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第15話「ルナVS桜花」

うーん、大体隔週更新(´・ω・)

 時間は月の光だけが照らす深夜。

 神無月ルナはホテルの部屋にある広縁の椅子に座り、空に映る月を眺めていた。

 夜遅いのでもう寝てはいるが、同室には親友であるさくらと桜花がいる。


 隣の部屋にはさくらの父が泊まっており、もし何かあれば駆けつけてくれる。


 神無月ルナは少し落ち込んでいた。

 憧れの女流棋士である近衛神奈の話ができたことは嬉しいことではあるのだが、彼女への弟子入りを断られたことがルナの気持ちを盛り下げていた。


「わかっていたことだけど……ね」


 現在でも女流タイトルを三つ保持し、かつては全ての女流タイトルをその手中にした最強の女流棋士『古豪』近衛神奈。

 彼女はかつて1人の弟子を取った。

 しかしその弟子との関係は上手くいかずトラブルが絶えなかったことは有名な話だ。

 近衛はそれ以来、新しく弟子を取ることはしなくなった。

 弟子入りはダメ元とはいえやはり断られると落ち込んでしまうルナであった。

 ルナは小学2年生にしてはかなり大人びているが、それでも不貞腐れはするし不機嫌にもなる。

 親友である2人の前では表に出さないだけだ。


「…………」


 影が差したことで、ルナは顔を上げる。

 神無月ルナの目の前には少女がいた。

 よく知るその少女の名は空亡桜花。

 どうやら、目を覚ましたようだった。


「あら、桜花。眠れないのかしら?」

「……おねぇは枕が変わると寝相悪くなる」


 桜花はベッドを指差す。

 ベットの上では幸せそうな顔で空亡さくらがスヤスヤと寝ていた。

 彼女は布団を蹴飛ばして、パジャマの隙間からおへそが見えている。

 そんなさくらに寝床を奪われ目が覚めてしまった可哀想な子がルナの目の前にいた。

 

