第二十二話 修行の始まり
下の階層に行ったとしても、リクシー以外の勝ち目は極小だからな。それでは相当な死にたがりか、戦闘狂か、俺に見たいな特殊な人たちになってしまうからな。
「まぁ、下に行かなくても最低限の訓練は出来るか」
「それでここには自分の力を見せつけるために来たのか?」
リクシーは先程の戦いから荒木が自分の力を見せつけて自分たちを脅迫しようする策略ではないかと思っていた。
「さっき言った通り鍛えるためだよ」
荒木はみんなが暗い雰囲気になっていたので、場を読まずに明るく言った。
「敵が強すぎないか?」
「ダンジョンでの訓練は階層を上げていくんじゃないの? どうやって訓練をするの?」
レノールの常識から考えてこれから荒木が行おうとしている訓練が想像できなかった。
「ここから上に向かって行くだけだけど」
「ここから戦うのか?」
リクシーはこんなに深く強敵がいる階層から上に向かって行くことを理解すると驚いていた。
「当たり前だよ。大量の危険がないと急成長は難しいからな」
「何その過酷な訓練の考え方」
レノールが荒木の命を落とす危険性の高い無謀な訓練方針に突っ込まざる終えなかった。
「そう? ここまだ中層でこのダンジョンでは普通のモンスターしか出てきてないんだけど」
荒木は皮肉気味に今の階層がダンジョン内でどれくらいの位置づけなのかを言った。
「中層? 最下層じゃないのか?」
「うん。このダンジョンの最下層はキリよく1000層だよ」
「え、1000層? このダンジョン600層が最下層じゃないの? 」
荒木が本当の階層との情報を口に出すとレノールは600層が最下層だと勘違いしていたのか、驚いていた。
「ここの階は言ったけど、このダンジョンの最下層はまだ話してないからな」
「確かに話してないのは覚えてるけど、どうやって調べたの?」
リクシーはこの世界のダンジョンのそれも調べられていないダンジョンなのに、異世界人の荒木が、先程に見つけたダンジョンについて詳しい情報を持っていたことを疑問に思った。リクシーは何か種があるのではないかと思い荒木に直接その方法を聞いた。
糸が見えてないのか。見えるように太くしてあげるか。
「こうやって」
荒木は下の階層に通じている数本の糸を見えるように太くした。すると、4人の目の前に太く永遠と続くように長い白い糸が地面を這うように現われた。
「何これ」
「…」
レノールとレジーナは初めて見る糸を不思議に思っていた。
「糸か。便利だな」
リクシーは二度目に見る糸の使い方で荒木の糸が幅広く応用が利くことに気づいて、感心していた。
「異世界人って不思議ですね」
ユードラだけは素直だった。
「ちなみに、最下層の990層~1000層には歳をとっている厄介な知恵を身に付けているドラゴンをも凌ぐボスモンスターが10層をぶち抜いた広大な土地にいるみたいだよ」
荒木は一応下の階層にいるモンスターの情報を言った。
俺にとってはそのモンスターすらも弱いけど、3人にとっては天と地の差がある存在だからな。俺の流派からしたら修行にはいい相手であるのは確かだけど、俺の流派の訓練をしたら命がいくつあっても足りないから下の階層に行かせる気はないけどな。
「何その一国程度なら滅ぼせるくらいの強いモンスター」
「凄すぎますね」
レノールとユードラの二人は素直に驚いていた。
「これくらい深いダンジョンならあれくらいの結構いるけどな」
荒木の心の声が漏れた。
俺が異世界に来てから調べたダンジョンでは見慣れている強さのモンスターなんだけどな。ダンジョンの最奥のモンスターは地上には現れないということなのか。
「もしかして、そのモンスターと戦わせる気?」
これまでの荒木の強いモンスターと戦わせる訓練方法から、この先の出来事を嫌な方向に捉えていたリクシーは不安に思っていた。
「大丈夫。ここから出口に向かってひたすら進んで行くだけだから」
「倒さなくてもいいのか?」
「そう。出口に行くだけだから、倒さなくてもいい」
この訓練の目的はエヴァンジェリアを3人よりも強い複数のモンスターが攻めてきた時に1秒でも長く時間を稼ぐための屈強な護衛を作るためだからな。
