然ではない。じゃ、何で? もしかして、新しい警備方法? そんな情報はなかった。本当に偶然かもしれないが、気づいている可能性が大きい、少年を殺すのは忍びないが折ってきているのならやる。
せめて、苦しまないように即死の毒で。
彼女はナイフ取り出し、そのナイフに液体を付けた。
耳はいいから、後は罠を張って待とう。
彼女は廊下角に身を潜めると、さらに静かな動きで反対側の角に移動して身を潜めた。
これで、反対側の角で待っていると勘違いするな。向こう側に行ったときにこのナイフの一撃で少年を仕留める。
彼女は息を殺して、その時を待った。そして、彼女の思惑通り少年が反対側の角に体を向けた瞬間、静かに少年に近づきナイフを少年の首元めがけて振り下ろした。
振り下ろされたナイフは空を切っていた。どうやら少年は少し前に移動して、ナイフを躱したようだった。
「何!?」
ただの子供じゃないみたいね
ナイフを躱された彼女は只者ではないと判断して、ナイフを順手で持ち構えて再び構えた。
「何してんのお嬢ちゃん?」
その少年は暗闇で視界も悪いうえローブを着ている彼女の性別を迷いもなく言い当てた。
すごい観察力。ナイフを自分に向けられても物おじしない。胆力。相当な手練れ。本気でいくしかない。
「…」
彼女は少年が相当な実力者であることを理解して、全神経を少年に向けて研ぎ澄ました。
○荒木
「何をやっているのかな、お嬢ちゃん?」
「…」
暗殺者は荒木を見つめて沈黙していた。
「暗殺者でいいのかな?」
「…」
暗殺者は何も答える気はないようで、口を閉じることを決め込んでいた。
まぁ、任務中の暗殺者が話すわけないか。どう遊んであげようかな。
荒木が遊び方を考えていると、暗殺者はナイフでどこでもいいから当たるように適当に突いてきた。
まぁ、毒が塗ってあるナイフだからな。体のどこかを傷つけて毒を体内に侵入させられれば勝つから殺すには当然の判断。なら、正面からそれを打ち砕いてあげよう。
荒木はナイフを柔らかい体の動きで、しなやかにナイフの連続突きを躱した。暗殺者は埒が明かないので荒木の頭上を飛ぶように回転した。
荒木は跳ぶ前に暗殺者のナイフを持っている方の腕を暗殺者に気づかれることなく事前に掴んでいた。荒木はアサシンが頭上に来ると掴んでいるほうの腕に力を入れて、逆立ちのような状態で停止させた。
「え?」
暗殺者は荒木よりも体重のある、自分を腕の力だけで空中に停止させられて、流石に声を漏らさずに驚くことはできなかった。
「(どんな力、こんな力人間では無理。もしかして、悪魔か。だけど、関係ない。殺すまで)」
ナイフを封じられた暗殺者は口をすぼめて、その口から荒木の頭めがけて針を射出された。その針にも、もちろん毒針が塗ってあった。
口にも毒針を仕込んでいるのか。流石は暗殺者。
荒木は頭に針が刺さるのはカッコ悪いと思ったので、首を捻って躱すと毒付きの針は肩に付き刺さった。
口に隠して実用的に使うにはある程度の技術が必要だからな。実力のある暗殺者みたいだ。
荒木は毒も気にせず、のんきに暗殺者の分析を行っていた。
「(やった)」
暗殺者は突き刺さると同時に勝利が確定したと思ったのか。気が緩み、少し満足そうな顔をしていた。
「?(おかしい)」
しかし、効果時間がたっても、毒の効果が表れない荒木を見て暗殺者は不思議に思っていた。
「残念だね」
「!(即死レベルの毒よ。かなり上位の毒の耐性を持っているのね)」
荒木の一言で暗殺者は何の効果も表れないその正体に気が付いた。暗殺者は開いている左手を左腰付近にあるナイフを手に取り、荒木に向かって突こうとした。
「それじゃ、バイバイ」
荒木は暗殺者のナイフを突こうと肘を曲げた瞬間、掴んでいた腕を地面に向けて振り下ろした。暗殺者は防御を捨て攻撃に集中していたため、無抵抗で顔から地面に叩きつけられた。衝撃に耐えられなかった暗殺者は気絶していた。




