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第一話

 タンクトップとハーフパンだからか、知らないうちに虫に刺されたみたいでアチコチ痒い。通気性と機動力を重視するのが夏における俺のファッションの定番なんだけど、とーぜん、山登りには向くわけない。山っていってもそんなちゃんとした山じゃなくて俺らん中ではドラエモンに出てくる裏山みたいに思いっきりお手軽感があったから「ドラ山」なんて呼ばれてたのは小学校二、三年の間だけで、しかも俺以外でその呼び方してたのは田中と鈴木ぐらいで、つまり…まったく流行んなかった。

 そんな、小っちゃいころから登りなれている、まぁ登るってほどの意識もなかったけど、裏山に昨日の深夜未明からいる…と思う。つーか今さっき起きたばっかだから状況わかんねーよ。見覚えのある川があるからあの山だっていうのはわかんだけど、あぁ、体の節々が痛ぇ、それに痒いし。よくこんな砂利の上で寝てたよな。っていうか何でこんなとこにいるんだ? オワッ! 対岸にだれかいるよ。死んで…はないよな、何かビミョーに動いてるし。う〜ん、わかんねぇ、何でこんなとこにいんだよ。まてよ、とりあえず冷静になろう、ちゃんと考えよう。昨日の夜は確かクラス会でぇ、それで居酒屋でかなりハイペースで飲んだあとぉ、佐藤に連れられてぇ、あいつが行きつけの店に行ってぇ、そこで歌って飲んでぇ、三十代半ばに見えなくもないけど化粧落とすとどうなの? っていうママさんに恋愛の相談にのってもらってぇ、多分二時ぐらいだったかな、閉店だからということで店を出てぇ、んっ? 今何時だ。ケータイ、ケータイ…ない。ヤッベーどっかで落としたかな、たぶん二件目だと思うんだけど、今年入って二回目だよ、ハァ〜誰か拾ってくれてるかなー。それで佐藤と別れてぇ、あっ、佐藤がお金払ってくれたんだ。同級生でも働いてるやつはちがうよ。大学生は気楽なもんだ。そんでその後、そうだ、山田に会ったんだ。山田と会ったぁ? でもどっか店に入った記憶はないんだよなぁ、ってあれ山田じゃねぇの。なにやってんだよアイツこんなとこで、って俺もだけど。なんで二人してこここにいんの? そしてナゼに対岸?

「山田ぁ〜山田ぁ〜起きろー。生きてるかー」

 ダメだ、全然起きん。向こう行くしかないか。え〜朝っぱらから渡んの〜。浅いし、幅も別に広くないけどさぁ、起きてすぐだぜ、もうちょっとインターバルおこうよ。そうだ! 石投げて起こそう。あんま小さすぎてもダメだから適当なやつを選んで、山なり気味で、とりゃっ、あっ外れた。もっかい、おっ当たった当たった、でも反応なしかよ。一気に二個、一個当たった。…ダメか。えーい全部投げちまえ。おーすごい勢いで連続して当たったよ。おっ、動いた動いた

「山田ぁ〜山田ぁ〜起きろー」

よっしゃ起き上がった。

「生きてるか〜なんで俺らこんなとこいんの〜」

こっち見てるけどわかってんのかな。あーまた寝やがったよ。ふざけやがって

「オイ、起きろ! 普通にまた寝んな」

よし起き上がった。

「なぁー、なんで俺ら二人して山ん中入ってんの? オマエと会った後ぐらいから記憶飛んでんだけど」

ジーっと見てるだけでなんも反応なしかよ。アイツはびっくりするぐらい無口だからなー。たぶん昨日もなんにもしゃべってないんじゃねーの。

「オイ、聞いてんのか、なんか言えよ、オイ!」

ダメだ。全然なんか言う気配がねぇ。ホンットにアイツのしゃべらない度は無口のレベルじゃ済まされねーからな。高校のころも野球の県予選の応援練習、アイツが声ださねぇから俺らんクラスはマジ先輩にしごかれまくったし。アイツはボコられても最後まで大きい声ださなかったからなー、みんな逆に感心したよ。帰るとき黒板に「すまん」て書いて走り去っていったんだよなぁ。だったら声出せよーって、みんなしてツッコンだんだ。そんで次の日学校行ったら一個十円のチョコ、全員の机ん中入れてやがんの。なんじゃそりゃ! チョコって! 袋に山田って修正液でわざわざ書きやがって。渡すんならそのまま渡せよって感じだよ。メンドくせぇだろそっちの方が。んっ? 手でこっち来いって合図してやがる。

「何様だ、オメェは、お前がこっち来い」

マジで! まーた寝やがった。

「わかった、わかった。今行くから待ってろよ。ったく」

んー別に流れも速くねぇし、浅いし、サンダルだから足濡れてもいいけど、でも濡れないように。石の上を、おぉ、冷てぇ、やっぱ無理か。夏でマジよかったよ、冬とかだったらマジでやばかった。この水って飲めねぇかな、さっきからメッチャのど渇いてんだけど。いやーいくらなんでもなぁ、そのままっていうのはなぁ、生水を。だいたいそんな清流イメージないし。まっ、ガキんころは素で飲んでたけど。いや、あのときは勢いあったし、いや逆に今のほうが抵抗力はあるし、いや、でも。

「この水飲めっかなー」

……ハイハイ反応なしね。んっ? なにゴソゴソして、あっ! ペットボトル出しやがった。

「おーいいもん持ってんじゃん。俺の分も残しといて、ってなにハイペースで飲んでんだ! オイ、バカ、俺の分も残せってば!」

 信じらんねー、あのバカペットボトル逆さまにして、飲み干したことアピールしてやがる。

「ふざけんなこの薄情もん!そっち行ったら覚えてろよ」

 あー人が飲んでるの見たらよけいのど渇いてきたよ。これマジで飲めねぇかな。

「うわっ!」

 イッテェ、あちゃー滑っちゃったよ。う〜手をついて被害は最小限に抑えた・・・かな? ズボンがちょっと濡れただけ。げっ! 下にもビミョーに染みこんできた。気持ち悪い〜。

「スタンドアップ」

 はっ?

「スタンドアップ」

 えっ?

「ステェ〜ンドアップ」

 やっと喋ったと思ったら英語かよ!

「なにがスタンドアップだ。転んだんだから大丈夫? とかだろフツー。しかも第一声が英語かよ」

 こうなったら一気に渡って一言アイツに言ってやらねば。とりあえず立って、うん、擦りむいたりはしてないな。もう濡れようが転ぼうが関係あるかー、待ってろよー山田ぁー。



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