圧倒的強さのモンスターを創意工夫して倒すよりも死に物狂いで逃げて、攻撃された時の対処方や逃げるための時間を稼ぐ方法を必死に覚えてもらった方が、目的に会った護衛を作れるだろう。
この階層のモンスターを倒さなくても問題ないという情報を得た3人は一気に難易度が低くなったと感じて気を休めていた。
「そろそろか。レノールは俺のそばに来た方がいいよ。大変なことになるから」
「大変なこと?」
「そう。訓練が始まるということだ。訓練開始!」
レノールを一言で区切ると、荒木はモンスターたちが近づいてきたのを感じると3人に戦う命令とともに合図した。そして、視認できる範囲からぞろぞろと先程倒したモンスターたちが現れ始めた。
「何…あの量」
「多すぎます主様」
二人は先程まで苦戦していたモンスターの量に驚いていた。
「命令を無視してもいいけど頑張らないと死んじゃうから気を付けてね」
荒木はレジーナとユードラの奴隷契約の拘束が緩く、命令を無視できることを逆手にとって皮肉気に言った。
「どうやら、本気か」
「私たちを殺す気か。荒木!」
レジーナはモンスターに取り囲まれる寸前にこんな地獄みたいな光景を作り出した本人の名前を怒ったように叫んだ。
荒木はレジーナが名前を呼び捨てにしたことに一定の成果を持っていた。
珍しい。レジーナが名前を呼んでくれた。やはり、窮地に落とされると自発的に名前を呼んでくれるんだな。取りあえずこの階層の一番強いモンスターを見てはいるからみんなが死ぬまでに一度、レノールのランク上げのために降りて行くか。
「俺はレノールと先の階層でランク上げのために、モンスターを狩ってくるから後は頑張ってね」
「ということは一国を滅ぼせるほど強いモンスターのいる場所に向かうってこと?」
レノールは先程の荒木が話していた言葉が過去形だったことに気づいていたなかったのかまだ最下層にボスモンスターがいるものだと思っていた。
「そう」
「ここで十分じゃない?」
この階層よりも強いモンスターがいる場所に行ったときにレノールは3人みたいに戦闘を行わされるかもしれないと臆していた。
「最下層の手前にいるモンスターを倒さないとランク上げが捗らないからな」
「ここでも問題ないと思うんだけど」
荒木が何気なく効率の提案をすると戦闘するかもしれないと恐怖が増したレノールはこの場所に留まることを強く願った。
何か。やけにこの場所にいたながるな。もしかして、1人で3人と同じような待遇を受けると思っているのかな?
「チームでも、遠くの敵を俺が倒してもカウントされないから付いてくるように言ってるだけだから、戦わなくていいよ」
「分かったわ。チームでも、近くで倒さないと数えられないからね」
レノールは怖がる自分に言い聞かせて、荒木について行くことに決めた。
荒木はレノールが了解すると新たに糸を作り出して、レノールを持ち上げた。
「じゃ、行くぞ!」
「きゃっ!」
荒木はレノールを糸で持ち上げながら最下層に向かって行った。しかし、レノールは荒木の速度に対応できなかったようで荒木が動いた瞬間の凄まじい負荷により気絶してしまった。
よし、寝たな。これで高速移動できる。あの3人はどれくらい耐えてくれるかな? 1時間くらいは耐えてくれそうだけど、2時間は召されてしまいそうだから一時間弱以内を目安にモンスターを狩ってくるか。
まぁ、召されても俺がせっかく奴隷商会に足を運んだ労力が無駄になってしまうだけで、俺の適正には当てはまらなかったということだから、また新しい奴隷を見つけるだけでいいか。
それから荒木は移動しながら様々な階層で大量のモンスターたちを糸で切り刻んでいき、荒木とレノールの冒険者クリスタル内のモンスター討伐数が急激に増えて行った。
◇3人
「クソ! 人間め!」
「本当に行ってしまいましたか。3人で協力してこの状況を何とかするしかないですね」
ユードラは荒木にあまりいい姿を見せることも出来なかったので、仕方ないとすでにこの状況を受け入れていた。
「見つかっている以上は協力しないと無理そう」
リクシーもユードラと同じく一人ではこの状況を打破することで来そうにないと観念して協力することに決めた。が、後で荒木に倍にして返そうと誓った。
