第9話「ある日の小学校」
最近更新できておらずすみません。
ドーナドー◯が楽しすぎて(良い子のみんなはググらないでね)
教室に五限目終了のチャイムが鳴り、私は机に身体を伏せて息を吐く。
運動会も終わり、気の抜けた一週間。今週が終わればルナ達との温泉旅行が始まる。
お昼ご飯を食べた昼下がりの午後。授業に集中できるわけもなく、かと言ってぼーっとしていると担任のディクバに怒られるので気を抜くわけにもいかず。
寝ぼけ眼になりながらなんとか五限目を切り抜けた。
今日は早く帰ってユーチューブでも見よう。
運がよかったら兎月コマが生放送をやってるかもしれないしね。
「あっ、空亡さん。ちょっと来てください。もちろんお姉さんの方です」
帰りの会の後。担任のディクバ……石塚先生に呼ばれてしまった。
帰宅の使徒になるはずが、残業の使徒になった。
というかもちろんって何。失礼な。
「なんのようですか、先生。私は早く帰りたーい」
「放課後、校長先生が空亡さんを呼んでいますので談話室にいってください」
「はへ?」
校長先生が、私に用事。
すーっ……、さて何かやらかしたっけな。
心当たりは多すぎるけど、校長せんせーに呼ばれるようなことはやってないはず。
私の後ろで、桜花が口元に手を当てて「ついにおねぇがやらかした……」って顔をしてる。
いやまだ容疑だからね。口では否認しています。
「そんなに怯えなくても大丈夫です。校長先生からは怒られるわけではありませんよ」
「なーんだよかった。…………校長先生からは?」
「昨日の宿題、ちゃんとやってから帰ってください。逃げて帰ったら、明日の宿題二倍ですからね」
「ぴえん」
校長先生に会った後に宿題までやったら帰るの5時じゃん。小学生は残業代もらえないのに。サービス残業じゃん。
まぁ、昨日宿題サボった私が悪いんだけど。
でもでも理不尽理不尽。労働基準監督署に駆け込みます。
……冗談はさておいて桜花には先に帰ってもらい、私は一人で談話室に向かう。とほほ。
校長室じゃなくてなんで談話室なんだろうね。
談話室は高学年のクラスルームの前を突き抜けた奥の部屋にある。
「あっ、さくらちゃん。どうしたの、ここ高学年のエリアだぜ」
「あ、団長、それに副団長。校長せんせーに談話室に呼ばれたの」
談話室に向かっていると、紅組の団長副団長コンビに話しかけられた。
団長は運動会の時はリレーのアンカーとして頑張ってた男子だ。
身長も高くて、イケメンで将来有望な小学生。
確かサッカークラブに入ってるんだっけ。やはりサッカーはリア充の塊か。私も始めようかな、サッカー。
転生したらサッカー少女でした、来週から連載開始……なんてね。
「校長先生に呼ばれただって!? さくらちゃん、次は何やらかしたんだ!」
「私は何もやってない! 信じて! はめられたの!」
「大丈夫。オレは信じてるよ。世界がさくらちゃんの敵になってもオレだけは味方だぜ」
「団長ぉおおおお!」
まるで演劇のようなテンションで団長と抱き合う。身長差的に高い高いだけど。
こんな茶番に乗ってくれる団長すこすこ。
団長の本名忘れたけど。
団長とそんな茶番に興じていると、副団長が呆れた声で、
「……で、本当のところ何やらかしたの?」
「んー、それがさっぱり。サッカーボールで職員室の窓ガラスを通算4枚割ったことか、屋上の鍵こじ開けてみんなで遊んだことか、それとも四年生の教室に殴り込みにいったことかな。でもあれは四年生がうちのクラスメイトに意地悪したのが悪いんだよ」
「いや、ほんと色々やらかしてるね。最後のはさくらちゃんは悪くないけど、前二つはほんと……もう、ね」
肩にかかる程度に伸ばした黒髪を触りながら呆れる副団長。
うーん、絵になる美少女。イケメンの団長とはベストカップルだね。付き合ってるかは知らないけど、噂はあるんだよね。ドキドキ。
「もう少し落ち着いた淑女にならないとモテないぞ〜。こーんなにも可愛いんだからもったいない」
副団長が団長から私を奪ってギュッと抱きしめてくる。
いい匂い。猫とか犬をわしゃわしゃするように、髪を撫でてくる。
私が桜花を撫でることはあるけど、自分が撫でられることはほとんどない。
でもこの副団長はボディタッチよくしてくるから、運動会の練習中もこうしてよくハグされた。
