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第2話「詰将棋」

 あれから何度か対局を繰り返していた。

 しかし、ゲームばかりしてはいけません、とスマホを母に取り上げられた。ひどい。まだ対局終わってなかったのに。

 仕方ないので暇つぶしに妹の桜花とじゃれる。前世はおっさんだけどロリコンではなかった……と思う。でも妹かわいい。こちょこちょ。


 電車の乗り継ぎの間、父に本屋に連れて言ってもらった。ほんとはプラスチックの将棋盤買ってもらおうかと思ったけど本屋には売ってなかった。

 でも将棋の本は祖父にもらった本がまだ読み終わってないので新しいのはまだいいかな。

 そんなこんなで適当に本屋を歩き回る。桜花はぷいきゅあの絵本を見ていた。


 私は将棋コーナーも回ってみるが、そこは難しそうな本が並んでいた。祖父からもらった入門書を読み終えてないうちに手を出せる内容ではなかった。

 しかし、そんな中一冊の本が目に止まった。


 ……あぁ、これ良いかも。


 そう思い一冊の本に手を伸ばす。


 ……身長が足りずに届かなかった。


 しょうがないので店員さんに取ってもらった。なんで幼女がこの本を? とか思ってそうな眼をしてたけど気にしない。

 店員さんにとってもらった本を父におねだりしに行こうと体を翻した時。


「あら……」

「ふにゃっ!?」


 ちょうど後ろにいた女の子にぶつかりそうになる。

 衝突を防ぐため避けようと体をズラしたけど、その拍子に足元を滑らせてしまい私は倒れてしまう。痛い。


「ごめんなさい。立てるかしら?」


 私より2つくらい歳上の少女が手を差し伸べてくれる。

 日本人離れした顔に、サラサラとした銀色の髪を腰まで伸ばしている。外国人さんだ。

 でも今喋った日本語の発音に違和感はないので、もしかしたら日本育ちなのかもしれない。


「ありがとうございます。それとごめんなさい」

「お互い様よ。ルナも本に夢中で周りを見てなかったわ。…………あら?」


 銀髪の少女の視線が私が手に持っている本に向かう。さっき店員にとってもらった将棋の本だ。


「あなた、将棋できるの?」

「昨日初めて将棋したの」


 前世では何十年と指して来たけど、この身体になって指したのは昨日が初めてなので嘘ではない。

 ……もしかしてこの将棋コーナーにいるって事はこの少女も。


「へぇ〜、ちなみにルナも将棋できるわ。こう見えても強いのよ」


 やっぱり。

 女の子で将棋指してる人も珍しいのに、さらに外国人だなんてすごい。

 自分で強いって言っちゃうあたり、自信家なのかそれとも幼児万能感なのか。

 少なくともプロの将棋指しになるような人はそのくらい自信家の方が良いと思う。


「そうなの? じゃあ将棋しよっ!」

「ふふふっ、ごめんなさい。お父様を待たせているの。また今度ゆっくり指しましょう」


 うーん残念。パパのスマホ強奪して目の前の少女と遊ぶつもりだったのに当てが外れた。

 私は少女に手を伸ばして握手を求める。


「そっかー。あっ、私は空亡さくら。5歳!」

「神無月ルナよ。6歳ですわ。女の子で将棋してる子って珍しいからきっとまた会えるわ。じゃあね、さくら」


 ルナの背中が見えなくなるまで手を振る。

 神無月ルナ……か。神無月って事はハーフなのかな。

 しっかし美人さんだったなぁ。将来絶対モテモテになるわ。

 まぁ、うちの妹には負けるけどね!


