2 日常の終わり
「もういい!アンタが腰抜けなのはよくわかったわよ!私一人で行くわ!」
「いや待てってば、一人で魔獣に会いに行くなんて無茶だって、せめてアドラー達にも相談してくれよ」
なぜ俺がこの少女、バンビの意見を潰そうとする理由を長くなるが説明しよう。
その説明をするにはまず、俺達の暮らしている場所がどんなところなのか説明する必要がある。
はるか昔に人類は、魔獣という生きる災害から身を守る為に、あの壁の中に引きこもった。
魔物に襲われながらも完成した壁は、魔物の侵攻を受け止める事には成功したが、一つ大きな欠点があった。人類全体で暮らすには、その壁は狭すぎたのだ。
壁内で暮らす人間を決める為に人間達は自らの価値を表す A〜Eまでのランクを付けた。結果として Dランクまでの人間は壁内に入れたが、Eランクの人間は壁の外へと追いやられた。
壁に貼られている結界の力で Eランクの人間は壁内に入ることが出来ない。
そして俺達は、そのEランクの人間達の子孫な訳だ。魔獣から身を守る壁がない俺達は魔獣から身を隠し、少ない食料を徒党を組み奪い合っている。
この年まで生きるのにも、大分苦労した。
魔獣は高い膂力と堅牢な外皮を併せ持つ危険な生物だ。
ここまで聞いて貰って魔獣が如何に危険な生物なのか分かって頂けただろうか?
それを踏まえた上でコイツがどんなことを言ってきたかを教えよう。
「確かに魔獣を倒しに行くなら大勢の方がいいもんね、アンタにしちゃマシなこというじゃない」
コイツは魔獣を倒しに行こうなどと言ってきたのだ。狂っているとしか思えない。だがそれを馬鹿正直に言ってしまうと、さっきみたいに殴られるだけじゃ済まないだろう。
だからこそこの件は俺の兄貴分であるアドラーに任せてしまおう。これで安心だ、きっとアドラーならばバンビの妄言を上手いこと抑えてくれる筈だ。
これで大丈夫だ、アドラーならきっと上手いこと…
「…いいんじゃないか」
なんでだよ!!