第九話 好きな敵の手
よし、起こす準備は整った。伝統的な方法で起こしてあげるか。
荒木は木の桶を何もない空間(気で作り出した空間)から取り出し、水を汲み髪の綺麗な女の子の顔面目掛けて、容赦なく振りかぶって地下強く水を掛けた。
水を掛けられた女の子は跳び上がるように起きると、すぐさま荒木の方を向いてた。彼女は荒木の中にある何かを覗き見ようとしてきた。しかし、荒木は内部情報を見られないように防御を常に気で張っていたので、女の子が荒木の中を覗き情報を見ることは出来なかった。
「勝手に覗き見は駄目だよ?」
「ごめんなさい」
荒木が覗き見ようとしたことに気付いたので、注意すると女の子は体をビクッ! と震わせて怯えたように謝った。
俺の経験上、裸を見られるなら恥ずかしいだけで、減るものは何もないけど自分の力の詳細情報を見られた場合、弱点を知られて命の危険につながる可能性があるからな。俺的には裸を見るよりも失礼だと思っているから、注意はしておかないと。
「別に俺に対して覗き見ることはいいんだけど、他の人に対しては裸を見るよりも失礼だと思うから、あからさまに相手の能力を見る癖は治したほうがいいよ」
荒木は自分の経験上から今後彼女に問題が起きないように、注意した。
本当に能力を覗いたことが気付かれたら殺されちゃうかもしれないからな。まぁ、ばれないようにやればいいんだけど、俺に気付かれてるから注意が必要だ。
「一応名前は荒木、君は?」
荒木は名前が分からないと相手が話しにくいかもしれないと思い、一応迷ったが名前を告げた。
「私はエヴァン…ジェリア」
エヴァンジェリアはあまり水分を取っていないためか、少し掠れた声で名前を言った。
やはり、喉が渇いているか。というより脱水症状になりかけているから早く水を飲ませた方がいいか。
「喉乾いてる。水飲む?」
荒木は再び木の桶を持ち、川まで水を汲みに行った。そして、水をエヴァンジェリアに手渡した。
「ありがとうございます。ゴクッ、ゴクッ。ぷはぁ~」
エヴァンジェリアは水を手渡れると木の桶一杯に入っている水を一気に飲み干した。
いい飲みっぷりだ。まぁ、水分を取ってないから仕方ないか。たぶん、これくらい一気に飲んでも、大丈夫だろう。飲みすぎたら吐く程度だからな。一応、食事もとらせておくか。
「あとお腹減っているだろうから、これ食べて」
荒木は先程沸かした水と燕麦で作った申し訳程度のほとんど感じることのできない薄味の付いた4人前くらいのオートミールをエヴァンジェリアに差し出した。
「いいんですか?」
エヴァンジェリアは火で焚いてあった全てのオートミールを渡されて、荒木の分も含まれているのではないかと思い、悪い気持になり聞いてきた。
「いいよ。そのオートミールは君のために作ったからね」
「いただきます」
「何これ…美味しい!」
恐る恐る食べるとエヴァンジェリアは本当においしそうに食べ始めた。エヴァンジェリアは全て食べていいことを確認するとよほどお腹がすいていたのか、すぐに食べ終えてしまった。
荒木は顎を手に乗せながら夢中になってオートミールを食べているエヴァンジェリアを不思議そうに眺めていた。
胃袋に負荷を与えないように俺の修行用の俺がまずいと思える食事を与えたているんだけどな。どうして、おいしそうに食べているんだろう? 相当空腹とかか? いやー前にも空腹の人にこれを食べさせたが、味がなさ過ぎて嫌な顔して食べてたんだけどな。不思議だ。
「ご馳走様でした」
エヴァンジェリアはオートミールを全て食べ終えたがまだ物足りなそうだった。
「もう食べた? まだ作り置きがたくさんあるからお腹いっぱいになるまで食べていいよ」
荒木は大体この手の人間離れしている生物は4人前くらいでは足りないことは予想出来ていたので、あと数個の鍋を作り置きしていた。
まぁ、病み上がりとはいえたくさん食べてもこの子の胃袋ならば問題はないだろう。
それから荒木はエヴァンジェリアが食べ終わるのを待った。
そろそろ、エヴァンジェリアの空腹も収まった頃だし、そろそろ色々と聞いていくか。
「話を聞きたいんだけどいいかな?」
荒木は食べる速度が遅くなったところで、エヴァンジェリアが今置かれている状況について聞くことにした。
「エヴァンジェリアはなぜ、隕石の中にいたの?」
「これは隕石ではなく脱出カプセルで、隕石に擬態しているんですよ」
エヴァンジェリアも宇宙人か。というより脱出カプセルとか確実に文明レベルが高そうだな。宇宙に進出できるほどの力を持つ種族はなぜ脱出したんだろうか。
「なるほど。それで、なぜ脱出してきたの?」
「うっ」
エヴァンジェリアは嫌な記憶を思い出したのか、顔が険しい表情になった。
あのエイリアンが何なのかわかれば別に脱出した状況はどうでもいいから、無理に話してもらわなくてもいいか。