「ルナちーこそ、寝ないの」

「目が冴えちゃって」

「ふーん。そういえばおねぇとなにしてたの? 帰ってくるの遅かったけど」

「将棋指してただけよ」

「ふーん」

「なに、不機嫌ね」

「べーつにー」


 姉のことになるとすぐに感情を表に出す桜花を尻目に、ルナはポケットからスマホを取り出して時間を確認する。

 流石にもう寝なければ明日に響く。そんな時間だった。


「別に一緒に寝る必要無いじゃない。あなたのベッドもあるのだし、そちらで寝ればいいのでわ?」

「……1人だと寒い」

「ならルナと一緒に寝る?」

「……いい。おねぇのとこで寝る」


 桜花の相変わらずのシスコンぶりに、ルナは苦笑する。

 彼女たちは自宅の子供部屋でも2段ベッドがあるのに、必ずどちらかのベッドで一緒に寝ている。


「そう……、がんばってね。眠れなかったらいつでもルナのベッドにきてもいいのよ?」

「……りょー」

「そうだ。寝る前にひとつだけ聞いていいかしら」

「……なに?」


 ルナは最近気になっていることを桜花に問いた。

 さくらに対する桜花の態度についてだ。


「あなた、さくらに何か隠し事してないかしら」

「…………してない、こともない」

「あまり隠し事はよくないわよ。あとで大喧嘩になっても知らないわ」

「……ん。多分明日話すからだいじょーぶ」

「それならいいわ」


 聞きたいことを聞いたルナが息をつき、椅子に背を預ける。

 一瞬の静寂、そののち桜花は頬を吊り上げて嗤った。


「ごめん、ルナちー。明日多分おねぇと喧嘩する」

「――っ!? ちょ、どういうこと?」


 いつも無表情で冷めたような顔をするあの桜花が笑ったのだ。

 しかも何か企んでいるような不気味な笑みで。


「おねぇにわたしを見てもらうため」

「あのアホはあなたにベタ惚れなシスコン姉だと思っているのだけど違うかしら?」

「そうだけど、そうじゃない。おねぇはわたしを好きだけど、見てはいないから。おねぇの瞳にはいつも違う何かが見えている」

「……ちょっと、よく分からないけどそんなことで喧嘩するの?」

「……そんなことじゃない。わたしには大切」


 熱く。しっかりとルナの目を見据えて桜花はそう言葉にした。

 ルナはその言葉に、桜花の本気度を感じた。


「ルナちーには手伝ってほしい。わたしとおねぇがしょーぎをするのを」

「あー、喧嘩と言っても将棋なのね。別にそれならいくらでも手伝ってあげるけど……将棋するだけなら適当にちゃちゃっとやればよくないかしら?」

「普通に将棋するとおねぇはわたしとは本気で指さないからだめ」

「つまり勝ちに執着するさくらと将棋を指したいってことかしら」

「……だいたいそんなかんじ」


 具体性は全く感じられないが、なんとなく遊びではなく本気で将棋を指したい気持ちをルナは理解した。


「明日は大会じゃなくて交流会だから、少し難しいかもしれないわ。一応トーナメント方式だけど」

「……その時はしょーがない。お菓子とかで釣るしかない」

「あの子ならそれでも釣られそうね……」


 お菓子に連れられて誰にでも誘拐されそうで、どんな言うことも聞きそうなさくらを脳裏に思い浮かべて、ルナは笑みをこぼした。


「じゃあお願いねルナちー」

「善処はするわ」


 そう言って桜花の差し出した手をルナは握る。

 ほんのりとある温もり。熱さ。

 まるでそれは、桜花の中に燃える炎が具現化したようだった。


   ■■■


「……という話を昨日したと思ったのだけどどうしてこうなったのかしら」

「しらなーい」


 神無月稔主催の駒月町将棋交流会の2日目。

 大人の部と子供の部(小学生以下)に分かれて、参加者同士で対局をする。(事前参加申し込み)

