第二十三話 成すこと全てが命取りの片方だけの戦い
それから、モンスターの攻撃をしのぎつつ岩陰に近づいてきていた。リクシーの作り出した幻想によって引き起こされた混乱のおかげでモンスターの攻撃が単調になり、攻撃の来る場所が予測できたていた。そのため3人は何とか命を繋ぎ止めていた。
そんな中、ユードラは一息つけるかもしれないという期待から、気が緩んでしまっていた。
モンスターの右腕がリクシーの貼った防御魔法を何も無かったかのように破り、ユードラの体に直撃した。ユードラに激しい衝撃が襲った。
「ぐぅぅぅ」
ユードラは先ほどのリクシーの助言を思い出し、モンスターの攻撃が直撃したが、衝撃に負けないように足で踏ん張りその場に留まった。
「キュア」
リクシーはすかさず回復魔法を発動した。リクシーの回復魔法はモンスターの攻撃を受けて激しく損傷したユードラの体を回復させた。
「ありがとうございます」
ユードラはモンスターの攻撃を防御するために再び、気を引き締めた。
移動から数分がたち岩陰にようやくたどり着いた。3人はその岩陰の後ろに回ってみたもののその奥にはまた同じ数のモンスターが惑わされもせずにこちらの様子を伺っていた。
「普通にいますね」
「もっと離れた場所で身を隠さないと一息つくこともできそうにないか」
「そうだな。戻っても意味はないからな」
3人は気を取り直すと一息を求めて、モンスター達から逃げて行った。
それから1時間逃げ続けていたが、。3人は一撃一撃を必死に凌いで、集中力と神経をすり減らしていた。レジーナとリクシーの二人は1時間たったとは思えないほど疲れていて、苛立ちを感じていた。
「「荒木めー!」」
レジーナとリクシーはこの状況を作った張本人に文句を言いたくて取りあえず何も考えないで名前を叫んだ。
○荒木
荒木がダンジョンの下層に出発してから数時間が経とうとしていた。
荒木はレノールを肩に担ぎながら階層のモンスターたちを倒して、最下層の大部屋に辿り着いてダンジョンのボスモンスターと対峙していた。
ボスモンスターは頭の髪の毛に当たる部分と両手はタコの足に似ている髪の毛が8本ずつ生えていた。ボスモンスターの足は一本なのか8本だけの奇妙な姿をしていた。さらに全長7メートルくらいで巨大だった。
水中の生物が陸にあがってきちゃった感じの生物だな。地の利もない残念なモンスターだ。それに加えて、触手タイプは糸を使い慣れている分、動きもわかっちゃうからな。それに肉も柔らかそうだ。
「少し遊んでから糸で倒すか」
荒木は気配を消すのをやめて、ボスモンスターに突っ込んでいった。
荒木に気付いたボスモンスターは何の反応もせずにただ単にうねる腕に当たる部分の触手で鞭のように殴りかかってきた。荒木はその攻撃を躱して、ボスモンスターの動きを伺った。攻撃を躱されるとボスモンスターの触手は荒木の体を応用に方向転換して伸びてきた。荒木はその攻撃を難なく躱す。
自在に動かして、伸縮性があるのか。あの吸盤は触れたら何か起きるのかな。
少し躱すとだんだん地面に水が湧き始めた。
あのモンスターの能力か。敵を認識してから発動する能力なのか。なら、初めから水を張っておけば有利になるのにな。
水があろうがなかろうが、問題のなく動ける荒木は気にせず相手の出方を伺った。下に溜まっている水から激しい水流で形成されている水柱がこの空間に多数現れた。激しい水流の水柱は荒木に当たるが、激しい水流に動じることもなく何も効果はなかった。
これは何の意味があるんだろう。足止めとか視界を悪くするとかかな。
次第に空間は水が半分になっていた。
俺ならこの水中でも、問題なく活動できる。けど、このままだと息が出来なくなってレノールが死ぬな。まぁ、これくらいの敵なら俺の防御でも守れそうだから、防御しておこう。
「糸術―繭糸」
荒木は糸を作り出して、十分な空気とともにレノールを包み込んだ。
これで、俺がボスモンスターを倒すまでは余裕で生きてられるだろう。
そして、待つこと数秒このフロアをボスモンスターが作り出した水によって埋め尽くした。レノールの繭が天井に向かっていった。
かなりの水圧があるな。深海を再現しているのか。それに海流みたいなもの発生している。あの水柱の影響か。
ボスモンスターは水流をうまく利用して、すばやく移動し始めた。荒木もそれに倣うように水流を扱いつつ、水を蹴ってボスモンスターよりも早く移動してボスモンスターの攻撃を躱していった。