「話しにくいのなら話さなくてもいいよ」
「いえ、話します。私たちの母星はある生物に襲われてしまっているため、私たち年齢の低いものは早めに脱出させられたのです。どうやら私だけ、何らかの原因で目的の場所とは違う場所に飛ばされてしまったみたいですね」
エヴァンジェリアは現状を知らないのならば、詳細を話さなければならないと思い、様々な辛い思いを受け止める覚悟をして話した。
一人だけこの星に来ていしまっているのか。それは色々と大変だな。連絡を取る手段とか持ち合わせているのかな。まぁ、それは俺が気にするようなことでもないか。
しかし、文明が発達している種族を窮地に立たせる生物か。一体どんな生物なんだろう。
荒木は興味を抱いたと同時に少し嬉しい気持ちになっていた。
「君の母星を襲ったある生物とは何だ?」
荒木はエヴァンジェリアの心配を一切せずに自分が一番聞きたかった星を襲った生物の情報について聞いた。
「私たちの中では常闇の妖星またはダークレスプラテリーと言われているものです」
「なぜ襲われているんだ?」
「その常闇の妖星は星を食らうことによって生命を維持しているのです。そのため、私たちの星も獲物対象なり、星を守るために戦うことになったのです」
「星を食らう?」
「はい。小さい星程度なら一口で食べられて、この宇宙から消えるでしょう。私たちは母星を消さないために守っていたのですが、限界だったため私や他の若い世代は皆脱出させられたのです」
星ほどの大きさの生物ということか。そんな大きさの生き物は今まで生きてきた人生の中であまり見たことはないな。でも、その生物は結構な生き物が敵視しているみたいだから、問答無用で倒してしまっても良さそうだな。なら是非とも戦ってみたいな。
荒木はエヴァンジェリアに築かれないように心の中で笑みを浮かべた。
「その常闇の妖星は強いの?」
「強いです。私たちの星の全勢力で戦いを挑んでいますが、私が脱出する頃にはほぼ壊滅状態でした。父も、母も無事かどうか」
「立った一匹に?」
星の全勢力を結成すればそれくらいの大きさでも全滅くらいで済むと思うんだけどな。星に住んでいた人が少なかったのか。それとも常闇の妖星がよほど強い可能性があるな。
「いえ、一匹ではないです。もちろん常闇の妖星本体も強いと思われていますが、その常闇の妖星に辿り着く前に常闇の妖星から生み出されるヴァーグアンと呼んでいる兵士たちの数が多く、たどり着く前に数に押し切られて、私たちの勢力は壊滅して、星を捨て逃げることになりました」
「その兵士はどんな姿なの? もしかして、黒い奴?」
あれがそうなのか? もし、隕石に取り憑いていた黒いエイリアンがそれならば、拍子抜けだけどな。
「はいそうです。戦ったことあるんですか?」
「君の脱出カプセルに3匹ほどついていたから倒しておいたよ。そんなに強くはなかったよ?」
「見た光景を見せてもらってもいいですか?」
エヴァンジェリアは荒木に先程他人の中を覗くなと怒られたためか。今度はしっかりと荒木が見た光景を何かしらの力で見ることの許可を求めてきた。
なるほど。話では伝わりにくいから実際に俺が見た光景を見ようというのか。賢い奴だな。まぁ、見てもらった方が確実に伝わるから慎重に見せるか。
「いいよ」
荒木はエイリアンだけを見せるように、自分の情報を守っている気を解いてエヴァンジェリアの力を受け入れた。
「たぶん、荒木さんが戦ったのはヴァーグアンという手下の情報偵察部隊で、常闇の妖星の中で一番弱いタイプです」
「へー」
あのエイリアンが一番弱いのか。それにまだ一度も戦ったこともない敵が居そうだから、遊ぶには面白そうではあるな。
「それに数匹程度なら私一人でも倒せますが、軍隊並みの数になると連携がいいので、かなりの強さになります。その連携により、私の星の戦闘部隊もやられてしまいました」
「確かに」
あの3匹に無意識の連携は見事だった。それが軍隊クラスで可能ならば一匹一匹が弱くてもかなりの強さを発揮できるだろうな。しかし、今の話が本当でもその軍勢と戦ったらほぼ俺が勝つだろうな。
「ヴァーグアンに星の数億人からなる連合戦闘部隊も倒されてしまいました」
「それは気の毒に、それで常闇の妖星の本体自体の強さはどれくらいなの?」
荒木は仲間が倒される悲しみを思い出して、感傷に浸っているエヴァンジェリアを軽く適当な言葉であしらい、興味ない話は放って置いて、気になる常闇の妖星の情報を聞いた。
「私たちの武器では傷が付かず、星を安く破壊できる力を有しているとまでしか今の所はわかっていません」
「へぇー」
