5 弱肉強食の掟
仲間達を撥ねた謎の魔獣の正体は、全長3メートルはあろうかという巨大な牛だった。
…コイツには勝てそうもないな、よし逃げるか。
「なに一人だけ逃げようとしてるのよ」
逃げようとしていたらバンビに首根っこを掴まれてしまった。
いやだって、流石にアレは無理だろう。
あの牛に撥ねられた奴、さっきからピクリとも動かないし、関節が変な向きに曲がってるし、これは逃げるが勝ちだってば
…突然地響きがなった。その地響きを感じた牛は、
何かに怯えるかのように来た方向の真逆に向かって走り去っていった。
「…助かったの?」
「いや、もっとまずいことになった」
バンビの誰に向けたわけでもない独り言に、アドラーは険しい顔で答えた。
あの牛は、この地響きの主から逃げて来たのだと確信した。
だとすればあいつはあの牛よりも強いのだろう。
…気付けば俺の首を掴んでいたバンビの掌は外れていた、皆の視線が牛の来た方向にいる『それ』に注がれていた。
先程の牛よりも一回りも二回りも大きい体躯、
常識外れにでかい口、
その口元には先程の牛の仲間の物と思われる血糊がベッタリと付いていた。
恐らく蜥蜴なのだ思われる『それ』は、ゆっくりと辺りを見回してみて、俺達へと視線を向けた。
大蜥蜴が俺達に向かってゆっくりと動き始めた。
俺は隣にいたバンビの腕を引っ張って逃げ出した。
後ろから聴こえる仲間達の悲鳴を無視して、必死に逃げた。