第二十四話 エンジンは愛の鞭
それから、3日間。荒木に無理やり、休むこともせずに力を引き出された。
次の階層を上がると不眠不休で体を酷使したリクシーとユードラは力尽きて倒れていた。
「二人ともだらしないですよ」
唯一この中で荒木にしごかれずに自分の速度で進んでいたユードラは疲れてはいたが倒れるほどではなく元気だった。
「ユードラは荒木になにもされてないからな」
「辛すぎだ」
リクシーとレジーナの二人はユードラとの扱いの違いを荒木に聞こえるようにわざとらしく大声で言った。
「私は担がれていて見ていただけだけど、確かに荒木の訓練は辛そうだったな」
辺りのモンスターが強すぎて黙って荒木の肩に担がれていたレノールはその間に何もすることが出来なかったので、荒木がしていた光景を可哀想な目で目撃していたため、二人に同情した。
「まぁ、敵も弱くなってきたことだし一回休憩にしようか」
「あれのどこが弱くなってるんだ! お前の目は節穴か!」
レジーナは確かに階層を上がってから、敵に攻撃を出来るようになっていたのは実感してはいたが、まだまだ油断したら死ぬ可能性の高い戦闘ばかりで続いていた。緊張でイライラしていたレジーナは荒木にその不満をぶつけていた。
「確かに弱くなりましたよね。主様」
ユードラは荒木にやる気を示すために辛い戦闘であることを表に出さないように必死で抑えていた。さらにユードラは荒木に気に入られるために、まだまだ元気で戦えるということを示そうとしていた。
「弱くなってない。弱くなってない。どこも弱くなってない!」
リクシーは荒木を肯定するユードラを反射的に否定した。
3人とも300層辺りからモンスターを倒すことが出来てる程度だし、実際に周りのモンスターたちが弱くなっていることを実感しているはずなんだけどな。
「階層上がってるから当然モンスターも弱くなってるし、それに3人ともモンスターを倒せてるじゃないか」
「倒したといっても、稀に何かしらの理由で負傷しているモンスターだけで、それ以外は今もまだ一戦一戦が文字通りの死闘だったよね。分かってる?」
リクシーはここの階層を上がってくるまでの厳しい戦闘の数々を疲れとともに思い出し、呆れていた。
「そんな場面あったけ?」
「荒木も見てたよね」
レノールは同じ光景を見ていたので、みんなが荒木の前で頑張っている光景を当の本人が忘れていることに驚いていた。
「戦いというよりも相手の攻撃を防ぎながら逃げ回っていた印象のほうが強いんだけど」
ほとんどの戦いユードラ以外はほぼ守りの一手ばかりだからな。本当の闘いとは言えないだろう。
「休憩なしの連戦が続いているからな。体力温存のため逃げるのは仕方ない」
「情けないな。レジーナの復讐心はどこに行ったんだ?」
本当にどこに行ったんだろう。モンスターを倒してはないが真正面から戦ってこの階層まで上がってきているユードラと比べて情けないな。
「復讐心は消えてない。今でも村を襲った相手は殺したいほど憎んでいる」
レジーナは真剣になり、昔の記憶を思い出した。
「まぁ、そんなこと、どうでもいいけど。休まないの? 早く休まないと時間がないよ」
「お前が先に話したんだろ!」
先に話し始めた荒木に雑に扱われたレジーナはかわいい顔をして怒った。
「時間がない?」
リクシーは慣れてきているのからレジーナの文句を完全に放置して荒木のその一言で何か頭に引っ掛かった。
「そう。今回は遅くなっているがこっちに向かってきているからな。敵が」
「毎回、毎回、何でこんな階層を上がってすぐに敵がくるんだ?」
「もしかして、荒木が?」
戦闘中から大方の予想がついていたリクシーは荒木と話せる状況になっていたので真相を確かめた。
「正解。俺がおびき寄せている」
「お前か!」
「やっぱり、荒木の仕業だったのか」
「当然だよ。あれらのモンスターたちにそこまでの索敵能力がないことくらい何度も戦って見ている皆ならわかるだろう」
毎回、毎回、モンスターが大量に襲ってくるなんて作為的におびき寄せてることは簡単に察せられそうだが、あれだけ戦ったのに確信を持っていなかったのか。まぁ、そういう能力を持っていてくれればうれしいが、今回は重要ではないからどうでもいいや。
「…はぁ」
「疲れた。 休もう」
荒木の相手をするのに疲れたリクシーとレジーナはほかの二人と同じ様に各自静かになり無駄な体力を使わないように休憩状態に入った。
「はい。携帯食料と水」
荒木は味のないオートミールを棒状に固めたものと竹の水筒を取り出すと4人に手渡した。荒木はすぐに食べ終えた。
「…」
「ありがとうございます」
レジーナはいつも通り無言で受け取ったがユードラはうれしそうにその携帯食料を受け取った。
「それか」
「それね」
二人とは対照にリクシーとレノールは嫌そうに携帯食料を荒木から受け取った。
「どうしたんですか?」
そんな二人をみたユードラはなぜいやそうに携帯食料を受け取っているのか不思議に思った。