今の所硬いとしか情報がないか。その星の軍人でもなさそうだからそれだけの、情報しか持っていなくても仕方ないか。まぁ、今のあやふやな情報からだと手下の軍勢よりも本体の方が普通に強そうだな。いや、今まで星を食ってきたということは他の生物たちとも戦闘を行ってきているという証拠だ。その星を守るための星全体の命がけの戦闘で勝利してきているわけだ。強いに違いないだろう。そう考えて総合するとたぶん、全力を出しても今の俺よりも強い可能性がある。
つまりは俺の好敵手だ。戦わない手はないか。今どこにいるのかわかるのかな。
「で、常闇の妖星は今どこにいるの?」
「私の星は食べられてしまっているでしょうから、私の星の近くの星を食べながら移動していると思いますが、ここがどこか分からないのと、私の星がどこにあるかわからないので、今どこにいるかは分かりません」
「そうか」
分からないか。出来ることならいち早く情報を入手して一人でその常世の妖星を相手取りたいが、そうはいかないか。でも、万が一戦えるとなっても、かなりの被害がでそうだ。戦場はこの星ではなく生物のいない星でやらないと。
「これは私たちだけの問題ではないです。この星の皆さんも同じ危機になるかもしれません。今から戦いに備えたほうがいいですよ」
エヴァンジェリアは助けてくれた荒木に母星の二の舞にしたくはなかったので、少しの生命でも救いたいという善意から、他の人たちにも伝えて対策を考えさせるため注意を促した。
「知らない」
俺もまたエヴァンジェリアと同じでこの世界を全くもって知らないからな。それにまだ、普通の人里にも降りて情報を収集していないから、ほとんどエヴァンジェリアと同じ状況。知らない以外何も言えないな。
「信じてませんね」
「いや、エヴァンジェリアの言葉は信じているよ」
エヴァンジェリアは荒木が常闇の妖星の話が与太話だと思っているのだと勘違いしていた。荒木は勘違いを察したので、すぐにエヴァンジェリアの考えを正した。
「えっ?」
エヴァンジェリアはよくわかっていなかったが、「信じているよ」という言葉を聞いて初対面の人なのに自分を受け入れてくれていると勘違いし、信用されていると思い何となく嬉しくなっていた。
「そうじゃなくて、俺もこの星のことを知らないの」
「どういうことですか?」
荒木はエヴァンジェリアが考えを正したことに気付いていなかったので、いま自分が置かれている状況をエヴァンジェリアに誤解の内容に直接伝えたがまたしても、エヴァンジェリアはよく理解できていなかったみたいだった。
「俺も君と同じくこの星の生まれじゃないんだよね」
「あっ、ここ母星じゃないんですか」
エヴァンジェリアはようやく荒木の「信じているよ」の意味を理解したと同時に、今まで善意から警告していたことがほぼ意味がなかったので、少し無駄足を踏んだと感じて落ち込んだ。
「あなたも宇宙人なんですか?」
異世界から来ているとはいえ、違う星から来ているから俺の存在は宇宙人で間違いないな。
「まぁ、エヴァンジェリアと同じ感じだよ」
「…はぁ、これからどうしたら」
目の前にいる荒木が自分と同じく迷子なことで、この星に意思疎通のできる生物がいない可能性などが考えられ、驚異など様々な不安から溜息をしながら空を見上げて言った。
なんか悩んでるな。悩みすぎも良くないと思うけどな。
「まぁ、気ままに行けば」
「はぁ」
荒木の何も考えていなさそうな返事にエヴァンジェリアは再びため地面に顔を向けながら、溜息を吐いた。
納得いってなさそうだな。うーん、どうしようか。ここは常闇の妖星のために印象の良い友好関係を築きたいな。悩みを解決する方法を言って少しのポイントを獲得するか。
荒木は励まそうかどうか迷ったが、常闇の妖星に少しでも会える確率を上げたかったので、友好関係を気づくために励ますことにした。
「じゃ、勝てるように強くなればいいんじゃないのか」
荒木が考えだした解決方法は単純だが、難しい脳筋の解決方法だった。が、前向きで印象がいいと思ったのでエヴァンジェリアに提案した。
「ですが、鍛えていた戦闘員も倒されていました」
「だったら、その倒された戦闘員の何倍も強くなればいいだけの話だ」
荒木は他にも前向きな考えが浮かんでいた。荒木はあまり意見を変えると先程提案した脳筋の解決手段が前向きの印象とは違ったものに捉われてしまうかもしれないと思い、そのまま脳筋の考えをゴリ押しした。
「はぁ、そうですね。何だが元気が出てきました。ありがとうございます」
エヴァンジェリアは無理だろうと諦めたように答えると、荒木が自分を励ましている可能性に気付いた。そして、エヴァンジェリアは荒木の思い通りに励まされていると勘違いをしたのかお礼を言ってきた。
何か勘違いされてるが、悪い方向に勘違いされているわけではないからな。一応コミュニケーションも取れたし、友好関係も気づけたと思ってそのまま勘違いされたままにしておくか。そういえば、他の仲間に連絡はしているのかな?