撫でられるのってなんかむず痒いんだよね。
「んぅ〜、離して」
「ええー、嫌かな。しかし、こうやって近づいてみても桜花ちゃんとほんとそっくりだね、さすが双子。でもあの子は全然撫でさせてくれないけどねー」
「桜花はこっちから撫でようとすると逃げるから向こうから近づいてくるの待つしかないよ。猫みたいなもん」
「ならさくらちゃんは犬だね。パピヨン」
やんちゃな犬ランキング1位じゃん。
もう少し落ち着きなさいとよく言われるけど、なんかこの身体になってから元気が有り余っちゃうんだよね。
前世の子供時代は大人しめの少年だったはずなのにどうしてこうなったのか。
明らかに精神が身体に引っ張られてるし、あと数年したら元おっさんである自覚すら無くなりそうで怖い。
「それに桜花ちゃんが撫でさせるのを許すのはさくらちゃんだけだと思うよ。飼い主しか信用しない飼い猫だよあの子は」
「そんな気はするー。私的にはもうちょっと姉離れして欲しいけどね」
でも私以外に桜花が懐く姿って1ミリも想像できない。
やっぱり少し甘やかしすぎたかな。
桜花が心許しそうなのは私以外だとルナかな。あとは仲の良いクラスメイト。手を触れるのを許しそうなのは当分なさそうだけど。
「まぁ、なんか怒られるわけじゃないみたいだしちゃちゃっといって来ます」
「あっ、そうなんだ。なら安心だね。うちの学校の校長先生は優しいから大丈夫だよきっと」
団長達と別れ、談話室に向かう。
高学年のエリアを超えて、若干眩しい西日が窓から差し込む廊下の突き当たり。
ガラガラと建て付けの悪いドアを開ける。
「失礼しまーす」
「ん、来ましたね」
談話室のソファーの上にスーツに包まれた贅肉がいた。
うちの学校の校長先生(推定体重90キロ)だ。
見た目が見た目だから安西先生と名付けよう。
「ほらほら座って。お菓子食べるかい?」
「食べるー」
なんだ。お菓子くれるなんて安西先生優しい。好き。
学校で食べるお菓子ってどうしてこうも美味しいのかな。
背徳の味〜って感じ。
「さてさて、空亡さん。これ読ませていただきました」
もらったせんべいを口いっぱいに頬張っていると、安西先生が机の上にプリントの塊を置いてきた。
なにこれ、私の罪が書かれた逮捕状かな。
……ってよく見たらこれ私の夏休みの自由研究じゃん。すっかり忘れてた。
アサガオが枯れたから仕方なく夏休みの最終日に書いた、将棋の矢倉の研究をプリント10枚程度にまとめてポスター形式にしたものだ。
「非常によくできていました。君は将棋がお好きなのですか?」
「えっ、はい。大好きです、えっへん」
「ほぉほぉ。それは素晴らしいですね。先生も昔から将棋を嗜んでいましてな。どうです、一局指しませんか?」
お腹から将棋盤を取り出した。えっ、何あれ。四次元メタボ?
「おお、安西先生将棋強いんですか」
「安西先生? わたしは杉野ですよ、空亡さん。そもそもうちの学校に安西という教師はいないはずですが……。まあそうですね。先生は下手の横好きですよ」
安西先生は杉野校長でした。でも心の中では安西先生呼びを続けるけどね。
「平手でよろしいですか?」
「だいじょーぶ」
駒を並べ終え、私の先手で対局が始まる。
安西先生の実力は……うん、私のパパくらいかな。
初心者に毛が生えたレベル。自称下手の横好きって認識も間違いではないだろう。
ただ一手一手楽しそうに考えながら指していたのが印象的だった。
本当に将棋を指すことが好きなんだろう。
まぁ、だからと言って私は手加減なんてしないし、早くお家に帰りたいのもあって速攻で畳み掛ける。
「むむむ、もしかしてこれ詰んでますか」
「そうですね」
実は3手前から詰んでいるんだけどね。
詰めろに気づかなかった杉野先生のミス。
むむっ、この饅頭美味しい。たぶん高いやつだ。
「いやーお強い。君の将棋の先生はどちらの方ですか?」
「先生はいません」
前世は大恩ある師匠がいたけど、今世ではまだいない。
知り合いのプロ棋士ならルナのお父さんである神無月先生がいるけど、あの人は角淵の師匠だ。さすがに角淵の妹弟子になるつもりは毛頭ない。
「そうなんですか。それでこの強さとはすごい」
「いやーそれほどでもー」
褒められると照れますな。
えっ、この饅頭一個150円!?