最初からこうやって戦えばよかったのに。まぁ、フロアが水浸しだと断念する人がいるかもしれないという配慮かな。
ボスモンスターは両手の触手を全て使い、荒木をその手の中に包み込もうとまとわりついて来ようと動いていた。
荒木はそれを簡単に躱す。
ボスモンスターはまた同じように体の全ての触手を使い荒木の逃げ道をなくし、包み込もうとした。同じ行動を察した荒木は相手の技が見たくてあえて捕まった。荒木を包み込んだ職種の吸盤は全て荒木に向いていた。その吸盤から衝撃波が放たれた。さらに吸引されて内部を無理やり、かき混ぜようとしていた。
しかし、荒木はそんな中を何事もなく微動せずにいた。
これは敵対したものを激しく揺さぶって体力を消耗させて弱らせようとしているのか。俺には威力が低すぎて効かないがな。
それから数分経って荒木は退屈になっていたので、水中を泳いで暇をつぶしていた。
何をするか待っているが長い。もういっそのこと倒しちゃおうかな。
触手の中心から鋭い牙の生えている口が表れた。
やっと、攻撃してきてくれるのか。たぶん、弱ったと思って食べてしまおうと思っているんだな。しかし、あの程度の鋭さの牙では俺に傷一つすら付けられないな。この程度の攻撃何ともないから抜けだそう。
荒木は隙間のない触手の間をゆっくりとこじ開けて、隙間に割り込んだ。ボスモンスターはそれに気づくと荒木を逃さまいとして触手に力を入れて締めた。荒木はその力に逆らわずに利用してヌルっと抜け出した。
ボスモンスターは触手で荒木の体を貫こうと突いてきていた。
だんだん飽きてきた荒木は糸を数本前に出してボスモンスターの攻撃を受け止めた。ボスモンスターの触手は糸に当たると全て避けていった。触手は避けると使い物にならなくなったのか、引いて別の触手で攻撃を仕掛けてきた。
高速の再生能力はなしか。なら、もう終わりだな。
荒木は戦闘中に糸を予めボスモンスターの動きを邪魔しないように緩めて水中に漂わせて体に巻き付けていた。荒木はその糸に力を入れた。その結果ボスモンスターはきれいにバラバラになった。
「終わり」
ボスモンスターを倒したが水は引くことはなかった。
作られた水は残ったまんまなのか。別に俺には関係ないからいいか。うん? あれは、宝物庫か。一応金になるかもしれないし、使いものになるのもあるかもしれないから回収しておこう。
荒木はボスモンスターの体を全て回収してから、水中の中の宝物庫にあるものすべてを回収した。
何もなくなったし、帰るか。
荒木は天井に浮いているレノールを防御している糸を解いて、肩に担ぎこの階を後にした。
そして、荒木がダンジョンの下層に出発してから数時間が経とうとしていた。
「体力、魔力ともに限界が近いですね」
「し、死ぬ―」
「も、もう無理」
3人は一回一回が激戦を避けることが難しい消して減ることのない強いモンスターに足止めされていた。さらに3人は階層を上がることは出来ずに荒木と分かれた階層にまだいたが体力が限界に近付いていた。
その頃、荒木は目標を終えたため気絶しているレノールを左脇に抱えながら、3人の戦闘をこっそりとこの場の全ての生き物に悟られることもなく、天井に立って観察していた。
「ふーん。困ったな。順調に進まないで次の階層への道を探してる」
3人でパーティーを組んでいるのか。確かに、協力したほうが生き延びる確率は上がるか。本当は一人で戦ってほしいんだけど、そうしないと生き残る力は付かないからな。階層が変わらないから今から強制的にバラバラに散らばってもらうか。
荒木は右手から糸を作り出して、3人のお腹に巻き付けた。荒木は本格的に3人を鍛えるため糸を操り3人が協力しないように別々の場所に移動させた。
△ユードラ
「あれ? みんなは?」
荒木の手によって一人にされたユードラだが、荒木の巧みな糸操作によって何をされたのか気づくことはできなかった。ユードラはいつの間にか腰に巻き付かれている糸があるのに気が付き、別れる前に見せてもらった糸を思い出した。
「これは、ご主人様の糸。そういうことですか」
ユードラは糸に手を触れた。
「(これは挽回のチャンス)見ててください!」
ユードラは荒木が自分を見てくれていると思い、今度こそ良いところを見せられると思い、疲れていることを忘れて意気込んだ。ユードラは意気込むと無謀にもその勢いのままモンスターに立ち向かっていった。
