噛み合わないっす
<ポーン、ポーン〉
なんの音だ。さっきから、たまぁに聞こえてくるけど。あーあ、三十分ぐらいで降りれると思ってたのに全然着かないんだけど。こんなに遠かったけ? 景色はビミョーに見覚えあんだけどなー。にしても、サンダルで山道は歩きにくい〜。このまま歩き続けたら靴擦れっていうかサンダル擦れになっちゃうよ。暑い〜、腹減った〜、もう何時間食ってないんだろ。居酒屋で、締めに抹茶アイス食ったのが最後だから…時計がないからわかんねーよ。俺が最後に甘いもん頼むと、みんな、「えーっ」て感じになるけど、なんと言われようと居酒屋での最後は甘いもんで締めるのだ。
「道あってのかよ」
アイツはなんで後ろに下がってんだよ。こっちがスピード遅らせて待ってやっても、それに気づいたらヤツもスピード落とすし。
「オーイ、道あってんのかよ。お前のほうがここのことは詳しいだろうが。っていうか並んで歩けよ!」
俺やっぱなんかしたのかなぁ。でもすごく怒ってるって感じではなかったけど、っていっても表情が変わんないからわかんねーや。
アイツはガキんころから一人でここに来るので有名だったからなー。俺らは昼間でも一人では来なかったけど、大体一人で来てもなにが楽しいんだか。小学校三、四年ぐらいからは一人で来ることもあったけど、まぁそれは秘密基地作るのが流行ったから、そこに行くっていうことで、山ん中一人でウロウロはしなかったよ。アイツはほとんど一人でいたから、秘密基地仲間はいなかったはずだけど、ここに来たら絶対見かけてたから、ホンット一人でなにやってたんだろう、ていうのも、今思い出してみたら気になるけど、あのときは別に気にも留めてなかったなぁ。
秘密基地といえば、俺らのクラスのやつらで作ったのが一番イケてたよ。ダンボールが主な材料だったあの時代、板やブロックを持ってきたのは画期的だったよなー、田中ん家が造園屋だったから成し得た荒業だったな。屋根にはみんな自分の家から、布やら傘やら使えそうなやつをもってきてたけど、結局、鈴木が持ってきた浮き輪やらゴムボートやらの海水浴用品が一番役にたったんだ。あとで鈴木はメチャクチャ怒られたらしいけど、もう切ってしまった後だったから時すでに遅しだったんだ。あの基地どうなったんだっけ。雨が降っても大丈夫な優れものだったんだけどなー。
「なぁ、俺らが小学生のとき作った基地ってここら辺だったけ? お前覚えてない」
って水飲んでる! あのヤロ〜、ペットボトルに水入れてたのか。いつの間に。ヤバイ、あのペースはさっきと同じで一気に飲み干す気だ。
「お前も飲まない? ぐらいの一言もねぇのかよ! オイ、何事もないかのように飲み続けるな。あーもう」
直接取りに行くしかねぇ、くそ〜サンダルは走りにくい。
「ペットボトル没収〜、なんだよ、もうちょっとしか入ってねーじゃん。全部もらうぞ。ぬるっ! 冷たくなかったらフツーの水だな、こりゃ」
なんだよ、ジーっと見やがって、
「お前さぁ、俺にも分けようっていう発想はねぇのかよ。この暑さだから、アイツものど渇くだろうなぁとかって考えないわけ?」
オーコノ人表情変ワラナイヨ、感情ナイネ。あっそうだ。
「Are you Yamada?」
「…えっ?」
クノヤロ〜
「お前が全くしゃべんねぇから、こっちは、お前さっき英語でスタンドアップとか言ったときは、やたらとはっきりした口調だっから、お前こっちはなぁ、ちょっと英語で言ってみたらどうだろうと思ったんだよ。そしたら、えっ、て。素で返しやがって。しゃべれんなら、はじめっからしゃべろ!」
「わかった、わかった。肩をつかむな肩を」
余計な手間かけさせやがって。ちょっと恥ずかしかったよ。なんで俺も英語なんかで言おうと思ったんだろ。く〜なに澄ましてんだ、このヤロー、俺だけが無駄にテンション上げてバカみてぇじゃん。あーもう、シャツの肩のところのシワを気にするなシワを。思ってるほどパリッとしてなかったぞ。
「で、道はあってんのかよ」
「お前がまえ歩いてたから俺はお前に付いて行っただけだ」
ふっつーのトーンで言いやがって、だから肩のところを触んなよなー、嫌味ったらしい。
「俺はもうずっとここには来てねぇよ。だから、さっきから道あってるか聞いてんのに、お前はなんのリアクションもないしよー。大体、並んで歩けよな、俺がスピード落としたら、なんでお前までビミョーにスピード落とすんだよ、付かず離れずってなんの尾行だよ、って人が話してるときはこっちを向けぇ!」
あっ首無理やりこっち向けたらグキッて。
「痛い。力、加減しろよ、今グキッて」
「お前がこっち向かないで、違うとこ向くからだろーが。人が話してるそばから違うとこ向くとはどういう神経してんだ」
うつむいたまま首さすって、ちょっとやりすぎたかなー。
「とりあえず、ここまで一本道だから間違えようもないし、早く先行こーぜ。腹も減ってるし」