「命令は逃げるだけだから何とかなると思うけど」
レジーナも嫌いな人間がいなくなり自ら提案した。
「どうやって?」
「あのモンスターたちの上を飛んでいけば逃げられる思う。フライ」
レジーナは魔法を使い、迫ってくるモンスターの頭上を飛んだ。
「グッ!」
しかし、この階層のモンスターの身体能力は高く、レジーナがいる空中まで跳躍だけで同じ高さに上り詰めた。レジーナはモンスターにはじき返され、元いた地面に叩きつけられた。
「どうやらそう簡単に逃げられそうにないな」
「覚悟を決めてあの数のモンスターたちの攻撃を凌ぎつつ、物陰に隠れるしかありませんね」
ユードラはこの状況で戦う以外に打てる手を考えることが出来なかったので、覚悟を決めて攻撃を凌ぐことに決めた。
「それしかない。 ヒール」
レジーナもユードラの提案に賛同しつつ、モンスターから受けた傷を回復の魔法で回復して立ち上がった。
「いや、効果があるかどうか分からないけど、ここは仲間割れを誘ってみよう」
「なるほど。頼む」
「仲間割れですか?」
ユードラはリクシーの提案した作戦が分からなかった。
「私は魔法で幻術が多少使える」
「特殊属性の魔法ですか。その魔法ならあのモンスター達に催眠術を掛けることが出来るならモンスターを操ることが出来ますね」
「インベートイリュージョン」
リクシーは幻属性の魔法をモンスターたちに向けて発動したが、モンスターたちの強靭な魔法防御力の前に魔法は弾かれた。
「直接は効かないか。なら自分たちの分身を見せるまで。アバターイリュージョン」
リクシーはそこら中に自分たちの分身を幻想により出現させてモンスターたちに混乱させようとした。
「すまない。誘導するくらいしかできなかった」
リクシーが魔法を発動すると3人に迫ってきていたモンスターたちは幻想に向かって攻撃を仕掛けた。
モンスターたちが幻想に攻撃するとその攻撃は同族に当たり、その攻撃に反撃して仲間同士争い始め、この場は乱戦になった。
「でも、効果はあったみたいですね」
「これなら混乱の中で攻撃をさせるだけで済むから全員を正面から相手するよりはだいぶ楽になったな」
「私たちはリクシーさんを守りつつ物陰に移動しましょう」
「わかった」
ユードラとレジーナの二人はリクシーの前後に武器を構え入った。
「私の魔法攻撃は効果が少ないから直接攻撃は避けて二人の補助と援護に徹する。インクリースフィジカルストレングス、インクリースレートストレングス、インクリースヴェロシティストレングス、インクリースディフェンスストレングス、インクリースパワーストレングス、インクリースコンティニュエーションリカバリー、インクリースコンティニュエーションヒーリング、インクリースコンティニュエーションキュア、インクリースコンティニュエーションプロテクション、インクリースコンティニュエーションセーフガード、アシストストロングホールド」
リクシーの魔法により身体能力の向上、持続的な回復や防御などの様々な力が二人に付与された。
「すごい」
「これなら防御だけに徹せられますね」
ユードラはリクシーの魔法が自分の使える魔法よりも上だと判断すると攻撃を受けることだけに集中した。
「それでも、今の私にできる最高の魔法だがそんなに期待はしないでくれ」
リクシーには自分の掛けた魔法では自分達よりもかなり強いモンスターたちの攻撃を防ぎきることが出来るとは到底思えなかった。
「分かってる」
「取りあえず、あそこの岩陰に向かいましょう」
ユードラは取りあえず辺りを見回して、近くにあるモンスターが少なさそうな岩陰を見つけた。それでも岩陰に辿り着くまでは死闘になるだろうと3人は思った。岩陰を見つけたユードラを先頭に乱闘状態のモンスター達の中を歩み始めた。モンスターがモンスターにはなった殴打が先頭を行くユードラに襲い掛かってきた。
「来ましたか」
ユードラは盾でモンスターの攻撃を受け止めようと剣を後ろに引き盾を前に突き出した。そして、モンスターの拳と盾が触れ合ったがユードラは受け止めきれそうにはないと判断して、盾を横にモンスターの拳を逸らして、その拳を他のモンスターに向かわせた。
