閑話「???」
閑話「???」
らんらんるー、らんらんるー。
今日は全国から将棋の強いショタっ子とロリっ子が集まる、小学生全国将棋王将大会。
あれ、全国将棋王将大会だったかな?
まぁ名前を覚えるのに使う脳細胞がもったいないからどうでもいいや。
その大会で先輩がお弟子さんと娘さんを連れて来るらしい。プロ棋士としてサブイベントで交流イベントをやるんだって。ぼくも女流棋士枠としてイベントを盛り上げるぞ。えいえいおー。
「……と思ってた時期もぼくにはありました」
一応倉敷市には前日入りしてました。すごい真面目えらい。
でも朝起きるとお昼過ぎてました。
タイムスリップだね。ドラえもんいらないね。
「……またズルサボりだと思われるね。ただの寝坊なのに」
寝起きで乱れた髪を適当に整える。
いつもオフの日に身につけているケモミミパーカーに袖を通す。
日光に弱いぼくは夏だろうが冬だろうが、このパーカーは欠かせない。
超UVカット仕様の特注品。ついでにケモミミがぼくの感情に連動して動く。科学の力ってすごいね。
「……桜花ちゃん、いるといいけどなぁ。せっかくの休みを潰してまでここに来たのにいなかったら大損ローソンファミリーマート♪」
ホテルの鏡の前で自分の姿を見る。
中学生からまったく成長しなくなった身長と容姿。かわいい。
パーカーから垂れる長髪は寝癖で少し跳ねている。かわいい。
「ん〜、相変わらずこの身体はお手入れしなくても可愛いから楽でいいね」
前世とは大違いだ。
今年で二十歳だというのに、寝起きのノーメイクでこの可愛さと若さ。
下手なチートよりもチートだ。かわいいは正義なのだ。
「さて、準備完了」
スマホからツイッターを開き、全国のファンに向けて呟く。
『寝坊しちゃった❤︎これから会場向かいます』
■■■
【将棋】堕落姫を愛するファンの集い46
243 名前:名無しの下僕
姫が3日ぶりにツイートしたぞ!!
会場ってどこだ、どこかのライブイベントか?
244 名前:名無しの下僕
秋葉原のMTGのイベントでは?
今日は確か大型のCSが開かれているはずだ
245 名前:名無しの下僕
今頃起きたって0回戦落ちだろ。
姫なら「寝坊しちゃった、うん二度寝しよう」
ってなるに決まってる。
だからカードゲームの大会関係ではないはずだ。
246 名前:名無しの下僕
全国将棋王将大会では?
あの大会はプロ棋士や女流棋士との交流イベントがあるはずだし。
247 名前:名無しの下僕
〉〉246
ねーよ
248 名前:名無しの下僕
〉〉246
絶対ない
249 名前:名無しの下僕
〉〉246
姫が休みの日に働くわけない
250 名前:名無しの下僕
ここの住人の、姫のニート精神に対する熱い信頼を感じた。
251 名前:名無しの下僕
基本的に姫は容姿と将棋の才能に恵まれただけのオタクニートだからね。おまえらと紙一重だよ
252 名前:名無しの下僕
〉〉251
その紙何メートルの厚さなんですかね……
253 名前:名無しの下僕
話戻すけど、姫にはどこに行けば会えるんだ?
254 名前:名無しの下僕
ワイ的には今日某所で開かれている同人即売会だと予想。
というか来てくれ。姫にワイの本を献上したい。
255 名前:名無しの下僕
〉〉254
ちなみにどんな内容?
