第十一話 アイアンハート
荒木が先頭のまま真っすぐ歩きながら進んで行くが人とはすれ違うこともなく、襲われることもなく進んでいた。
何もいないし、何も来ないな。のどかだ。日本とは大違いだな。まぁ、歩いているからなんだど。しかし、何もないのはつまらない走るか。
「エヴァンジェリア。走るよ」
荒木はエヴァンジェリアに言うと返事を待たずに走るとエヴァンジェリアも何も言わずに走り始めた。
うん?
荒木が走っていると荒木の索敵範囲に何かが引っ掛かった。
結構密集している。死んでいる者もいる。戦っているのか。
荒木は探索で引っ掛かった情報から一瞬で生きているものと死んでいるものを見分けた。さらに状況を知るため、その場所に集中的に探索の意識を傾けた。
これはモンスターか。いや、多少の悪意を感じる物が隠れて様子を伺っている他の敵が複数いるのか。違うな。モンスターの配置から考えて襲われない安全な位置。つまり、襲わせたのか。
荒木はエヴァンジェリアを気づかれないように見た。エヴァンジェリアは荒木の後ろを普通に着いて来ていた。
まだ気づいていないか。助けるかどうかは分からないか。面倒そうだな。先に見て利益がありそうだったら助けるか。利益が無かったら技使って避けようか。
しかし、この世界での人の戦い方が地球と同じなのか分からないからな。地球と同じならばこの戦い方は野盗ではなく、暗殺者の戦い方に似ている。見てみればわかるか。
荒木はエヴァンジェリアの索敵範囲に入る前に目に力を入れ、先を見た。
荒木が行く先には暗殺者らしき人が3名、オーガが10匹中5匹健在、他ゴブリン100匹中50匹程度健在、襲われている人10人中金髪の2人健在という情報を確認した。
次に襲われている二人を注視した。襲われている二人の近くには豪華そうな馬車がオーガによって作られたのか真ん中あたりを壊されていて破壊されていた。二人は一人が怯え、もう一人がその子を庇っていた。死んでいる死体もその子を守るように死んでいた。
まだ護衛目標は生きているのか。あの豪華そうな馬車からみて地位の高い人に違いな。つまり、領主の可能性が高い。これは助けて恩を経て、縁を作ったほうが今後のためになる。助けよう。
「エヴァンジェリアこの先で襲われている人がいるんだけど、助けに行く?」
荒木は避けようとしても助けに行こうと思っていたが、エヴァンジェリアがどういった反応を示すのか確認したかったので、索敵範囲に入る直前で聞いた。
「本当ですね。早く助けに行きましょう」
エヴァンジェリアがその情報を確認すると、荒木よりも先に全速力で走って行った。荒木はその後を追った。
こういう戦いには積極的に参加するのか。俺みたいに利益目的ではなく善意でか。それは危険だな。そろそろ護衛の一人が力尽きそうだし、この戦闘が終わってからゆっくりと対策を練らないとな。
エヴァンジェリアは敵と接敵する前に手に光を集め始めた。その光がエヴァンジェリアよりも少し小さめの長さになると錫杖の形になり、宇宙のような星空の輝きを放つ錫杖らしきものがその手に現われた。手に現われた錫杖の上に付いている2個のリングが輪っかを通り抜けると20個に増え、エヴァンジェリアを置いて戦闘している場所に向かって行った。
一応、遠距離攻撃を持っているのか。なら、俺の出番一切ないな。それにあの武器から感じられる力、エヴァンジェリアがこの程度の敵に遅れは取りそうにもない。あの勢いだと安全な場所で見守っている3人に容赦なく襲いかかり、瞬殺してしまう勢いだな。なぜ襲っているのか理由が聞けなくなるが結果的には問題はなく進むことが出来るだろうから、傍観に徹するだけでいいか。
荒木はエヴァンジェリアに戦闘を任せると速度を落とし、のんびりとその戦闘を見ることにした。
エヴァンジェリアの先に先行していた20個のリングが先に敵の後ろを取るとそのまま通過していくと安全に見ていた3人を切り裂き倒した。3人を倒したリングは勢いを失わずに直進して行った。