「で、他の仲間たちとの連絡はとれないの?」
荒木は自然と常闇の妖星へと繋がる情報を得るため、エヴァンジェリアから仲間の情報聞いた。
俺の中の情報を覗くことが出来るのなら、連絡くらいの手段は持ち合わせているだろうと考えられるからもしれないから、聞いておいて損はないだろう。
「はい。どうやらこの近くにはいないみたいですね」
エヴァンシャリアは何か辺りを探る素振りを見せなかったものの、仲間が近くにいるのかどうか分からなかった。
「そうか」
探る範囲が決まっているのか。広大の宇宙から範囲指定か。これは短期間で常闇の妖星を見つけ出すのは相当な運がないと無理か。
まぁ、一応エヴァンシャリアにその常闇の妖星の位置情報を知っている同じ種族が救援とかで接触してくるかもしれない。監視下に置いて、情報が入りやすい関係になっていた方がよさそうだ。彼女と行動を共にした方がいいか。
取りあえず。今は気長に宇宙に目を凝らしてこの星に近づいてくる常闇の妖星を待つしかないということか。
「荒木の仲間はどうなの?」
異世界人がいるにはいるが、この世界の宇宙空間のことは情報が皆無だからな。いないのとさして変わらないだろう。それに後で異世界人の仲間がいることが分かっても、宇宙空間にいないのだからはっきり「いない」答えた方がいいだろう。
「あー、いないな。とりあえず。この星の情報を一緒に集める?」
「そうしたいですね」
「じゃ、休憩もしたしこの星の情報を集めに動くか?」
「はい」
荒木は少し優しい笑顔を作り、エヴァンジェリアと行動を共にすることに成功した。
俺ならば、体力がなくても問題はなく戦闘が出来るが、まだ体力を回復したばかりだからな。どういった技や力を使うかは後で聞いたほうがいいか? いや、戦い方を見たいから戦わせてみるか。この子の肉体性能なら多少無茶をしてもなんとかなりそうだ。
荒木は楽観的に考えて、エヴァンジェリアを先に行かせてから人里に向かって行った。
ふぅー、余り宇宙人との交流経験なんてしたことがなかったから一時はどうなるかと思ったけど、ファーストコンタクトとしては上々だろう。しばらくはこの子と一緒か。動きは制限されるが、一応及第点ではあるから我慢しよう。
荒木が休んでいた川辺から走りながら、人里に向かっている途中だった。エヴァンジェリアが何かの気配に気づいたのか動きが少し変化したのを荒木は感じ取った。
「何か来ます!」
荒木の感じた通りエヴァンジェリアは何かの力を使い周囲の敵となりうる存在を感じ取っていた。
「どこ?」
荒木は何の違和感もなく辺りをキョロキョロと見回した。荒木はエヴァンジェリアが気付く前に敵がいるのを知っていたが、色々とエヴァンジェリアのことを知りたかったので、任せることにした。
「右」
「スゴイネ。キズカナカッター」
荒木はカタコトで言うとエヴァンジェリア戦闘を見たいがために、先に行かせた。荒木の急なカタコトに違和感を持つことなく、エヴァンジェリアは敵の目の前の茂みに入り込んだ。荒木もエヴァンジェリアの横に続き敵ではなくエヴァンジェリアの様子を観察し始めた。
さて、どう戦うのかな。
「あれは何?」
「ゴブリンだと思うけど?」
荒木はエヴァンジェリアに問われると先程は打って変わって平然とその者の正体について答えた。
あっ、さっきこの世界のこと知らないって言ったけど。まぁ、誤魔化さなくてもいいか。気づかれたら気づかれたで面白そうだからな。
「ゴブリン? 知ってるの?」
「知ってる。弱いけど襲いかかってくる敵だよ。どうする?」
「気づかれないように行きましょう」
「そう」
荒木はエヴァンジェリアが無駄な命は取らない主義なのかとのんびりと考えながら、素直に次の戦闘に機会を気長に待つことにした。
無用な戦闘を避けるのか。慎重派なのかな。一度戦って自分がどの程度この世界で戦えるのか確認したほうがいいと思うんだけど。まぁ、エヴァンジェリアに任せてしまっているから何も言わなくていいか。