梱包袋に貼られた値札を見て驚く。
もっと堪能してゆっくり食べればよかった……。
「うーむ。しかし勿体無い。こんなにも将棋ができる子がいるのにうちの学校には将棋クラブがないですからな」
「そーですね。校長せんせーの権力でなんとかなったりしません?」
「はははっ、クラブは校長先生よりも生徒たちが働きかけたほうが成立しますぞ。結局のところ人数が集まらなければクラブとして成り立ちませんからな。最低五人と言ったところですな」
そうなるよね。私と桜花で二人。
あと三人も集めなければならない。
そもそも私の目標はプロ棋士であるから、労力を割いてまで新しくクラブを作る意義は薄いんだよね。
初心者同士仲良くクラブ活動、みたいなことがしたいわけではないし。
「君的にはあんまり乗り気ではなさそうですね。先生的にはこの学校の生徒がクラブ活動などで活躍すればこの学校の宣伝になって嬉しいのですがな」
「ここ公立だから宣伝したところで先生の懐が温まるわけではないよね?」
「……驚きました」
「……なにが?」
「いえいえ、石塚先生や加藤先生から聞いていたよりもずっと大人っぽい考え方だったもので」
「……ちなみに石塚先生たちからの私の評価、こっそり教えていただいても?」
「……超が付くほどのやんちゃな子だと聞いていますな。まぁ元気がある子は先生も好きですな」
本当にそれだけ?
杉野校長が若干目を逸らしたの見逃さなかったよ。
いーもーんだ。どうせ子供ですよ。実際に小学一年生だしね。うんうん。
キーンコーンカンコンと、鐘がなる。
やばい、思っていたよりも時間が経ってた。
このあと宿題も提出しないとディクバから鬼のように怒られてしまう。
「先生、私用事があるのでこれで失礼します」
「いやいや、こんな時間まですみません。もしよろしければまた先生と将棋を指してくれませんかな」
「うーん」
正直言って校長先生強くないからあんまし私の練習にはならないんだよね。
時は金なりだし、適当に断っておこうかな。
「またお菓子も準備しておきますよ」
「明日でも大丈夫ですよ!!」
お菓子に釣られたわけではない。
決してお菓子に釣られたわけではない。
ただお菓子まで準備してもらってるのに断るのはダメなんだよ。
しょーがないしょーがない。
「じゃあ、先生。さようなら」
「はい、さようなら」
さてさて。教室戻って早く宿題して帰ろ。
桜花は先家に帰ってるだろうし、寂しいね。ぴえん。
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「お久しぶりです。九十九先生」
『おやおや、杉野さんから私にお電話してくれるのは、珍しいですね。あっ、この前いただいたお饅頭とても美味しかったです、ええはい』
「先生に一つ相談がありましてな。今うちの学校の生徒に将棋が強い子がいるので見てもらえないかなぁと思いまして。まだ誰も師匠についていないので良かったら先生から縁を繋いで頂けないかと」
『ほぉほぉ、杉野先生が推薦するとはなかなか見所がありそうですね。ただすみません、今わたしは将棋布教公演のために全国を回っていまして、なかなか時間が取れないのです。そうですね……、一つアテが有りますのでそちらに話を通しておきましょう』
「ありがとうございます」
『いえいえ、才ある子を見つけるのも立派な将棋布教活動です』
「あっ、そういえば九十九先生……」
……
…………。
将棋が関わらないと急に年相応になるさくら。
夕食前にお菓子をいっぱい食べても、夕食はちゃんと完食するのが彼女です。