256 名前:名無しの下僕
普通のロリショタものだよ。もちろんR指定。
257 名前:名無しの下僕
普通ってなんですかね……。
少なくとも姫は喜びそうだけど。
258 名前:名無しの下僕
姫はショタコンでロリコンだからなぁ。
この前、姫のツイッターのいいね欄覗いてそっ閉じしたわ。
259 名前:名無しの下僕
とりあえず今日開かれてるイベントシラミつぶしに回ってくるぜ。姫に会えるまで帰れまテン。姫に会えたら写真アップしますん。
260 名前:名無しの下僕
〉〉259
おおーがんばれ〜。日本は広いぞ。
261 名前:名無しの下僕
この後、彼の姿を見るものはいなかった[完]
322 名前:名無しの下僕
〉〉258
気になって姫のツイッター見てきたけどヤバイなこれ。公式アカウントでこれは狂気だろ。流石は姫。そこに痺れるときめく憧れる。
……いや、憧れはしないな。
■■■
はい、ということで会場に到着しました。
タクシーに乗っている間に、自分のスレ見てたけど流石にファンの人もぼくがここにいることは確証が持てないみたいだった。
まぁ普段はニートだしね。しょうがないね。
あとツイッターのいいね欄は神絵師が悪い。
ぼくの指が勝手に動くものを供給してくるんだもん。
あぁもうしゅき! ってなるのはしょうがない。
まったくもってぼくは悪くない。
大会の方はもう決勝トーナメントも大詰めのようだ。
トーナメント表を確認すると、先輩のお弟子さんの名前があった。
どうやらちゃんと上がれたみたいだ。
一度だけ会ったことあるけどこの子は桜花ちゃんほどではないけど才能に溢れた子だった。
先輩のお弟子さんじゃなかったら味見したかったな。
それと……名前忘れたけど桜花ちゃんの姉妹の秀才ちゃんは決勝トーナメントには名前がなかった。
まぁ、そんなもんだろう。どうでもいいや。
交流会の会場は大賑わいだった。
先輩を含めて、人気棋士大集合だもんね。
……でもちょっと人多すぎて酔いそう。
適当にフリースペースに座って休憩しよーっと。
その時、ぼくは奇跡と出会った。
その少女――幼女は夜のように綺麗な黒髪を肩にかかる程度で切りそろえたショートカットをしていた。
ブランドに疎いぼくでも分かるくらい可愛らしくセンスの良い女児服を身につけていて、しかも着せられている感がない。まだ子供なのにしっかりと着こなしている。
首元にはうっすらと水着の日焼け後が見える。この形はスク水だね。お姉ちゃん詳しいんだよ。
眼はぱっちりとしていて、整った鼻筋に幼女らしくぷにぷにもちもちとしたぽっぺがもう最高に可愛い。
それでいて少しツーンとした雰囲気を持っており、周囲に対して一歩引いている。
そう、例えるなら猫。見るのは勝手だけど近づいて来ないでね、という幻聴が聞こえてきそうだ。
あぁ、まさに奇跡。
この時間、この会場で、君に会えたこと。
この世界のすべてに感謝を。
「おおおおおぉぉぉぉううううううかぁぁぁぁちゃーーーーん」
「うぎゃっ!?」
先手必勝。猫のように逃げようとする桜花ちゃんをがっしり掴んで離さない。
小学生特有の甘い匂いを堪能しながらすりすりと頬を擦り付ける。
瞳に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな桜花ちゃんと目が合う。
「……って、ユサユサ?」
「そうだよ桜花ちゃーん、おひさー」
「どこの変態不審者さんかと思ったら本物の変態不審者さんだった」
「ん? ひどくない?」
「通報しないだけ温情。もしかしてユサユサ、変態不審者さんって自覚ないの? 次やったら防犯ベル鳴らすよ」
なんか今日プチ機嫌悪い?
どうしたんだろうか。生理かな。
こんなに小さいのにもう…………。
「ひひひっ、なんか興奮してきた」
「やーらしーときのおねぇと同じ顔してる」
「ごめんね。ぼくは興奮するとまわりが見えなくなって……ね、いろいろ失敗しちゃうんだ。ひひひっ……」
あ〜かわいいなぁ。
かわいい子はついつい虐めたくなってしまう。
身体も……そして将棋も。
「桜花ちゃん、今時間あるかな?」
「時間……」
うつむき少し考える様子の桜花ちゃん。
小さな声で「おねぇは……まだ起きないだろうし……」と呟いている。
「……うん、大丈夫」
「ならあの日の約束……将棋を指そうか」
「……あの負け惜しみ?」
「負け惜しみじゃないからね!?」
ショッピングモールでの対局は本気じゃなかった。
子どもだし適当に遊ぶつもりだったけども、甘くみちゃってたね。
まさかぼくと同じ感覚の持ち主がこの世界に他にいるなんて思ってもみなかった。
パーカーの袖からいつも持ち歩いている将棋盤を出す。
フリースペースに座り駒を並べる。
「10分切れ負けにしようか」
「なんでもいいよ」
「うん、じゃあ先手どうぞ」
待ち望んだ桜花ちゃんとの対局が始まった。
ショッピングモールで出会った頃は、まだまだ拙さがあった序盤が、今日はしっかり定跡に従っていて成長を感じた。
いったい 誰がこんなこと教えたのかな。
ぼくたちにこんな努力は必要ない。
努力とは才能の形に合った方向にやらなければ意味がない。