20個のリングはオーガたちのモンスター群に到達すると散らばった。散らばった20個のリングはオーガを含めたモンスター群を次々と豆腐を着るかのように切り殺していき、その猛威を振るった。そして、すぐにその場に立ち生き残っているモンスターはいなくなった。さらにリングは追い打ちをかけるように、微かに生きているモンスターに止めを刺していった。
エヴァンジェリアが到着したころには20個のリングにより安全が確保されていた。様子を見ていた荒木も少し遅れて到着した。
やはり、俺の見立て通り余裕だな。それに戦闘を経験しているからか宇宙人だか分からないが殺すのにも躊躇いがない。戦闘の意気込みとしては問題なさそうだ。
「これで全滅みたいです」
「分かった。とりあえず少女を保護しよう」
荒木はエヴァンジェリアが周りを確認し終えると、そう伝えると少女の本へと近付いて行った。
「お父様! お父様!」
そこには少女と敵に切られ大量出血の末、息絶えそうになっている父親がいた。
血が失いすぎているこれは助からない。縁を作りたいから助けてあげたいが、この世界のことをまだ理解できていないから、助けることが出来ない。エヴァンジェリアがそういう能力を持っているかどうしだいだ。
「エヴァンジェリアは何かできる?」
荒木はエヴァンジェリアの何かできる少しの可能性考えて、聞いた。
「血を失いすぎて、私にも何もすることが出来ません」
「そうか」
無理か。俺にできることは何もないから、無闇に声を掛けてもマイナスになるかもしれないから、別れを終えるまで静かに黙って待つか。
荒木が黙る判断をすると、エヴァンジェリアも同じことを考えたのか黙って少女の姿を見守っていた。
それから、周囲を警戒しつつ少女が泣き止むまで数時間が過ぎた。
「お父様。最後まで守っていただきありがとうございました」
少女は父親に別れを告げると泣き止んだ。
この世界の常識にもよるが、数時間で泣き止むとは結構心の強い女の子なんだな。区切りもいいし、質問するか。
「質問したんだけどいいかな?」
少女が泣き止むとエヴァンジェリアに先を越される前に話しかけた。
「はい」
「君は何者なの?」
「私はセシー・トリンブルといいます」
「セシーさんはもしかして、貴族かな?」
「はい。この国の王の娘です」
マジか。
荒木は嘘を言っていないと思いつつも、一応聞き返した。
「本当ですか?」
「はい。これが王家の紋章になります」
荒木に疑われたと思ったセシーは見たことのない花の紋章を手に取り、荒木たちに見せた。
嘘はついていないな。まさか、貴族を通り越して王の娘か。これはいい縁に巡り合えた。運がいいな。
ということはだよ。もしかして、さっきの父親王なのか?
「失礼ですが、あなたのお父様はこの国の王ですか」
荒木は焦りを感じたため、思い出させるのも失礼だと思ったがセシーに聞いた。
「いいえ。この国の王は私の母です」
「そうなんだ」
よかった。王が死んだら折角の縁が台無しだからな。しかし、違う国の王と縁が持てるかもしれないというのは幸先がいいかもしれないな。
「遅くなってしまって、申し訳けありません。助けてくれてありがとうございます」
荒木はいい縁が出来そうで満足していると先程助けたお礼を言って来てくれた。
自分が助けたほうが印象良かったな。自分がやったと嘘を付いたら印象が悪くなるだけだから、正直にエヴァンジェリアが助けたと言っておこう。
「助けたのは俺じゃないから、お礼をいうならこのエヴァンジェリアに言って」
荒木は後悔しつつも事実を述べると、隣にいたエヴァンジェリアを強引に引っ張って、セシーの前に連れてきた。
「ちょっと、何!?」
エヴァンジェリアは突然の荒木に豹変ぶりに驚いていた。
「助けていただきありがとうございました」
荒木に助けた本人が目の前に来るとセシーは頭を下げてお礼を言った。
「いえ、お礼なんていいですよ。困っている人がいたら助けるのは当然ですから」
エヴァンジェリアは当然のように言った。
やはり、そういう考えの持ち主か。この世界ではその考え方は命とりになりそうだ。セシーの国に着くまで対策を考えないと。
