プロローグ1 とある中国の山奥の誰も知らない戦闘
とある中国の山奥である男は足音を殺しながらある者の後をこっそり見つからないように後をつけていた。そして、男は人の気配が何もしなくなってきた頃に付けていた者の前に立ち塞がった。
「お前がこの近くのミュン村を襲った妖怪だな」
男は近くの村を襲い人々を殺したこの妖怪を追っていた。
「いや、我は妖怪ではない。神だ」
しかし、話しかけた相手はすぐに妖怪ではなく自分を過大評価しているのか神だと名乗ってきた。
「そんなわけあるか。すぐに妖怪はそう言って力を強大に見せようとしたがるからな」
男はこれまで会ってきたほとんどの悪い妖怪が自意識過剰ということを散々見て来ていたため、すぐにその類のものだと思っていた。男は目の前の者をいつもの妖怪だと判断して決めつけた。
「本当に神だと言っているのに、愚か者だな」
村を襲った妖怪は男が自分を神だと言いうことを信じず、妖怪だということを捻じ曲げそうのない男の思い込みを見て呆れていた。
「妖怪だろうが神様だろうがこの際どうでもいい。お前がこの周辺の村々を壊滅させたことには変わりないからな」
男は神に向かって、人差し指を向けながら事実であることを突きつけた。
「なんだ。その村人たちの復讐でも果たしに来たのか?」
神は村人を殺してはいたが、大して興味はなかったのかなんの感情を顔に出さずにただ、無表情で男に向かって言った。
「いや。そんなことはどうでもいい」
男もまたその言葉に起こることもせずにただ、妖怪の出方を伺うようにして、相手の動きを臨戦態勢に入っていた。
「どうでもいいだと? じゃ、なぜ貴様は私の前に立ちはだかっている」
村を襲った妖怪は分からなくなっていた。神はてっきり復讐など自分が破壊した村々などがたくさんあったため、復讐などの怨恨などが理由だと思っていた。神は興味を少し持ったので、その男に聞き返した。
「お前が強い妖怪だからだ。それに加えて、悪事も行っている。悪い妖怪なら消してしまっても問題ないし、何の迷いもなく心起きなく正式な理由で殺せるからな」
男は強い気配から少し嬉しそうに神と名乗る妖怪に答えた。
「なるほど。力試しということか。いいだろう時の戦闘神テンプスが相手になってやろう」
村を襲ったテンプスは今の声色と表情からこの男が、単なる怖いもの知らずの戦闘狂だということを知り、このまま何もせずに逃がしてくれるとは思えなかったので、その場で殺すことに決めた。村を襲ったテンプスは何処からともなく槍を一本取り出した、中腰になってこちらに槍の先端を向けて構えた。
「武器を扱うタイプの妖怪か」
男は何度も見慣れているのか何処からともなく現れた槍には一切驚きもせずに、ただ冷静に取り出したテンプスを観察し、その場で構えつつテンプスがどうやって攻撃をしてくるのか出方を伺っていた。
「珍しい。人間の癖に武器を持って構えないとは」
テンプスはだいたいの人間が何かしらの道具を持ち構えてから戦っていくパターンが多かったため、この男が何も持たずに構えたのを見て、珍しい動物を見るかのようにこちらもまた観察し、出方を伺っていた。男は黙ったままテンプスの攻撃を待っていた。神は黙っている男を見て、攻撃をしてくる気配が無いことを悟り自分から攻撃を仕掛けることにした。テンプスが攻撃を仕掛ける瞬間一瞬何かを感じ取った男はすぐさまに身構えた。しかし、男が身構えたと同時に世界の時が止まった。この時の止まった世界の中で唯一テンプスだけが、この世界の中で動いていた。
「まぁ、人間なんてこれで終わりなんだけどね。 はぁ、それにしても、何で俺が一人間を殺すために下界に赴かなければならないんだ。確かに戦闘には自信があるが、他の奴に任せればいいのに」
テンプスはいつも代り映え無い光景につまらなさそうに槍の構えを解きながら、自分以外の全てが止まった世界をのんびりと無防備に男の元まで歩き愚痴をこぼした。
「これで長い仕事も終わりと」
テンプスは男の胸に向かってゆっくりと右手に持っている槍を突き刺そうとした。その瞬間、世界が止まっている中で男だけが動き出した。
「はっ!」
男はテンプスが右手に持っている槍を右手でテンプスに向かって弾き、一気に懐に入り込み左手でテンプスに向かってパンチを繰り出した。
