第十四話 結果、潜入は殴り込みと読む
「これからどうするんですか?」
セシーは何故この場所で休憩して、すぐ近くにある町の中に入って行こうとしないのか心配になったので、これからの行動を聞いた。
「夜になるのを待つ」
「夜から町に入るのですか?」
セシーは昼間のうちに町に入るのかと思っていたので、夜から町に入る理由が理解できず、驚いたように聞いた。
「朝は人が多いからな。夜なら人も少なから見分けることが簡単だし、闇に溶け込める」
「人が多いい方が、この服装なら紛れ込めるのではないでしょうか?」
情報がある場合と俺一人またはもう一人くらいなら、どの時間帯に行こうが問題ないが、人混み中二人を守るのは自信ないからな。まぁ、一番は索敵するのが面倒なだけなんだけど。最後以外は正直伝えよう。
「敵の情報を知っていればな。絶対に有り得ないと思うが万が一国民全体が敵だった場合危険だし、昼間襲われた場合他の人が邪魔で助けられず結果セシーを守り切れないかもしれないからな」
「そうなんですか」
セシーは荒木の考えを聞かされると素直に納得した。
「それに夜になればすぐ家に着くから細かいことは心配するな」
そろそろ夜用の黒いローブに変えておくか。
荒木は何も言わずに糸を操りセシーとエヴァンジェリアの服を着替えさせた。
「何!?」
「何ですか?」
セシーとエヴァンジェリアは自分の服が変わっていたことに驚いていた。
「びっくりするから、服を変えるときは何か先に言ってください」
「そうですね」
「わかった」
そして、日が沈み辺りは闇に包まれ夜になった。荒木はセシーの家である王城に行くため立ち上がった。
「行くか」
荒木はいつも通りセシーを抱っこした。セシーはもう慣れたのか荒木に身を委ねた。そのまま誰にも見つからないように町の壁の前で止まった。
「セシーはあの力を使わないで壁超えられる?」
荒木はこれから跳躍力が必要になるのでエヴァンジェリアの跳躍がどれくらいできるのか確認のために聞いた。
「問題ありませんよ」
「分かった」
「壁から行くのですか?」
荒木が跳んで壁を乗り越えようとしたとき、セシーが驚いたように聞いてきた。
「そうだけど?」
「どうやって上るのですか?」
「こうやって」
荒木はタイミングを見計らってセシーを抱っこしながら跳び先に2壁を跳び越え、壁の上に立った。
「さ…流石ですね」
セシーは魔法も使わずに高い壁を登ることを予想もしていなかったのと、いきなり襲った浮遊感の怖さで少し怖がりながら、異世界人の身体能力が高いことを認識させられた。
荒木は下にいるエヴァンジェリアに身振り手振りで上ってきていいよと伝えた。荒木が上に登るの確認するとエヴァンジェリアも途中壁を蹴って助走をつけたが問題なく上って来た。
これくらいの大きさの壁は一蹴りでは無理か。セシーを徒でけるまであんま無理は出来そうにないな。
「俺の後を正確に付いてきて」
「はい」
荒木が出会って初めて真剣に言うとエヴァンジェリアは身を引き締めた。荒木は城壁から町の中の建物の屋根に音もなく飛び移ってそのまま王城に向かって進んで行った。
「コツン」
荒木の後を付いてくるエヴァンジェリアの足音が辺りに響いていた。
やっぱり、足音がうるさいな。途中までは大丈夫だろうが、王城に入ったら見つかりそうだな。まぁ、王城なら何とかなりそうだ。
荒木たちは誰にも見つからず安全に王城の一歩手前まで迫っていた。
さーて、どこから入るかな。入り口から入っても気づかれるから意味ないし、セシーの部屋連れてって終わりにしても意味がない。ここはこの王城で一番強い者がいる部屋の窓から侵入して、セシーを預けよう。
荒木はセシーを空中でお姫様抱っこから左脇に抱えなおすと、王城の窓に向かって飛び込んだ。
「ちょっと待ってください! その部屋は」
荒木が何をするのか察したセシーは荒木を静止させようと叫んだ。
「待たない」
荒木は空いている右手から糸を作り出して、窓を四角形に切り入り口を作りその部屋に侵入した。エヴァンジェリアも言われている通り荒木の後に続き中に入って行った。エヴァンジェリアが入るのを確認すると荒木は糸を使い窓を治した。
「賊か?」
その部屋の主人である女性はエヴァンジェリアの方向を見て言った。
俺に気付かないのか。まぁ、俺みたいに気配を消していないからな。上手くエヴァンジェリアに隠れてしまって俺に気付かなかった形か。状況を見れば察せられそうだが。どうやらこの人はそういうタイプではいないのか。
荒木は面白そうになってきたので、さらに自分の気配を薄くして、エヴァンジェリアに何をするのか見物していた。
「ふん! 賊ならば死ね!」
女性は右手に魔力を集めて強化するとその右手でエヴァンジェリアを迷いもなく殺す気で殴って来た。