「味がしないからまずいんだよね。この携帯食料」
「そうだな」
リクシーも頷いた。
「俺が一番嫌いな味にしてあるからな」
だから、不味くないと逆におかしいからな。まぁ、極限に味をなくしてるだけだからな、普通の人なら無理すれば食べられるけどな。
「何で自分の一番嫌いなものを作ってるの? 惜しいものを作ればいいのに」
「もったいないな」
「修行だよ」
「はぁ~(そんにしなくてもいいのでは?)」
食事で体を作ることを知らないレノールは食事まで気を使っている荒木に呆れいていた。
「でも、まずくは無いですよ?」
荒木も二人に同意するとユードラはおいしくもなく不味くもないと感じているため、3人の光景を不思議に思っていた。
「エルフにとってはね」
「エルフはうす味が好きだからな」
レノールとリクシーは文句を言いつつも、お腹もすき、この後も激しい戦闘があることを考えると食べないとやっていけないので、我慢して食べた。
「それにしても、ボスモンスターはどこに行ったのかな?」
「確かに」
地面に座って休んでいるユードラとレノールは疑問に思っていた。
「色々と邪魔だし、面白いのが多いいから俺が倒したに決まってんじゃん」
ボスモンスターとか階層に出て来る珍しいモンスターとかはみんな珍しい動きをするから、どうせみんな初めて見る動きで、手間取って時間がかかるのがおちだからな。面倒なモンスターを無視するのは仕方ない。それに、珍しい動きをするモンスターなら、俺の技の参考とかになるから俺が倒したほうが得になる。
「はーい。訓練の開始」
荒木はモンスターが3人に教える範囲内に近づいて来るとレノールを肩に担ぎ休憩しているみんなに戦闘を促した。
3人は荒木に起こされると、今までの死闘から油断すると命取りになると体に記憶されていたので文句も言わずに戦闘態勢に入った。それから、3人は再び防戦一歩の死闘が始めった。
荒木はその光景をのんびりと観察していた。
ユードラは順調に成長してる。これならエヴァンジェリアの護衛もできるだろう。
あとはモンスターも弱くなってくるし、のんびりと見守っていこう。
それから2日間気分が変わった荒木は特にリクシーとレジーナの二人に鞭を打って速度を上げてこのダンジョンを出ていた。
ユードラは成功。レジーナはあとひと手間加えるだけ。リクシーは仕上げに少しかかりそうだな。リクシーとレジーナも戦闘能力は十分だし、もう一工夫すれば護衛としての力を身に着けることが出来るだろう。一応訓練は成功だな。これで感覚も麻痺して敵が多少なりとも自分より強くても多少のことでは逃げない護衛の出来上がりだ。
みんなは疲れすぎてダンジョン入り口で倒れいていた。荒木は肩に担いでいた気絶しているレノールを同じ様に地面に置いた。
「よし。帰ろう」
荒木は倒れているみんなを見て何となく言った。荒木は外で待機している紅のもとによって行った。
「何もなかったかな?」
ダンジョンにいながらも外の状況を索敵していた荒木は索敵があっているかどうか確認のために紅に聞いた。
「はい。主様の索敵を躱せる敵は来ていません」
紅は何かのモンスターが大量に倒れ伏している中静かに待っていた。
「このモンスターたちを回収するけどいい?」
紅がうなずくのを確認すると荒木はそのモンスターたちを糸で吸い取っていた。
荒木がダンジョン入り口で一通りの作業を終え出発準備を整え終えた。準備が終わると荒木は倒れているであろう3人のもとへと向かっていった。
荒木が辿り着くと3人はようやく立てるようになった。3人の服は戦闘によりボロボロになっていた。
服が汚いな。作り治すか。荒木は糸を使い三人の服を新しく整えた。
「よしこれで完璧」
「はぁ~!?」
レジーナが大きな声を上げて驚いた。
「どうしたのレジーナ大声出した。何か面白いことでもあった」
「ちょっと待って、お前さっき糸は体から切り離せないって言ってなかった?」
レジーナは荒木に対して自分を騙したことと自分が騙されたことに怒っていた。
なるほど。どうやらレジーナは糸が一つしか使えないと勘違いしているみたいだな。遊ぶか。
「あの糸はね。別に糸は何種類も作り出せるから勘違いだよ~。恥ずかしいな」
荒木は面白い反応を見せてくれたレジーナにご褒美として最後に余計な一言を言って挑発してあげた。
怒ってくれるかな? この中で怒らせて遊べるのってレジーナくらいだな。他のユードラは俺の意見を何でも肯定しちゃうし、リクシーは怒りわせずに聞き受け入れて後で復讐するために心に刻んでいるだけだし、レノールは怒るには怒るけど異世界人と知ってからは諦めているからな。まぁ、別に怒らせなくてもいいんだけど面白そうだからいいか。
「誤解する言い方しかできないお前が悪いんだ!」
荒木に挑発されたレジーナは滑稽にも荒木の遊びに参加してしまった。
「俺の糸が一種類しかないと勘違いしたレジーナが悪いから…帰ろうか」