「何!?」
テンプスは驚きつつも槍で体の前で男の拳を防御しようと思ったが、かなりの威力があり当たればダメージを追うと気づき、その攻撃が当たらないように後ろに跳んで躱した。男のパンチはテンプスがいなくなった場所で空振りした。空振りした男の拳は空を切るとそのパンチの衝撃で凄まじい暴風をその場所に発生させた。
「久しぶりだ。時間停止の力を扱う敵と戦うのは」
男は喜びながら拳を躱したテンプスを見ていた。男はまだ様子見をするようでテンプスに近付かづきその場に留まり、テンプスが着地しているのをただ追撃もすることもなくただ見ていた。テンプスは着地後すぐに槍を中段に構えた。
「なるほど。時間停止が効かないことと言い、その馬鹿力。どうやらただの人間ではないようだな」
テンプスは時間の方で呼ばれたわけではないと悟った。そして、本当に自分の考えがあっているのか確認するためにテンプスは男に向かって、一気に間合いを詰めその勢いのまま男に向かって槍を突き放った。男は難なくテンプスの槍、体を少し捻って躱した。男はテンプスの攻撃を躱すと同時に右手でテンプスの左肩を殴った。テンプスは肩を殴られるとその衝撃で後ろに大きく後退させられた。
「強いな」
男はまだ本気を出していないのにかなり、動きがいいテンプスの動きを見て、本気を出したら過去最高に強くなるかもしれないという事実を想像して少し顔が笑っていた。
「これはそろそろ本腰を入れないと」
テンプスはこれ以上様子見をしていても痛いし、早く仕事を終わらせたかったので、本気を出して目の前の男を消すことにした。テンプスの周りを神々しい光が包み込んだ。
「妖力か。ならばこちらも久しぶりに」
男はいよいよ目の前の妖怪が本気になって行っているように見えていたので、男もまた今まで最小限にしか出していなかった力を開放することにした。男の周りには目に見えはしないが、何か力が纏われた。
「人間の極致の気という奴か。どこまでやれるか見ものだな」
テンプスは感心しながら、パチン! と指を鳴らした。指を鳴らすテンプスの後ろから、手に持っている槍と同じ形をした数百本のバチバチと音を立てる光の槍が穂先を男に向けたまま出現した。
「結構な威力がありそうだな」
男は冷静に光の槍を見ながら光の槍が跳んでくるのを迎え撃つことにした。男は両方の手を前に持ってきて構えた。テンプスはその場で手を挙げた。テンプスが手を上げるとテンプスの後ろにある光の槍が全て一斉に男に襲いかかってきた。男はテンプスの攻撃の予想が出来ていたのか驚きもせず、迫りくる槍を前に出していた両の手で光の槍を難なく弾き、テンプスの槍の攻撃を躱していった。その様子を見ていたテンプスはさらに先程と同じ数の光の槍を出して継続して攻撃し続けたが男はそのまま自分に向かってくる光の槍を手で逸らして躱していった。
「なるほどこれでも足りないか」
テンプスはまだまだ余裕の男の表情を見て今の攻撃では全くもって意味をなしていいないことを知り、さらに光の槍の数と速さを100倍に上げて攻撃し始めた。流石に今まで余裕で躱していた男も無駄口をたたかなくなり、テンプスの攻撃を手で逸らすことに集中し始めた。しかし、まだ男の顔に焦りの色はなかった。
「粘るな」
テンプスは数秒間数万本の光の槍を交わし続けている男を見て、まだまだ余裕がありそうだったので、この攻撃は意味がないのではと思い、さらに自分で攻撃を仕掛けることにした。テンプスは男に攻撃するためさらに黄金の力を纏い男に一瞬で迫っていった。テンプスは男に迫っていく中で男の目を見ると自分の姿を捉えていたのを見て、このままでは反撃されるかもしれないと読み、一直線に突きを繰り出すのを急に止め、さらに加速して男の後ろに回り槍を突き出した。しかし、男には加速したテンプスの動も目で捉えており、後ろから攻撃してくるテンプスに向かって、裏拳の要領で威力のある手刀を繰り出した。テンプスは男の攻撃の方が早く入ることを確信したため攻撃を一旦中止して、男の手刀を持っていた槍の付近で受け止めた。男の手刀を受け止めた衝撃で周りの地面が吹き飛んだ。
「随分と固い槍だな」
「仕方ない」
テンプスが何かを諦めると、晴天の空からいきなりあたりに雷が落ち始めた。その雷が徐々に全て男に降り注いだ男はその雷を全て素手で近くにいるハエを追い払うかのように、軽く逸らして躱した。