 スイス式のトーナメントで、優勝すると参加しているプロ棋士と一対一で指導対局を受けられるのだ。

 ちなみに負けてもサブイベントで多面差し指導対局をやっているので、実力がない人でもプロ棋士と交流できるいい機会だった。


 そういうことでさくら達は子どもの部で参加することになったのだが。

 その初戦で神無月ルナの目の前には空亡桜花がいたのだった。

 運が良いのか悪いのか。顔見知り同士の対局となった。


「ルナちー」

「ごめん、流石に手は抜けないわ」

「きょーりょくしてくれるって言ったのに」

「これだけは――将棋だけは手を抜けないわ」

「……しょーがない」


 疲れるからおねぇと戦う前に使いたくはなかったけど、と桜花は小さくつぶやく。

 呼吸を浅く一つ。そして二つ。少しずつ呼吸は深くなっていく。

 まるで海の底に沈むように深く深く――集中していく。


 久遠寺と昨日最終調整をした自身の能力。

 その力を最大限に使うために、対局が始まるその前から助走をつける。そして。


 合図ともに一斉に将棋が始まった。

 先手はルナ。桜花と何度か将棋を指しているので、対桜花での将棋の差し方は心得ていた。

 桜花の弱点は初動の弱さ。終盤の詰め力はピカイチだが、それと対比するかのように序盤戦術はかなり疎かである。

 つまり、波に乗る前に速攻で桜花の王を潰す。

 それこそがルナの桜花対策であった。


 手番を握ったルナはノータイムでどんどん駒を進めていく。

 ルナの得意とする石田流三間飛車は飛車と角という大駒を序盤から大胆に使って攻めていく超攻撃的な戦法だ。

 受け方を間違えれば一気に終盤にまで局面は進む。


 ルナは面白いように自分の戦略はハマり、リードを確信する。

 このまま押し切れば勝てる。

 だが油断は禁物と、ルナは自制する。

 かつてさくらにやられたように、上手く受けきられ攻めが途切れると急に元気がなくなるのがこの戦法だ。

 勝つまで油断せず。親友だからこそ全力を持って叩き潰す。


 ルナは調子がいい時、まるで自分に翼が生えたかのように錯覚する。

 どこまでも飛んでいける。さくらからは銀翼の天使と言われ少し恥ずかしかったが、ルナはその呼び名を気に入っていた。


 最近はさくらに連敗して調子を落としていたルナ。

 だが今日は。今日は絶好調だった。

 さくらのことだから必ずトーナメントを勝ち上がる。

 勝ち進めば必ず当たることになる。

 今日こそは勝ちたい、そのためにまずこの一勝をもぎ取る。

 ルナはその決意を持って駒を握りしめる。


 攻めの転機は角交換。

 角を手に入れた瞬間、ルナに翼が生えた。


 一気に体温が上がる。熱くなる。

 ルナの初雪のような白い肌がうっすらと赤くなる。


 角を起点として怒涛の攻勢にでる。


 桜花の陣地はそんなに硬くない。

 弱くはないが、ガッチリと囲んではない。

 ルナは桜花が息を整える暇なく、その心臓めがけて最上級の攻撃を仕掛ける。


「馬成り、王手」

「……」


 角は裏返り、龍馬となった。

 竜王と並び将棋界最強の駒である。

 ルナは、詰めは見えていないが馬を作り多角的に攻撃しているこの盤面でほぼ勝ちを確信した。


 ――しかし。


「…………ふぅ」


 桜花は息を吐き出した。

 深呼吸から普通の呼吸へ。

 桜花は顔から垂れた汗を拭い、ルナを方へ眼線をやる。


「ルナちー、今歯を見せたね」

「……っ」

「まだ終わってないよ」


 桜花は銀を持ってルナの王手に対応する。

 しかしその程度の普通の受けはルナにとっては想定内。

 とりあえず成った馬を下げて、次の攻勢の準備をする。


 が、桜花は嗤う。

 まるで誰か(・・)に影響されたかのような声を出して。


「ひひひ、ここからが本番だよルナちー」


 桜花は歩を摘み、一歩だけ前に動かした。

 まるで意味のない手。一手パスしたかのようにしか見えない。


「……おねぇと指す前の練習台になってもらうね」


 桜花の纏うその気配にルナは既視感を覚えた。

 角淵影人。幼馴染が初めての全国大会を終え、ルナの父親の弟子となったあの日。

 玉藻宗一や飛鳥翔と出会ってしまった幼馴染。


 彼があの時纏っていた雰囲気にそっくりだった。

 まるで自分とは違う世界に行ってしまったあの幼馴染と同じ雰囲気と。


 ルナは自分の背中に生えた翼が、砕け散るような気がした。


週一で更新したい(希望)。


皆さんのおかげでついにこの作品も総合ポイントが20000を超えました。4年前に初めて休載期間の方が長い作品ですが、今日の今日まで追いかけてくださった皆様ありがとうございます。お祝いに5000円くらいの焼肉屋に行きます。


次は来年の4月くらいに焼肉行くのを目標にします。


あとリコリスリコイルが終わったら水星の魔女が始まりました。対戦よろしくお願いします。アマプラで見れます。水星はお固いらしいです。



次回第15話「薄氷」

目標は1週間後。たぶん再来週な気がする。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった [気になる点] 更新が止まってる [一言] 漫画から来て全部読んじゃった。面白いからリアルが落ち着いたら更新待ってます
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] リコリコは良かったですよね。水星も楽しみです。やはり、時代は百合だと思いますw 私も新作は百合ものにしよう♪
[気になる点] この双子の親は何やってんだってずっと思ってます。 中学生や高校生ならわかる展開ですけど、この歳でこれってどのキャラクターも親がまともな教育してないんですよね。 そんな設定も今まで出てき…
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