夜になっちゃったよ
…うん。あれっ? あー、やっちゃった。寝ちゃったのか。うそ、マジで。わー完全に夜じゃん。うーん、どんくらい寝てたんだろ。あー腰がいてぇ。体育座り状態で寝てたから。イテテ、あー体がだるい。けっこう寝たような気もするけど。あれっ? 火がある。山田がやったのかな。ちゃんと枯れ枝とか積まれて、本格的な焚き火になってる。火はどうやって点けたんだろ。山田はどこ行ったんだ。おいおい一人かよ。置いていくなよなぁ。火があるのは在り難いけど。のど渇いたな、水飲み行こう。
イテテテテッ、足は筋肉痛だよ。太ももに力入れると痛い。あんだけ歩きゃあな。最近、あんま運動もしてなかったから。
「起きたのか」
「うわっ、なんだ、暗い中からいきなり声かけんなよなー、びっくりしたー。もう完全に夜だよ、俺どんくらい寝てた? あの火はお前がやったの? なんか本格的じゃん。どうやってやったの? ライターとか持ってたんだ。でも、お前タバコ吸わねぇだろ。川の中でなにやってんだ。うんっ? なに持ってんだよ」
暗い中で黙ってんじゃねーよ。ちょっと不気味だろーが。焚き火のとこに戻ってったよ、また無視か。やめてくれねぇかな、こんな状況で。俺はとりあえ水飲んで、あ痛たた、屈むと太ももが痛い。太ももは筋肉痛だわ、足の裏は皮むけるわ、痛いところがありすぎてどっちに注意をもってたらいいのか。ふー、昼間よりも水冷たく感じるなぁ、やっぱ夜は冷えるのかな。そんなに肌寒くはないけど。こうやって見ると火があるっていうのはホッとするよなぁ。なかったら、もっとテンション下がってただろうな。でも、思ったよりも暗いってわけでもないなぁ。まわりを見ても、形はおぼろげながらわかるし。
「お前いつ起きたんだよ、そのビニール袋はなに? 何が入ってんの? ってなんだ。うわっ! 魚じゃん。なんで魚なんかあるんだよ。すげぇー、もしかして獲ったの? なに持ってるかと思えば。こんな、ちゃんとした魚がこの川にいんだ。どーやって獲ったの?その竿みたいなやつは…」
「作った。竿は作った」
なんでカタコトなんだよ。
「あぁ、木の枝。餌は? 虫でも捕まえたの? なんだよ、なに指さしてんだよ。俺? 俺の服が、ああっ! 裾のところ、メチャクチャ切られてる! じゃあ糸の代わりは俺のから」
「ちょっとね」
「ふざけんな! ちょっとね、じゃねぇよ。フツー自分の使わなくねぇ。このタンクトップ気にいってんのに」
でも、うまく作るもんだな。
「それで魚が獲れたんだから安いもんだろ。三匹だぞ。こんな粗末な道具で三匹釣るのがどんだけ大変かわかってんのかよ! のんきにお前が寝てる間、俺はな」
「だからって、もういいよ。っていうかこの魚食えんのかよ」
なんで、逆ギレされなくちゃなんねぇんだよ。
「食える。火を通せば食える」
「その加熱処理すれば、すべて良しみたいな考えって」
だいたいはじめに寝だしたのはおめぇだろ。
「正直、魚はちょっと専門外ではあるんだよね、まったくってわけじゃないけど、でさ、俺がさばいてる間、お前は枯れ枝を取ってきてよ。ほら、もうストックがないんだよ。魚食わしてやるだから、そんくらいはやってもらわないと。ほら、働かざるもの食うべからずってね」
ほらって、ぜんぜんうまくねぇよ。
「枯れ枝? どこに?」
「山の中入っていけばすぐだよ。たくさん落ちてる」
「ええっ! マジで」
それだけはマジ勘弁。
「マジだよ。入ってすぐのところでいいから。お前小学生のころは太田をあんなにバカにしておいて。自分は、今いくつだと思ってんだ」
「わかったよ、行けばいいんでしょ、行けば」
ったくやっとしゃべりだしたと思ったら、態度でけぇな。しかも昔のことをよく覚えてやがんな。