さてと、今後の方針を変えるしかないか。でも、今回に限って言えば急遽変更しても困っているっ人を見捨てられないエヴァンジェリアなら問題なく受け入れてくれるだろう。
「エヴァンジェリア。目的地を変更してもいい?」
「何で?」
「この子を安全に自宅まで送るためにだよ。いい?」
「はい。いいですよ」
エヴァンジェリアはセシーのためにという理由を聞き、一人の少女を見て助けないといけないとすぐに思ったのか。二つ返事で了解してくれた。
困っている人のためなら、何も疑問を持たずに受け入れてくれることは扱いやすいな。
「セシーさんも勝手に送っていく感じになってるけどいいかな?」
荒木は勝手に話を進めて行ってしまったので、念のために聞いた。
「いいんですか?」
「もちろん。そのために助けたんだから」
「ありがとうございます」
セシーは再びお辞儀をしてお礼を言った。
良縁を得るための私利私欲の行動だから、お礼を言われても困るだけだが、縁を得るためにあくまでも心配だからという演技はしてないと。
「どこに行くの?」
「町には寄らずにこのまま王国に向おう」
「町に向かわれないのですか?」
すると、エヴァンジェリアではなくセシーが聞いてきた。
「何か予定があるの?」
「いえ、特にはありませんが町の方が連絡手段もあるかもしれませんし、それに町には騎士がいるので安全かと思いまして」
セシーは町の繋がりをで、町に行けば騎士に連絡を取れて騎士の庇護下で襲われることなく安全を確保できると考えていた。
「万が一その騎士が敵だった場合は?」
「騎士が敵ですか?」
セシーはそんなことはあり得ないという感じを出していた。
セシーは今回の襲撃が命を狙われていることに気付いていないな。自覚してもらわないと説得できないか。
「今回、セシーは計画的に狙われているのは分かってる?」
「そうだったんですか? 気づきませんでした。で、そのものはどこですか?」
セシーはすぐにその計画的に狙ってきた首謀者の情報を聞き出そうとしていた。
「大丈夫。エヴァンジェリアが殺したから」
生き残っていたら復讐したそうな顔してたな。父親が殺されたのだから無理もないか。
「この道で襲うのが失敗した場合を見越して町に暗殺者を仕込んでいる可能性も考えられるからな。このまま誰にも気づかれずに王城に行くのが一番楽で安全だからな」
荒木は話しを戻して町に行かない自分の考えをセシーに伝えた。
「そうなのですか。失礼しました」
セシーは余計なことを言ってしまったのか謝った。
別に謝る必要もないんだけどな。まぁ、どうでもいいか。
「それじゃ、セシーの家に行くか」
「あのー、貴方のお名前を教えていただけないでしょうか」
荒木が出発しようとするとセシーが名前を聞いてきた。
「あれ? 言ってなかったけ?」
「一度も聞いてません」
「俺は荒木武勝これからしばらくの間よろしく」
自己紹介してなかったか。別にもう名前なんてどうでもいいかと思って、気にしてなかったな。そいういえばさっきからセシーに敬称付けてないの良いのかな? 後で問題にされても困るから一応聞いておかないと・
「セシー。今までに呼び方に敬称付けてなかったけど大丈夫?」
「えぇ、気軽にセシーでいいですよ」
「分かった。俺も荒木でいいよ」
「いえ、命の恩人に対して敬称を付けないわけにはいきません」
えー。そう来るか。まぁ、何でも好きに呼んでくれればいいか。
「分かった。セシーの好きに呼んでいいよ」
面倒になった荒木は別に名前の呼ばれ方に対して強い、こだわりはないので呼び方はセシーに任せた。
取りあえず名前も教えたし、早速王国に向けて歩き始めますか。
「セシーの国はどっちの方角にあるの?」
「この道を真っすぐ行ってビーチャムを抜けたその先にあるスーダ山を登れば見えてくると思います」
山か。今まで平地見たいな森が多かったからな。若干の気分転換にはなりそうだ。
「じゃ、まずはビーチャムを避けてその山に向けて歩こう。エヴァンジェリアもそれでいい?」
「いいですよ」
エヴァンジェリアはセシーの身体能力を察しているのかは分からないが、セシーを守るためなのか今回は何も意見をせずに荒木の指示に大人しく従うことにした。