「はぁー! でりゃー!」
再びモンスターと対峙したユードラの動きは3人で移動していた時とは変わり、次々にモンスターの攻撃を躱し始めた。この時、ユードラの瞳にはモンスターの動きが遅く映っていた。さらに体の調子も良くなり、だんだん攻撃の速度も上がり、モンスターを少しずつ傷つけていった。
「(何故か。調子がいい。これならこのままこのモンスター達も倒せるかもしれない! 流れに身を任せてみよう)」
調子が良くなってきたユードラはその流れに任せて、モンスターたちに向かって一心不乱に攻撃して強いモンスターたちに傷を負わせて行った。
「覚醒して調子も出てきているみたいだな。やる気もあるみたいだし、ユードラは観察しなくても平気そうだな」
荒木はユードラの意気込みを感じ取った。目的はより良い方向に達成できることは確実だろうと判断して、ユードラの気持ちとは反比例するように観察すことは止めた。
△リクシー
「何? なるほど」
リクシーはユードラよりも感覚が鋭いのか腹に巻き付けられていた糸に3人の中で一番早く気づき状況を飲み込み冷静になった。
「一人で戦えということか。魔力が底を着きかけているこの状況で」
リクシーは冷静になって自分の魔力の量を確認したが、ほとんど無くまともに戦える状況ではないという、事実から絶望感が襲う。
「魔力を温存しつつ、モンスターの攻撃を避けて逃げるしかない」
荒木の思い通りに戦って生き残る可能性も自身も少ないと考えたリクシーは命を最優先に戦わずして、逃げること決めた。しかし、3人で苦戦していたモンスター達から1人でこの場所から逃げることもまた難しいことなのは理解していた。
「生き延びることが出来たら、いつか仕返ししてやる」
リクシーはこの生き残る可能性が低いこの絶望を作り出した本人である荒木に死んでも呪ってやるという恨み言のような遺言を糧に全力で逃げることを決意せざる終えなかった。そして、リクシーは先ほどの3人のときの緊張よりも、さらに冷や汗を滝のように流しながら必死にモンスター達の攻撃を躱して、逃げて行った。
「目的の力は付けてくれそうだから、半分観察するだけにしよう」
リクシーは荒木の考えている通りに動いていた。そのため、これからのリクシーの行動も想定内通りに動く能性が高いと思った。荒木はたまに生きているかどうか確認するくらいの軽い確認だけで十分だと思っていた。
△レジーナ
「何だ? 何でだ?」
レジーナのお腹には荒木が悪戯として移動し終えた時には、お腹に巻き付いている糸は存在していなかった。そのため、レジーナはなぜ急にこの場所に移動させられたのかすぐに気付くことが出来なかった。そして、考える前にモンスターの攻撃を避けるため戦闘になり、考える暇など無くなっていた。
いきなり移動されたことへの驚きや、この状況をどう生き延びるかなど様々な要因によりレジーナは混乱していた。混乱は隙につながりモンスターの攻撃を肩に受けてレジーナは無残にも人形のように吹き飛ばされて行った。
「痛たたた…うっ」
レジーナが吹き飛ばされて目を開けるとそこには荒木の顔があった。今見たくない顔を見て、嫌悪感を抱き声が漏れてしまった。
「何だ。一人になった途端に弱気か?」
荒木は嫌悪感を無視して挑発するためレジーナが吹き飛ばされていた場所に先回りして、自分を見上げられるように笑顔を頭上に待機させていた。
「…なぜここに?」
レジーナは荒木が邪魔で目の前からその顔を消してほしかったが、体がモンスターの攻撃の衝撃により、今すぐには動かせない状態のため、仕方なくこの体制のままになった。
「目標を終えたのと、俺が移動させたからだよ」
「これはお前がやったのか」
レジーナは自分の顔を見下したように除いてくる荒木の顔を見て、だんだん苛立ちを覚えていた。
「そう。他の二人も移動させたけど、その中で、攻撃を受けたのはレジーナだけだよ。ユードラは実力的に3人に劣るのにモンスターに傷をつけられる程度に成長しているのにな。不甲斐ない」
「何!」
レジーナは自分を純粋に弱いと文句を言われて事と顔の苛立ちが相まって、睨みながら声を荒げた。
「怒るなよ。実力は中間なのに今だってモンスターの攻撃を受けて体を動かせないくせに」
荒木はレジーナをイラつかせるためにさらに煽った。
「お前はあのモンスター攻撃をまともに食らってないから言るんだ」
