流れ星と骨
手上げてる。焼けたみたいだから戻るか。よっと、いてっ、また皮むけてるの忘れてた。
「おおっ、焼けてる、焼けてる。少なくとも表面は。んっ、なんだよ、お前も切らないでそのまま刺してんじゃん。たくっ、素直じゃないんだから」
なーんだよこのパクリ野郎。でもあんまり言い過ぎるとまた、スネるからやめとこ。なんにしても、やっぱこの方がおいしそうだし、キャンプって感じするよ。ではでは、一口
「んっ、中まで火とおってるよ。うんうん、全部とおってるみたい」
これだよこれ。塩もかけて
「うめぇ、やっぱ川魚はこうでなきゃ。なにより食いごたえがあるよ」
「そんなに…うまいのか」
「おおっ、切り身のときよりもかなり。いや、別に切り身がまずかったってわけじゃないんだぜ、気分だよ気分」
危ない危ない。ついうっかり。
「すまんな。俺のせいで。なんも知らないくせに、調子にのっちゃって」
「いや、気にすんなよ。だいたいお前がとってきた魚だし、火もお前がやったんだし。俺はそれのおこぼれを頂いてるだけなんだから」
なに急にネガティブになってんだよ。
「お前のはまだ焼けてねぇだろ? 俺の一本食えよ。いいって、もともとお前がとってきたのだし。食えよ」
なんだよ魚じっと見つめて。
「やっぱ俺じゃダメだな。リーダーはお前がやるべきだよ。俺は知識はあるけど、それも付け焼き刃だし。一瞬の判断力や局面局面での冷静さ、なにより人心掌握術。すべてにおいてお前のほうが指揮官としての資質に優ってるよ」
「リーダー? 二人しかいねぇのにリーダーもなにもあったもんじゃねぇよ。オイオイ。なに急にブルー入ってんだよ。いや、お前のサバイバル能力にびっくりしてんだぜ。俺は。食べれる実を調べてあったこととか、チョコレートを持ってたこととか。ほら、なによりこの魚だよ魚。あの程度の装備でこんだけ取ったんだからすげぇって。お前はこそリーダーに相応しいよ。よっ、リーダー!」
アホらしい。
「いやっ、…うん。まぁ、これからはお互いの意見を尊重しながら行動をしていこう。たのんだぞ!」
「ういっす! わかりました、リーダー!」
もう立ち直った。もうちょっと落ち込ませとくんだったな。人心掌握とか言ってたけど、それができてたら苦労してないって。おーすっげー勢いで食いだしたよ。ほ〜らこっちの方がウマイだろ。
にしても星すげぇな。ホントなんでこれに今の今まで気付かなかったんだろー
「あっ流れ星! おーすげぇ。はじめて見た。生で。うわっ、やっべー、チョーかんどー。なに見れんだ。こんなとこで。あー、願い事間に合わねぇって。一瞬だもん」
「はじめて…はじめて見たのか流れ星。あんなもん多くはないけど、そこそこ流れてくもんだぞ。お前はいったい今までなにを見てきたんだ」
「えー、そうかぁ。なんか南の島とかで見るってイメージじゃん。流れ星って」
「そんなことないって。ここでもけっこう見えるよ。ずっと見てたら落ちてくるって」
「へ〜」
そんなに見えんのか。しばらく上見てよっと。そうだ、次のときのために願い事考えとかないと。こういうのってあんま欲深いのはダメだからな、控えめに控えめに。就活うまくいきますようにっていうのは…いやこの御時世になんにもやってない俺がちょっと虫が良すぎるよなー。彼女できますように…いや、それは自分の力で手に入れるもんだ。神頼みするもんじゃあない。う〜ん、卒業ぐらいにしとくか。内定とったけど卒業できませんでしたっていうのが一番最悪なパターンだからな。
「お前はなににする?」
「ふぁにが?」
魚食わえたまま話すなよ
「願い事だよ願い事」
「はからんなんの? シ〜」
「流れ星だよ。また落ちてくんだろ?」
「シ〜、そんな習慣、シ〜ないしなー、シ〜、別に願い事自体ないし、シ〜」
「骨はさまったの? 汚ねぇな、早く取れよ。習慣ないって、ガキんとき七夕とかやったじゃん。短冊に願い事書いてさぁ、竹に吊るしただろ」
俺なに書いたんだっけ。
「シ〜、あれは星にじゃなくて、シ〜、あっ取れた。あの二人が久々に会うから、まぁせいぜい幸せのお裾分けってところだろ。俺、あれにも願い事書いたことないし。どうぞ末永くお幸せに、っては書いたことあるけど」
また骨吐きやがって
「こっち飛ばすなよ。汚ねぇな。あの二人って友達みたいに言うな。しかもなんて嫌味ったらしいこと書くんだ、ガキの分際で。おめぇみたいな不信心なやつは罰があたるぞ」
「そんなことぐらいで罰あたるなんて、心の狭いカップルだ。だから、あいつらこそ罰があたって一年に一回しか会えなくなるんだよ」
「もういいよ」
言うだけ腹立ってくる。なんでこんなに素直じゃない子に育っちゃったんだろ。よくこんなやつと二晩もいっしょにいるよな、我ながら関心するよ。コイツに話しふるぐらいなら流れ星落ちないか見てた方がいいや。あっ、ちょっと今食べたとこ生っぽっかった。