第二十一話 ゆらり揺れたらダンジョンに
面倒になってきたな。人通りも少なくなって来たし、飽きてきたから速度を上げさせよう。
「紅少しずつ速度を上げて」
色々と面倒になった荒木は紅に命令を下した。
「了解」
紅は命令を聞くと、目的地は知らされていなかったが、命令通り徐々に速度を上げていった。
馬車はだんだん速度を上げていくと馬車が地面のデコボコによりガタガタと揺れ始めていた。布の上に乗っている荒木は何も変わらず快適に過ごしていた。しかし、馬車の内部にいる4人は揺れにより、荷台の乗心地は最悪になっていた。
「揺れがひどいな」
人間のいないこの馬車の中でレジーナが荒木の馬車に悪口を言いたくて文句をみんなに向かって吐き散らかした。
「速度を上げているみたいですね」
レノールは馬車を覆う布の隙間から見える景色の流れる速度が変わるのを見ていた。
さらに速度が上がるとバコバコと馬車から激しい音が鳴り始めて、馬車に尋常じゃない負荷がかかっていた。
「はやい!」
「流石は主様の魔獣ですね」
「この馬車大丈夫か」
リクシーはこの馬車が壊れてこの速度のまま外に放り出されたら痛くなるだろうなと心配になっていた。
「…(う~ぅ)」
先程荒木に文句を言っていたレジーナは早の揺れの影響により誰よりも早く気分が悪くなっていた。
そして、時間が経ちレノール、ユードラ、リクシーの順に酔っていった頃荒木は操作している糸により、森の情報を終えて面白そうなダンジョンを見つけていた。
このダンジョンに籠って、ランク上げと3人を鍛えるために使用するか。
「糸見えてるか?」
「当たり前です」
紅は荒木から出ている全ての糸を瞬時に確認して、不自然に揺れている一本の糸を見つけた。
「じゃ、揺れている糸の方向に進んでくれ」
「了解」
紅は荒木に命令されるとその糸の方向に方向を変えて移動していくと、木々の合間を馬車のまま強引に進んで行った。
道なき道を進む馬車には凄まじい負荷がかかっているが、馬車の中はさらに揺れが激しく、常に吹き飛ばされたり、ぶつかったり、混沌とした状態になっていた。
「…」
そんな馬車の中みんなは酔いと跳ばされることにより話す余裕も体力もなくなっていた。
「紅あそこの開けているところに止まって」
「了解」
目的のダンジョンの前には都合よく開けて馬車が置けるようになっていた。荒木はその場所に馬車を止めた。
「よし、到着」
荒木は馬車を降ると4人がどうなっているのかを確認するため、中を覗いた。馬車の中には馬車の高速移動による揺れの衝撃により力尽きてのびている4人がいた。
戦闘も行っていないのに情けないが、今回に限っては好都合だな。取りあえず先にダンジョンに入るために、荷物を気の世界にしまって準備をするか。
ダンジョンに入る準備を終えると次に馬車を見た。
この馬車の損傷具合だと帰り道の途中で壊れそうだな。途中で破棄する使い捨てだし問題ないか。馬車は紅に見張って置いてもらおう。
「紅は俺たちが戻って来るまで見張って置いて」
「いいけど、皮肉?」
「偶然だ。後は頼んだ」
荒木は紅の文句を無視して馬車を紅に任せると4人に糸を体に巻き付けて操り4人を空中へと持ち上げた。
やはり、好都合だったな。気絶しているからレジーナを簡単に持ち運べた。よし、この1000階もある広大なダンジョンの中層まで、一気に運ぶとするか。
荒木は笑いながら糸でみんなを担ぐとダンジョンの中層600階へと高速移動していった。
見た感じこのダンジョンは明るいな。闇目が効かなくても問題はなさそうだな。予定通り進めるか。
それから瞬く間に600階に辿り着いていた。
600階か。モンスターが適度に湧いてくる場所を拠点にしたいが、その良さそうな場所を探すまでの拠点はどこでもいいか。取りあえずモンスターが邪魔だから掃除するか。
荒木は糸を操りこの階層のモンスターをすべて倒すと、適当に寝心地の良さそうな地面にみんなを降ろした。荒木もその場に座りみんなが目覚めるのを眺めていた。
リクシーから、目覚めたか。
荒木はリクシーが少し動いたのを確認すると起きたと確信していた。