エヴァンジェリアは即座に錫杖を取り出し防御フィールドを展開して女性の拳防いだ。
「へー、中々やるじゃない」
「私は敵じゃありませんよ」
レベル的には同等。エヴァンジェリアの防御力を突破しない限り、この人に勝ち目はない。迷わず攻撃したということはこの人の戦闘は攻撃方面が得意だろう。近しい力量同士の戦い面白くはなるがこちらも計画を早く進めたい。長引くから流石に止めよう。
「襲われていたセシーを連れてきたんですけど」
荒木はセシーを下すとその人に向かって目的を話した。
「いつからそこにいた?」
女は降ろしたお姫様よりもそれを目に入れずに荒木に向かって訪ねた。
「エヴァンジェリアよりも先に入っていたかも」
あれ? セシーってこの城の御姫様だよね。気づいていて俺が危険だと思って俺を見ているのか。それはないな。この人はセシーを一切見てないからな。
「その人たちは行動が変なだけで、悪い人ではありませんよ。お母さん!」
この人がセシーのお母さん。つまりこの国の女王。というより、女王がいまこの周辺で一番強いのか。まぁ、届けて縁も出来ただろうし、この縁を使ってエヴァンジェリアを保護してもらってもいいんだがこの城の兵じゃ頼りなさそうだ。情報を聞き出したほうが得だな。次はエヴァンジェリアを守る準備を始めないと。
「あらセシー。何でこんなところに? しばらく旅行しているんじゃなかったの?」
「お母さん。お父さんが…死んじゃった」
セシーは泣きそうになりながら、母にその時の情報を話した。母はその内容を考えながら聞いた。
「そう。情けないわね。私の夫になったのにその程度の相手で死ぬなんて。娘も守れなかっただろうし、夫失格ね」
女王は自分の夫の最後の話を聞いて、急に興味を失ったのか覚めたかのように言った。どうやら夫が死んだことにさして興味はなく死んだのはどうでも良かったようだ。
セシーは自分の父親に対してひどいことを言われているのに何も注意していないな。これはこの女王がそういう性格だということを把握しているのか。だとしたら、縁を売る相手としては相性がいいな。
「あなたたちが私の娘を救ってくれたのね。何かお礼をしないといけないわね。何がいいかしら、何でも行ってみて出来ることなら何でもしてあげるわよ」
女王は帝国の護衛と夫よりも強いモンスターたちを倒して娘を助けてくれた者たちに対して女王として、何かお礼をしたいと思い提案した。
「エヴァンジェリアから先に言って、いいよ」
「エヴァンジェリアさんは?」
「私はこの世界についての情報が欲しいです」
エヴァンジェリアは目的通りこの星の情報について教えてもらえるように女王に言った。
「もしかしてあなたたちは異世界人?」
女王はこの世界と聞いてこのエヴァンジェリアと言う人がこの世界とは別の世界。異世界の人だと思い聞いた。
「いいえ、違います。荒木様は異世界人ですがエヴァンジェリアさんは宇宙人だそうです」
セシーがすぐに女王が疑問に思っていることが分かったので、すぐに二人が何者なのかを答えた。
「宇宙人?」
女王はそんな言葉は聞いたことはなかったのでセシーに答えを求めた。
「空から人の総称だそうです」
「空からね。まぁ、分かったわ。王城と図書館を自由に使って調べていいわよ」
女王はよくわからなかったので、取りあえず情報を探れるように計らうことでお礼をした。
「ありがとうございます」
「荒木君はない?」
エヴァンジェリアのお礼を終えると荒木に向かって言った。
俺は情報も欲しいが一番欲しいのは身分証明書だ。あれば堂々と出来るからな。
「俺は身分証明書とエヴァンジェリアと同じく情報が欲しい」
「これ上げるわ。これならこの国ならば貴族の領地でもいけるから便利よ。あなたも王城を自由に使っていいわよ」
「一応エヴァンジェリアさんにも渡しておくわ」
女王は机に歩いて行くと机の上に置いてあった紋章の書いて有る手紙を二枚手に取り、一枚を荒木に二枚目をエヴァンジェリアに手渡した。
「それにしても、なぜ異世界人がこんなところに来ているの?」
女王もまた異世界人と言えばマドラスフィ大帝国だろうということ知っているようで、ここに来た理由を聞いた。
「そうです。荒木様はマドラスフィ大帝国に戻ってください。世界の命運がかかっているんですよ。お母さまも説得してください」
荒木が話そうとすると前にセシーが荒木に異世界のために役目を全うして欲しいのか母親に事情を説明すると、一緒に説得手伝ってもらおうとした。
確かにそうだが…この女王なら本当のことを話しても問題なさそうだな。
「この世界の運命も魔王も俺にとっては興味ないし、戦うわけないじゃん」
「あっははは…君面白いわ。しばらくはこの国で匿って上げるわ」
この人俺と似たような性格かな。たぶんこの人は天性の性格だろう。俺はこの性格は後付けだがな。
