第2話「デート回(角淵の場合)」
今日3話投稿しています。
3話目です。
あとがきに挿絵いれているので苦手な方は挿絵非表示お願いします。
ある日の放課後。
私は近くのパフェとアイスの専門店『ふんわり』に来ていた。
桜花は友達と遊びの約束があるらしく、校門で別れた。
桜花に私の知らない友達がいることに少し驚いたけど、友人が多いことはいいことだね。
私が店に入ると既に待ち合わせしていた人物が席に座って、不機嫌そうにスマホをいじっていた。
「おまたせ、ぶっちー」
「……ホント待ちましたよ」
角淵影人。
天パに黒縁メガネで陰キャな小学3年生の男の子。
夏休みの小学生全国王将大会低学年の部で見事優勝して最近調子に乗ってる。
あとなんかうちの天使に色々吹き込んでる節がある。
「……というかまたこのお店なんですか。ぼく、お小遣い少ないからあんまりお金使いたくないんですけど」
「ふふふっ、大丈夫だよぶっちー。夏休みにじーじからお小遣い貰ったのだ。今日は奢ってあげるから存分にパフェを堪能しなさい」
「いえ、親から友達同士での奢りは禁止されてるので。自分の分は自分で出しますよ」
「ま、真面目……。前回は私の無料券で堪能したのは?」
「お金が発生しないなら特に何も言われてないので」
「なるほど。とりあえずなんか頼もうか」
この前来た時はチョコバナナパフェとチーズケーキパフェ食べたし、今日は別の味に挑戦したい。
これを楽しみに給食をおかわりしなかったんだから。
今日はイチゴ……いや、季節は秋。つまり秋の味覚。
今日の最適解は秋尽くしのマロンパフェ。栗だよ栗。
「それで」
「はむッ……?」
注文したパフェを堪能していると角淵が不機嫌そうに口を開いた。
一口譲って欲しいのかな。
「今日はなんの用事ですか。わざわざここに呼び出すってことは何か用事があるんですよね」
「あぁ〜聞きたいことがあるんだよね」
「それチャットでよくない?」
「直接お喋りしたかったのー。ぶっちーは私に会いたくなかったの?」
「えっ、はい」
「辛辣!?」
うぅ、悲しい。
ぶっちー最近調子乗ってない?
昔のぶっちーはもう少し可愛げが……いやないな。出会った時から生意気なクソガキだったわ。
何も変わってなかった。
「それで、早く本題入ってください。今日宿題多いから早く帰りたいんですよ」
「なんだかんだ言ってちゃんと聞いてくれるぶっちーすこ」
「帰っていいですか?」
「だーめー」
変わったのは私の方かもしれない。
前世では敵意すら向けた相手にこんな冗談まじりの会話をするようになるなんてね。
「……神無月先生のことについて少し聞きたいんだ」
「師匠のことですか? それなら実の娘のルナの方が詳しいと思いますよ」
「うーん、ルナよりもぶっちーに聞きたかったんだよね」
きっかけは全国大会で『魔王』玉藻宗一と対局したことだ。
角淵の時もそうだったように、玉藻宗一との対局で私は前世の記憶を少し取り戻していた。
将棋の技術などの意味記憶はさっぱり思い出せないが、エピソード記憶の方は多くの部分を思い出してきた。
その中の一つ。
前世の世界で『神無月稔』というプロ棋士は存在しなかったことだ。
つまり『神無月稔』という存在は前世との相違点となっている。
それは私という存在に密接に関わる可能性がある。
歴史が変わるということは、本来の歴史には存在しなかった手が加えられたということだ。
しかし神無月稔がプロになったのは私が……空亡さくらが生まれる前。ということは本来の歴史ではプロ棋士になっていない神無月稔がこの世界ではプロになっているのは私以外の誰かが歴史を変えてしまったということだ。
私以外の転生者が存在する可能性がある。
そしてその転生者は神無月稔の関係者、もしくは神無月稔本人である可能性が高い。
「神無月先生ってプロになるのはかなり遅かったよね」
「そうですね。師匠は遅咲きの天才と言われてるぐらいですからね。奨励会では苦労したとよく聞かされてます」
「その苦労話の詳細が聞きたいんだよね。ルナには話してなさそうじゃん」
「まぁ、師匠はルナにカッコ悪い話はしないでしょうね」
プロ棋士になるためには奨励会と呼ばれる所で勝ち続け、四段になる必要がある。
特に最終関門である三段リーグは地獄である。
プロになるかならないかの瀬戸際。みんな必死にここを抜けようとしている。