さて、この状況をどうやって説明するか。どうせ信用はされなさそうだから話してしまってもいいだろうが、それは皆が起きてからが二度手間にならずにいいだろうな。リクシーには退屈しのぎに糸の力を見せてもいいだろう。糸は俺の補助武器の一つだけど、別に熊捕流の奥義以外なら見せても構わないしな。それで行こうか。
「ここは何処?」
「ここはダンジョンの中」
「そのうねうね動いている細い糸みたいな物は何?」
「これは俺の武器だよ。これからの事はみんなが起きてから伝える」
「わかった」
荒木からの数言で大体の状況を把握するとリクシーは落ち着き荒木と同じように地面に座って皆が起きるのを待っていた。
まだ、奴隷主に不幸をもたらしていると言われているリクシーは俺に何の行動も起こさないのか。情報が少ないから慎重派のリクシーには行動を起こす気はないか。残念だな。敵の情報なんて気にせず目の前にいるんだから逃げられてしまう前に、仕掛ければいいのにな。これからそんなことしている暇なんて与えるつもりはないんだからな。
荒木は残念に思いながら、リクシーを見ていた。
「何かな?」
見られているリクシーは荒木の視線に気づくと少し笑っていた。
なるほど。どうやら俺の情報を得て勘違いしているようだが、気にしないで体の調子でも聞いておこう。
「気分はどうだ」
「平気」
「そうか。ならよかった」
「やさしいね」
リクシーは荒木の重要な情報を得たと思い、上機嫌になり、荒木を誘惑するような態度になっていた。
「他の3人もそろそろか」
荒木は3人の体の具合から後どれくらいで起きるのかが分かっていた。そんな言葉を言った荒木をリクシーは無言で見ていた。
「…ん」
「ここはどこですか?」
レジーナ、ユードラの順番に起き上がった。
「レノールが起きたら話す」
レノールが最後か。普通に戦闘力が強い順と同じか。まぁ、レノールはこの訓練にほぼ関係ないがな。
「レノールも起きたか」
「ここは?」
「ここはダンジョンの中、馬車で気絶していたから俺が運んできた」
「早速モンスターを狩るの? 私も借りがあるから頑張るよ」
レノールは薬草とかのクエストで、楽をさせてもらったことを借りに思っていた。その為レノールはどんなに強い敵手でも支援くらいなら出来ると思いやる気満々だった。
「やる気満々のところ悪いがレノールではこの階層でモンスターを一人で倒すのは無理。だから、近くにいればチームを組んでモンスターを倒したことになるから、レノールは何もしなくてもいいよ」
レノールには奴隷でもないし、無駄死にさせるわけにも行けないからな。
「そこまでしてもらうと、流石に気が引けるんだけど」
「目標ランクまでは行けないと思うから、そんなに気負わなくていいよ。それに今回一番重要なのはリクシー、ユードラ、レジーナの3人を使えるように鍛えることだから」
「鍛えるの?」
「3人とも今のままでは弱すぎるからね」
最低でも、ドラゴン並の力くらいないとな。それくらいの力がないと俺の強さの基準では0になるから本当は弱いの部類にも入ってないけどな。それに鍛えないと弱すぎて常闇の妖星の兵隊に速攻で倒される程の弱さだからな。
「3人とも弱そうには見えないけど、寧ろ強い方の部類に入ると思うんだけど」
レノールは自分との力の差から3人がどれくらい強いのかどうかを感じ取っていた。
「それはレノールがさらに弱いから、気づかないんだよ」
「お前よりは私の方が強いけどな」
レノールの援護をしたかったのか、レジーナは荒木との力量差が分かっていなかった。レジーナは異世界人のうぬぼれた人間の子供だろうと思い込み、戦闘経験も生きている時間も多いい自分の方が強いだろうと確信していた。
「まだ、力を見せてませんし、主様が私たちの力を疑うのは仕方ありませんね」
ユードラは荒木が自分の力をまだ見ていないので、測れていないだろうと思っていた。そのため、ユードラは戦いが来れば自分に対する見方も変わるだろうと自信を持っていた。
「荒木こそ強いのか?」