レジーナはいくら荒木が異世界人だろうとあのモンスターの攻撃をまともに受ければ、ただではないだろうと思っていた。
「あれくらいなら何をされても無傷だけど、あんな遅い攻撃に当たる間抜けじゃないからな」
「ぐっ、な…ならあのモンスターと戦ってよ」
レジーナは荒木なら躱す程度簡単にしてしまいそうなことを思い出した。レジーナは苦し紛れに荒木を戦わせようとした。
「まぁ、いいけど」
荒木はレジーナの提案に素直に乗り、立ち上がった。荒木はその場で手を一線すると目の前のモンスター達は切り裂かれた。
「…はぁ」
レジーナは軽く手を振っただけでモンスターたちに抵抗を与えることもなく、目の前に広がる命を一瞬で奪っていく荒木の姿を見た。それから、レジーナは呆れつつ、戦闘において荒木に何かを思うのは止めようと思った。
「で、どうだった? 俺の戦いは、参考になったかな」
「その糸の力だ。それを私にくれれば倒せる」
一回、納得しそうになったがレジーナは自分の持っている普通の剣と荒木が持っている糸を比べてた。レジーナは自分もあれくらいの切れ味のある武器ならあのモンスターもきっと倒せると思っていた。
「でも、この糸って俺が作り出した俺の体の一部だからな。俺から離れるとこのようにだんだんと消えていくから武器にすることはできないよ」
荒木はレジーナに自分の糸がどうやってできているのか両手から作りだして自分の体から離れた糸が薄くなっていく様子を見せてあげた。
「…じゃ、もっといい武器をくれれば何とかなる」
自分では使うことのできない武器をみたレジーナは糸をもらうことを諦めて、これだけの実力のある荒木ならもっといい武器を隠し持っていうるかもしれないと思い、武器を要求した。
「そんなものを使わなくても素手で行けるだろう」
「あんな固いやつ素手で倒せるわけないだろ」
「分かったよ。先に言われる前に見せてやるよ」
荒木はレジーナに素手でも戦えることを特別に見せるあげることにした。
荒木はモンスターにゆっくりと歩み寄っていったがその姿を視界に入れたモンスターはいなかった。荒木はモンスターに近づくと、体を叩き自分の存在を理解させた。モンスターは荒木の姿を認識すると、何の前触れもなく殴ってきた。荒木はモンスターと比べて細い腕で、モンスターの拳を焦ることもなく無表情で受け止めた。荒木はそのまま手でモンス他の拳を握りつぶした。
「…肉体が違いすぎる」
モンスターの力をものともしない荒木の肉体と自分の肉体とでは遥かに性能が違いすぎた。レジーナは異世界人の肉体性能に圧倒された。
そして、荒木は中段から蹴りを入れてモンスターの上半身を吹き飛ばした。
「ね。簡単でしょ」
「お前と私とでは肉体性能が違うからな。できるわけがない」
レジーナは荒木の戦いを見て自分が真似しようとしても、肉体が全然違うので真似出来る光景を思い浮かべることができなかった。
「出来るさ。俺だって最初は弱かったから。それにレジーナなら数発攻撃を受けても死にはしないから大丈夫だよ」
荒木は自身も体を鍛えて今があるので、鍛えればなんとなると考えていた。しかし、そろそろレジーナを戦わせたい荒木はレジーナのいる場所に跳んで近づくと服を掴んだ。
「もしかして…」
レジーナは荒木に服を掴まれると何をされるのかを悟った。しかし、悟ったところで、荒木に対して自分が抵抗することは不可能だったので、身を任すしかなかった。
「そう。でも、厳しいのは今だけだから頑張ってね」
荒木は投げ飛ばされるのを悟られたのを分かると一応、応援してあげた。荒木はレジーナを持ち上げるとモンスターがたくさんいる場所に放り投げた。
「いやーー!」
レジーナは浮遊感から恐怖を感じて叫びたかったが、強いモンスターたちとこれから長時間戦わされることへの不満を絶叫に変えた。
モンスターたちはレジーナの存在に気付くと我先にと攻撃を仕掛けに行った。
「はぁ、はぁ、もうこれ以上戦ったら死んじゃうって」
レジーナは必死に荒木に泣きついた。屈強な護衛を作りたい荒木はいい訓練になっていると思い、満足しながらレジーナを無視した。
△荒木
いい感じに強い敵との戦闘経験を積むことが出来ているが、出口に辿り着くまではだいぶ時間がかかってしまうな。なら、俺がユードラ以外の2人に鞭を打って強制的に登らせていくか。
荒木はレジーナとリクシーの速度が遅かったので、無理やり速度を上げることに決めた。