「おっと、早くパパ探さなくちゃ」


 子供は自由にするお金がなくて不便。欲しいものがあったら全部おねだりしないといけないのだ。まぁ、うちのパパは私たち姉妹に激甘だから何でも買ってくれるけどね。



「パパこれ買ってー」

「詰将棋の本? ホント、将棋にハマってるね、さくら」


 父におねだりしたのは詰将棋の本。

 少し難しめだけど終盤力の強化には持ってこいだ。前世の私は詰将棋作家だったし、……たぶん。適当だけど。


 詰将棋とはパズル。

 王手をかけ続けて、相手の王を詰みまで持っていくことがゴールとなる。

 相手がどのような対応をしても詰むように駒を指していかなければならず、二歩などの将棋の反則手はもちろんやってはいけない。

 詰将棋で覚えた詰みの形がそのまま対局に出てくることはあまりない。しかし詰んでいるパターンという大きな枠組みで考えると、似たような盤面はよく出てくる。

 つまり直感的にだが、詰みの有無を判断できるセンスを会得する事ができるのだ。


「ぱぱー、わたしはぷいきゅあにするー」


 桜花のプリキュアの本と一緒に買い物カゴに入れる。プリキュア良いよね。私はおっさんの前世を持ってるけど、基本的な精神は幼女だからね。



   ■■■



 自宅に帰り着いたのは時刻は午後九時を回ったところ。

 長旅に疲れたのか、桜花の頭は船を漕いでいた。

 うん、私も疲れたよ。五歳児の体は思ったより体力が全然ない。

 子供が大人より元気に見えるのは、体力配分を知らないからなんだね。


「まぁ、体も疲れたけど脳も疲れた…」


 買ってもらった詰将棋の本を読んで問題を解いていたのはいいけど、流石に電車を降りて車移動の間は酔ってしまうので読めなかった。だから信号で止まっている間に問題を何問か覚え込んで、移動中に覚えた問題を解く事を繰り返した。


 まだ将棋に慣れてないこの体で、問題を複数覚えながら解く作業はかなり負担が大きかった。


「焦ってもしょうがないしゆっくり慣れていこう」

「おねぇ、……おかあさんが寝る前にお風呂入れって。シャワーでいいって言ってた」


 ウトウトとあくびを混じえながら桜花が私の裾を引っ張る。

 うん、流石にお風呂に入らないで寝るのは気持ちが悪いしね。


 桜花と一緒にシャワーを浴びながらちょっかい出しあってイチャイチャして楽しんだ。

 そのおかげで私はパッチリと目が覚めてしまった。

 桜花はソファーの上で寝落ちしたので母に二階の寝室に抱っこで運ばれていった。


「パパ」

「ん、どうしたんだい、さくら」


 父はクピクピとビールを美味しそうに飲んでいる。

 むぅー。この体はまだ5歳だからあと15年はお酒が飲めないのが辛い。

 いや、パパにおねだりすれば一口くらい。


「ビールって美味しい? わたしものんでみたい」

「ダメだ。お酒は20歳になってからだよ」

「むぅ、ケチ」

「拗ねてもこればかりはダメだよ。さくらの事を思って言ってるんだよ」


 まぁ、犯罪だし身体にも悪い。

 父親として娘にそんな事を許すわけないよね。

 普段は甘いけど、締めるところはちゃんと締める良い父親だね。


「……桜花はもう寝たけど、さくらは眠くないの?」

「目が覚めちゃった」

「そうか。なら将棋するか?」


 父は戸棚の引き出しから折りたたみ式の将棋盤と将棋の駒を取り出した。

 えっ、うちに将棋盤あったの!?

 結局今日将棋盤おねだりするチャンス無くて残念に思ってたけど、結果オーライだね。


「するするー!」

「よーし、じゃあパパを倒せたらお小遣いあげちゃうぞー」


 わーいパパ大好き。パパのお小遣いってなんだか援こ……。

 木で出来た駒を並べる。手触りは微妙なので祖父の家にあった将棋の駒とは違って安物のようだ。


「パパ、駒落としてよ。勝てない」

「パパはじいじみたいに強くないからな〜。飛車と角くらいかなぁ〜」


 パパ将棋対戦二級じゃん!

 昨日初めて将棋さした娘に飛車と角しか落とさないなんて鬼畜!

 お小遣いくれるつもりないでしょ、これ


「むぅ〜、絶対に勝つ!」

「はははっ……ひっく」


 あっ、このおっさん酔ってる。

 いける、いけるよこれ。可愛い娘のおねだり『一手待った』も併用して勝ってお小遣いゲットだよ!

 せこくても勝てば良いのだ!







 ――うん、負けた。

 パパ普通に強かった。

 駒落ちだから単純に比較出来ないけど、じいじより弱いは謙遜でしょこれ。

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