プロローグ「儚き少女はかく願う」
そろそろ書こうかなと。とりあえず今日は3話投稿しています。
ここは1話目です。
一度目の人生はずっとベッドの上だった。
真っ白の小さな部屋。そこだけがぼくの世界。
父親とも母親とも直接触れ合うことはできない。
本物の世界から隔絶された、ぼくには十分だった小さな世界。
そんなぼくに与えられたものはゲームだった。
部屋の外に出ることを許されなかったぼくにとって、そのLEDディスプレイの中が現実を忘れさせてくれる。
遥か昔に発売された古典ゲーム。
異世界の勇者となって、魔王を倒すファンタジー。
無人島を発展させて自分だけの島を作るシミュレーションゲーム。
美少女や美少年と恋愛というものを楽しむゲーム。
エトセトラ、エトセトラ。
息をするように一人で延々とゲームをし続ける。
他にすることなんて何もなかった。
ゲームをすべて全クリ手前でやめて、次のゲームに移る。
ゲームを終わらせてしまえば、まるで自分の人生も終わるように感じてしまった。
ゲームの物語が終わっても作中の人物の物語は続いていく。
でもぼくはそれを見ることができない。それがたまらなく悔しかった。
だからぼくは終わらないゲームを求めた。
終わらないゲーム。敵すらも無限に成長していくゲーム。
どんなに極めても上には上がいる。
それは対人ゲーム。相手が同じ人間なら、ぼくをずっと楽しませてくれる。そんな期待をして。
最初は銃と呼ばれるもので殺し合いをするネットゲームだった。
リアルではぼくのように高コストをかけて生かされてる人間もいるのに、このゲームの世界の人間はいとも簡単に殺されていた。
不思議だった。戦争というものの知識はある。
それが悪いものである知識もある。
だが、どうしてこうも心躍るのか。
コンピューターが相手の時では得られなかった快感。
画面の向こうにはぼくと同じ人間がいる。ぼくとは違う世界に住んでいる人間がいる。
それは少女かもしれないし老人かもしれない。
少なくともぼくよりは広い世界で自由に生きているのだろう。
でもこの時だけは対等だ。
お互いがお互いのキャラを殺すために銃口を向け合う。
そこに現実は必要ない。あるのは今このゲームの腕前のみ。
数時間ぶっ通しでゲームをやり、休憩のためにブラウザーの電源を落とす。
真っ黒になった画面にぼくの顔が映る。
生まれた時からずっとベッドの上ですごしているせいで身体は小さく、病気のため顔は痩けており、なおかつ雪のように真っ白な肌や髪。まるで幽霊だ。
お世辞にも可愛くはないだろう。
この部屋から出ることはないし、医者と両親以外に顔を合わせるような人間もいないからどうでもいいことだが。
そうして夢中にこのゲームをやり込んでいると、いつしかランキングにも載るようになった。
広い世界を生きる人間は他にもやることがあるのだろう。
ぼくにはこれしかない。これしかできないから上達するのも早い。
他にも多くのゲームをやった。
格ゲー、デジタルカードゲーム、MMORPG……。
その全てでぼくは強者の仲間入りを果たした。
その頃になるとアカウント名をすべて共通の名前にしていたので、多くのゲームでランキング入りをする謎プレイヤーとしてネット上では騒がれ始めていた。
誰ともチームを組まず、ソロで多くのゲームを攻略する正体不明のプレイヤー。
どこぞのアニメか漫画のようで少し心躍った。
そしてその噂が広がり始めると同時にぼくの現実の身体は終わりに向かい始めていた。
生まれた時に医者からは10歳を迎えることはできないと言われていた。
しかし奇跡か偶然か、医学の進歩かはたまた誤診だったのか、ぼくは18の誕生日を迎えることができていた。
しかしそんなある日、ぼくの身体はまるで時限爆弾が爆発したかのように体調が崩れた。
長い時間、身体を起こしてパソコンに向かうこともできなくなった。
身体中の穴という穴に機器を繋がれて、命だけを維持される。
そんな人生の最終期に、最後にぼくがハマっていたものは意外にも古典的なゲームだった。
そのゲームの名は『将棋』。
プロと呼ばれる人間達はこのゲームを何時間とかけてやるらしいが、ぼくにはそんな体力はなかった。
ネットゲームの十分切れ負け。それが精一杯だった。
このゲーム。知れば知るほど奥が深い。
強くなりたいと願うが、強くなれる時間はぼくには残されていないかもしれない。
それがなんとももどかしい。
それでもぼくには持ち前のゲームセンスがあった。
センスとは経験によって培われるもの。
生まれてこのかた多くのゲームをやってきたぼくの後天的なゲームセンス。
1日に身体を起こせる時間が1時間になってしまった頃。
ぼくはネット将棋においてランキング1位の座を手に入れた。
早指しにおいて、ぼくと並べる人間はいなくなっていた。
このゲームを理解する前より先に、自分より強い敵がいなくなってしまったのだ。
少なくともネット上では。
このゲームの頂点にいるプロなら違う世界を見せてくれるかも知れない。
しかしこんな身体ではプロには会うことは叶わない。
ぼくの将棋はそこで終わってしまった。
そんな時、一通のメッセージが飛んできた。
『あなたと対局がしたい』
そんな短い文。
しかも送り主は作り立てのゲームアカウント。
いつもなら希少なゲームのできる時間をこんな相手に浪費するわけにはいかないと思い拒否する。
――が、その時のぼくは気まぐれにもその誘いを受けてしまった。
その対局をぼくは忘れることはないだろう。
たとえ、死んだとしても。
それから1日と経たずにぼくの身体は動かなくなった。
意識が混濁する中、ぼくは何を感じたのだろうか。
痛みも、苦しみも、悲しみも、疲れも、全てが消えていく。
初めてぼくは自由になれた。死ぬことで自由となれたのだ。
でもそんな自由は欲しくなんてない。
ぼくが欲しい自由。
もっと、もっとゲームをしていたかった。
最後の対局が、ぼくに未練を作ってしまったのだった。
そして二度目の人生が始まった。
この人生の身体も、平均に比べたらずっとか弱かった。
しかし、外は歩ける。それで十分だった。
ゲームさえできれば十分なんだ。