あぁ、こんなお上手な将棋では強くなんてなれない。
こんな将棋が見たいわけじゃない。
ほら、早く使ってよ。ぼくたちの才能を。
「……すぅー、……すぅー」
中盤に入ると桜花ちゃんは深い読みに入る。
序盤は退屈だったが、ここからがぼくたちの本番だ。
およそ1分。桜花ちゃんは深呼吸をして、次の手を指した。
ぼくたちが持つ才能『絶対集中』。
桜花ちゃんはどうやら深呼吸がスイッチになっているようだ。
桜花ちゃんの一度に集中できるのは1分といったところかな。
まだまだ使いこなせてはいないようだね。
「ユサユサ指さないの?」
「ひひひっ、桜花ちゃんはどこまで読めたのかなぁ。」
時間を見ると私の持ち時間はあと6分といったところか。
「ん。じゃあ桜花ちゃん。5分待ってね」
「えっ?」
私は眼を閉じ、今の盤面を脳内に再現する。
私のスイッチは視界を塞ぐこと。
周りの雑音すら消える。暗闇の中、これから盤面上で予想される全ての選択肢を再現する。
桜花ちゃんは前に霧を払うような感覚と言っていたが、ぼくの場合は光の線が繋がる感覚だ。失敗やダメな線は途中で途切れる。ぼくはただ、ゴールまで続く一つの線を追い求める。
桜花ちゃんの集中限界は1分だったけど――ぼくは2時間はいける。持ち時間を考えると実質無制限と言っていい。
この能力は一度に集中できる時間が長ければ長いほど効率が良くなる。
1度に1分しか潜れない桜花ちゃんと、実質無制限のぼくでは格別の差が生まれる。
そして――眼を開ける。
チェスクロックの持ち時間はあと50秒を示していた。
少し潜りすぎたけど、許容範囲だね。
「……ユサユサ寝てた?」
「寝てないよ。ユサちゃんはこう見えて真面目なのだ。――じゃあいくよ」
そこからは圧倒的だった。
同じ才能を持つもの同士の対局。
単純にどちらの方がその才能をうまく使えるかの勝負になる。
生まれて7年程度の童と、無駄に20年も生きたぼくとではどちらの方がその才能を使えるかなんてわかりきっている。
桜花ちゃんにとって、読みきっているはずなのに全て上から潰される感覚ははじめてなんだろう。
途中に何度も深呼吸をして集中をしていたが、1分程度の集中では遠く及ばない。
必死にもがき、なんとかして勝機を見出そうとしてる桜花ちゃん。
ああ、良い。
もうすぐ死ぬと分かっているのに足掻きもがく姿を見るのはいつだって心躍る。
そしてどれだけ苦しくても最後まで諦めずに勝機を見出そうとして……結局は敗北する。
その瞬間こそ美しい。興奮する。
特に才能にあふれるいたいけな少年少女だと、もう最高だ。
美しいものや可愛いものはついつい、壊したくなってしまう。
「はい、これで詰みだよ。ぼくの勝ち〜。弱いねー桜花ちゃん」
「ぐぬぬ……、もう一回しよ!」
「ひひひっ、壊れないおも……諦めない子どもは大好きだけどごめんね。今日は用事が他にあるのさ」
本当は交流会なんてサボってこのまま桜花ちゃんと戯れていたいが、ここは我慢。
押してばかりでは好きな子の興味を引くことなんてできないからね。
「それに頭の良い桜花ちゃんならわかってるでしょ。今の桜花ちゃんなら100回やってもぼくには勝てないよ」
「そんなの……やってみないと……」
やっぱりこの子は頭が良い。
感情的に「やってみないと分からない」と言おうとしたが、理性的な部分で勝てないことがわかってしまっているから言葉を続けるのを止めたのだ。
「もし、桜花ちゃんが今より強くなりたいならここに連絡してね」
ぼくはそう言って個人用携帯の番号を桜花ちゃんに渡す。
結局先輩はこの子のこと教えてくれなかったしね。
自分で売り込むしかないのさ。
「キミには才能がある。もっともっと強くなれる」
「……つよく……なれる」
「ぼくが保証するよ。同じ才能を持つもの同士、絶対に君を強くして見せるからさ」
このまま凡人の教えを受けたらせっかくの才能も宝の持ち腐れだ。
天才を理解できるのは天才だけなのさ。
「そうだ。ぼくの本名まだ教えてなかったね――ぼくの名前は久遠寺遊沙。天才女流名人だよ」
女流棋士三強の一角にして、超美少女天才棋士。
それがユサちゃんの正体なのだ!!
びっくりしたかー!
「ひひひっ、驚いた?」
「……じょりゅーきしよくわかんない」
「………………そっか」
「うん」
べ、別に悲しくないからね。
でもそっかー……知らないのか。
ちょっと自意識過剰だったかも。
「まぁいいや。桜花ちゃんが本気で強くなりたかったらいつでも連絡してね。ぼくは桜花ちゃんのためなら火の中水の中スカートの中さ」
「…………」
「無言で防犯ベル鳴らそうとするのやめて!?」
ぼくの世代なら鉄板ネタなのに、今の子には通じないのかな。
今の子は何が興味あるんだろう。
電気ネズミじゃなくて、妖怪か?
「おっと、やばいやばい。これ以上遅刻すると先輩に大目玉食らっちゃうね。でわでわ、桜花ちゃん――またね」
時間はまだあるし、ゆっくりとぼくのことは知って貰えばいいや。
また、今度――近いうちに……ね。
キミはぼくのおもちゃにするって決めたんだから。