荒木はレジーナをあるものと決めつけるとみんなが早く帰りたいのか馬車に乗っていたので、レジーナを無視しして、馬車の上に乗ろうとした。
「ん? ちょっとまってまだ話は終わってない」
急に話を止めた荒木にあっけにとられて疑問に思って一瞬時が止まった。しかし、無視されたことに気づくと再び怒り荒木とを引き留めた。荒木は少し笑った。
まさか。自分から話そうと誘ってくれるとは成長したな。
「何か話したいの? 別にいいけど何話す?」
荒木はレジーナを困らせるためにわざと詰め寄って、真剣に聞く体制になった。
「ち…近い。離れろ!」
レジーナは荒木を手でどかそうと思ったが力では敵いそうにもなかったので、自分から身を引いて顔を話した。
「世間話でもする?」
「違う。お前が私を騙したことについてだ!」
なるほど。レジーナは俺に謝るか、過ちを認めてほしいみたいだな。だが、それでは挑発にならないからな。謝らずに自分の言動を肯定していこう。
荒木はレジーナを弄びたかったので、余計なことをいうことにした。
「この世界。騙されたほうが悪くない?」
この世界はそういったルールとかが緩そうだからな。それにこの場所にルールなんて存在しないし、自分の身は自分で守るのが当然だろう。
「騙すほうが悪いに決まっている」
レジーナは本来優しい性格なのか、善意のこもった意見を言いながらも怒っていた。
「子供じゃないんだし、大人なら自分の身くらい自分で守らないとね。あっ、レジーナは子供か」
そういえばレジーナの国を襲撃した国ってどこなんだろうな。その情報がないと意味がないからな。
荒木はもう片手間でレジーナをいじっていた。
「!? お…お前!」
レジーナの怒りは噴火の時期を迎え頭の欠陥がはちきれそうになり、顔が真っ赤になって可愛くなっていた。荒木は噴火する前に話を遮るふと思ったことを聞いた。
「それよりさ。レジーナの復讐したい国ってどこ?」
荒木はレジーナが噴火しそうな怒りを遮り無視して、ふと思ったことが口から出た。
「何!」
「もしかして…」
「……人間の軍が襲ってきたのは分かっているが他の情報は知らん」
長い沈黙の後レジーナは何も悪びれることなく、寧ろ堂々とまだ情報収集が出来ていない事実を告白した。
「何だ。情報集めすらできてないのか」
まだ、捕まって日が浅くて情報収集出来ていないとかなのかな? それなら分かるが。しかし、あれだけ復讐だとかなんとか言っていたのに情報すら持っていなかったのか。面倒なことになりそうだ。
「悪いか」
荒木に馬鹿にされたレジーナだったが、気まずいことを理解していたのか怒りはしなかったものの、開き直った。
「…」
捕まったばかりだったからか。でも、あれくらいの首輪くらい自力で外せないのか。復讐心がある割には非力だな。
荒木は非力なレジーナに対して同情するような目を無言で向けていた。
「何が言いたい?」
そんな荒木の視線の意味が分からなかったが、自分に対して何か嫌なことを想像しているかもしれないと思い、怒り気味なっていた。
「いや弱いなってだけ」
「異世界人のお前から見ればな」
嫌というほど荒木と自分の実力差が違うことを見せつけられたレジーナは如何に嫌いな種族の人間といえども荒木のほうが自分よりも強いことを受け入れていた。しかし、嫌いであるので少し怒り気味ではあった。
弱いとわかっているのならもっと修行させてあげようかな。
「そうか。なら、もう一日ダンジョンに潜る?」
「早く帰ろう」
レジーナは荒木から本当にダンジョンにもう一度行って同じことを繰り返しそうだったので、荒木を無視した。十分に疲れきっているレジーナは早く休息をとりたいので足早に馬車の荷台に乗った。
馬車の荷台にいる3人はレジーナと同様に不眠不休の修行で疲れ切っていたのかにかわいさのかけらもなくイビキを掻きながら爆睡していた。
そんな光景をレジーナも見て自分もこうなるだろうと想像できていたが、すぐに寝たいレジーナはそんなことはお構いなしにみんなと同じように眠った。
「早いな。もう寝たのか」
まぁ、あの程度の修行ならみんなにとっては疲れることだから仕方ない。はぁー、何もすることがないし帰るか。念のために荷物は新しく積んでおこう。
荒木はその場で跳んで行きと同じく馬車の布の天井の上に静か乗った。
「馬車が壊れそうだから、帰りはゆっくりと帰らなければならないな。来た道を平らにして通りやすいようにしてから運んで」
「了解」
紅は口を開きのその口から何の予備動作もなく赤い乱気流のような荒々しい光線のようなものが口から放たれた。その光線は紅の直線状の木々と道を抉り取っていった。光線が止まると紅の目の前には馬車が引っ掛かりそうな木の根などの者が一切ない綺麗な道が不自然に出来上がっていた。
「馬車が壊れないようにゆっくりといってね」
「わかってます」
「じゃ、後は頼んだ」
「了解」
紅は馬車をゆっくりと引いて行った。荒木も紅が馬車を引き始めると天井で横になり、空を見上げた。