リクシーが今まで力の一端を見せていない荒木も強いのかどうか疑わしいと思って、鎌をかけるつもりで強気になっていた。
力量を隠しているし、見えないのが普通か。なら、実際に分からせた方が手っ取り早いな。糸で3人を相手にするのはしんどいから、モンスターを利用して勝負するか。それなら今自分たちが置かれている状況も分かるだろう。
「分からないか。ならあそこにいる2体同じモンスターがいるだろ。俺が1体を相手にするから3人がもう1体を相手にして、早く倒したほうが勝ちだ」
「分かりました。主様に役に立つところ見せて上げますよ。レジーナ、リクシー、行きますよ」
「人間に従うのは嫌だが仕方ない。分からず屋の子供に力差を分からせてやる」
「ふっ」
そして、ユードラは荒木に自分の力を認めさせるため、レジーナは自分のプライドのため、リクシーは自分の力を見せつけて、荒木を怖がらせてやろうと考えて、3人は別々の理由でやる気満々で戦闘態勢に入った。
「レノールは合図をお願い」
荒木は対決の合図を後で負けた時に文句を言われないように公平性をきすため、ほぼ関係のないレノールに合図を任せた。
「分かった。合図は任せて」
「3人とも準備はいい?」
「はい」
「いつでも」
そろそろ始まると思った3人は開始の合図とともにモンスターに近づけるように、足に力を蓄えていた。
荒木は急いでモンスターを倒すつもりないので、3人とは対照的にのんびりと構えていた。
待つ意味もない始めさせるか。
「レノール合図をお願い」
「では、始め!」
レノールは荒木に合図を促されると、直ぐに手を下から上に振り上げて合図した。
合図とともにリクシーは少し近づくとモンスターと適度な距離を取り魔法の発動準備をしていた。レジーナとユードラも奴隷商で買った剣でモンスターに切り掛かって行った。
荒木も歩き出したが3人とは違いのんびりとモンスターの元へと3人の様子を見ながら近づいていた。
「何!?」
「硬い!」
レジーナとユードラの2人の剣はモンスターに安く弾かれた。2人は直ぐに反撃されないように距離を取った。
「サィンダォータースパイラル」
リクシーはタイミングを見計らった用に二人が離れた瞬間、雷と風を纏い砂の粒が入り交じり回転している水をモンスターに放った。
「本当に硬い」
リクシーの放った魔法はモンスターに当たったが、何事もなかったかのように平然としていた。
予想通り今の3人では一筋縄ではいかない相手みたいだな。あの3人が全力全開で協力すれば一匹は何とかできるだろが、時間が掛かる。それでは訓練の意味がないな。今回は俺が倒して、訓練を始めさせよう。
荒木は手に新しい糸を一本作りだした。荒木は糸をモンスターに向かって縦に一線すると、モンスターは二つに分かれた。
「はい。終わり」
荒木はさらに3人が相手していたモンスターもついでに倒した。
「荒木の攻撃か」
「主様の!?」
「…」
「3人がかりでも一瞬で倒せなかった敵を倒したんだから、文句は無いよね」
荒木はモンスターを倒した瞬間文句を言われないように釘をさしたが、レジーナは普通に人間よりも弱いかもしれないと思い落ちこんでいた。対してレノールは自分の力が弱いことを荒木に見せてしまったことに対して落ち込んでいた。
「このダンジョンのモンスター達がやけに強いんだけど。ここはどこのダンジョンなの?」
荒木に負けて普通に落ち込んでいるレノールとレジーナに対して、ダンジョンについて知識を持っているリクシーは荒木の言葉に関係なく異常なまでに強いモンスターが存在するこのダンジョンが気になっていた。
「ここは俺が先程見つけたダンジョンの600階だけど」
「ろっ、600階!?」
「そんな階層があるのですか?」
荒木が呆けた表情でこのダンジョンの階層を言うと皆先程のモンスターの強さから事実であるとレジーナまでもが信じて、驚いていた。
しかし、王城の図書館で事前にこの世界でのダンジョンについての情報を得ていた荒木にとっては予想通りの反応だった。