「お母さま!?」
「そうだわ。勇者だからって異世界のために戦う義理はないからね。君の言う通り」
「はぁ」
セシーは荒木に快く手を貸そうとしている母に自分ではどうしようも出来ないと思い溜息混じりに失敗したと潔く、今説得するのは諦めた。
「まぁ、落ち着けセシー。しばらくはこの国にいるがやることはやるから問題ない。あと、逃げているわけでじゃないから匿わなくてもいい」
荒木は軽くセシーを気遣う言葉を掛けると、我がままだと思っているが女王に余計なことをして欲しくはないので女王の気づかいを遠慮した。
どうせことが起きてしまえば女王ですら隠し通すのは無理だろうからな。それより、セシーを届けて縁も得られたし、これからどうしようか。今日は一旦休むか。夜の街に繰り出しても店とかはやってないだろうからな。
「空いている部屋があるから好きに使っていいわよ。セシー案内よろしく。私は眠いから寝るわ」
女王は深夜のため眠かったのかセシーに全て任せるとベッドに入って眠り始めた。
「荒木さんエヴァンジェリアさん、お母様が言っていた部屋に案内しますね」
セシーは女王が寝ると何も言わずに女王に言われた通りに荒木とエヴァンジェリアを引き連れ、部屋の前へと案内した。
女王っていつもこんな自由な感じの人なのか。慣れているんだな。
そして、ドアが数十個ある部屋がたくさんあると思われる通路に到着した。
作りはマドラスフィ大帝国の王城と似たようなものか。
「こちらの二部屋になります。どちらの部屋を使うかは二人で決めてください」
セシーは通路のすぐ近くの向かい合っている二部屋の方向を向きながら言った。
「一人一部屋とは豪華だな」
一日程度だから貸してもいいと思ったのかな?
「ここ付近の部屋はあまり使いませんからね」
セシーは荒木が使っていない部屋に疑問を持つと少し意味ありげに言った。
使わないのかここの部屋は。王城で働いている人にとってはいい場所にあると思うんだけど、客室でもなさそうだからな。訳アリの部屋だろうな。
「そうなんだ。俺は寝ることさえできればいいからエヴァンジェリアが好きな部屋を選びな」
荒木は部屋を選ぶのが面倒なので、エヴァンジェリアに部屋を選んでもらうことにした。
一日くらいしか使わないだろうし、寝ることが出来れば何でもいいからな。
「私もどちらでもいいですよ」
どちらでもいいなら面倒になる前に選んじゃお。適当に左の部屋でいいか。
「そう、じゃ俺は左の部屋使うわ」
このまま選ばせようとしても時間が掛かると思った荒木はすぐに自分から部屋を選んで長引かないようにした。
「それでは荒木様、エヴァンジェリア様。ありがとうございました。ごゆっくりお休みなさいませ」
部屋が決まるとセシーは深々と頭を下げてお辞儀をすると自分の部屋のある方へと向かって行った。
「あぁ、お休み」
「お休みセシー」
「今日はもう寝ようか。エヴァンジェリアも久しぶりにぐっすりと眠るといいよ」
「そうですね」
エヴァンジェリアはセシーが見えなくなると疲れが溜まっているのかすぐに部屋へと入って行った。
俺が速く走ったせいで疲れは相当溜まっているよな。
そうして、一人になった荒木も部屋へと入って行った。
さて、どうするか。とりあえず王都にはついて女王の縁を得られて、情報を多少得られるようになったが、たぶん情報はこの近辺のことぐらいだろう。もっと、情報を得られるようにするためには金とコネクション必要だが…流石に俺も眠いからよう。
荒木はそのままベッドに横になるとすぐにぐっすりと眠った。それから数時間後朝日が出始めようとした頃、目を覚ました。
「はぁぁ…よく眠れたー!」
久しぶりの睡眠で頭が冴えた。これで、しばらく寝なくても問題なく活動できるな。
荒木は軽く体を動かして、運動をして目を覚ました。
さて、王城にあるという図書館にでも行くか。エヴァンジェリアは…どうせ寝てるだろうし、邪魔だから誘わなくてもいいか。
荒木はとりあえず部屋を出たが、図書館がどこにあるのか分からなかったので、闇雲に王城を歩き始めた。
「おはようございます」
しばらく、歩いていると目の前からメイドらしき人が現れて横を通り過ぎ様に挨拶をしてきたが、そのメイドは忙しいのか返事を待たずにどこかへと消えて行った。
正体を聞かないとは。メイドたちはこの王城の中が安全だと思っているんだろうか。セシーが戻ってきたからか忙しいのか。身分証みたいなものを持っているから、どれくらい効果があるのか知りたかったんだが王城内では無理かもしれない。
「図書館は何処にあるのかな」
何処に図書館があるのか分からなく痺れを切らした荒木は面倒になったので、そこら辺にいるメイドに話しかけた。
「一階にあります」
「ありがとうございます」
一階か。壁を壊すわけにもいかないしな。地道に階段を探すか。