「自然に及ぼす力か」
男は驚きもせずに冷静にテンプスの変化を見ながら、まだ様子を見るつもりなのかさらに気を高めてテンプスの攻撃を受け止める体制に入った。雷が鳴り終わるとテンプスの体を激しい雷をその身に纏った。
「激の万雷」
テンプスは数万の雷の槍を自分の前に先行させながら、その雷の槍追随するように一直線に突きを繰り出した。
「早い…これが本気ということか」
男はテンプスの戦闘においてはじめて驚き、男も本気でかからねば傷を負うと思い真面目に戦うことにした。
「はっ!」
男は気を纏った片手を前に突き出して、その衝撃と男の手から放たれた気によりテンプスより先行していた雷の槍が全て消え去った。雷の槍が消え去った瞬間こちらに突撃してきたテンプスの姿も消えていた。しかし、男は何処にいるのかは目で追えていたので、すぐに後ろを振り向き後方に下がりながら防御の体制に入っていた。
「かかったな。雷突」
テンプスの槍から全てを飲み込む雷が解き放たれた。雷は男を飲み込んだ。
「フェイントか」
男の体は雷の影響からか所々傷ついていたり、焦げたり、していたが体を動かすには問題なかったので、大した傷にはなっていなかった。
「硬いな。やはり、人間ごときに使うしかないのか」
テンプスは攻撃が効かないので変なプライドを捨てない限り、男を倒すことはできないと思ったのでプライドを捨て、自分の技を出すことにした。テンプスは男に近づき槍で頭に向かって突き槍に男の視線を逸らして、下段から振り上げるように左足を蹴り上げた。
「くっ」
男はその蹴りを右足の裏で受け止めたが、テンプスは受け止められることを分かっていたのか、そのまま左足蹴り上げて男を上空に吹き飛ばした。
「くらえ! 神の一撃を! 神雷突神」
テンプスの槍から先程出した雷突よりもはるかに威力の高い雷が解き放たれようとしていた。
「こちらも!」
男はテンプスから解き放たれる槍を食らった場合に大怪我は免れないと思い、隠していた技を出した。そして、男はテンプスの一撃を直撃した。しかし、今度は雷突の時とは違い全くもって無傷だった。
「馬鹿な。私の一撃を耐えるだと、これならどうだ。神激の万雷」
男に向かって無数の雷の槍が襲い掛かってきたが男は防御をしていた腕を下げて、何もせずにその攻撃を食らったが、今度もまた無傷だった。
「これも効かないだと!」
「どうやらネタ切れみたいだな。こちらも攻撃させてもらうよ」
男はそういった瞬間テンプスの視界から消えた。次の瞬間にはテンプスの目の前まで迫っていた。テンプスは男の速さについて行けずに棒立ちの状態になっていた。男は容赦なく腹に拳を入れいるとすぐにテンプスの全身至るところに拳を入れて行った。だんだんテンプスは男の拳による乱打によって空中に浮かび始めた。さらに男は速度を上げてテンプスに拳を叩き込んだ。殴られ続けられている中でもテンプスは一矢報いようと、反撃のチャンスを伺っていたが反撃する隙など男にはなかったので、テンプスは切り札を使うことにして。
「(時間に溺れ死ね)」
テンプスは自信の一撃必殺の技を掛けたが、全くもって効果がでる気配はなかった。男も何かをされているとは感づいていたが、何を掛けられているのか分からなかったが害は特になかったのでそのままテンプスを殴り続けた。
「(効か…ない…か)」
そして、男はテンプスがかなりの痛みを蓄積しているのを確認するとそのまま乱打している拳を止めた。テンプスはそのまま重力に引かれ地面に無残にも倒れた。
「(ならば…逆なら…どうだ)遡及転生!」
テンプスは殺すことができないのなら、男を殺さないことにした。そして、テンプスは最後の力と命を振り絞って男に技を掛けた。
「?」
「やっと、掛ったか」
「だが、逃しはしない気術―気砲」
男の右手から圧縮した気によって作られた高密度の砲弾が解き放たれた。気の砲弾はテンプスを直撃するとテンプスはその場で消滅した。男の体にもテンプスの攻撃によって異常が現れ始めていた。男の体はだんだんと薄くなって消えそうになっていた。
「まさか。よくわからない技で相打ちとは油断した…な」
そして、男もまたテンプスに掛けられた技によりこの場からいなくなった。