この世界ではあまりダンジョンについて調べられていないみたいだから600階層くらいの深い階層は普通驚くよね。たぶん、100層とか300層くらいのダンジョンの情報くらいなら王城の本にも書いて有ったから知っているのだろうけど、それ以降の階層の情報は書いていなかったからな。この国の知識の集まる王城の図書館にも情報がないということは一般的にも知られていないのは当たり前か。一応俺の人柱になる可能性がある以上は事実を共有しておこう。
「みんなは知らないだろうけど、これくらいの階層のダンジョンなら俺の見た限りそこら中にたくさんあるよ」
「聞いたことない」
「私も知らない」
様々な場所を奴隷として渡り歩き物知りになっているリクシーと、師匠から様々な情報を得ているレノールの二人はダンジョンについての情報を持っていなかったので疑問に思っていた。
「この世界はダンジョンに興味ないみたいで情報が少ないからな。たぶん、これくらいの階層になると、寿命にもよるけど一つのダンジョンで一生や数世代に渡って調査しないと無理そうだからな」
「へー」
リクシーは異世界人の荒木の説明に頷いていた。
「異世界人に説明されるとはね」
レノールは異世界人にこの世界のことを説明されて皮肉交じりに褒めた。
ダンジョンではこの世界では本当に踏破されてないだろうからな。深い階層に行く気すらないか、挫折とか、次に行く道を見つけられずに断念したりしているだろうからな。
俺は糸で手っ取り早く侵入して最下層までたどり着けるから知ってるんだけどな。
「それで、この階層のモンスターはどれくらい強い?」
説明が一区切りしたのを察したリクシーは本題であるこのダンジョンのモンスターの情報に話を戻した。
「ここ付近の階層は弱いドラゴン並の力のモンスターがほとんど」
「なぜドラゴンで例えるの?」
「…」
荒木がドラゴンで例えたのが気に食わなかったのかリクシーは疑問を含んで聞き直してきた。
「それくらいしか例えるのに有名なモンスターを知らないからだけど」
他のモンスターで例えてもよくわからない顔をされて終わるから、ドラゴンを例えてに出したんだけど、この様子だと分かりにくかったのかな。全般的にドラゴンって有名なはずなんだけどな。
「そう言うことではないんだけど」
リクシーは荒木がドラゴンを倒したことが有るような口ぶりに疑問を感じて聞いていた。
「確か荒木はドラゴンを倒したようなことを言ってたね」
リクシーの疑問を察したレノールは冒険者ギルドでの荒木と副ギルド長の会話を思いだして、リクシーに答えた。
「ドラゴンを倒したの?」
「主様ドラゴンを倒したことが有るのですか?」
「…」
ドラゴンを倒したこのある事実をレノールが話した事により3人は驚き、本人を問い詰めた。
「あるよ」
やはり、実力を隠しているからとはいえ、みんな俺がどれくらい強いのか気づくことすら出来ないのか。俺にとってドラゴンは触れれば倒せるレベルでしかないんだけどな。仕方ないか。
「いいね~」
リクシーは今まで一番手ごわそうな奴隷主と知り、俄然やる気を出して荒木をどう料理するのかわくわくしていた。
「流石は主様ですね」
ユードラはそれでも気に入っている主を褒め称えた。
ドラゴンを倒しただけでこんなに食いついてくるとはもしかして、みんなドラゴンと戦いたいのかな? ならドラゴン並に強いモンスターがいる下の階層に行って、本格的に俺の流派のやり方で扱こうかな。
「ほんとは皆ここから上の階層に行ってもらおうと思ってたんだけど、そこまで戦いたいのなら下の階層に行く?」
「下の階層?」
レノールはこのダンジョンがさらに下があるとは思っていなかったようで、さらに下の階層がありそうな雰囲気に不思議な声で荒木に聞き返した。
「下にはここよりも少し強いモンスターがいるから」
「いやいい」
リクシーは荒木が話を持っているのではなく本当に下の階層に強いモンスターがいると思ったので、すぐに断った。
「私も大丈夫です」
ユードラは主の期待に応えようとしたかったが、さらに強いモンスターと戦っても勝ち目はないと確信していたので、断った。しかし、人間嫌いのレジーナが荒木に対して無言なのはいつものようだった。