「(逸らしただけなのに腕がはちきれそう)」
ユードラはモンスターのたった一回の攻撃を受けただけで、左腕に痛みを覚えていた。
さらに後ろのレジーナにも両手を組んだモンスターの拳が振り下ろされていた。
「(強化の魔法がかかっていても、あのユードラの様子ではモンスターの攻撃を素直に受け止めるのは致命傷か)」
レジーナはその拳めがけて剣をぶつけたがその拳をそれることもなく何事もなかったかのようにまっすぐにレジーナに迫った。
「(弾けない)」
レジーナは弾けないと感じたその瞬間に身を後ろに引きモンスターの拳を間一髪のところでかわした。
「ふー」
レジーナは緊張感からため息を漏らした。
リクシーにもモンスターの足が襲い掛かってきていた。
「ストロングホールド、エルード」
リクシーは防御の魔法を操り、斜め下に移動させた。リクシーはモンスターの足が触れるのと同時に魔法を足の力の流れに合わせるように下から上へと押すように移動させた。防御魔法はモンスターの攻撃に耐えることが出来ずに虚しく砕け散ったが、モンスターの足を上に逸らすことには成功した。足を攻撃の勢いのまま上に逸らされたモンスターはそのまま地面に倒れた。
「(私が今使える最高の防御魔法でも、あのモンスターの攻撃に対して少しでも受け止めたりしたら、いとも簡単に破壊されてしまうか。防御魔法で守ったとしても直撃を受けたら防御魔法があろうと貫通して、致命傷になるな。私も他の二人と同じく攻撃を受け流すか躱すくらいしかできない。やはり、逃げるしか方法はなさそうだな)」
攻撃が効かないと知りつつも、リクシーは目くらまし程度にはなるかもしれないと、追撃しようという思いがあったが、そんなことが出来る余裕がないことをモンスターの攻撃を受けて理解した。
リクシーによって地面に倒れたモンスターは混乱しているモンスターたちに容赦なく踏みつけられていった。
そして、3人が数センチ進むとリクシーの前後を守っているユードラとレジーナの二人には攻撃が一切当たっていなかった。しかし、二人の腕はモンスターの攻撃を数回逸らしただけで、その衝撃によって疲労しきっていた。
「キュア」
リクシーは二人の腕の上がる速度が落ちてくると魔法を使い二人の腕の疲労を回復させる繰り返しが数秒くらいの感覚で起きていた。
「(この極限状態の中で、私も含め誰かが致命傷を受けた場合に即座に回復できるように気を配りつつも、頻繁に味方の回復もしないといけないのか。辛い)」
さらに岩陰に近づいて行ったときリクシーは二人に守られていない横から蹴りと殴りが迫ってきていた。
「(チッ! 挟まれたか!)ダブルストロングホールド、エルード」
蹴りは先ほどと同様に躱した。しかし、殴りは防御魔法に直撃した。モンスターの拳が防御魔法に直撃すると、防御魔法を貫通してリクシーの体に直撃した。
「ぐっ!」
リクシーが岩陰に向かう前に貼った数々の魔法はほとんど意味をなさず、殴られた箇所を中心にバキバキっと鈍い音とともに破壊された。さらにリクシーは衝撃により吹き飛ばされそうになったが足を踏ん張りその場に何とかとどまった。
「ヒール。ストロングホールド・エルード」
リクシーは追撃が来る前に回復魔法を使って体を動ける状態にした。その後、追撃が来る前に防御魔法を展開した。今度はモンスターの攻撃を防御魔法で逸らした。
「(危なかった)」
リクシーは冷や汗を垂らしてモンスターの攻撃を食らったら危ないのかを体に感じ取った。
「二人ともすぐに回復できなくなるかもしれないから攻撃を食らっても吹き飛ばされないように!」
リクシーはサポート役に徹しているため、二人がモンスターの攻撃を直接体感したことがないことは分かっていた。リクシーは二人のうちどちらかが、モンスターの攻撃を食らって回復が出来ない範囲に飛ばされて、今の陣形が崩れでもしたら生きていられないのではないかと思っていた。一人でも欠けたら助からないと思ったリクシーは命欲しさに、大きな声で聴きとれるように必死で助言した。
「分かった」
「分かりました」
ユードラとレジーナは致命傷を必死で防がなければならない忙しい中も、重要だと思ったので短く分かるように返事をした。