プロ棋士になった人間でも二度と三段リーグはしたくないとみなして言うだろう。
「師匠は奨励会に入会するのは比較的早かったんです。昇段スピードも当時にしてはかなり早い方でした。しかし三段リーグで大きな壁にあたり、絶不調になってしまいました」
「まぁそこは私も記事で読んだ。私も三段リーグはもうやりたくないもん」
「……もう?」
「あっ!? えーと、深い意味はないよ。三段リーグは凄いところって聞くから、今から嫌だなぁって思っただけ」
角淵は怪訝な顔をしたが、特に気にした様子もなく話を続ける。
危ないセーフセーフ。また変人と思われるところだったよ。
「およそ6年ほど三段リーグで足踏みをしていたそうです。まぁ、三段リーグを何年も抜けれないって話はよく聞く話なので特別うちの師匠が長く三段リーグにいたわけではありませんが」
「なるほど」
前世の私も三段リーグはかなり苦労した。
もう少し早く抜けていれば魔王の世代がプロの世界にくる前にタイトル取れたかもしれない。……いや、流石にそれはないか。魔王の世代が来る前は『名人』『竜王』の二強時代。あの2人の全盛期になるわけだし。
「そして7年目。正確には6年目の終わり頃に師匠の師匠が新しく弟子を取りました。師匠にとっては歳の離れた妹弟子ができたわけですね」
「へぇ、妹弟子。ってことは女の人なんだ」
「あなたも知っている人ですよ。有名人ですから」
「女流? 誰だろう」
「久遠寺遊沙女流名人です」
あぁ〜、あの終盤の支配者。
詰将棋のスペシャリストで、終盤ならプロ棋士よりも早く、そして正確に詰ませることが得意な女流棋士。
強さに波があるが、調子の良いときはプロ棋士すら下すほどの棋力を持つ。
個人的に彼女の将棋はあまり好きじゃないけどね。
「師匠はまだ小学生だった久遠寺さんに、初めての対局で負けてしまったそうです」
「……は?」
いやいや、どんな調子を落としているとはいえ当時は奨励会三段。そして現在プロ棋士である神無月プロが小学生の女の子に負けたってあり得なさすぎる。
王将1枚で対局したわけじゃないよね?
「何枚落ちだったの?」
「平手です」
「いやいやぶっちー。ジョークはその辺に……まじ?」
「師匠がそんな冗談を言うわけありません。本当に平手で負けたんでしょう」
その話が本当だとしたら何故今彼女は女流棋士なんかに収まっているんだ。当時からそこまでの棋力があれば最年少プロ棋士だって目指せたはずなのに。
「そこからは師匠もあまり詳しくは話してくれませんでした。しかし結果として次の三段リーグで師匠は全勝で抜けてプロ棋士になりました」
なるほど。少なくとも神無月プロにとってはその妹弟子……久遠寺女流名人のと出会いが変わるきっかけになったのだろう。前世との変化点。
前世の記憶で女流棋士については思い出せない。まぁ、私が女流棋士に興味がなかったせいでもある。
前世で久遠寺遊沙という女流棋士がいた可能性はあるが、久遠寺遊沙という存在自体がこの世界での変化点である可能性はかなり高い。
「久遠寺さんって神無月プロの妹弟子なんだよね? もしかして、会えたりしない?」
「……えっ、あの人に会うんですか?」
「……ん?」
「正直言ってテレビの前だとかなり大人しくしてますけど、あの人だいぶヤバいですよ。ボクも数えるほどしか会ったことないですけど」
なんか角淵が顔をひきつらせながら言ってるからまじやばい人なんだろうな、て伝わってくる。
テレビで何回か見たことあるけど、可愛い人だったってイメージしかない。あとちっこい。最初中学生かと思ったら実は20歳でびっくりした。
「会いたいなら師匠に直接頼んでみればいいと思いますよ。今度ルナたちと温泉行くんでしょ?」
「うん、そうするよ。というかぶっちーは温泉旅行行かないの?」
「パスで。ボクが行くとルナが不機嫌になりますからね」
ルナとぶっちーの仲もどうにかしたいな。
ぶっちー側はあまり嫌ってはなさそうだからルナの方をどうにかすれば仲直りできると思うんだよね。
「話は以上ですかね。パフェも食べ終わりましたしさっさと帰りましょう」
「えー、もうちょっとダベろうよ〜」
「嫌です」
「じゃあ将棋しよ。一局、一局でいいからさー」
「……一局だけですよ」
しゃあ。ちょろい。
将棋をエサにすればいくらでも付き合ってくれることは分かっているんだよ。
このあとめちゃくちゃ将棋した(3勝3敗)。
夜遅くなってママに怒られた。悲しい。